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【おとこのこうちょう!】しずかのじゅせいらん! 前編

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【おとこのこうちょう!】しずかのじゅせいらん! 前編

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■□■2■□■ 小学生の静香

佐野 和輝(さの・かずき)は、
小学生時代、静香の同級生だった。

両親の事故死から数年。
小6の和輝は、親戚の家を厄介者として転々としていた。
捨てられないように、
「成績優秀で運動神経も良くて、我侭を言わない礼儀正しい子ども」を演じ、
大人と子どものどちらにも寄りすぎないように、
バランスを取って、片方から不興を買わぬように神経をとがらせる日々だ。
しかし、そんな中でも、
クラスメイトの静香には、素の自分を出して接することができた。
(世間知らずのお人よしで、すぐ泣いてしまう困った奴だが、
だからこそ自然体で接することができるのかもしれないな)

静香や和輝の通う小学校。
そこに、未来の和輝が現れた。
放課後の校舎裏、人通りの少ない場所で、小学生の和輝に接触する。
魔鎧を装備して変装するつもりだったが、
あいにく忘れてしまったので、そのままで接する。

「俺は未来のお前だ」
「な……!?」
小学校に来てそんなことを言うなんて、どう考えても不審者だ。
「お前、帰りの会で注意するように言われた
『マスクドランサー』とかいう鎧女の仲間じゃないだろうな?」
「何の話だ?
まあ、信じられないのも無理はないが。
ルーという捨て犬を橋の下で、飼っているな?」
「!!」
小学生の和輝の顔色が変わる。
それは、本人しか知りえない秘密。
(まだ、この時期なら事故死してはいないはずだ)
悲しい未来を告げることはせずに。
かくして、和輝は、過去の自分の信用を得ることに成功する。
「桜井を守ってやってくれないか。
俺が一緒に行動したら不審者扱いだが、
子どものお前なら大丈夫だ」

★☆★

「どうしたの?」
やってきた静香に、小学生の和輝が言う。
「桜井、いろいろと不審者もいるし、
なるべく友達と帰るように言われただろ。
一緒に帰ろう。
この人は、俺の従兄だ。
心配だからついてきてくれるってさ」
「大丈夫なの?」
「任せろ。表の俺は“優等生君”だからな、
多少の無茶をしても何とかしてやるよ」
不安そうに言う静香に、小学生の和輝は、軽く自分の胸を叩いて請け負った。

★☆★

こうして一緒に下校する、小学生の静香と和輝だが。

そんな中、
久世 沙幸(くぜ・さゆき)と、
秋月 葵(あきづき・あおい)が、静香を発見して接近してくる。
「きっと、みんな、過去の静香校長に悪さをするに決まってるんだもん!
なので、私が常に一緒にいて守るんだから!」
「静香校長を守るのは、
同じロイヤルガードで百合園生のあたしの仕事だよ!
あたしが常に一緒にいて守ってあげる!」
「まじかるくのいちの私こそ、護衛にはふさわしいんだもん!」
「あたしだって、魔法少女だよ!」
「静香校長! おいしいスイーツを食べさせてあげるから、
私と一緒に行こう!」
「あたしのスイーツの方がおいしいよ! 一緒に行こう!」
「え!? え!? お姉さんたち誰ですか!?」
「可愛いお洋服もたくさんあるから着替えさせてあげるんだもん!」
「あたしも、お洋服いっぱい持ってるよ!」
「走るぞ、桜井!」
「あ、うん……!」
和輝が混乱している静香の手を引っ張り、一気に駆け出す。

だが。

女装した紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が現れた。
「バイフーガ、変化の術で、綺麗なお姉さんに変身ですよ!」
ヒーロー・バイフーガこと、唯斗が言う。
しかし。
「唯斗兄さん、女物の服着て、お化粧しただけだと思うんですが……」
「女性への変身や変装の能力や技術があるわけじゃないですしね。アイテムもないですし」
「いくらニンジャだからって、できることとできぬことがあるだろう」
パートナーの紫月 睡蓮(しづき・すいれん)
プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)
エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が、
「うわあ……」という顔で引いている。
「え、なんだか私への扱い、ひどくないですかー!?」
唯斗が、女言葉のままで叫ぶ。

「そこまでだ、不審者め!」
過去の新百合ヶ丘を散策中だった
神条 和麻(しんじょう・かずま)が、犬のアマテラスに威嚇させる。
百合園女学院に荷物を届けに来たら、
タイムトラベルに巻き込まれてしまった和麻だったが、
たまたま事件に遭遇してしまったのだ。

「ワンワンワンッ!」

「こ、怖いよ……!」
女装した謎の男が現れたり、犬が吠えたりで、静香は涙目になる。
「な……アマテラスは怖くないぞ!」
慌てる和麻だが。

「静香さんが怯えている!
お姫様抱っこして連れて行きましょう。えーい!」
「あっ、待て!」
「桜井!」
「きゃああああああああ!?」
唯斗が、静香を抱き上げて走り出したため、
和麻と小学生の和輝が呼び止め、
未来の和輝も飛び出す。

そんな中。
「見つけましたよ、静香校長!」
部下の十嬢侍を引き連れた、アルバ・フレスカが、現れたのだった。
「清い身体である今のうちに、男の娘の大切なものをいただきます!」
アルバ・フレスカが、巨大なハサミを振りかざす。
アルバ・フレスカの武器は、昔のシャンバラで、
宦官になるときに使われた、カンガンガニのハサミが先端に取り付けられた武器なのだ。

「なんで見つかっちゃったの!?」
「あたしたちが安全な場所に連れて行こうとがんばってたのに!」
沙幸と葵に、アルバ・フレスカがツッコミを入れる。
「こんなに大勢で騒いでいれば、見つからないわけないでしょう!
それに、あなた方、全員、どう見ても不審者ですよ!」
「大きなハサミを振り回してる子に言われたくいないんだよ!」
「ラズィーヤ氏が誰と契約しようと構わぬのじゃが、
それによって百合園女学院が無くなるのは嫌じゃ。
全力で校長を守ってくれよう!」
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)
ミア・マハ(みあ・まは)が飛び出して、
アルバ・フレスカや十嬢侍を攻撃する。
「なるべく怪我はさせたくないけど、悪い子はぶっ飛ばすんだよ!」
「一般人を巻き込んだりするでないぞ!」
レキが則天去私を、ミアが炎の聖霊を放ち、
十嬢侍はぶっ飛ばされる。
「くっ!」
アルバ・フレスカが、距離を取る。

「なんだかわからないが、
一番悪いのはこいつらのようだな!」
和麻も、奈落の鉄鎖で、アルバ・フレスカを攻撃する。

「ボクの邪魔をしないでください!」
アルバ・フレスカが叫ぶ。

「じゃあ、今のうちに逃げましょうか」
「いやあああああああ!?」
唯斗に抱かれたままの静香が悲鳴を上げた時。

「……ーッ!」
「ん?」
地響きのような音とともに、誰かの声が響いた。
「さくらいこうちょうーッ!!」
不審者の鎧女、もとい、
マスクドランサーこと、
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)であった。
「桜井校長お守りします!
愛と正義の仮面美人騎士、マスクドランサー参上!」
「ロザ……」
「マスクドランサーです!」
レキの言葉を、ロザリンドがさえぎった。
「ハイパーランサ……ではなく、マスクドランサーアタック!」

「きゃああああああああああああああ!?」
「って、悲鳴まで裏声なんですか!?」
「無理があります!」
「なんで妾たちまでー!?」

「俺は静香校長を守ろうと!?」
「キャイーン!」

「どうしてこうなった!?」

「なんだかお約束の結果になったんだもん!」

「ぶっ飛ばされてもおいしいから気にしないよ!」

唯斗と、睡蓮と、プラチナムと、エクスと、
和麻とアマテラスと、
現在の和輝と、
沙幸と、
葵は、お星様になった。

「敵が一気にいなくなりました! これはチャンス!」
アルバ・フレスカが、身構えると。

「待て!」
電柱の上から声が響いた。
「愛とは、信じる事ではなく、疑わない事――シャンバラ愛の伝道師、姫宮 和希(ひめみや・かずき)参上!」
「あなたは……!」
パラ実生徒会長として、東シャンバラ・ロイヤルガードとしての名声により、
当然、アルバ・フレスカも和希のことは知っている。
「想い人へのお前たちの気持ちは立派だ。
静香のことを考えるあまりに、自分が望むことをしようとしたくなるのもわかる。
だけど、自分勝手な一方的な思いで、
自分の大切な人を苦しめたり、悲しませるような事をしちゃいけないぜ。
その人が好きで一緒に居たいと思ってる人と無理矢理引き裂くような真似や、
気持ちの押し付けをするより、
相手の幸せを考えれば一歩引いて見守るという事も愛の一つの形じゃないか?」
とうとうと演説する和希だが、アルバ・フレスカは、
下から丸見えのスカートの中を一瞥する。
「胸が平らなのでもしやと思いましたが、男の娘じゃないんですね。
ボクは、女の漢など興味ありません!」
「って、おい! 話聞かずにスカートの中見た挙句、俺をディスるのか!?」
説得は不可能だと知り、飛び降りてファイティングポーズを取る和希だが。

「俺は女は殴らない主義だが、男の娘!?
心は女なのか!? どうすればいいんだ!?」
和希はアルバ・フレスカを見て混乱する。
「とにかく、こうなったら逃げるぜ、静香!」
「え……!?」
小学生の静香を抱えて逃げようと近づく和希だが、
その静香にアルバ・フレスカのハサミが迫る。
「危ない!」
レキが、静香をかばって突き飛ばす。
「きゃあああっ!?」
「うわあ!?」
その結果、静香は、尻餅をついた和希のスカートの中にスライディングしてしまった。
「あ、あれ……?」
「ラッキースケベじゃのう、静香校長」
呆然とするレキに、ミアがふむ、と顎に手を添える。
「きゃああっ、ごごご、ごめんなさいっ!」
静香は慌てて飛びすさる。
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?
桜井校長になんてことするんですか!」
「ちょ!? 落ち着けよロザリンド!
別に見られても減りゃしないが、
俺はどっちかっつーと被害者だろうが!
龍殺しの槍は!
龍殺しの槍はやめろ!」
「わー、やめてー!
イコンやドラゴンも貫くロザリンドさんの槍で刺されたらボク死んじゃうよ!」
「わらわは何もしていないじゃろう!」
「私はマスクドランサーだって言ってるじゃないですか!
かよわい乙女の怒りを受けてください!
ハイパー……じゃなかった、マスクドランサー!」
和希やレキ、ミアとロザリンドが大騒ぎしているうちに。

「く、ここは危険です。また機会が訪れた時に!」
アルバ・フレスカは逃げ出し。
「今日はどうしてこんなことばっかり起きるのー!?」
小学生静香も、泣きながら逃げていくのであった。