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 ささやかなティーパーティは、日が落ちるまで行われた。
 遠方から訪れていた客から先に、帰ってゆき、最後まで残っていたのは百合園生と、ヴァイシャリーに住まう者ばかりだった。
「ようやく、休憩がとれそうだな」
 要人が皆帰った後、親しい者と茶を楽しんでいるラズィーヤに、近づいた男性がいた。
「渡すチャンスがなかったが、土産の品だ」
 彼――レン・オズワルド(れん・おずわるど)が差し出したのは、手製のアップルパイだ。
 友人にレシピを教わって作った、自慢の一品だった。
 既に同じ席に座っていた少女達に振る舞い、喜ばれていたが。
 最後の1切れだけ、ラズィーヤの為に残してあった。
「……ありがとうございます。いただきますわ」
 手渡しながら、レンはラズィーヤの耳元で「話がある。内密な」と告げる。
「……皆様、そろそろ片付けを始めましょう。明日の授業に支障を出してはいけませんわよ」
 ラズィーヤがそう指示を出すと、百合園生達は従って片付けを始める。
「折角ですから、わたくしは最後にこのアップルパイを楽しませていただきますわ」
 そう言い、ラズィーヤはレンとレンのパートナーのメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)と共に、既に片付けられているテーブルへと移っていく。

 レンが今日、ここを訪れたのは、ラズィーヤと話をするためだった。
 大荒野でのエリュシオン帝国との戦いの際――レンは、助けたいと思っていた人物を、人を1人、助けることが出来なかった。
 それは、その人物が望んだ行動の結果だった。
 だが、レンの心に残ったのは怒り、だった。
 彼女を救えなかった自分自身の弱さは勿論のこと、この戦いそのものへの怒りだ。
 彼女を殺したのは何なのか。
 敵か味方かは関係がない。
 死という結果しか与えられなかった、この戦いそのものをレンは憎んだ。
「俺はこれまでエリュシオン帝国との戦いには消極的ではあったが、これからは違う。この戦いを止める為にこれからは俺自身が前に出よう」
 これはでは、攻められれば守り、追い払うことがほとんどだった。
 だが、これからは違う――。
「だからお前の力を貸してもらいたい」
 レンの真剣な想いと言葉に、ラズィーヤはパイを食べる手を止めて、彼の顔に目を向けた。
「協力してくれという話だけではない。お前に、協力したい」
 レンははっきりとこう続ける。
「そう、お前となら一緒に戦えると信じているからだ」
 ラズィーヤは少し考えた後。
 妖しげな笑みを浮かべて、こう言った。
「思い通りに動いてくれる駒なら欲しいですわ。でも、あなたはどうかしら……対等のお付き合いがご希望でしたら、もうしばらく様子を見たいですわ」
 能力も買っている。欲しい人材だ。だが、今回の言葉だけでは信用は出来ないとラズィーヤは言葉を続けた。
「私からも相談があります」
 メティスが書類をラズィーヤに差し出した。
 記されているのは――開発案だ。
「各地で繰り広げられる戦いの中で私は龍騎士と戦う術はないかを考えてきました」
 ひとつは、イコンのような戦力の強化。
 イコンは龍騎士と対等に戦う事が出来る。
 七龍騎士ほどの力を持った龍騎士とも、渡り合えるほどの性能を持たせることも、将来的には不可能ではないかもしれない。
 そういった戦力の強化は当然のこと。
「次に、彼ら自身の力の抑制。その方法もあるのではないかと考えました」
 書類の中には、龍騎士の神としての力を抑える方法についての案を、記してある。
「ご提案の案で、力を抑えることは不可能ではないとは思います。ですが、装置の開発は現実的ではありませんわ。如何に契約者とはいえ、一人の力で生み出せるものではありません、から」
 シャンバラの技術力や、開発に携われる人材、完成までにかかる期間などを考えると、それよりもイコンの開発に力を注ぐべきだと、政府から反対を受けるだろう。
「わかりました。また何か思いつきましたら提案させていただきます」
「期待していますわ。あなたにも、ね。次はどんなお土産を持ってきてくださるのかしら?」
 ラズィーヤは、メティス、そしてレンを意味ありげな目で見て、微笑んだ。