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燃えよマナミン!(第1回/全3回)

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燃えよマナミン!(第1回/全3回)

リアクション


【6】お前らに食わせるもんはねぇ!……2


「空京中華街の平和を乱すのを辞め、即刻この街から立ち去れっ!!」
 老師の言葉が戦いの始まりを告げる鐘となった。
 先ほどまでの楽しげな空気はどこかに吹き飛び、テーブルやら料理やらをひっくり返しての乱戦となった。
 行きがかり上付き合う羽目となった愛美は悲鳴を上げながら、倒れたテーブルの後ろを点々と隠れて回っている。
「キャーキャー!」
「我ら栄光ある万勇拳拳士がこそこそ逃げ回るのはどうかと思うぞ……」
 老師はこほんと咳払い。
「だ、だってぇ」
「まだ数日とは言え、おぬしも修行を積んだのじゃ、もう少し自信を持たぬか」
 老師は閃光のような突きと蹴りで黒楼館拳士を次々と床に沈めていく。
「わ、わかったわ!」
 テーブルから這い出した愛美はグッとファイティングポーズ。
 迫り来る黒楼館拳士に向かって、えいっと拳を突き出す。しかし目を瞑って出した攻撃はするっと避けられた。
「どこを狙ってやがる!」
うわああっ、やっぱり怖いよぉ!
「やれやれ……」
 老師が助けにいこうとしたその時、ジャーンジャーンと激しい銅鑼の音が鳴り響いた。
 倒れる黒楼館拳士を踏み越え、銅鑼に愛された男久多 隆光(くた・たかみつ)が華麗に推参す。
「た、助けてくれてありがとう」
「なに、俺はただの銅鑼叩き代行業者。ところでこの辺で銅鑼を見なかったか?」
「ど、銅鑼……?」
たしかにジャーンジャーンと二回銅鑼の音が聞こえたんだ。銅鑼の音に誘われ、シナリオ……もとい中華街にやってきたんだがどこにも俺の心を奮わせる銅鑼なんてありゃしねぇ。となるとやはり……」
 黒楼館拳士を睨み付ける。
「お前らが銅鑼を隠し持ってるに違いない。悪そうだし」
「んな無茶苦茶な!」
「銅鑼出せや!!」
 相棒の魔導書木黄山 三国志(ぼっこうざん・さんごくし)をグッと天に掲げる。
 古本屋で手に入れたと言う魔導書、しかも何故だか全巻がくっ付いてしまっておりその重量は凄まじい。
 火サスレベルの事件なら巻き起こせるほどの鈍器っぷりである。
「今の私に隙などない。恐れるものもない。さぁこい敵よ」
ドラアアアアア!!!
 三国志を撥代わりに敵の脳天を打ち砕く。
「こ、こいつ……!」
 繰り出される突きは銅鑼でジャーンといなし、三国志で次々に迫る敵を無双していった。
「な、なんなんだあいつは……」
「だから通りすがりの銅鑼叩きだろ」
 万勇拳の一番弟子八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)は敵の胸ぐらを掴むと契約書を突きつけた。
「今、万勇拳の入門者募集してるんだけど、どう?」
「ええっ? このタイミングで?」
「今、万勇拳に入ると四つのメリットがあるわ」

 1.ちょっと強くなれる
 2.ダイエットに効果がある
 3.かわいい女の子と仲良くなれる

「最後のメリットは『今、死ななくてすむ』だよ。嬉しいか?」
「ひいいいいっ」
 銃を股間に突き付ける優子。
「まだ首を縦に振るところを見てないけど……どうしても嫌と言うならしょうがない。万勇拳奥義『拳銃で股間を撃つ』をやらざるを得ないね。なんと金玉が鉛玉に変わってしまい男が女になるという恐るべき技なんだよ」
「わ、わかった! わかりました! 万勇拳に入りますから!」
「いい返事だ」
 優子は不敵に笑い、ほかの黒楼館拳士を見る。
「ひえええええ!!」
「空京中華街は万勇拳のシマになるんだ。大人しく月々の会費さえ払えば、万勇拳は仲良しこよしの素敵な武門だよ」
 その時、ジャーンと銅鑼が鳴った。
 奥に突っ込んでいった隆光が吹っ飛ばされてこちらに転がってきた。
 その先に異様な闘気を纏う三道 六黒(みどう・むくろ)両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)の姿があった。
 老師は目を細める。
「たまたま食事に来て巻き込まれた一般人……と言うわけではなさそうじゃな?」
「お初にお目にかかります、老師。我ら悪人商会。黒楼館さんとは業務提携をさせて頂いております」
「ふん、空京のチンピラと言うわけか」
「これは手厳しいご意見」
 六黒は万勇拳の面々を見回す。
「ぬしらのような毛も生えそろわぬひよっこ。わざわざわしが相手するまでもなかろう」
 ナラカの仮面を付けると奈落人虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)が身体の所有権を奪った。
 猛獣のように唸る波旬は今にも食らいつきそうな目を向ける。
「……コンロンの武術一派か。おもしろい。たまにはわし自身、身体を動かさねばな。技が衰えては詰まらぬ」
「……やってくれるじゃないか」
「!?」
 隆光はむくりと起き上がった。再び三国志を手に襲いかかる。
 振り下ろされる一撃を、波旬はインドのカラリパヤットを思わせる体捌きで、完全に見切って回避する。
「それではウォーミングアップにもならぬぞ、小僧」
「な、なにぃ!?」
 波旬はすっと人差し指を立てるや、ドスッと隆光の首元に突き刺した。
 あまりにもあっけなく刺さったその一撃は経絡を貫き、隆光の意識を一瞬で暗闇の底に突き落としてしまった。
「あっけない。所詮はたかが人間か」
「余所見してんじゃねぇ」
「?」
 波旬の鼻先を銃弾がかすめる。
 見上げた先には、拳法のけの字もどこかに置き忘れた優子が銃弾をガンガンに乱射しているのが見えた。
「なんだこれ、全然当たらないんだけど? この銃、不良品?」
「拳士が銃に頼るとは恥を知れ」
 波旬は猛烈な闘気を纏い、優子に飛びかかる……とその前に老師が立ちはだかった。
 奥義・鋼勇功。老師の身体が鋼鉄よりも強固なオーラに包み込まれる。強固な守りは同時に攻撃にも転じる。
「むっ!?」
 波旬の放つ突きはまるで分厚い鉄板を殴ったような感触に阻まれた。
「わしの練気は大砲の弾すら通さん。名も知れぬ拳士よ、その身に我が万勇の名を刻み込むがいい……!」
 老師の短い足が目にも止まらぬ速度で閃く。万勇拳奥義のひとつ、無影脚である。
「はあああああああああっ!!」
「むううううううっ!!!」
 神速の蹴りは防御の暇も与えず、波旬の巨体を軽々と壁に叩き付けた。
 しかし、崩れた壁の残骸を身に負いながらも、波旬は再び立ち上がり、ゆらりと身体を揺らして老師に向かう。
「この威力、老人の使う技ではないな。おもしろい、久々に歯ごたえのある敵と出会えた」
「頑丈な奴じゃ……」
 その時だった。突然実体化した想念鋼糸が対峙する二人の間を引き裂いた。
「むっ?」
「!?」
「店内ではお静かにお願いします、お客様」
 ひっくり返ったテーブルの山の上に、アルバイトの八神 誠一(やがみ・せいいち)が颯爽とあらわれた。
 ジロリと老師たち万勇拳一派を睨み付ける。
「困りますねぇ、お客様。我々が席の案内をする前に勝手に店内に入ってしまうのは規則違反でございます」
「な、なに??」
「当店は食事を楽しむ場所です、お客様。当店の規則に従えない方はご退店頂いております。力尽くで」
 それに呼応して黒楼館側からも「そーだそーだ」の合唱が起こった。
 ところが次の瞬間、黒楼館拳士が悲鳴を上げて宙を舞った。
「うるせぇ、腐れお客様! 店内では他のお客様の迷惑になるから静かにしろってのがわからねーのか、あぁ!?
 同じくアルバイトのシャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)だ。
「簡単に喧嘩買って暴れてんじゃねぇぞ。店を滅茶苦茶にしやがってどうしてくれんだ、お客様よぉ!?」
 ボコボコにした拳士にドスドス蹴りを入れている。
「す、すみません。あとで払うんでツケで……」
「ツケ? 認めるわけねーだろ! 食い逃げなら、ゆるヶ淵からロープ無しバンジーしてもらうぜ、お客様よぉぉ!
「ひええええ!!」
 飲食店とは思えないほどの丁寧な対応で、店の備品を破壊したお客様を次々にフルボッコにしている。
「これ以上暴れるのであれば表でお願いします」
「黙れ、お前の出る幕ではないっ!」
 ゴゴゴゴゴゴと大気を揺らしながら、波旬はずんずん前に出て行った。
 対する老師もゴゴゴゴゴゴと大気を揺らしながら、波旬と鼻先がくっ付く距離までズカズカ前に出て行った。
「同感じゃ。ここまで来て引き下がれるか」
「お客さま、いい加減に……ブッ!!」
 二人の鉄拳が誠一を天井に打ち上げた。
 ほかの門下生ならいざ知らず、この超絶武闘派の二人を止めるのは、軍隊でも連れてこないと難しそうである。