校長室
話をしましょう
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「二人とも、おめでとう」 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、簡単な祝辞と共に、小さな箱を2人の少女に差し出した。 「呼雪おにいちゃん、ありがとうです〜」 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、嬉しそうな笑みを浮かべて、エメラルドグリーンのリボンが掛けてある小箱を受け取った。 もう一人。 「ありがとう〜っ」 秋月 葵(あきづき・あおい)も思わぬプレゼントに喜びの笑みを浮かべる。葵が受け取った小箱には、空色のリボンが掛けてあった。 ヴァーナーと葵は、共に白百合団の班長だ。 これまでは幼いことなどを理由に、作戦の指揮をとる際には、パートナーのサポートが必須とされていた。 しかし、先日の白百合団の任務後に、進級したことと、実績が認められ、今後はサポートなく、単独で指揮が行えるようになった。 そのお祝いとして、呼雪は2人に贈り物をした。 「お……おめでとう、ございます」 呼雪と一緒に訪れたマユ・ティルエス(まゆ・てぃるえす)は、2人を羨望の眼差しで見上げて、祝福する。 自分もいつか、自分の力で、誰かに何かを伝えられるようになりたい……大切な人達を守れるように、なりたいと思いながら。 「おめでとう」 「これからもよろしくお願いします」 同じテーブルについている、白百合団員からもお祝いの言葉と拍手が2人に贈られる。 「ありがとうです〜」 「ありがとうございます」 ヴァーナーはにこにこ微笑み。 葵は少し照れながら、頭を下げる。 「ホント、ヴァーナーちゃんは年下なのに、班長の仕事もちゃんとしてて凄いなぁ」 「葵ちゃんもすごいですよ〜! いろんな事があったです……。葵ちゃんや、班長のみんなや、百合園のみんな、シャンバラのみんなでのりこえたですよ♪ 今日はきゅうけいです。たのしむですよ〜」 葵とヴァーナーもお互いを褒め合いながら、微笑んで。 持ってきたドライフルーツを沢山入れたパウンドケーキと、冷たく冷やしたマンゴーを交換する。 「二人とも、良かったですね。おめでとうございます」 エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は、持ってきた紅茶――ダージリンベースのオリジナルブレンドを、2人のティーカップに注いであげた。 この紅茶は、葵が好きな、苺のスイーツに合うように、紅茶研究会でブレンドしたものだ。 「おめでとー。2人の活躍は、優子チャンから聞いてるぜ」 言って、呼雪や天音達と一緒に訪れたゼスタが、花瓶から水仙の花を2輪とって、ヴァーナーと葵に1輪ずつ渡した。 「ありがとうございますー。あ、よかったら食べてください」 礼を言い、葵はゼスタにもパウンドケーキを差し出した。合宿の時とは違い、今回は綺麗にカットされている。 「サンキュ。美味いんだよな、これ」 「そういえば……」 水仙を配るゼスタを見て、呼雪はふと、別の席にいる天音が言っていたことを思いだす。 『うきうきと水仙の花束を準備しているのを見たから、今日のゼスタの護衛は早川に任せるよ……任せて大丈夫だよね?』 そんな風に、念を押された。 (水仙は確かにサジタリウスの花だが……何か寓意でもあるのだろうか? いや、彼なら大丈夫だろうが……) そう思いながら、ゼスタに尋ねてみる。 「水仙の花、お好きなんですか?」 「嫌いじゃない。この花が似合う娘に贈るために持ってきたんだけど……」 言って、ゼスタが見た先にはアレナの姿があった。 「あっ、アレナ先輩、こちらで少しお話しをしませんか」 一番近くにいた葵がアレナに声をかける。 アレナは一緒に座っていた人達にお辞儀をしてテーブルを離れ、葵達の席へと近づいてきた。 「どうぞ。……その服、着てきてくださったんですね」 すぐに、席を用意したのはユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)だ。 「は、はい。目立ちませんでしょう、か」 「皆様、綺麗な格好をしていますから、特別目立ちはしませんよ」 ユニコルノは春のパン、パーティの時に、アレナに服を渡していた。 今日はユニコルノも同じデザインの服を着ている。 「はい。可愛らしい服、ありがとうございました。えっと……お揃い、です」 微笑んで、ぺこりと頭を下げ、アレナはユニコルノの隣に腰かける。 「可愛い服だよな。よく似合ってる。いつもの、水仙のスカートもお似合いだけれど」 ゼスタの声に、アレナが顔を向ける。 「こんにちは、アレナちゃん」 にっこり、ゼスタは甘い笑みを浮かべた。 「は、はい……こんにちは」 アレナは少し緊張した顔で、頭を下げる。 優子のパートナー同士だが、まだそんなに親しくはないようだった。 「今度はお友達の皆様ともお揃いが出来たら良いですね」 ユニコルノが声をかけると、アレナは再び微笑みを浮かべる。 「はい。皆でお揃い……制服みたいですね」 「かわいいです。どうぞです」 ヴァーナーはにこにこ笑みを浮かべながら、アレナにグラスに注いだ冷たいミルクを差し出した。 「ありがとうございます。冷たいですね」 そのミルクは氷術でヴァーナーが直前まで冷やしていたので、とっても冷たかった。 アレナは両手でグラスを包み込んで、口へと近づけていく。 「白百合団の新制服、こういう可愛いのもいいよねー。でも、優子副団長にはちょっと似合わないかな?」 「似合うように、人によってデザインを少し変えるといいかもしれません」 ユニコルノの提案に、葵は頷いて考える。 「うん、この変のフリルは外して、下はパンツにして……」 ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)が持ってきた落書き用のノートを借りて、コーディネート案を書き出してみたり。 「おそろいのお洋服で、みんなであそびにいけたらうれしいです♪」 ヴァーナーの言葉に、皆笑顔で頷く。 「ユニコルノちゃんもいっしょですよー。今日のかっこうもかわいいです」 ヴァーナーは隣のユニコルノに突然ハグ。 「あ、ありがとうございます」 ユニコルノはちょっと驚きながらお礼を。 そんな風に――少女達が女の子らしい会話を弾ませている様子に、呼雪は微笑ましげに目を細めた。 百合園生に淹れてもらった紅茶に、レモンを浮かべて。 和やかに会話をしている少女達の一回り大きくなった姿をそっと、見守る。 この時間を大切に思いながら……。 こうして過ごせる時間は、貴重だから。 自分には守りたいものがあるのだから……。 「美味そう」 ゼスタのつぶやきが呼雪の耳に入った。 彼の目はその少女達に注がれている。 「……おっ、そのタルト俺も貰ってもいい? お前の作った菓子はホント美味いよな!」 ゼスタが笑みを浮かべて、呼雪が持ってきた苺のレアチーズタルトにフォークを向けた。 「どうぞ」 呼雪はタルトを一切れ、小皿に乗せてゼスタに手渡す。 初夏らしくさっぱりと、苺とレモンの酸味を軽く効かせたピンクのチーズクリームをタルト台に流して、甘酸っぱい苺ソースをトッピングしたものだ。 「あたしも〜!」 苺のスイーツ大好きな葵もすぐに飛びつく。 そして、エレンディラが淹れてくれた紅茶と共に、満面の笑みで食べていく。 「おいしー」 「うん、美味い!」 ゼスタもタルトを美味しそうに頬張っていく。 呼雪とは違う目、だったが。 ゼスタも少女達の会話に口をはさむことはなく、彼女達を見守っていた。 「っと。……最近、次期団長にアレナ先輩という声も挙がってるけど、先輩はどう思っていますか?」 少女達の話題は、洋服の事から、団の事に移っていく。 葵の問いにアレナは小首を傾げつつ、答える。 「団長は無理ですよー。でも、そう言うと、象徴として団長をやって、副団長を2人設けて実務を分担すればいいんじゃないかとも言われてしまうんです」 白百合団の顔となる存在として、ヴァイシャリーの救世主ともいわれ、先代女王の血を受け継ぎ、十二星華、そして現ロイヤルガード隊長のパートナーでもあるアレナこそ、相応しいと推す百合園生が出始めているのだ。 「そうですか……それなら、私が副団長になってバッチリサポートしちゃうかな……なんてね」 そう葵は笑みを浮かべる。 「ボクもアレナおねえちゃんといっしょに、まもるですよー」 葵とヴァーナーの言葉に、アレナは笑顔で頷いた。 「皆と一緒に白百合団続けられたら嬉しいです……」 だけれど、少し迷いの見える笑顔だった。 「今までと視野が変わって、新しいものが見える機会になるかも知れません。ですが、急がなくて良いと思うのです」 アレナの微妙な心に気付いて、ユニコルノがそう声をかけた。 無理に成長や自立に臨んでも、躓いてしまうかもしれないと思って。 「はい。まだ時間はありますから……情勢も、どうなるかわからないです、し。優子さんも迷っているみたいだから……」 アレナは優子と一緒がいい。優子が卒業するのなら、一緒に卒業したい気持ちだろう。 アレナはまだ高校生。本当は短大に進学しているはずだったけれど、1年以上、まともに授業に出られなかったから。 次の春、優子は短大を、アレナは高校を卒業することになるだろう。 「アレナさんのペースで一歩一歩進んで、時が来たら改めて考えれば……それに、貴女は独りではありません。優子様とも、皆様とも支え合っていける筈です」 そんなユニコルノの言葉に、アレナはこくりと首を縦に振る。 「そして私も……」 そう小さく続けられた言葉には、ほっと安心したような顔で、また首を縦に振った。 それから呼雪の方をみて、微笑んで。 間に飾られている水仙の花に気付いて、ちょっと複雑そうな顔をした。