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地球とパラミタの境界で(後編)

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地球とパラミタの境界で(後編)

リアクション


・個人戦開始


「賢吾と戦うなんて、いつ振りだろうなー」
「ベトナムに行く前だから、一年半振りくらいですね」
 桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)は、ジェファルコンに乗り、賢吾達の【鵺】と相対した。
 彼に挑むのは、自分に自信をつけるためだ。メアリーのことが気になるが、彼女を繋ぎ止めるだけの自信が今の景勝にはない。今日も世界のどこかを旅している彼女に次は胸を張って会えるようにと、自分に出来ることを探したのである。それが、イコンだった。
 賢吾が【鵺】の試運転を行うという噂を聞いてから、戦時中のようにシミュレーターに籠もって自主訓練を行った。
『そんじゃ、宜しく頼むよ景勝っちゃん』
 レイピアによる剣術を主体としていたメアリーと、古流剣術をベースにしている賢吾は、性質的に近いものがある。シミュレーターでは対【アスモデウス】を想定し、格闘特化された敵機と渡り合うことを目指していたため、ちょうどいい相手だ。病み上がりとはいえ元エース、しかも生徒では学院最強と目されていた彼ならば。
『それじゃ、全力でいかせてもらうぜ!』
 試合時間は十分間。
 開始直後、ジェファルコンのミサイルポッドを起動した。それが【鵺】に到達する前に、新式アサルトでそれらを爆破する。
 その爆風と煙幕を利用し、【鵺】へと接近した。
「向こうも正面からやりあうつもりか」
 賢吾達はその場で正眼の構えをもって、景勝達が接近するのを待ち構えていた。相手のビームサーベルよりも長いリーチを活かし、蛇腹の剣と新式ビームサーベルを振るう。
『二刀流か、ならばこちらも――』
 【鵺】がジェファルコンによる連撃を受け流すと、二本目のビームサーベルを構えた。一本目に比べると長さは短く、持ち方は逆手だ。
『あまり得意じゃないけど、久々にやっておくのも悪くない』
 今度は【鵺】が四枚翼状のスラスターを噴かせ、ジェファルコンへと飛び込んできた。
「景勝さん、二本目に気をつけて下さい!」
 一本目を補助スラスターの噴出による旋回で回避し、続く二撃目を剣で受け止めようとした。が、危険を察知したニーバーがブースターを噴かせ、緊急回避を行う。
「あっちが本命か」
 光の加減でビームの部分が短く見えるだけで、逆手に持っている方が実際には長かったのだ。
「スラスターで勢いをつけることで、爆発的な剣速を生み出しているというわけですか」
 空中では行えない分の踏み込みによる動作を、背部のスラスターでカバーしている。
『完全復帰したら、イコン剣術でも開きたいところだよ。イコン格闘技があるくらいだからね』
 メアリーは驚異的な反応速度を武器にしていたが、賢吾はそれに匹敵しないまでも、巧みな操縦技術でカバーしている。有体に言えば、イコンの利点と「イコンで再現可能な」生身の利点を上手く組み合わせているということだ。それを昇華し、自らの戦闘スタイルを確立しているのが、賢吾の強さの秘密だろう。それは、彼が自身の身体と搭乗する機体を熟知しているからこそなせる業だ。
(完全に再現出来ない部分は機体でカバーか、さすがだぜ)
 イコンと直結しているわけではない景勝には、彼のような戦い方は難しい。しかし、自分の戦い方は出来る。
 【鵺】がビームサーベルを一本に戻し、ジェファルコンへと向かってきた。新式ビームサーベルを振り下ろすと、それを受け流して懐に入り込んでこようとする。その瞬間を見計らい、ニーバーがスラスターを起動。急回転に合わせて蛇腹の剣を鞭のように振るい、【鵺】に叩きつけた。
『惜しい!』
 流れるような動きで【鵺】が蛇腹の内部にある連結部分を切断した。だが、景勝達もそこで止まるわけではない。
 補助ブースターでさらに勢いをつけ、回し蹴りを繰り出す。だが、それも掠めただけで直撃はしなかった。
『今のも危なかったよ。なかなかやるじゃないか』
 態勢を立て直そうとする景勝達に、通信が入った。
『景勝、交代だ』
 いつの間にか、試合終了時間となっていた。続いて、榊 孝明(さかき・たかあき)益田 椿(ますだ・つばき)の駆るレイヴンとなる。

「ブランクがないどころか、もう【鵺】の操縦に慣れきっているようだ」
 これまでの模擬戦での戦いぶりから、孝明はそう判断した。本当はジェファルコンに搭乗するつもりだったが、乗り換えの申請が間に合わなかったため、レイヴンTYPE―Eで出ることになった。
「七聖 賢吾と五艘 なつめ……今の学院じゃ考えうる限り最高のコンビね。また、この二人が飛ぶ姿が見られるなんて」
 ただ、二人とも、【鵺】の操縦系統の振り分けがどうなっているか掴めていない。事前に、現行イコンとは――このレイヴンも含め、それが大きく異なっているということは知らされている。
「普段の生活から考えれば、賢吾は感覚で、なつめは計算で動くタイプかしら。これまでの戦いで、一度たりともビームライフルを抜いていないから、なかなか判断が難しいところね……」
 接近戦対策だけで何とかなる相手ではない。距離を取って射撃をしているだけでは、弾切れまで待たれるのがオチだ。小隊戦でさえ、複数の機体から牽制されても動じなかったくらいなのだから。
「ビームライフルを一切使わないのは、なつめが使う必要がないと判断しているのと、賢吾の力を信用しているからだ。彼女は、敵機の弾道を予測し、被弾しないコースを賢吾に伝えているだけだろう。それと、スラスター系の出力調整は多分なつめだ」
「逆に言えば、ライフルを抜かせれば追い詰められている、ってことだね。本当にヤバイ状況になるまで、賢吾を信じて好きなようにやらせる。大した信頼関係だよ」
 常に「最良」を選択するなつめの判断力と、賢吾の純粋なパイロットとしての技量。そこに、つけ入る隙を見出すのは難しい。
(それに、さっきの景勝達との戦いでビームサーベルに何らかの細工をしているのは分かったが……さすがにあれだけとは思えない)
 何かしら備えはあるだろうと、孝明は考えた。
 【鵺】がレイヴンに向かって、加速してくる。射撃による牽制で対応するが、その合間を潜り、被弾することなく肉薄した。
(なつめを信じ、絶対に当たらないと確信しているからこそ、全速力で飛び込んでこれる。ならば、次に来るのは)
 その速度を活かし、ビームサーベルでレイヴンを斬り上げようとしてきた。それをかわすも、機体に衝撃が走った。
「衝撃波……イコンの装甲にすら伝わるのか!」
 ジェファルコンが最高速度を出した時、パイロットによるものの第一世代機はすれ違っただけでバランスを崩すが、【鵺】はそれと同等の速度を出していることになる。
「孝明、後ろだよ!」
 あの速さで大きく旋回せずに方向を変えようとすれば、遠心力で中のパイロットに相当な負荷が掛かる。が、それにも関わらず【鵺】はそれをやってのけた。
「フローター、スラスターの強制停止。そのまま力が弱まったところで機体を旋回、再び点火……あとは直線状に速度を上げて進むのみ。
 普通なら、そんな危なっかしいこと、やろうともしないよ」
「それが、出来るから、学院最強なんて言われるんだ」
 すぐにビームサーベルを抜き、【鵺】の攻撃を受け止めた。
(なつめの弱点を突ければ……!)
 彼女の導く「最良」を先に予測する。彼女は最善策を取らない、というのは彼女の姉、あやめの言葉だ。そしてなつめは、これをあくまで模擬戦と規定して戦っている。実戦ではなく。
(ならば、勝てないまでも、引き分けることは可能なはず)
 【鵺】の斬撃をビームサーベルで受け止める。ここからなつめは背部のスラスターを噴かせ、一気に押し込んでくるだろう。そして、その通りだった。
 力が加わる寸前に、押し負けたようにしてレイヴンのビームサーベルを下げた。直後、機体に相手のサーベルの光が食い込むも、それが機体と接触しているうちにスラスターを全開にする。そして、【鵺】に体当たりをかました。
 今のは機体性能差を踏まえると、そのまま押し切るのが正解だ。だが、なつめはそれが読まれているという可能性を捨てていた。読まれていたところで、致命傷を与えることに変わりはないのだからと。実際、あやめから聞いてなければ孝明にも予想は出来なかっただろう。
 結果は相打ち、引き分けだ。