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【おとこのこうちょう!】しずかのじゅせいらん! 前編

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【おとこのこうちょう!】しずかのじゅせいらん! 前編

リアクション

 第3章 新百合ヶ丘の財政を立て直せ

■□■1■□■ パラミタ経済学

瓜生 コウ(うりゅう・こう)が、懐かしい自分の生家を訪れると、
新百合ヶ丘財政悪化の影響で、
使用人には暇を出し、蔦が絡まり荒廃しきった状態になっていた。
とりあえず、出張中の両親が留守番に残した使用人として
過去の自分と接することにしたコウだが……。
「需要サイドから新百合ヶ丘の経済状況の改善を掲げるべきよ!」
当時、マクロ経済学にハマっていたコウの姿があった。
「このリアクションにおける経済用語はフィクションであり、
実際の経済学とは一切関係ありません」
「生存戦略、しましょうか――桜井家の債務のデフォルトによるバランスシートの悪化を織り込んで新百合ヶ丘の企業や家庭は消費や投資を控えている……でも経済が停滞すれば桜井家が保証人になっている事業も業績悪化し、さらにデフォルト懸念は大きくなる。合成の誤謬よ、何とかするには……」
「ようするに、適度にお金をばらまけばみんな使うんじゃねえの?」
「経済状態が上を向くという『期待』をもたらさないと、
結局、貯蓄に回されてしまうわ。
だから、無駄なこーきょーじぎょーには反対なの、
契約者の方々が集めたマネーを無駄に投入するのも同じよ」
「金が定期的に空から降ればいいんじゃね?
新百合ヶ丘に発生する特殊な気象ということにして」
現在コウは、
地上から見えない高度からお金を投下する「高々度ヘリコプターマネー」プランを提案した。
「もし降ってくるお金を拾えなかったとしても次があること、
外部からも人がやってきてお金を使うこと、
新百合ヶ丘のインフレ率が定期的に向上することから、
需要サイドはマネーを使うインセンティブが発生し、
他者がマネーを使うことが期待される……んじゃないかな?」
「破天荒だけど、なかなかのアイディアね!
さっそく実行しましょう!」
こうして、2人のコウが話を進めるころ。

★☆★

一方、
緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、
ツァンダの町の精 つぁんだ(つぁんだのまちのせい・つぁんだ)を過去の世界に連れてきて、
悪徳業者に対抗しようとしていた。
(悪徳商人のつぁんだなら、悪徳業者のやり口もわかるだろう)
「なんで僕がそんなことしてあげないといけないんだよ」
「ここで静香に恩を売っておくのもいいんじゃないかな?」
「……まあ、たしかに。イコール、ラズィーヤに恩を売るってことだし」
「……それに、合コンでの売り上げを巻上げた
アルバ・フレスカや佐藤花子たちも過去へ向かったようだぞ。
彼女(?)たちを出し抜いて、リベンジしてやるチャンスじゃないか!」
「なにっ!
あいつら、僕をカツアゲするだけには飽き足らず、
また悪いことしようとしてるのか!
ふふふ、金貸しを敵に回すとどういうことになるか、
思い知らせてやる!」
「あ、なんだか悪のスイッチを押してしまったような……」
「『大親友』のケイの頼みを僕が断るはずないだろ!
さあ行こう、過去の世界へ!」

★☆★

「というわけで、宝くじを売って大儲けするんだ!」
「って、またそれなのかよ!
それはダメだ!
善良な一般市民が被害にあってしまう!
ギャンブルはヤバい!
ちゃんと正攻法で勝負しないとダメだ!」
「えー、正攻法じゃないか。
ケイがハマるくらいだ……し……?」
「……余計なことしたら、このまま過去に置き去りにするからな」
暗黒覚醒しかけているケイがつぁんだを見下ろして言う。
「ふふ……置き去りにされるのは辛いぞ……。
ポータラカ修学旅行の時も、
その後、ポータラカに一人、飛ばされた時も……」
「わ、悪かったよ!」

しかし、そうしていると。

ザンスカールの森の精 ざんすか(ざんすかーるのもりのせい・ざんすか)が、
道の真ん中で叫んでいた。
「ミーを崇めるがよいざんす!」
ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、
駅前で予言者ハーレックを名乗っていたのだ。
「シャンバラの地祇(ちぎ)神ざんすかの予言です。
これから先行われる、
公営ギャンブルの結果やニュースが、すべてわかります!」
ガートルードは、
過去6年分のデータを収集し、
ギャンブル好きなオジサンや
芸能ゴシップ好きのオバサン向けの情報を提供していたのだった。
「ハーレック様!
ざんすか様の予言通り、馬券が当たりましたよ!」
「今日ワイドショーで流れた芸能人情報も、
全部、ハーレック様の言うとおりだったわ!」
「ハーレック様ばんざーい!」
「地祇神ざんすか様ばんざーい!」
「シャンバラに6柱の地祇神あり。
地祇神の中の主神、全能地祇神ざんすか。
ざんすかの予言の書です。
さあ、シャンバラの聖地ザンスカールの森にいっしょに行きましょう」
ハーレックとざんすかの周りを、中年の信者が取り囲んでいた。

さらには。

カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)
ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)も、
図書館で宝くじの結果や競馬の結果を集めて、
大儲けしていた。
「せっかく20歳になったんだし、
ギャンブルも合法だよね!」
「ふむ、効率よく所持金を増やさなければな」

そうやって、カレンやジュレールの稼いだお金を、
コウが空からヘリコプターで撒いている。

「見よ! 地祇神ざんすかの奇跡です!」
ガートルードの言葉に、どよめきがあがる。

「よし、この状況なら、
ざんすかを利用して、
宝くじがたくさん売れるに違いない!」
「あっ、おい! 本当にいいのか!?」
ケイが止めるが、つぁんだも商売を開始する。


日比谷 皐月(ひびや・さつき)が、
ハリセンを手に、一行に躍り掛かる。
「お前ら時間を越えてまでふざけた事やってんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「新百合ヶ丘を無法地帯にするつもりか!」
「はい、無法者ですから」
ガートルードは平然として言う。
「お前らはロイヤルガードだろうが! 何やっとんじゃ!」
「いや俺は悪徳業者を倒すために……」
「ボクは皆を助けて歴史に残る出来事を達成しようと!
ざんすかもせっかくいいことしようとしてるし!」
ケイとカレンに、皐月はさらに突っ込む。
「むしろ悪徳業者になってるじゃねーか!
しかも、歴史に残る事をやったら歴史改変になるわ!」
「つべこべ言わずに、ユーも地祇神ざんすか様を崇めるざんす!」
「なんでやねん!」
ざんすかにも突っ込む皐月だが。
「……」
「な、なんだよ」
「……」
「何か言えよー!」
つぁんだだけは、今回も何も言ってもらえないのだった。

★☆★

そこに進み出る、
桜月 舞香(さくらづき・まいか)と、
桜月 綾乃(さくらづき・あやの)の姿があった。
「2015年の新百合ヶ丘といえば、
あざみ野〜新百合ヶ丘間延伸と、
武蔵小杉〜新百合ヶ丘間の着工で、
鉄道新線開通に伴う沿線再開発に沸いているころのはずです。
当然、周辺の地価は利便性の向上を見込んで急上昇です。
この再開発ブームにうまく乗ることができれば、
大きな利益を手にすることも不可能ではありません」
鉄道好きの綾乃が、解説する。
「要は今、
新百合ヶ丘周辺の土地は地価が急上昇しているから、
不動産投資で収益を上げて桜井家の借金を返しちゃおうってわけ」
舞香が言う。
「そうか!
じゃあ、ボクたちが、新百合ヶ丘の沿線開発を行えば、
伝説の人物として、
神奈川県で語り継がれることになるかも!」
「だから、伝説になってどうする!?」
カレンに、皐月が突っ込む。

「とにかく、現在の新百合ヶ丘はこのままで行けばきちんと発展します!」
綾乃が言う。
「この投資で、桜井家の借金をきちんと返済すれば、
地域の経済が正常化するのよ!」
舞香も言う。

こうして、
一時的に皆がお金を手にしたため、
舞香と綾乃が提案したとおりに
きちんと投資でき、景気回復に役立ったのだった。

「ほーら、ボクたちいいことしてるでしょ?」
「って、いいのかよこれで!?」
なぜかドヤ顔するカレンに、納得いかない皐月であった。