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燃えよマナミン!(第1回/全3回)

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燃えよマナミン!(第1回/全3回)

リアクション


【3】続・入門万勇拳!……2


 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は静かに構えをとった。
 全身を走る気をコントロールしながら、奥義に必要な拳型を確かめ、一撃一撃を虚空に向かって放つ。
 これは万勇拳の技ではなくエヴァルトのオリジナルの技である。
 拳法の素養と万勇拳独特の気の操作術があれば、新たな技を構築出来るのではないか、とエヴァルトは考え至った。
「さて、そろそろ実践に移るか……」
「エヴァルトとやら、空気を殴るだけではもの足りんだろう。オレのサンドバッグでも使うか?」
 同じく門下生の魔装戦記 シャインヴェイダー(まそうせんき・しゃいんう゛ぇいだー)は言った。
「サンドバッグか、たしかにあると便利だな。ありがたく使わせてもらおう」
「じゃあ存分に使ってくれ」
 目の前に放り出されたものを見て、エヴァルトは我が目を疑った。
 何故なら、そこに転がるのはうしろ手に拘束された蔵部 食人(くらべ・はみと)だったのである。
「な、なんだこりゃ?」
「なにって……人間サンドバックだ。気にすることはない。存分に技の試し打ちに使ってくれ」
「無茶苦茶言うな!」
 ふがふがと起き上がり、食人は抗議する。
「安心しろ。ぶちのめされたらオレが治療してやるから」
「ぶちのめされてたまるか!」
「あの……」
「ああ、すまない。あいつの物言いは気になるところだが、こっちも修行だ。遠慮はせず技を打ち込んでみてくれ」
「流石に無抵抗の人間を殴るのはポリシーに反するんだが……」
「おいおい、相手を見くびるのは美徳じゃねぇぞ」
 今は完全にサンドバッグのただのドMの人のようだが、これは世を忍仮の姿と言う奴である。
 こう見えて、彼はシャインヴェイダーと言う名でビジランテ活動をしているヒーローのひとりなのだ。
 そして、ここ万勇拳は先代のシャインヴェイダーが修行した流派でもある。
 現役の彼としてはここで奥義をものにし、ヒーローとしての更なる高みを目指したいところだ。
「……失礼した。戦士に対する態度ではなかったな、謝ろう」
 食人の言葉に反省し、エヴァルトは構えをとった。黒く渦巻く破壊に特化した闘気を全身に集める。
「行かせてもらう! 奥義『鬼震黒掌』!!」
 左右から繰り出す貫手で、食人に攻撃を加える。
「ぐっ!」
「まだまだこんなものじゃないぜ!」
「!?」
 左手で上方に貫手、右手で食人の顎に掌底を放つ。最後は渾身の力で両手の掌底を叩き込む。
「まともに食らったら大怪我……こいつはなんとしでも凌ぐしかねぇ!!」
 崖っぷちのこの状況が、食人の潜在能力を開眼させる。
 食人はカッと目を見開き、鋭い蹴りを放った。
 その蹴りは攻撃を正確に叩くと同時に、威力を相殺してエヴァルトの構えを弾き飛ばす。
「なにっ!?」
「……万勇拳奥義『万砕』!!」
 相手の技に気を纏った攻撃を打ち込むことで相殺する、守に長けた奥義である。
「ふぅー、とっさに出したわりには上手くいったな。エヴァルトも……わっ!」
 エヴァルトはちょっとムッとした表情で鬼震黒掌を繰り出した。
「不意打ちはやめろよ、不意打ちは」
「ちょっとムカついて……」
 新技をあっさり防がれたのは腹立つがしかし、逆に考えれば食人は技の実験台としては申し分ない。
「ムカつくが、まぁいい。技が完成するまで付き合ってもらうぞ!」
「よーし、かかってこいっ!」


 一方こちらは樹月 刀真(きづき・とうま)
 全身に気を漲らせ拳を構える。ゆっくりと大地を踏みしめつつ、拳を前方に突き出す。
 この単純な動作を繰り返しながら、刀真は意識的に身体にかかる負荷、気や力が流れる方向に神経を尖らせる。
 より強力な攻撃を放つために必要なのは無駄なく力を伝達させることにある。
 体重移動の勢いと踏みしめた大地をから受ける反力。それを如何に拳撃や蹴撃、斬撃に転換していくか。
 また、それらの力を、腰や足、拳などの各所に捻りを加え、如何に威力を増幅させるか、と言うことである。
 ほかの門下生に比べれば地味な修行だが、ともすれば彼のしようとしていることを遥かに高レベルなことだった。
「ひとつひとつの動きを必殺に域にでも高めるつもりかな……?」
「老師……」
 刀真は居住まいを正す。
「必殺の刹那に全力を解放する奥義と違って、個々の基礎的な動きに気を漲らせるようなことはとても難しい」
「承知しています。けれども、個々の無駄を削ぎ落とし、研ぎすませたそれは強力な技となるはずです」
「完璧をもってよしとするか。ならば常に気を全身に張る練習を積まねばならん」
「はい」
「常に気を纏うのは随分と疲弊する。少しづつ維持する時間を延ばしていくがよかろう」
「頑張るのぅ、刀真」
「ん?」
 不意に声をかけられ、見た先にはチャイナドレスの玉藻 前(たまもの・まえ)の姿が。
 ただでさえ肉感的な彼女の肢体はラインの出る衣装に締め付けられ、はっきりと艶かしい曲線をあらわにしていた。
「いつにもまして際どいな、玉藻……」
「拳法と言えばチャイナだそうだからな。ほれ、頑張る刀真にサービスだ。どうだ、嬉しいか?」
「……念のために聞くけど下着付けてるよね?」
「下着? いつも言っているが我は下着を付けないよ、ホラ」
 腰のスリットを持ち上げてノーパンツをアピール、それから胸元を開けてノーブラジャーをアピールしてみせた。
「うわっ! わざわざ見せなくても……ゲフッ!!」
と〜〜〜〜う〜〜〜〜ま〜〜〜〜っ!!!
 蝶のように舞い、蜂のように飛び込んできたのは漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)
 出会い頭のボディブローで屈ませるや、下がった顎をカミソリのようなアッパーで吹き飛ばす。
 玉藻のノーパンアピールで完全に気が散っていた刀真は、まともにガードすることも叶わず空を舞ったのだった。
「……この機会に、私は刀真のスケベ心矯正用の技を磨くんだから覚悟しといてねっ」
 軽やかにステップを踏んで、月夜はシャドーボクシング。
「な、なにもそんなとこに気合い入れなくても……。てか今回、俺悪くないと思うんだけど……」
 ピクピク痙攣する刀真をスルーし、月夜は老師に尋ねる。
「老師、もっと効果的な技はありませんか?」
「ふむ、そうじゃな。双玉粉砕破と言う技があるんじゃが……」
お願いだから、余計な技おしえないで!


「あざとい! あざとすぎるわ!!」
 そして、こちらはザ・肉食女子の雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)
 扇情的なチャイナドレスに無論のことノーパンツ、思春期門下生たちの青い視線を独り占めにする彼女である。
 しかし、リナリエッタはどちらかと言えばマナミンのほうが気になる様子。
「ピンクのチャイナに、お団子髪、そして控えめながら主張する胸! なにが素敵な彼氏が欲しいなのよ〜〜!!」
「べ、別に彼氏作るために入門したわけじゃないしぃ……」
「ムキー! マッチョ男子の中で震えるバンビちゃんぶって『私の二つの肉まん見せてあげる』とかやる気でしょ!」
「やんないってばぁ……」
「万勇拳に華は一輪あれば充分よっ」
 リナリエッタはおもむろに公園の噴水に飛び込んだ。
「ちょ、何してるの??」
「何って……決まってるでしょ。修行と言えば、滝に打たれる奴。滝がないから代わりに噴水に打たれるんじゃないの」
 噴水を浴びてしっとり濡れたチャイナドレスでくねくねする。
「ああん、びしょびしょになっちゃったぁ」
 リナリエッタは男子門下生の肉体美を堪能しつつ、これでもかと自分の悩ましい身体を見せつける。
 どんな時でも心は肉食。こうしてる間も鷹の目で、門下生たちの中にイケメンを物色しているのであった。
「……まったく品のない女だよ」
 リナリエッタの相棒、ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)は言った。
 とは言えベファーナもマッチョ好き。東洋の神秘たる筋肉系イケメンをハァハァ凝視しているのは言うまでもない。
「なんだか邪念を感じる連中じゃな……」
「気のせいですよ、老師。それより今後の万勇拳の戦略についてひとつ提案があるのですが」
「なんじゃ?」
「弟子を増やすのは大切ですが、女性層ばかりに訴えるのはどうかと思うんです。やはり男性に入ってもらわないと」
「それはまぁそうじゃな」
「そこでアンチエイジングです。ほら、気の力で細胞を活性化させて若さを保つとか、そういった感じの」
「ふむ?」
「それで暇な老人層を取り込み、且つ気の力で若くて生きのいいイケメンに戻せば……うふふ、最高じゃないですか
「……おぬしの狩り場にするつもりじゃろ、それ」
 それに、そんな技が使えたらとっくに老師が使っている。
 そして二人の横では、リナリエッタが悩ましい声を上げながら、ふおおおおおおお〜〜と気合いを入れ始めた。
「……何してるの?」
「折角、男どもの注目を集めてるんだもの、奥義のひとつでも見せようと思って」
「奥義ってどんなの?」
 愛美は首を捻った。
「ほら、よく漫画で武闘家がやってる筋肉を膨張させて服を破くやつ
「そ、それを覚えて一体……。はずかしいよ、そんなの」
「何言ってんのよ、めちゃくちゃ目立つじゃない」
 とその時である。服を破くと言う言葉に反応し、逆光を背にひとりの漢が、リナリエッタと愛美の前に光臨した。
「脱衣の技とは……おもしろい、オレへの挑戦と受けとったぞ、女っ!」
「へ?」
 仁王立ちで噴水にあらわれたのは、セーラー服がトレードマークの天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)
「見せてやろう、万勇拳にはおまえが知らない脱衣の極意が眠っているのだ……!」
「……へぇ」
 鬼羅は演舞を始める。
 靴下を脱ごうと靴下を下ろす動作がそのまま技となり膝で一撃!
 反動で靴下を脱ぎ去りながらの蹴りでもう一撃!
 上着の袖から腕を抜き去る勢いを利用し肘鉄裏拳で一撃!
 上着から首を抜こうとする動作をそのまま技へと転じさせ両拳で駄目押しの一撃!
「服や鎧、装飾品にさえ外す脱ぐ動作というものは必ずある! その一つ一つの動きを爆発的な速度、そして滑らかに脱ぐ繊細さそして脱ぐという行為に対しての思い切りから来るその力強さ!! この速さ! 繊細さ! 力強さ! が合わさり放つことのできる奥義。瞬間的に脱ぐことを極めた物のみが使えるそれが『瞬極脱』なのだ!!」
「……って、なに脱いでるのよっ」
 愛美はあわてて顔を伏せた。
 今の演舞でパンツ一枚と言う変態然とした出で立ちとなった鬼羅である。
「ま、この技の欠点はこの季節だとちょっぴり寒いというところか」
「聞いてないしっ!」
「……結構いい身体してるわね、こいつ」
 リナリエッタはポツリと言った。
「それに服を着ていないと技を放てないと言う問題もある。当然、防御力も下がってしまうのもリスクだな」
 しかし、そんなものは一年のほとんどをほぼ全裸で過ごす彼にはデメリットでもなんでもなかった。
「ミャオ老師、この脱ぐことに躊躇いの無い鋼鉄の意思、感じてもらえたか!!」
「!?」
「オレの万よりさらに兆や京に届くであろうこの勇気! 蛮勇と笑わば笑え!!」
 バッと躊躇いなく最後に残ったパンツも脱ぎ去る。
だがこれがオレの生き様! 裸一貫! 心も体も裸で語る!!!
 自信満々で老師たちに言い放つ……が、全員こっちを見ていないことに気が付いた。
「な、なぜ目を合わせない!?」
 はっと振り返ると、そこに立っているのは政府の犬、空京の治安を守るお巡りさんだった。
「全裸で騒いでる男がいると通報があって駆けつけたが……、平日の夕方に公園で何をしているんだ君は……!!」
「ち、違うんです、お巡りさん!」
「ちょっと万勇拳さん、こちらおたくのお知り合いですか?」
いえ、知りません
 老師は迷いなく答えた。
「し、師匠〜〜〜!!!」
「言い訳は署で聞くから、はい、早くパンツはいて噴水から降りなさい」