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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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    ★    ★    ★
 
「次弾発射するよぉ、ますたー♪」
「いいぜ、やっちまえ!」
 晃龍オーバーカスタムのコックピット内、サブパイロット席からジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)エメト・アキシオン(えめと・あきしおん)に怒鳴った。
「うーん、いっちゃえー」
 楽しそうに言いながら、エメト・アキシオンがグレネードの最後の一発を発射した。
 イルミンスールの森の一画に、再び三度火柱が上がる。
 魔法学校の生徒には、森を傷つけないようにと厳命が下っていたのだが、シャンバラ教導団を始めとする他校にまではその強制力は働いていない。そのため、イコンに乗ったジガン・シールダーズたちはやりたい放題だった。だが、後々問題とならなければよいのだが。この一件は、流れ弾に巻き込まれかけたイルミンスール魔法学校教師のアルツール・ライヘンベルガーたちによって、しっかりと記録されるだろう。
「ふむ、敵はいるようだが、確認する前に撃退されていたのでは確認もままならないですね」
 晃龍オーバーカスタムの肩部のフックにつかまりながら、ノウェム・グラント(のうぇむ・ぐらんと)がつぶやいた。
「ジガン、少しは手加減しなさい。このままじゃ、森の損害も無視できないわよ」
 携帯電話を使って、ノウェム・グラントがコックピットのジガン・シールダーズに言った。
「うるさい、今やってるのはエメトだ。好き勝手やってるのはあいつだぜ」
 突然鳴った携帯にそう言い返すと、ジガン・シールダーズが通話を切った。
「まったく、仕方がない人ですね。ザムドがなんとかしてくれればいいのですが」
 ザムド・ヒュッケバイン(ざむど・ひゅっけばいん)は、魔鎧としてジガン・シールダーズに装着されているが、だからといって彼の行動を自由にできるわけではない。
『否、差異、方角。湖、別方位!』
 マップと照らし合わせて、ザムド・ヒュッケバインがジガン・シールダーズに叫んだ。
「ザムドがなんか言ってるな」
「方向が違う? しょうがないなあ」
 エメト・アキシオンが、面倒くさそうに晃龍オーバーカスタムの進行方向を変えた。
「どこに行こうと構わないが、奴らは殲滅しろよ!」
 ふつふつと沸き立つ霧をさして、ジガン・シールダーズが言った。彼には、この霧が、かつて戦場で戦ってきた敵の軍勢に見えている。
 霧の上層だけが人形に変化しているようなので、地上にいる者たちにはほとんど視認できていないらしい。とはいえ、高所から肉眼で見ているノウェム・グラントでもちゃんとは視認できてはいない。イコンのメインカメラでズームしているジガン・シールダーズしか、相手の正体には気づいてはいないのだ。そのことが、さらにジガン・シールダーズを苛つかせていた。
 恐怖などは微塵もない。問題は、倒したはずの者たちがいるということであった。戦いは刹那のものだ。だから、すっきりする。それが、いちいち敵が復活してきて、もう済んだことを、因縁がどうだとか、仇がどうだとか、宿命がどうだとか、許す許さない、今度こそ倒すと、うっとうしいことこの上もない。なまじイコンのセンサー性能を上げすぎて、コックピットでは復活した敵の集団の罵声をすべて拾ってしまっているため、始末に困る。
「薙ぎ払え!」
「はーい」
 ジガン・シールダーズに命じられて、エメト・アキシオンが光条サーベルで霧のうわべをさっとなでた。霧の上部で蠢いていた者たちが、一瞬にして蒸発して消えた。
「やっつけちゃったよ。すっきりしたね。ねえ、ますたー♪ そろそろのんびりと遊ばない?」
 スカートをぴらっとめくってジガン・シールダーズを挑発しながらエメト・アキシオンが聞いた。だが、今度は小さな人影が、宙をひらひらと飛んでくる。エメト・アキシオンは、まだそれには気づいていないようだ。
「ねえねえ、ますたー♪ そっち行ってもいい?」
 メインパイロットシートからは斜め上に位置するサブパイロットシートを見あげて、エメト・アキシオンが科を作った。
「そんなこたあいいから、早くザムドの言ってた方へむかえ。こんな霧根絶してやる」
「ええー、だってえー」
 エメト・アキシオンが、さらにエロを仕掛けようと、上着の胸元に手をかける。いつの間にかスカートもズリ落として、ずるずるとパイロットシートをよじ登ってこようとしていた。
『其、行為、無駄。我、主、共存。払、婀娜』
「なによお、ますたー♪ を脱がすんだすらぁ。きゃっ、た・の・し・み♪」
「いいから、前見て操縦しろ! 次の敵が来てるぞ!」
 いいかげん見かねて、ジガン・シールダーズがエメト・アキシオンの頭をペチッと軽く叩いた。
 
    ★    ★    ★
 
「それにしても、濃い霧でございますわねえ。一寸先も見えませんわ。でも、おかげで、お肌が、しっとりうっとり♪」
「なんですか、それは」
 パタパタと手でほっぺを叩くアウグスト・ロストプーチン(あうぐすと・ろすとぷーちん)に、伴 長信(ともの・ながのぶ)が突っ込んだ。
「霧という物は、敵が隠れるにはうってつけの危ない場所なんですよ。まだそれがしたちは精神感応でお互いに連絡がつくからいいようなものの、はぐれて迷子になったらどうするんです」
 もう少ししっかりしてくれと、伴長信が言った。
「もともと、森で何が起こっているか確かめに来たのですから、敵が出たならそれはそれでよろしいんじゃございません? まあ、ここまで変な雰囲気だと、ドッペルゲンガーでも出そうで嫌でございますが」
「変なこと言わないでください。そんな物が出たら、それがしは大暴れしますよ」
 心底嫌そうに、伴長信がアウグスト・ロストプーチンに言った。
 だが、言ったそばから、霧の中から伴長信が現れた。もちろん、今現在のアフロヘアー姿の彼ではない。それでも、まったく手入れされていないように見える蓬髪は、まるで逃亡者だ。
「畜生。自分自身の幻覚まで見えやがる。せっかく逃げだしてきたっていうのに。さっさと消えやがれ!」
 霧から生まれた伴長信が、本物の伴長信にむかって怒鳴った。
「なんだと! それはそれがしの台詞だ!!」
 一気に、伴長信の怒りが沸点に達した。アウグスト・ロストプーチンが止めるのも聞かずに、霧から生まれた自分自身と戦い始める。
 それを同族嫌悪と言ってもいいものかどうか。いや、むしろ過去の自分に対する嫌悪なのだろう。スパイとして天御柱学院関連の研究所に送り込まれ、あっさりと捕まって実験材料にされてしまった過去の自分への。
「まったく、この霧は趣味が悪いんだからあ」
 どうやって伴長信たちの戦いを止めたものかと、アウグスト・ロストプーチンが悩んでいると、霧の中から他のドッペルゲンガーたちがぞろぞろと現れてきた。
「ほんとに、趣味が悪いぜ!」
 思わず、アウグスト・ロストプーチンが、本来の男言葉に戻る。なにしろ、霧の中から現れたのは、アウグスト・ロストプーチンたちであったのだ。
「情報はどうした。早くよこせ……」
 亡者のように、ゆらゆらと近づいてきながら霧から生まれたアウグスト・ロストプーチンが言った。その後ろからも、同じようなアウグスト・ロストプーチンたちが列を成して歩いてくる。手術着のような貫頭衣を着たアウグスト・ロストプーチンたちは、よく見れば衣服の背中に、5から9までのナンバリンクがされている。
「分かってるよ。分かっているから……なのよ」
 少し落ち着いたのか、アウグスト・ロストプーチンが、普段の口調に戻って言い返した。アウグスト・ロストプーチンも、伴長信とさほど素性は変わらない。ただ、改造されたのではなく、最初から天御柱学院に入学させるための駒として、エスパー部隊と名づけられただけの部隊にいただけである。そして、送り込まれたのはアウグスト・ロストプーチン一人だけだ。後の者は、アウグスト・ロストプーチンの帰りを待たされている。成果と引き替えの自由という名の甘言とともに。
「なら、急げ。遅れれば遅れるほど、俺たちの数が減る。俺たちは、時間を表す消耗品なのだ」
 容赦なく、霧のアウグスト・ロストプーチンが言った。ナンバーが飛び飛びなのは、それを示唆してのことだろうか。ますます、この霧はいけ好かない。
「まるで脅迫ね。私たちのどこに、そんなイメージがあったというのかしら。ふざけんじゃねえ。守りたい者はお前たちじゃねえんだ!」
 言うなり、こみあげてきた怒りをすべてESPパワーに変えて、アウグスト・ロストプーチンが道のそばに生えていた大木をサイコキネシスで倒した。直撃を受けたアウグスト・ロストプーチンたちが、梢や幹に打ち倒されて霧に戻っていく。
「長信、いつまで遊んでるの。さっさと片づけちゃいなさい!」
「うるせえ、うるせえ、うるせえ!」
 キレた言葉で、伴長信がアウグスト・ロストプーチンに怒鳴り返す。その勢いのままに、伴長信が霧からできた自分をサイコキネシスで弾き飛ばして、大木の幹へと激突させた。そこへ、アウグスト・ロストプーチンが、先ほど引き倒した木を、根の方から激突させる。
「次はどいつだ!!」
 まだ興奮冷めやらない伴長信が叫ぶ。
「はい、お疲れ様。これは御褒美」
 そう言うと、アウグスト・ロストプーチンが素早く伴長信の口に精神安定剤を放り込んだ。
 ややあって、やっと伴長信が落ち着く。改造の副作用とはいえ、薬に頼るのは情けないことだ。
「これぐらいなら、それがしは自分でなんとか元に……」
「あらあ、口移しの方がよかった? じゃあ、今度はそうしてあ・げ・る♪」
 絶句する伴長信にむかって、アウグスト・ロストプーチンは投げキッスを一つ飛ばした。