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地球とパラミタの境界で(後編)

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地球とパラミタの境界で(後編)

リアクション


・就職活動


「失礼致します」
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)は、面接室へと踏み込んだ。天御柱学院の事務職員採用試験に応募し、筆記試験を先日無事通過したため晴れて面接に臨むこととなったのである。
 面接官は人事担当と、配属先の第一希望であるパイロット科の教官だ。
「パイロット科の野川です」
 まさかこの人とは。五月田の話によく出てくる彼の後輩だ。直接指導を受けたことはないが、面識はある。
「では、簡単に自己紹介と志望動機をお願いします」
 人事の女性に促され、口を開いた。
「天御柱学院パイロット科高等部三年、オリガ・カラーシュニコフです。事務職員を志望しますのは、生徒とは異なる視点からこの学院を見て、支えていきたいと思ったからです」
 落ち着いて、丁寧に言葉を紡ぐ。この学院に来る前の自分だと、緊張のあまりパニックになっていたかもしれない。しかし今は色々な戦いを、いくつもの死線を潜り抜けてきたことが、オリガの自信となっている。この程度のことでは揺るがないほどに。
「パイロット科では、試作段階の頃からブルースロートに搭乗して支援活動を中心に行ってきました。情報処理や細かい作業には自信があります」
 ベトナムでの偵察任務から古代都市での戦いまでの活動を中心に、面接官に伝えた。
「それでは、最後に何か意気込み等があればお願いします」
「今後も天御柱学院に関わり、少しでも世の中を平和に出来るよう仕事をしていく所存です。また、後輩達をサポートして、一人でも怪我をするような人がいなくなるように、全力を尽くします!」
 面接が終わり、一礼して面接室を出た。
(ふぅ……何とか終わりましたわ)
 早ければ明日にも結果が出るということだが、手応えはあった。
(真治さんに相談に乗っていただいて、助かりました。本当に頼りになりますわ)
 彼から色々とアドバイスを受けたことも、進路についての迷いを断ち切るのに一役買っていた。オリガの中で、五月田の好感度は上昇中である。
 しかし、これからは頼ってばかりはいられない。彼に頼ってもらえるようにならなければ。そのためにも、職員として頑張って働いて一人前を目指したい。オペレーターの道に進むかどうかを考えるのは、職員としての仕事をある程度こなせるようになってからでも十分だろう。

* * *


 極東新大陸研究所海京分所。
「イコンの開発案について、今日こっちの話を聞いてくれるということでお伺いしました」
「はい、少々お待ち下さい」
 佐野 誠一(さの・せいいち)結城 真奈美(ゆうき・まなみ)と共に、開発プランを携えてここまでやってきた。
 真奈美が受付を済ませると、すぐに担当者の姿が現れた。イコン開発部の副主任の男である。天御柱学院用の技術に関わる雪姫に対し、彼はプラヴァーを始めとしたシャンバラ王国向けの機体を担当しているとのことである。
「天学のベルイマン整備科長から話は聞いている。早速だが、見せてもらっていいかね?」
「これだ。宇宙用のバックパックとOS、それと独自動力源を搭載した大口径砲についての案になってる」
 スクリーンを借りて、真奈美にプレゼン用のスライドを映してもらう。図を用いながら、誠一は説明を始めた。
「宇宙用バックパックのベースになるのは、高機動型のものだ。あのフライトユニットに、逆噴射用のスラスターを追加する。低重力下における慣性制御を重視してだ。
 ネックとなるのは、スラスター増設によるエネルギー経路の増加と複雑化だ。これに対しては、バックパックの形状をより平たいX状にし、推進逆噴射用スラスターを並列化し経路を一本化することによって解決を図る」
 加えてパイロットサポートシステムを搭載しているプラヴァーならば、制御プログラムを入れるのも容易だ。補助スラスターが搭載されているジェファルコンは、装甲を大気圏突破なものに換装出来ればそれで済む。高い機密性があるためだ。
「次に、火気管制及び操縦システムの更新・向上について。共に低重力下における慣性の法則やモニターに映る映像の遠近感等の視覚効果への修正を組み込む必要がある。現在のイコンは、全て地球の重力下での運用が前提となっているからな。映像処理や弾道計算、加減速スケジュールなど複雑化する計算処理のために、CPUとLSIを増設。複数のCPUとLSIを組み込み、演算や対応する機能の分散並列化を行うことで多数の環境に対応しやすくする。問題は、CPUやLSI制御、プログラムチェックに手間がかかるということだ。プラヴァーに、ブルースロート並のコンピューターを導入することになるわけだからな」
 そればかりか、増設に当たってのコストもかなり必要となる。それならば、いっそ完全な宇宙用にシステムを書き換えてしまえば手っ取り早い。地上での運用が困難になってしまうが。
「最後は、ニルヴァーナに巣食ってるっていう脅威、イレイザーへの対策だ。ここじゃ兵器開発が制限されるんなら、教導団にでも任せればいい。確か、ゲートは五メートルくらいまでなら潜れるんだったよな?」
 副主任が頷いた。
「だから、ニルヴァーナへ運んで運用することを前提に、自走砲形式にしといた。イコンの動力炉を独自動力源として……これに関しては、エネルギー生成量が多い機体が望ましい。砲には膨大なエネルギー量に対応するためビームジェネレーターを複数基搭載。大口径砲というよりは、『大口径砲型無人イコン』だな。車両搭載・運搬可能なサイズを目標とし、理想は高さ、幅ともに三〜四メートル程度。
 無人だから、搭載する車両で制御出来るようにする必要がある。イコンの武装として運用する場合に備え、遠隔操作機能も載せたいところだ。ただ、エネルギーの経路と安定化が問題だ。一発撃ってショートしたり、砲ごと吹き飛んだらどうしようもないからな。砲身内を機晶エネルギーで保護し、複数の回路とバイパスを用意することでエネルギーの集束と放出を効率よく行えるようにすれば、連発は出来なくても強度の面での心配はいらないだろ」
 そこまで説明すると、副主任は誠一の資料を見ながら検討を始めた。
「システムに関しては司城主任のチェックがいるが、宇宙用バックパックの開発は急務だ。シャンバラ政府からも正式に依頼が来ているからね。手伝ってくれるとありがたい」
 自走砲は国軍の技術局との相談が必要であり、とりあえずシャンバラ向けのプラヴァー・スペースの開発に携わって欲しいということだった。研究所の人間として。
「研究所のIDは明日には発行してもらえるよう手配しておこう。今後とも、宜しく頼む」
 これからは正式に海京分所の所属となることが決定した。