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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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「まいったなあ、リーダーたち見失っちゃったよ」
 霧の中で離れ離れになってしまい、マサラ・アッサムがぼやいた。
「これ以上離れないでくださいね……」
 ペコ・フラワリーの声が霧の中から聞こえる。とりあえず近くにはいるようだ。
「くんくん、マサラさんの匂いがする……」
「出たな、変態!」
 霧の中からぬっと現れた朝野 未沙(あさの・みさ)に、マサラ・アッサムが素早くレイピアを構えた。
「そんな、似た者同士だよねっ♪」
 ワキワキと、朝野未沙が近づいてきた。
「似てるけど似てない! もうそういうのは卒業したの! まあ、あんたのおかげっちゃおかげだけど……」
「やっぱり、似た者……」
「断じて違う!」
 強く否定して、マサラ・アッサムは後ろに下がった。
 自由人を自称している割りには、マサラ・アッサムは最近いたって真面目なような気もする。まあ、堅物のペコ・フラワリーがパートナーということもあるのだろうが、なんだか、先祖返りでもしてしまったような気分にたまに陥る。
「うーん、もしかして、見た目と違って、意外と奥手? 実は、まだつきあった人もいないとか?」
「だ、だ、だ、断じて、ちが、ちが、違うっ!!」
 動揺しまくりである。
「だって、最初は百合園女学院にいたんだよね? だったら、最初はお嬢様だったとか……」
「……」
 朝野未沙の問いに、マサラ・アッサムは即答しなかった。
「別に、お嬢様だったとか、そうじゃなかったとか、どうだっていいことだよ。あたしだって、お嬢様ってわけじゃなかったけど、ううん、むしろ逆で、お爺ちゃんとこで、厳しいメイド修行してたんだから」
 珍しく殊勝に話をしようと朝野未沙が近づいてきた。そのとき、何やらけたたましい一団が近づいてきた。
「あーん、もう勘弁してくださーいったらあ」
「ははははは、こんな所でくすぶってないで、お姉ー様と一緒に遊びましょ!!」
「お嬢様! そんなに走ったら転びますよ。ああ危ない!」
 何やら、長髪を振り乱して逃げる百合園女学院の制服を着た女の子を追いかけているのは、いつものお騒がせのお嬢様だ。すぐ後ろを、執事君メイドちゃんが追いかけてきている。
「はあはあ……」
 ついに息切れしてへたり込んでしまった逃亡者に一気に迫ろうとしたお嬢様であったが、こちらも走り疲れたのか足がもつれてみごとにすっころぶ。
「いったあい」
 スカートから白くて細い足を顕わにしたお嬢様が、少しすりむいたらしい膝小僧を痛そうにかかえた。
「うっ、あれはあれで……」
 マサラ・アッサムに迫っていた朝野未沙が、そちらの方にそそられて気をとられる。だが、一方のマサラ・アッサムは、なぜか青ざめていた。
「だから言ったんです。大丈夫ですか?」
「そのくらい、唾つけときゃ治る」
 あわててお嬢様に駆け寄る執事君に、メイドちゃんがシビアに言い捨てた。
「ちょっと、唾なんて汚いですわよ。唾なんて……」
「そんなことしませんよ、お嬢様」
「えっ、しないの?」
 否定する執事君に、なぜかちょっと残念そうにお嬢様がつぶやいた。
「あははははは、しませんよ」
 背後に仕込み竹箒の殺意を感じながら、執事君が引きつった笑いをあげた。
「私には、おねー様のようにはできません。そんなに自由奔放だと、今にお父様に怒られてしまいますわ」
「ほーほほほほ、それがなんだって言うのです。そんなことだから、あなたにはお友達がいないのですよ。もっとも、この二人は、わたくしの下僕ですけどね。わたくしが死ねと言えば、すぐにでも死……」
「死にません!」
 お嬢様の言葉に、執事君とメイドちゃんが声を揃えて叫んだ。
「私は……」
 ぎゃあぎゃあと口論を始めたお嬢様たちを見つめて、地面に両手をついた女の子がつぶやいた。しきりと周囲を見回してみるが、彼女の周りには執事君やメイドちゃんのような人物は存在しない。
「ああ、あたしがお友達になっていろいろと慰めて……」
「しないでいい」
 そう言って忍びよろうとする朝野未沙の喉元にレイピアを横にあててマサラ・アッサムが凄んだ。
「そうよ、待っていてはいけないんだわ。私もおねー様のように積極的になれば……」
 そうつぶやくと、女の子が乱れた髪をかきあげて顔を顕わにした。
「あれ?」
 その顔を見た朝野未沙が、すぐそばにいるマサラ・アッサムの顔と彼女の顔を見比べた。
 その間に、どこからかハサミを取り出した女の子が、自分の長い髪をばっさりと切り落とした。
「いろいろと、違うからな、あれは!」
 マサラ・アッサムが、抗議ともつかない叫びをあげる。
「まあ、マサラったら、大胆な。ほーほほほ、よろしいですわ、二人で百合園のしいてはヴァイシャリーの新しい秩序を打ち立てるのですわ!」
 執事君を弄ぶのを放り出したお嬢様が、霧から生まれたマサラ・アッサムの手を取って言った。
「そんなことは、わたくしが許しません!」
 突然そんな声と共に、ブンと大剣が唸った。楽しそうに、霧から生まれた者たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ回る。
「百合園女学院の平和は、わたくしが、わたくしだけが守るのですから!」
 大剣を振り回しながら、百合園女学院の制服を着たペコ・フラワリーが叫んだ。
「いろいろと違いすぎるぞ!」
 マサラ・アッサムが、顔を赤くして叫んだ。
「その通り、わたくしはあそこまで俺様正義じゃありませんから!」
 霧の中から駆けつけた本物のペコ・フラワリーが、真っ赤になって叫んだ。どうやら、二人共思いっきり黒歴史の部分をほじくり返されたらしい。
「そこ、誰かいるんだもん?」
 霧の一部が赤く輝き、炎と共に秋月葵が現れた。
「やっと追いついた。霧なら、焼き払っちゃうんだもん」
「ちょうどいい、やれ!!」
 秋月葵の言葉に、マサラ・アッサムとペコ・フラワリーが声を揃えて叫んだ。
「えっ、ちょっとちょっと……」
 朝野未沙だけが止めようとするが、もう遅い。
「了解!」
 言われた通りに、秋月葵がペコ・フラワリーが指し示す方で逃げようとしていた霧から生まれた者たちを焼き払った。
「もういない?」
 秋月葵が訊ねると、マサラ・アッサムが無言で朝野未沙を指さした。
「ちょっとお、あたしは本物なんだもん。ほんとよー!」
 じりっと近づいてくる秋月葵にむかって、朝野未沙は必死に叫んだ。