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【おとこのこうちょう!】しずかのじゅせいらん! 前編

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【おとこのこうちょう!】しずかのじゅせいらん! 前編

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 第2章 過去の自分と

■□■1■□■ 時を超える分銅

リネン・エルフト(りねん・えるふと)は、
過去の自分を探し、新百合ヶ丘の街を走っていた。
(……過去の私は欧州の犯罪組織の工作員『黄色人種11号』、桜井家の破綻を望む連中の手先。
桜井家が破綻すれば多くの資産が市場に出回る。それが組織の狙い)
「……直接の原因じゃないと思いたい、けど……!」
リネンが、
組織のアジトを強襲すると、
まだ幼いリネンがいた。
「なんだ貴様は!」
リネンは、襲い掛かる敵をヒプノシスで眠らせる。
契約者ではない一般人に、立ち向かえるものがいるはずもなかった。
「……答えて。何処から指示されたの?」
一瞬で全滅した犯罪組織の1人を捕え、
リネンが尋問する。
「ふっ、言うと思うのか?」
「答えなさい」
リネンが、犯罪組織メンバーの腕の関節を反対方向に曲げる。
「ぐああああああっ!?」
「次は指の骨を折ることになると思うけど」
「わ、わかった!
俺たちの依頼者は、アルバ・フレスカとかいう契約者のガキだ!」
「……アルバ・フレスカ!?」
そのような者は、当然、この時代のリネンの記憶にはない。
尋問した男を再び眠らせると、リネンは、過去の自分へと近づいた。

「あ……」
従う相手がいなくなった過去のリネンは、
震えながら現在のリネンを見上げる。
「私……何すれば……」
ひたすら、組織に隷属するだけの存在でい続けたため、
パニックを起こしているのだ。
助けたいのはやまやまだが、ここで脱走したら契約者にならなくなってしまう。
「希望を、自分を捨てないで。あと少しだけ」
一言勇気づけて、立ち去ろうとするリネンに、
幼いリネンが問う。
「あの、あなたは……」
「私は……ロスヴァイセ」
リネンは、とっさに友人の名を口にしていた。
「ロスヴァイセ」
現在のリネンを見上げる過去のリネンだが。

「さあ、花子!
分銅を忘れられない身体にしてあげるのですよー!」
「ダブルな分銅を喰らうがいいですっ」
現在と過去の桐生 ひな(きりゅう・ひな)が、
過去の花子を追いかけまわしてきていた。

「やめてえええええええ」
現在の花子は、過去の花子の居場所、
当時の新百合ヶ丘の百合園に通ってたことを
分銅でつぶされて自白させられたのだ。
この時代の花子が快感になるまで繰り返し、
分銅依存症にしてしまおうというのが、
ひなの狙いであった。

走り去る3人を、2人のリネンは呆然と見送る。
「ロスヴァイセ、あれ、なに……」
「……わからないわ」

★☆★

一方そのころ。

水橋 エリス(みずばし・えりす)も、
過去の事件を解決するためにやってきていたが、
気がつくと、みんなとはぐれて迷子になっていた。

「しょうがないですね……。
街を散策しながら皆さんを探しましょうか」
そう独りごち、新百合ヶ丘の街を歩く。
すると、13歳くらいの少女がエリスにぶつかり、転んでしまう。
「きゃあ!」
エリスは、その黒髪の女の子を、
抱き起してあげる。
「あああ、ありがとうございますっ」
真っ赤になってお礼を言う少女に、
エリスはくすりと笑みを浮かべる。
(初心ですね。かわいい)
エリスは、地面に落ちた少女の帽子を拾い、かぶせてあげる。
「タイが曲がってますよ?」
さらに、エリスは少女のタイを直してあげる。
「え、あうあう、
ありがとうございます!」
さらに赤くなる少女に、エリスは微笑する。
「大変ご迷惑をおかけしました。
申し訳ありませんがこれで失礼しますね……また縁があったら会いましょう?」
「はい……」
少女が、歩いていったエリスをぽうっとなって見つめた。

「……すてきな人だったなぁ、私もあんな風になりたいなぁ」
直してもらったタイを指でいじりながら、
少女はそうつぶやいた。

しばらく行ってから、
エリスはふと、重大なことに気づく。
「……あれって……6年前の私だったんじゃ……」
エリスの髪は金色だが、
当時のエリスは、周りの目を気にして、髪の毛を黒く染めていたのだ。
「私、自分で自分の未来変えちゃったんでしょうか?」
自分の天然行動に冷や汗を流すエリスだが。

「待てー、待つのですっ!」
「たくさん分銅してあげるのですよー!」
「いやああああああやめてええええええええ」

「なんなんでしょうか、あれ……」
その隣を、2人のひなと花子が走っていくのであった。

★☆★

この時代の夜月 鴉(やづき・からす)は、
新百合ヶ丘の街を、眺めて佇んでいた。
両親と、幼い子どもが、広い道を、3人で手をつないで歩いていく。
(新百合ヶ丘の人間……家族……羨ましい。
僕には両親が居ないのに……この空っぽな気持ちは何だろ?)
「おい、大丈夫か?」
虚無感で表情を無くしているこの時代の鴉に、
現在の鴉が声をかける。
「誰?」
「俺は……マイケル・スミスだ」
「マイケル?」
過去の鴉が、怪訝な顔をする。
「ちょっと話さないか?」
マイケルを名乗った現在の鴉に誘われ、
過去の鴉がうなずく。
「うん」
(変な奴だけど、なんとなく親近感があるし)
こうして、2人は、見晴らしの良い屋上にやってきた。

「ブラックでよかったか?」
「……うん」
缶コーヒーを差し出されて、過去の鴉は、少し大人ぶってうなずく。

「なあ、おまえ、生きる意味ってなんだと思う?」
マイケルを名乗った鴉に聞かれ、過去の鴉はうつむく。
「生きる意味なんて聞かれても……そんなもの、僕にはない。
ただ生きたかった……それだけだよ」
「ああ、俺も、おまえくらいのころ、そう思ってた。
でも、死ねなかった。理由は簡単だ、死にたくないから。
そう死にたくなかった、どんなに苦しくても辛くても生きたかった。
生きる意味なんて、そんなもんでいい。
死にたくない、だから生きる。それでいい」
「……うん、その通り。僕は生きたかった。
生きる意味は、それでいいの?」
「ああ。それでも満足できないなら、
生きる意味を探すっての生きる意味にしてみるのはどうだ?」
「うん……」
過去の鴉の顔は、生気を取り戻していた。
「マイケルは?
マイケルの生きる意味は?」
「俺か?
今の俺の生きる意味は、友達や仲間の笑顔を護る事、
昔の俺が追い求めて来た物を絶対に手放さない為に。
パートナーたちや仲間といるあの時こそ、俺の宝物だ」
(て、俺ってこんな事思ってたんだな。
自分でも驚いた、思ってた事がすらすら口から出るなんて……)
現在の鴉は思う。
「生きる事に悪い事何てない。
まあ、何はともあれ……頑張れよ」
俺。そう、心の中でだけつぶやく。
「ありがとう」
(もう会えないのは解ってる。でも、さよならは言わないよ。
だってあんたは、僕なんだしね)
過去の鴉は現在の鴉の背中を見る。

「「おとなしく分銅されるのですー!」」
「ぎゃああああ」

「……ほら、あいつも生きたいと思ってるんだ」
「……うん」
2人のひなに追い回される花子とすれ違い、
そう会話する2人の鴉であった。

★☆★

そのころ、新百合ヶ丘の百合園女学院では。
橘 舞(たちばな・まい)が、過去の自分に会いに来ていた。
(この頃の私は旧家の名門橘家の娘という存在であることに囚われていて、
自分は他とは違う特別な存在でないといけないって思い込んでいたところがあって、
性格も凄く悪いですよ。きっと会っても可愛くないです。
あ、いえ、今は性格がよくて可愛い、とか自画自賛ではないですよ。
とにかく、ブリジットに会わせるわけにはいきません。
ブリジットがラズィーヤさんに絡んでいるうちに、
こっそり抜け出して過去の私と鉢合わせしてしまわないようにしないと)
そう考えて、名門貴族のラズィーヤ・ヴァイシャリーを見物に来ているはずの、
過去の自分を探し出した舞だが。
(うっ、やはり取り巻きを連れていますね。
しかも、当然のことながら周囲には護衛が!
ああっ、あんな愛想笑いなんかして!
一見親しげな友人を装ってますが、明らかに嫌な子どもです……ううう)
舞は、頭痛をこらえつつ、過去の自分の前に現れる。
「ごきげんよう」
「……ごきげんよう」
過去の舞が笑みを作るが、明らかに目が笑っていない。
「私はパラミタの百合園校からきたんですけど、
実はテロリストがラズィーヤさんと桜井先生の命を狙っているという情報があって……。
不審者が近寄らないように陰ながら護衛しているのですけど、皆ピリピリしているんです」
「百合園パラミタ校、ですって?」
過去の舞は眉をひそめる。
当然、この時代にはまだ存在していない。
「それにあなたは橘の娘、
野次馬の如き好奇心で自ら危険に飛び込み、怪我をするなど橘の恥です。
ですから、今日のところは引き返してください」
舞は、きっぱりと言う。
「たしかに、今日は、朝から変な事件がいろいろ起きているようです。
君子危うきに近寄らずですね」
過去の舞が護衛に耳打ちされ、現在の舞にうなずく。
「でも、礼は申しません。
どこのどなたかは存じませんが、あなたはあなたの都合でそうなさっているのでしょうから」
そう言われて、現在の舞が、右手で自分の左の二の腕を握りしめる。
(ああ、ほんっとうに……)

かわいくない!

2人の舞の交わす笑顔の間で、
雷鳴が走った……気がした。

こうして、話をつけた2人の舞だが。

「「分銅してやるですー!」」
「やめてええええええ!」
2人のひなと花子の声が響いた。

「……ああいった感じでとても危険ですので」
「……わかりました」

★☆★

そのころ、
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が、
新百合ヶ丘の駅前で迷子のイギリス人の少年を見かけて話すと。
「俺はクリストファー。
君は?」
「え、ボクもクリストファーっていうんだ」
(な!?)
人格交代前の、パートナーの姿だった。
(ちょ、今、うっかり名乗っちゃったけど……)
「ねえ、どうして女の子の洋服いっぱい持ってるの?」
「えーと、これは」
この時代の静香の服が破けたりした時のために準備したのだが、
クリストファーは適当にごまかす。
「友達のなんだ」
「ふーん?
ねえ、どうして地球に来てるの?」
「えーと……」
根掘り葉掘り聞かれて、クリストファーは正体を明かす。
「未来のボク?
じゃあ、なんで、さっき話した許嫁のことも知らなかったの?」
「えーと、いろいろあって忘れたんだよ」
まさか、契約したら人格交換したとも言えない。
(許嫁って……当然、女性だよね……勘弁してくれ)
「記憶喪失……?
もしかして、その顔の怪我の時に?」
「いや、その」
疑いのまなざしを向けるこの時代のクリストファーに、
現在のクリストファーが困惑していると。

「「分銅ですー!」
「だからやめてええええ!」
またも2人のひなと花子の声が。

「……シャンバラは危険なのかな?」
「厳しい冒険もあるけど、歌い手として実力を付けられる場所だよ」
(いろいろ説明するより、こっちの方が効き目あるかな?)
ディーヴァとしての歌を、クリストファーは披露する。
その姿を、感嘆して見つめるこの時代のクリストファーに。
「納得した?」
「うん……」
「じゃあ、帰ろうか」
現在のクリストファーは、この時代のクリストファーをバスに乗せて見送った。