校長室
話をしましょう
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「ジュースお持ちいたしましたー! お配りします!」 ワゴンを押して、衿栖が近づいていてくる。 「このテーブルには甘いものが多いが、甘党な子が多いようだ。ハーフフェアリーの子供はハチミツを好む子が多いらしい。紅茶や珈琲にはシロップを忘れるな」 レオンが集めた情報をもとに、衿栖にアドバイスをする。 「了解、任せて」 衿栖はワゴンの上からジュースをとって、小さな子――人形に持たせていく。 それから巧みに極細ワイヤーを操って、人形を動かす。 「えー? 機晶姫じゃないよね? しゃべんないよね?」 とことこ歩いて、皆の元にジュースを運ぶ人形達を見て、ライナ・クラッキル(らいな・くらっきる)が驚きの声をあげる。 「なんで……。すごい、です」 マユもびっくりしながら、人形が運んできた蜂蜜ドリンクを受け取った。 「お人形さん、おしごとしてえらいね。ありがと〜」 サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)は、蜂蜜ドリンクを受け取った後、人形の頭をなでなでするのだった。 喋りはしないけれど、人形はぺこりとサリスに頭を下げる。 「うわあ、生きてるみたい……?」 「ほんと、です」 ライナは感動して、目を輝かせながらマユと顔を合わせる。 「お片付けもできるのかしら?」 クレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ)は、空いているグラスを人形に差し出した。 「任せて」 そう声を上げたのは、衿栖。 ひょいっと人形はクレシダの手からグラスを受け取って、ワゴンの方へと帰っていく。 本当に生きているような動きだった。 「あとね、リンゴジュースも飲みたいな」 「あたしは、アイスチョコレート♪」 「ぼ、僕は……オレンジジュースももらっていいですか?」 「クレシダには、バナナジュースをちょうだい。バフバフにも何かお願い」 子供達がじゃんじゃんジュースを注文していく。 「はいはい、順番に配りますよー」 注文のジュースを衿栖が注ぎ、グラスを人形達に持たせていく。 「追加のジュースとお菓子、ここでいい?」 倉庫から戻って来た朱里はすごい量のジュースとお菓子、そして氷を持ってきていた。 「うん、お願い。苺ジュースも入りましたー。どうしますか?」 「じゃ、あたしそっちに変える〜」 「私も、ちょっとだけ飲んでみたいな」 「それじゃ、ストロー2つください」 サリスとライナの注文に直ぐに応じて、衿栖は人形にジュースとストローを持たせる。 「それにしても、すごい人数。衿栖大丈夫かなぁ?」 後ろに下がって、レオンの隣に立ち、朱里はそう呟いた。 「今回の仕事には、人形操作の正確性が求められる。良い修行になりそうだな」 「ま、そうだろうけどね」 気がかりではあったが、きびきび動く衿栖と人形達を見守ることにし、朱里は荷物運び以外の手助けはしないでおく。 レオンも助言以外の手助けはしていない。ウェイター……似合うと思うのだが。 声をかけてくる百合園生もいるけれど、礼儀正しく礼をして、衿栖に繋ぐことしかせずにいた。 「ふふふ、狙い通り注目されてるわね〜」 更に衿栖は、4人の人形をバラバラに動かし、別のテーブルへ飲食物を運ばせる。 おおーと、驚きの声が上がり、注目を集めていく。 面談を終えて戻って来た、ラズィーヤや静香、生徒会の重役達も、人形に目を留めていく。 「みんな良い宣伝になってるわよ! もう少しがんばって!」 動かしているのは衿栖のはずだけれど、彼女の言葉に答えるように、人形達は更にてきぱき動き回るのだった。 「いいなー、ミルミもあのお人形、ひとつ欲しい!」 ライナの隣に座っているミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)も、衿栖の人形に興味津々だった。 「でも、ミルミには動かせないけどね〜。はあ……」 軽くため息をついて、ミルミはライナ達を見守る。 「はい、ミルミちゃんもどうぞー」 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が、呼雪が持ってきたタルトを取り分けて、ミルミの皿にも乗せた。 「甘いものだけじゃ飽きるから、これもどうぞ」 自分が作ったサンドイッチも、乗せてあげる。 「ありがと〜」 お礼を言って、ミルミは美味しそうにサンドイッチから食べ始めた。 「そういえば、ミルミちゃんももう高校2年生なんだよね。ライナちゃんのお蔭か、少しはお姉さんぽくなったかな?」 「うーん、ミルミはもっとお姉さんになんなきゃダメなんだけどね。ミルミんちでライナちゃん面倒見れるんだし……ミルミがちゃんとお姉さんになれれば、鈴子ちゃんももっと自由な行動が出来るんだろうけど。ヤなんだよなぁ〜」 面談を終えて、違う席の来賓と話をしている鈴子にミルミは目を向けていた。 (やっぱり、まだ鈴子ちゃんの手を離れるって感じじゃなさそうだけれど、自覚はしていってるんだよね) 「っと、ライナちゃん、顔に食べかすついてるよー。あっ、手でぬぐったらダメ。こうしてナプキンで拭くんだよ〜」 ミルミがナプキンをとって、ライナの顔を拭いてあげる。 「うんうん。ミルミちゃんは、お姉さんだね〜」 ヘルはにこっと笑みを浮かべると、ミルミの頭を撫でてあげる。 「えへへへっ。マナーはちゃんと知ってるんだよ」 ミルミは得意げな笑みを見せた。 「バフバフもかわいい、かわいい〜」 ライナは椅子からぴょんと下りると、クレシダが乗っているバフバフの頭をなでなでして、にこっと笑みを浮かべる。 「となりのテーブルから、クッキーもらってきたよ♪」 ちょっとテーブルを離れて、人形達と一緒に近くのテーブルを回っていたサリスが戻って来た。 手の中には紙で包んだクッキーがある。 「はいどうぞ」 サリスは、クレシダ、ライナ、マユにちょっとづつ分けてあげる。 「バフバフも半分どうぞ」 クレシダはクッキーを半分にして、バフバフの口に差し出した。 「いいこいいこ。おいしいですか〜? おいしいよねっ」 ぱくっと食べたバフバフを、ライナは小さな手で撫で続けている。 「赤いおりぼん、にあってます……」 マユも椅子から降りて、しゃがんで、バフバフをじぃっと眺めている。 「ワン!」 「きゃっ」 「うわ……っ」 吠えた途端、マユとライナはびくっと震えるけれど「おれいをいったんだよ♪」と、サリスが説明をすると、すぐに微笑みを浮かべで、ドキドキしながらまたバフバフの頭や肩を撫でていく。 「そうだ。僕、五線譜を持ってきたんです。あの……ライナちゃんの色鉛筆で、音符かいてもらえますか?」 マユは鞄の中から、五線譜を取り出す。 「うん、書く書く〜♪ ライナちゃん、色鉛筆かしてっ」 「うん。私も音楽つくるー」 ライナはテーブルの上に置いてあった色鉛筆を持ってきて、サリスに赤色、マユに青色の色鉛筆を渡した。自分は緑色を使う。 そして、半妖精達はかわるがわるに、五線譜に音符を書いていく。 「色んな色の音符が踊って、きれい」 マユはほっとしたような、笑みを浮かべる。 色々なことあって、不安を感じていたマユやライナは、久しぶりに幼馴染と会ったことで、元気を取り戻していた。 だから。 3人で作り出した曲は、とても明るい曲だった。 1ページ全部に音符を書くと、子供達は声に出して「ララララ〜♪」と歌い始める。 可愛らしい子供達の姿に、皆の顔にも微笑みが広がる――。 「可愛い歌声ですわね」 鈴子が子供達が歌うテーブルへと近づいてきて。 彼女達を見守りながら世話をしている、エレンディラとセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)にそっと声をかける。 「はい。楽しそうでよかったです。葵ちゃんも、アレナさんと一緒でとても楽しそう」 エレンディラは、葵のとても楽しそうな笑みに癒されている。 その笑顔を護るために、彼女が親しい人達と楽しい時間を過ごせるように、今日は給仕に回って皆の世話をしていた。 葵の笑顔を見ることが、エレンディラにとって一番の幸せだから。 「そうですわね。こんな時間が長く続くと良いのですが」 セツカはそう言って、鈴子の方に顔を向ける。 「その為に、百合園も力が必要でしょうけれど……。元々の考え方の通り、百合園は武力ではない力を持つべきだと思いますわ」 「ええ。百合園が強めなければならない力は、武力以外にあります。百合園生として、正しく強くあるために、セツカさんもお力をお貸しください」 そう鈴子は微笑むと、別のテーブルへと向かっていった。 (生徒会選挙があるのですよね……) 楽しそうなヴァーナーを見ながら、セツカは考える。 (ヴァーナーの想いの手伝いになるように、私も何か地位を目指すべきかしら……?) でも、何かに縛られては、ヴァーナーを最優先に物事を考えれらなくなってしまう。 だから、今まで通り、ヴァーナーの傍でヴァーナーの為だけに頑張ればいいのだろうか。 のんびり、ヴァーナーを中心に子供達を眺めながら考えていく。 今直ぐには、答えは出なそうだった。