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リアクション
●epilogue 3
机の上に、どさっと荷物を置く。
そしてベッドに、服のまま身を横たえた。
疲れた。とにかく疲れた。
疲労感がもう第二の肌のように、全身を包み込んでいる感じがする。あるいは、疲労感という名の服を着ているような。
クローラ・テレスコピウムの帰宅が許されたのはあれから数日後のことだ。
図書室の敵を掃討し、校長を救い出したとはいえ、国軍たる教導団に残された仕事はまだ山のようにあった。
リュシュトマ少佐の補佐官として、彼の上には大量の責任と作業が舞い込んできた。火事の後始末に始まり、失われた書物の調査や報告書作り、クランジの足跡を追う作業……図書室そばに野営して、連日業務をこなした。作戦当日より、むしろ終了後のほうが忙しかったような気がする。
だがそのこと自体はそう嫌ではなかった。仕事に没頭している間は、彼女のことを忘れていられた。
――ユマ・ユウヅキ。
宿舎に帰投した途端に、もう彼は補佐官からただの男性に戻っている。
幾何学的な天井の模様を眺めながら、彼女のことを考えている。
(「あれから……」)
あれから、自分は少しは強くなっただろうか。ユマと最後に言葉を交わしたハロウィンの夜から。
「どうか、ご自身の胸の内を誤解なさらないで下さい……あなたのように将来のある方が、私のような者に惑わされてはいけません」
ハロウィンの夜のユマの言葉だ。
その意味は、自分なりに考えた。
正直この手の事に器用じゃないし、どれほど伝えられるかは分からないが、
(「……明日にでも、ユマとゆっくり話したい。立場を離れた一人のクローラとして」)
明日は休暇だ。何か、理由を見つけて教導団に顔を出し、ユマの部屋を訪れてみよう。
このとき、クローラは部屋の隅に荷物があるのに気づいた。
眠い目をこすって身を起こし、調べる。
先日のユマの誕生日、それにあわせて送ったプレゼントの包みだった。
バースデーカードに花束、白いカシミヤのマフラー――すべて、クローラが送ったものは送り返されてきたのだ。
「…………」
ゼラニウムの赤い花が、なんともいえず悲しかった。
ところが、クローラの眉は晴れた。
気づいたのだ。バースデーカードの封筒が変わっている。これは、自分が送ったものではない。
開いてみるとそれは、感謝状だった。
簡単ながら感謝の言葉が綴られていた。これまでのことを感謝するものでもあった。少なくとも拒絶はそこにない。
ただ、後半の内容が気になった。
これからユマは、ある秘密の作戦に従事することになったという。まだ詳細は言えないが、自分の今後にも関わる重大な作戦なのだと。同時に、教導団のあの部屋も引き払うことになった。しばらくは戻れないと記してあった。
最後はこう、締めくくられていた。
『もし戻ることができたら、改めて受け取りに参ります。それまでは申し訳ありませんが、お預かりいただけないでしょうか』
それは確かに、ユマ直筆の流麗な文字だった。
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part2: Heaven and Hell
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Last
担当マスターより
▼担当マスター
桂木京介
▼マスターコメント
マスターの桂木京介です。
ご参加いただきありがとうございました。
今回は、お寄せいただいたアクションの質が非常に高く、いずれを採用しいずれを外すか、その選択に大変大変悩みました。構成という意味では、私のマスター経験でも最上級の難易度だったと思います。苦しみました。
しかしそれは、皆様のアクションが優れていたということであり、これほど良質のアクションをいただけたことは、マスターとしてこの上ない喜びでもあります。
自分でも予期していた方向に進んだ部分もないわけではありませんが、ストーリーの大筋は、シナリオガイドの時点では想像だにしていなかった展開となってしまっています。
また、クランジの性格は皆様のアクションのおかげで随分変化しました。
けれど、それがRPGというゲームの楽しさであり、マスターのやりがいだと思っておりますので、これからもじゃんじゃん、話の道筋を変化させたりNPCの性格を変えてしまうようなアクションをお願いします。
この物語は次回後編で完結となりますが、自分でもどう終わるのか予想がつかないので、不安もある反面とても楽しみです。
しかし今回、極限まで構成を触って文章を練っていましたので(それでこの程度か! というツッコミはご容赦を……)、この部分を打つ現在、手がガタガタ震えるくらいくたびれました。
なので次のシナリオは『Tears of Fate後編』ではなく、箸休め的な別シナリオにしたいのですがよろしいでしょうか? (※あるいは、後編シナリオを出さずしばらく休むかもしれません)。
このまま突っ込んでいくとパワー不足になってしまいそうなので……。
それでは、次はどうなるかまだ決めていませんが、いずれ新たな物語でお目にかかりましょう。
ご感想をお待ち申し上げております。
桂木京介でした。
―履歴―
2011年12月11日:初稿
2012年3月22日:改定第二稿