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地球とパラミタの境界で(後編)

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地球とパラミタの境界で(後編)

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第三章 〜午後の部〜


(二人とも、根詰まり過ぎてるというか、考え過ぎてる気もするのよねぇ……)
 機体の最終調整を終えたセレナイト・セージ(せれないと・せーじ)は、1月最初の訓練以降どこか思い詰めた様子の端守 秋穂(はなもり・あいお)ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)へ目をやった。
「……こーら、そんなに気負い過ぎると【セレナイト】も困っちゃうわよ?」
 色々変わったって、【セレナイト】が二人の仲間であることは変わらない。
「ちゃんと信頼してあげて。そしたら【セレナイト】もそれに応えて頑張るから」
 秋穂とユメミを勇気付けて、セレナイトはイコンハンガーから送り出した。
(……まぁ、そえは私にも言えることなんだけどね)
 もう一人の自分とも言える機体を思い、声を漏らした。


・試運転開始


『よし、前半は小隊戦でいこう。時間は十五分だ』
 【鵺】が安定稼働状態になったのが確認されると、七聖 賢吾から通信が入ってきた。
「何やら機動力がありそうな機体ですね」
 ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)の声を受け、オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)は答えた。
「オルフェ達のカムパネルラと、どれほどの違いがあるのか、楽しむです」
 ジェファルコン以上にイーグリットの意匠を残しているが、四枚の翼のような推力増幅スラスターが大きな存在感を醸し出していた。
 【カムパネルラ】と組む機体はセレナイトと、水城 綾(みずき・あや)
ウォーレン・クルセイド(うぉーれん・くるせいど)が駆るSword Breakerだ。それに対し、賢吾達と組むのは葉月 エリィ(はづき・えりぃ)エレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)が搭乗するクリムゾン零式と、天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)アルマ・オルソン(あるま・おるそん)が乗るFlamme Dracheだ。
(普通に考えれば、向こうは前衛一、後衛二。対し、こちらは……全機近接型なのです)
 しかも、見事に第一、一.五、二と揃っている。
(これは、賢吾様が自由に動くための布陣とも考えられますね。小隊戦とはいえ、我々三機が組んで【鵺】を止められるかがポイントかと)
 今回は賢吾の復帰戦だ。彼も思う存分戦いことだろう。
 オルフェリアは超感覚を発動させ、五感を研ぎ澄ませた。距離感を掴むには、レーダーよりも目視と音の方がいい。
(レーダーに映らない機体もあるのです。こっちはあくまでも目安です)
 案の定というべきか、【鵺】はレーダーに映っていない。高いステルス性を誇っており、それと高い機動性を利用して死角から急襲を行うことも可能だ。
 【鵺】の姿を見失わないように、同じ小隊の三機と連携する。【カムパネルラ】を高速機動させ、【鵺】との距離を詰めた。
(さすがに、速いのです……!)
 速度はイーグリットよりも上だ。すれ違い様に、【鵺】のビームサーベルが【カムパネルラ】の機体を掠めた。回避がわずかに間に合わなかったのである。
 【鵺】が速度を落とさずに旋回しながら、【Sword Breaker】のアサルトライフルによる銃弾をかわしていく。
(遠距離攻撃は一切行わないのですか)
 賢吾達の機体にはビームライフルが搭載されているが、それを使う気配はない。あたかもこちらの射線をあらかじめ分かっているかのように三機の間を潜り抜けてくるため、そもそも牽制をする必要がないのだろう。それに、彼がやらずとも、それを行う支援機がいるのだから。ただ、そちらに気を取られてしまうと、【鵺】を見失いかねない。あの速度相手では、一瞬の隙が命取りとなる。

「どうやら、噂は本当だったみたいだ。あの速さのまま方向変換とか、いくらコックピットがGを緩和してるからって、普通なら耐え切れないだろ」
 それどころか、遠心力が掛かりそれを制御出来ずに投げ出されてしまう。普通ならば。
「ウォーレン、接近戦に持ち込まれないように距離を……」
「いや、距離を保ってどうにかなる相手じゃねぇ。あの背中にある増幅スラスターをどうにか出来れば何とかなりそうだけどな」
 綾の声に答えながら、【鵺】の背部にある四枚翼を観察した。あれと、機体各部についている可動式追加装甲は連動している。速度に合わせて、機体への負荷を軽減するように装甲が可動するようだ。
 【カムパネルラ】が【鵺】を注視し、見失いように飛んでいる。そして【セレナイト】がスナイパーライフルで【鵺】を狙っていた。相手の機体が接近しようとしても、ジェファルコンなら一定の距離を保つことは出来る。
「何にしても、誰かが動かなきゃどうしようもない。やってやるぜ」
 【Sword Breaker】が【鵺】に向かって飛び込んでいく。相手もまた、こちらへと近付いてきているのが分かる。
 レイヴン用のビームサーベル――サイコブレードを掴み、そのまま斬撃……と見せ掛け、シールドをパージして【鵺】に投げつけた。
 それを回避したところに全速力でタックルをかます、ということをやろうとしていたが【鵺】はシールドを避けなかった。
『訓練用じゃなきゃ、真っ二つに出来たんだけどね』
 【鵺】がビームサーベルの柄頭の部分で、シールドを叩き落とした。だが、かわさないならかわさないなりにやりようはある。
 シールドに柄頭が触れた時点で、【Sword Breaker】がサイコブレードを振り下ろした。
『胴体ががら空きだよ』
 振り下ろすよりも早く、コックピットを衝撃が襲った。【鵺】による横薙ぎの一閃が直撃したのだ。実戦だったら、機体が切断されていたのは確実だ。
『これで、あと二機だね』

(ユメミ、今の見えた?)
(うん、なんとかー)
 秋穂は【鵺】の斬撃の速さに驚愕した。だが、あの速さでビームサーベルを振るうと、駆動部に大きな負担が掛かるだろう。
 いや、と彼は今見たばかりの【鵺】の動きを振り返る。
 背部のスラスターユニットを噴かせることで、速度を上乗せした。それなら、そこまで負担は掛からない。ジェファルコンでもサブスラスターを使用すれば可能なものだ。
(ジェファルコンでも、反応出来るかどうか……)
 総合的なスペックは、こちらの方が上とは聞いている。しかし、先月の野川教官との訓練以降、不安を覚えるようになっていた。機体が強いから大丈夫だと、慢心していたのではないのかと。
 教官は、イーグリットの性質を理解して乗りこなしているように思えた。でなければ、第一世代機でジェファルコンとまともに戦うことなど出来ないだろう。自分は果たして、イーグリットの頃の【セレナイト】を乗りこなせていただろうか。
 しかし、いつまでも悩んではいられない。今の相棒であるジェファルコンの【セレナイト】を知り、乗りこなせるようになる。機体の強さに助けられているだけではダメだ。
「いや、出来るようにしなきゃ」
 野川教官から教わった「−0.5秒」を意識し、【鵺】の動きを見据えた。
「この戦いが終わるまでに、色々掴んでやるー……!」
 秋穂もユメミも、気合が入っている。
 スナイパーライフルから新式アサルトライフルに換装し、【鵺】に狙いを定めた。
(焦り過ぎてもダメだ。落ち着いて判断しないと……!)
 【鵺】がスラスターを全開にして【セレナイト】へと突っ込んでくる。
(ユメミ、距離を取って)
 【カムパネルラ】の位置を把握しつつ、距離を詰められないようにユメミがスロットルレバーを押し込んだ。
(隙を見せたら、斬られそうな気がするのー!)
 レーダーに映らない【鵺】の動きからは、目を離せない。
 二機のコームラントからの砲撃にも注意しながら、【鵺】の動きを読むことに務める。
(よし、今だ!)
 【鵺】が【カムパネルラ】の方へ向きを変えたその瞬間、【セレナイト】がブースターをフル稼働させ、一気に距離を詰めていく。
 だが、すぐに機体を反転させ、【セレナイト】を迎え撃とうとしてきた。しかし、反応されることは予想済みだ。
 新式ビームサーベルをもって、反転からの一撃をガードした。
『高機動の相手には、確かに一機が動きを阻害して、その間にもう一機に攻撃してもらうのが基本だ。でも……』
 【鵺】のスラスター光が消えた。
(ユメミ、離脱!)
(え、うん、分かったー!)
 以前の秋穂なら、逆に自然落下を始めた【鵺】に飛び込んだことだろう。ちょうど【鵺】が落ちるのに合わせ、その背後に回り込んだ【カムパネルラ】によるビームサーベルの一撃が、空を切った。もし前に出ていたら、同士討ちになっていたことだろう。
『相手を利用するのも戦術だよ』
 【カムパネルラ】のサーベルが振り下ろされるのに合わせスラスターを再点火し、【鵺】が上昇しながら【カムパネルラ】を斬り上げた。
『高機動対高機動の集団戦では、それを逆手に取ることも重要だよ。勢いづいたら、すぐには止まれないからね』
 距離を保ったまま【セレナイト】が新式アサルトライフルを構えて備えるが、ここで戦闘終了時間となった。
 元エースの実力は、未だ健在のようだ。