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燃えよマナミン!(第1回/全3回)

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燃えよマナミン!(第1回/全3回)

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【3】続・入門万勇拳!……3


「うし、早速はじめるかな……」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は軽く準備運動したあと瞑想に入った。
 気をコントロール出来るようになるためには基本が肝心、じっくり気との付き合い方を覚えなければ。
 まず、身体を流れる気を感じとり少しづつ気を練ってみるところから始めた。
 武闘家だけあって、コツを掴むまではかなり早い。
 ある程度覚えると、今度はそれをゆっくり体外に放出させる練習に移った。
 蛇口をゆっくり緩めるように、身体の気門を解放してやると熱が身体から抜けていくのがわかった。
 そこまで覚えると今度は気を体表にとどめる練習だ。
「…………!」
 既に身体から出てしまったものを止めるのは思いのほか力を使う。
 蛇口を開けながら、それを逃さないように更に身体の外側に壁を作るイメージだろうか。
 10分ほど続けるだけでもう汗だくである。
 しかし、気を纏い身体能力を飛躍的に上昇させる奥義『鋼勇功』の習得にはかかせない修行なのだ。
「負けてはいられないのだ……!」
 着実に成果を上げるラルクに触発され、木之本 瑠璃(きのもと・るり)も修行に闘志を燃やす。
「武芸の聖地、天宝陵発祥の流派に弟子入りした以上、正義を貫く我が拳を更に鍛えあげてみせるのだ!」
 しかし、拳を鍛えるなら簡単なのだが気のコントロールとなると修行の仕方にも困る。
「うーむ、やはり隣りの人のように瞑想するべきなのだろうか……」
 ラルクを横目にそんなことを言う。
「いや、何事も自分で考え実行することが大事なのだ」
 瑠璃はそう思い立ち、身体の正面で手を合わせた。
 左右にゆっくりと身体を揺らしながら、ぐにゃぐにゃとの身をほぐしていく。
「……なんの修行なんだ、それ」
 横で剣の素振りをしていた相田 なぶら(あいだ・なぶら)は首を傾げた。
「ヨーガに決まってるのだ」
「ヨーガ……俺はまたタコ踊りかなんかかと
「失礼な。こうやって気を高めているのだよ。ふおおおおおっ、ほら、なんとなく気が高まってきた気がするのだ」
「なんとなく、ね……」
 本当かよ、と言う疑いの目で見ている。
「で、それはどんな技の修行なんだ?」
「これは『錬気鋼体』と言う奥義なのだ。気を身に纏うことで能力を飛躍的に上昇させる奥義なのだよ」
 なんかこの文面をどこかで見た気がするが……きっとデジャヴである。
「気を飛ばす奥義よりずっと我輩にしっくり来るのだ。やはり戦いは直接拳で殴り合ってこそなのだ」
「うーん、見れば見るほど不可解な動きだ……」
 そして、その隣りでは風祭 隼人(かざまつり・はやと)が修行に燃えていた。
「はああああああああっ!」
 身体を覆うのは真っ赤に実体化した闘気。それが燃え盛る炎のようにも見える。
 これこそ万勇拳奥義『倍勇拳』
 一時的に戦闘力を何倍にも上昇させる技だが、倍率を上げ過ぎると反動も比例して増えると言う諸刃の技なのだ。
「男だったらやっぱ好きな女性を守るのに役立ち、且つカッコイイ技のマスターに賭けないとな!」
 身体を包む炎の量が一気に増える。
「うおおおおおおっ!! 今度は四倍だあああああ!!」
「……それにしてもなんか似た技だな」
 七枷 陣(ななかせ・じん)に憑依中の七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)は三つの技をそう評した。
 刹貴座禅を組んで意識を宿主の身体に巡らせている。
 イメージは五行相克。木は土に、土は水に、水は火に、火は金に克ち。その終末たる金は木に克つ。
 これこそ世界の理、そしてそれは自らを流れる気にも通ず。
 水が高きから低きへ流れるように、気がどう流れるのか、その性質を見極めることが奥義には必要不可欠であった。
「気の動きは大体わかった。あとは実践だな」
『手合わせすんのは別にええけど、俺の身体なんやからあんま無茶すんなよ?』
 頭の中で陣の声がする。
「……ま、遠慮してたら覚えられる技も覚えられないよな」
『おいいいっ!』
「技の性質上、闘気が漲ってる奴がいいんだが……おっ、あのラルクって奴なんかちょうどいいじゃないか」
なんでよりによって目の前の三人で一番やばそうな人!? バカなの? 死ぬの?
 陣の悲鳴は華麗にスルーし、刹貴はラルクに手合わせを申し出る。
「手合わせか。ちょうど俺も技を試してみたいところだ。よろしく頼む」
『ひいいいっ! ラルクさん、やる気満々やんか……!』
 ラルクは大地を踏みしめるように構えた。その途端、目に見えるほどのオーラがその身体を包み込んだ。
「奥義・鋼勇功……その威力、俺に見せてみろ」
 刹貴との間合いを詰めるや正拳連続からの胴回し蹴りを放つ。
「流石に速いね……」
 間合いをとろうとするも、ラルクの動きは巨躯に反して稲妻の如く素早い。
 とは言え一撃一撃の威力は目に見えて脅威、まともに防御すればガードごと持っていかれる。
 ならば選択はひとつ、致命打にならないよう受ける。拳打の威力は身を捻ることで軽減させるしかない。
危なっ! 死ぬっ!? ちゃんと避けて反撃しろボケ! オレの身体やぞ!
「五月蝿い、宿主様だ」
 刹貴は短刀を構えるやラルクに斬り掛かった。
 無論、峰打ちだが素早く斬り込む刹貴にラルクの足が止まった。
「速い……だが、その程度の攻撃じゃ鋼勇功のガードは崩せないぜ」
「ならば……!」
 跳躍とともに頭上をとると、その後頭部を真一文字に斬り付けた。
 小さく声を漏らし、ラルクはよろめいた。これを勝機と踏んで、刹貴は攻撃を畳み掛ける。
「奥義『鬼門封じ』!!」
 人体の要となる経穴を突くことで、気の流れを一時的に遮断させると言う奥義だ。
「こ、こいつは……」
 ラルクの身体を覆うオーラが消える。
「もらった……!」
 しかし、刹貴の攻撃が届くよりも先に、ラルクの反撃の拳がその胸に深々と突き刺さった。
 凄まじい威力に成す術なく地面を転がる。気を失ったとは言え、ラルクのポテンシャルは常人を遥かに凌ぐのだ。
「勝負あった……か?」
「のようだね……。今の一撃で、この身体は立てそうにない」
 ラルクは一礼し、また修行に戻った。
「……技は上手くいったが、相手の実力を低く見積もり過ぎたのが敗因だな」
『んなこたぁどーでもいいやろ! 問題は俺の身体や! あばらイッとるんやないか、これぇ!』
「あー五月蝿い」


「皆、真面目に修行に励んでおるな……」
 弟子たちの様子を見守り、老師は満足そうに頷いた。
 ベンチに座る老師の肩を甲斐甲斐しく揉むのは、隼人の父親でもある風祭 天斗(かざまつり・てんと)だった。
「……老師、そろそろ例のアレを出してくれませんかね?」
「アレ?」
「猫で拳法の達人……となれば持ってるんでしょ。ひとくち飲めば強くなれる超神的な水を……!
「そんな都合のいい水などない。地道に修行を……」
俺、カッコイイ技を覚えてモテたいだけなんで。スピード重視でお願いします」
 真っ赤なオーラを纏ってる息子さんの爪の垢を飲ませたいお父さんである。
「どうしたものか……」
「ここは俺に任せてもらおうか」
 アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)が名乗りを上げた。
「水じゃねぇが見せてやろう。中華四千年の歴史と、日本の伝統、創意工夫が磨き上げた超神がかった一品をな!」
 アキュートは腕まくりすると、バッと清潔なサロンを腰に巻いた。
 それから、ガスコンロに火をともし、中太麺をゆで始める。
 その間に、街で仕入れた中華クラゲ、生ザーサイ、金華ハム、ピータンを適当な大きさに切っていく。
「次はスープだ」
 豚骨醤油ベースに、芝麻醤でゴマの香りとコクを与える。
 薬味として、小葱と和がらしを添え、四川唐辛子と山椒をふんだんに使用した、特製ラー油を一たらし……。
「とここで麺もゆであがったな。よし、喉越しはツルツル、歯ごたえはプリプリ、完璧だ」
 皿の上に彩り鮮やかに盛りつけられたそれは……。
「ご賞味あれ。奥義『冷死厨火・始めました』改め『冷死厨火・極めました』だ!!」
「これは……」
 ゴクリと天斗は喉を鳴らす。そしてずるずると冷死厨火をすすった。
「くっはああああ!!」
 口の中に中国の王宮、無数の料理が並ぶ満願全席が見えた。
 庶民的な料理に過ぎない冷死厨火を、細部に手を抜かないアキュートのたしかな技は高い次元へと押し上げた。
「すげえ……けど、これが技ってどういうことだよ!」
「おいおい、そんだけ食べてわからねぇのか。ところどころ、俺の職人技がきいてるだろ
「技ってそういう技!?」
 完全に修行する場所を間違えている。
「と言うか、全然強くなった気がしないんすけど!」
「そう焦るな。この冷死厨火が消化され血肉となった時、おまえは今よりもたしかに強くなってるはずだぜ」
 人、それを栄養になったと言う。
「ちょっと老師、いい加減にくださいよー、超神的な水ー」
「だからんなもん持ってないっちゅーのに……」
「……それなら私持ってきたけど?」
 不意に、傍で夕ご飯の支度をするアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)が口を開いた。
 やはり武闘家の主食と言えば『豆』、地球のテレビアニメじゃ武闘家たちは怪我すると豆を食べて治療していた。
 そんな勘違いのもと、豆料理をひたすら作っている彼女。
 しかし勘違いは豆にとどまらず、武闘家と言えば超神的な水、とちゃんと作って持ってきていたのだった。
「地球のテレビアニメじゃ武闘家はそれを飲んで強くなったし、大事なものなんでしょ?」
「まったくあるなら早く出してくれ」
 天斗はペットボトルに入ったそれをゴクゴク飲み干した。
 するとすぐにその効果がやってきた。ぎゅるぎゅるぎゅるとお腹が嫌な感じに鳴り出したのだ。
「そうそう、超神的な水は強くなれる反面、猛毒だからな。この腹痛を乗り越えれば俺も……」
 次の瞬間、彼は口から泡を吹いて倒れた。
「……おぬし、何を入れたんじゃ?」
「超神的な水は毒だって聞いたから、家にあった洗剤とか農薬を混ぜたんだけど、ダメだったかな?」
「…………」
 それではただの天斗殺人事件である。
 ちょうど日が暮れる頃、到着した救急車に乗せられて天斗は運ばれていった。