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ハロー、シボラ!(第2回/全3回)

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ハロー、シボラ!(第2回/全3回)

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chapter.11 ドクモとの触れ合い(2) 


「戦闘力みたいな言い方で言われても困りますね。そもそも珍獣には興味が湧きませんし、さっさと目的地へ向かいたいところなので、こんなところで足止めされるのは心外です」
 反撃に転じ、立ち向かってくるドクモたちを迎え撃とうとそう言って前に立ったのは、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)だった。遙遠はその両手に冷気を溜め、氷を形作った。同時に生み出された風は氷を舞い上がらせ、氷の嵐となった。
「元々邪魔されようとしていたんですから、倒せばいいだけなんです。本来の目的は、珍獣ではなくミイラを返すことなんですから」
 遙遠は、発生させたブリザードをドクモたちに向けて放った。若干長時間歩かされたことに対する腹いせのようなものが混じっている気がしないでもないが、まあ正論といえば正論である。
 ただ、悲しかったのは、ここにいる生徒たちの多くが、正論を求めていなかったことであろう。
「パンツが凍ったらどうしてくれんだ!」
「まだ身体検査が終わってないのだよ」
「オレだって、メアド聞くまで諦めねえ!」
 ドクモにご執心な鮪、綾香、壮太がその体をもって、遙遠のブリザードからドクモを守った。誰ひとりまともな動機でないのが、さらに悲しい。体に氷を浴びた彼らを見て、遙遠は溜め息と共に呟いた。
「……遙遠としては、早く先に進みたいだけなんですが」
 仕方ない、といった表情で、遙遠は後ろにいたパートナー、紫桜 瑠璃(しざくら・るり)に合図を送る。
「瑠璃……あとは分かってますよね?」
「もちろんなの! 今回はアレをどーんすればいいんだよね?」
 ドクモと遙遠の間に立っていた彼らに、悪寒が走る。瑠璃は、その小さな体に似つかわしくない巨大な銃器を持っていた。ロケットランチャーだ。
「瑠璃、張り切って頑張るの!」
 言うが早いか、瑠璃のロケットランチャーから弾が発射された。直後、大きな爆発音が辺りに響く。
「どんどんいくの! くろすふぁいあで一気にどーんなの!」
 なんと物騒な少女だろうか。瑠璃は、次から次へと弾を放ち、爆発を生んでいく。その光景は、まるで戦場である。
「だ、誰か止めないと……!」
 珍しくメジャーがまともなことを言う。と、その期待に応えるように、颯爽とひとりの男が現れた。
「うおぉおおおおおぉおお!!!」
 土埃と雄叫びを上げながら、全速力で戦火の真ん中に飛び込んできたのは閃崎 静麻(せんざき・しずま)だった。
 静麻はそのまま滑り込むように膝をつき、しゃがんだ体勢を取ると首からぶら下げていたカメラを構え、それをドクモに向けた。そして。
 パシャ! と、爆音の中、そのシャッター音ははっきりと聞こえた。彼のレンズはこの爆発の中でも、ドクモから外れることはない。
 ひたすら、一心不乱に彼はドクモを撮り続けていた。彼の行動の真意はさておき、それを目の当たりにした生徒たちは興奮し、彼を応援し始めた。
「すげえ! この戦火の中撮影を続けている!」
「戦場カメラマンだ! あれが伝説の、戦場カメラマンだ!」
 称賛を浴び、体を地面に転がしながらシャッターを切る静麻は輝いていた。その顔面が緑と赤の液体でびしょびしょになっているのが若干気になるが、まあここに来るまでに何かがあったのだろう。ここでは触れないでおこう。
「俺が、専属契約を取らせてやる!」
 汗を飛ばしながら、静麻が言った。その迫力に、ドクモも心が揺さぶられたのか、敵対心を見せていた彼女たちは徐々に攻撃態勢ではなく、撮影体勢へと移っていった。
「そうだ! もっと全身全霊を込めたポーズで向かってこい!!」
 もしかしたら彼は、あの手この手で自分の撮った写真を企業に持ち込み、売り込もうとしているのかもしれない。そう考えれば彼の行動も、さっきのセリフも納得がいく。
「さあ、ベストポージングを見せてみろ! お前たちはまだまだそんなもんじゃないはずだ!」
 それはそうと、一体なぜ彼は、ここまで熱心になっているのだろうか。ただ単に、先へ進むためにドクモを懐柔する必要があって、その手段のひとつとしてなのだろうか。
 いや、それ以上のものを、彼からは感じる。ギャラリーが言っていたが、もう彼は立派な戦場カメラマンだ。
「なるほど……この爆発は演出ってわけ? だったら私がすることはひとつ、セクシー対決しかないでしょぉ!?」
 静麻に撮影され、次々と華麗なポージングを決めていくドクモたちを見ていた雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)はそう言い放った。
「この世に私よりスタイルがいい女なんていらないの! 私こそ美の女神、ミューズ!」
 興奮のあまり妙なことを口走りながら、リナリエッタは爆発をくぐり抜け、ドクモの隣まで辿り着く。
「……? だ、誰?」
 突然横にやってきたリナリエッタに怪訝な顔をするドクモ。彼女らの問いを無視し、リナリエッタはドクモの全身をじいっと見つめる。上から下まで一通り観察し終えると、その足の長さが、明らかに自分より長いことが見て取れた。
「ぐ、ぐぬぬ……」
 歯をギリギリ言わせ、ドクモを睨みつける。彼女たちからしたら、いきなり近寄ってきた女に全身を舐め回すように見られ、その上睨まれたのだからたまったものではない。
 さらに彼女は、ここから暴挙に出る。
「足が長いだけじゃ、ミューズは名乗れないのよぉ! セクシーさでは私が上ってこと、教えてあげる!」
 そう言うとリナリエッタはフラワシを召還し、自分の着ている服をフラワシにびりびりと破かせ始めた。当然フラワシはコンジュラーにしか見えないため、ドクモたちからしたら、急に服が避け始めた怪奇現象としか映らない。
「え、ちょ、なに……」
「こわいこわいこわい、なんかこわいよぉ」
 下着すらつけていなかったのか、下半身のかなり際どいエリアまで肌を露出したリナリエッタは、勝ち誇ったような顔でドクモたちを見下ろした。
「どぉう? これで私の方があなたたちよりセクシーだって、認める気になった?」
 そこまでして彼女は、セクシー対決がしたかったのだろうか。というかまず、セクシー対決ってなんだよっていう話なのだが。
 が、ドクモたちとてその分野ではお金を貰っているプロ。カメラを向けられ、突然わけのわからない女に勝ちを宣言されては、プライドが傷つくというものだ。
「よく分かんないけど、脱いで勝ちならそういう業界いけば? ここは、撮影会なのよ」
「へぇ……言うじゃない? じゃあ改めて勝負よ。どっちがよりセクシーに撮ってもらえるか。さあベファーナ、ライトアップして!」
 ドクモもいよいよ撮影会とか言い出し、事態はもうよく分からない展開へと突入していた。リナリエッタに呼ばれたパートナーのベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)は、あまり乗り気じゃなさそうな顔で一応指示に従い、光術で彼女を照らしてあげた。
「はぁ……どうせならこんなビッチ共じゃなくてこう……筋肉! って感じの男性にボディオイル塗って輝かせてあげたかったですよ……」
 どうやらベファーナの気分が乗らないのは、この場に好みの男性がいなかったからのようだった。
「ヨサーク……そう、ヨサークがいたら! いや、むしろ雌だけでなく雄のドクモもいたなら両手に菊の花なのに……!」
 危険な言葉を垂れ流しながら、ベファーナはそれでも律儀に照明役を続けるのだった。
「調子が出てきたわよぉ!」
 バックライトを得たリナリエッタはそのシルエットに妖艶さを混ぜ、静麻のシャッタースピードを上げた。これに負けてはいられないと、ドクモたちも胸をちらりと見せたり太ももを出したりして、可愛さと色っぽさの融合を計る。
「いいぞ、お前たち、すごくいいぞ!」
 既に爆発を何発か食らった静麻は、ふらふらになりながらも彼女たちを撮ることを止めない。
 そして、この異常な空間はこの後、さらに拡大していくのだった。