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地球とパラミタの境界で(後編)

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地球とパラミタの境界で(後編)

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第四章 〜来訪者〜


「マルちゃーん、聞こえるー?」
『聞(うん、ちゃんと聞こえてる)』
 二機のイコンが、音速を超えて太平洋を上空を飛んでいた。
「あとどれくらいか分かる?」
『十五分(この速さだと大体十五分)』
「おっけー! んじゃあ、張り切っていきますか」
 紫髪の少女は、微笑みを浮かべた。
「楽しませてくれるといいな、天御柱学院の人達」


・未確認機


『噂の【ヤタガラス】の力、見せてもらうよ!』
 シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が駆る【ヤタガラス】と、天学パイロット科代表の駆る【鵺】の戦いの火蓋が切って落とされた。
(徐々に慣らしていきますよ、ミネシア)
 BMIにテクノパシーを併用し、システムの最適化を図る。
『なっちゃん、ビームライフル用意』
『了解!』
 【鵺】が今日初めて、ビームライフルを構えた。【ヤタガラス】に向けて光弾が飛来するが、ヤタガラスの力場とサンダークラップによる電磁バリアの前には、射撃武器はほとんど通用しない。
「ロック完了!」
 シフは新式プラズマライフルのトリガーを引いた。サイコキネシスでプラズマを逃がさぬよう射線を作り、着弾時の威力を底上げする。無論、訓練用のためエフェクトのみだが、センサーは「実際の」ダメージを計測出来るようになっている。
 【鵺】がビームライフルでプラズマ弾を相殺した。実体武装には無類の強さを誇るが、ビーム兵器相手ではそれほど効果的ではない。
 【ヤタガラス】のエナジーウィングにパイロキネシスによる炎を反映させることで、翼全体をスラスター代わりにして、【鵺】へと飛び込んでいく。
『さすが学院最強機……だけど』
 相手も四枚翼を髣髴とさせるスラスターを全開にし、【ヤタガラス】へと向かってきた。【鵺】による斬撃が【ヤタガラス】を裂く。
 しかし、
『なるほど、炎を利用して錯覚させたか』
 熱で位置をわずかに誤認させたのである。【鵺】がスラスターを噴かせて向き直るも、先に動いていた【ヤタガラス】が【鵺】の背後に回り込んだ。そこから新式ビームサーベル二本に持ち替え、背部のスラスターユニットを狙う。
 だが、突然右腕に光が走り、機体がダメージ判定を受けた。実戦だったら、右腕がその光の線に沿って斬り落とされている。
『秘技・新月』
 先ほどの斬撃は、確かにかわせていたはずだ。ならば、いつやられたのか。
 ふと見ると、【鵺】は二本目のビームサーベルを逆手で握っていた。一度、距離感を失わせたつもりになっていたが、その時【鵺】はスラスターを噴かせて急転しなかったか。
『まあ、イコン用のアレンジだけどね。【鵺】をもってしても、性能差は圧倒的だ。だから、相手が攻撃されたと認識出来ないような動作でないと有効打を与えられなかったんだよ』
 おそらく、賢吾の奥の手の一つだろう。他にもあるかもしれないが、イコンに乗ってるが故に生じる死角を突く攻撃であると考えられる。
(イコンと生身の違いを熟知してなければ、出来ませんね)
 それでも、まだもう一本の腕がある。他の機能合わせれば、十分戦えるだけの余裕は残っている。
 しかし、その時であった。
「あれは……」
 見慣れない機体が、こちらへ飛来してくる。【鵺】同様、レーダーには表示されていない。
『七聖先輩、五艘先輩。一旦模擬戦は中断ですね』
 

* * *


「と……千客万来、といったところかしらね」
 四瑞 霊亀(しずい・れいき)は【ヤタガラス】のモニターをしている時に、その機体の姿を捉えた。
 初めて見るタイプだ。肘から先、および膝から下の装甲が厚くなっていることから、格闘系だろうと推測される。所属は不明。
 すぐに情報を集め始めた。

「謎の機体出現、か。行くわよ、早苗!」
 葛葉 杏(くずのは・あん)はすぐに機体を飛翔させた。元々、【ヤタガラス】の次は自分の番だったのだ。
「アンさん、BMIを起動しても、こちらの武装は非殺傷性です!」
 橘 早苗(たちばな・さなえ)が声を発した。
「それでも構わないわよ。元エースを倒すより、謎の新型を破壊した方が目立つじゃない! まさに私向きの展開」
 そこへ、シフから通信が入った。
『まだ、相手の情報が掴めてません。こちらから攻撃しないよう、お願いします』
 相手は一機だ。
『所属不明機に告げます。直ちに所属と目的をお願いします。そちらの所属が分かり次第、入区許可が出ているか確認を行います。返答がなければ、テロリスト『鏖殺寺院』と断定。防衛のため、迎撃を行います』
 それに対し、通信を介しての返答はない。
 ただ、機体がジェスチャーで何か伝えようとしてきている。
『えー……何だか分かりませんが、テロリストではないと言いたげですね。なぜ通信で返答しないのですか?』
 それでもなお、答えはない。

『繰り返し、所属不明機に告ぐ。ここでの戦闘行為は、襲撃とみなす。所属と目的を明らかにし、速やかにイコンデッキに着陸せよ』
 旧イコンデッキで待機していた茅野 茉莉(ちの・まつり)ダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)は、Hexennachtを発進させ、未確認機と対峙した。レオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)に、関係各所への要請と事実確認は任せてある。しかし、一向に反応がない。
 アサルトライフルを構え、ダミアンがトリガーに指を掛けた。
『待って下さい。威嚇であろうと、こちらから撃てば相手に反撃の機会を与えてしまいます』
『……確かに、向こうも困惑しているような感じね。
 あんた達は一旦下がって。訓練用装備だし、それに二機ともまだ公になってない機体だから』
 模擬戦の機体を下がらせ、代わりに防衛のためのイコン部隊が来るのを待つ。
(レオナルド、要請の方はどうなってる?)
 テレパシーでレオナルドに確認を取った。
(海京全体への連絡は完了。イコン部隊は出撃許可待ち。現行生徒会からは、『現場の対応は候補者に一任する』と。既に生徒会長候補を始めとした各立候補者により、南地区はパニックも起こすことなく、落ち着いているよ)
(待って、現生徒会は何もしないの?)
(生徒会長からの指示で、所属不明機の特定を優先させてる。何というか、事情は本当に知らないみたいだけど、余裕そうだったよ。会長が大丈夫だって言ったから、慌てる必要はない、みたいな感じで)
 未だにイコンベースには発進許可が下りないようだ。被害が出てからでは間に合わない。
(発進許可はどうなってるの?)
(現在、一小隊が待機。一機相手に、何十機も動員する必要はないと。内訳は、教官二、生徒三)
 
* * *


『フェル、管制室への確認を!』
 十七夜 リオ(かなき・りお)からの通信をフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)は、リオの指示を受け{ICN0003865#メイクリヒカイト−Bst}から管制室へ状況確認を行った。
「イコンのレーダーに映らない? 魔道レーダーにも……」
 魔法技術によって造られたレーダーだと、プラヴァー・ステルスのような機体でも微弱ながら反応を捉えることが出来る。だが、それにも映らないということは、魔術的な何かが施されている可能性がある。
『目視で確認可能なのは一機。未確認機は通信には応じないものの、イコンのジェスチャーで何かを伝えようとしている。管制室側の推測だと「街の近くだとあれだから、もっと沖まで出て戦おうぜ」だって。あ、今は「ごちゃごちゃやってないで、誰でもいいからさっさと面かせや!」という意味みたい』
『管制室、それ本気で言ってんのかなぁ……。それより、こっちは実戦装備への許可は出たけど、発進許可が出ない。フェル、リヒカイトのセンサーで情報収集は可能?」
『カメラで相手の武装は確認出来る。腰に何か……トンファー? それ以外には何も』
 外見的には格闘戦用っぽいが、それが単機で海京に飛び込んでくるのはあまりにも不可解だ。隠し武器はどうにもなさそうである。

「管制室の解釈が合ってれば、まるで道場破りの武術家だよ」
 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)告死幻装 ヴィクウェキオール(こくしげんそう・う゛ぃくうぇきおーる)を纏い、海上を一望出来る旧イコンデッキへとやってきた。
(風紀委員の方も密航者関係で色々あったようだが、そっちは片付いたみたいだ。こっちは、まだお互いの状況を掴み切れていない)
 こちらは相手の正体が分からず、向こうはなぜこっちが戦いに応じないのか分からない、といった様子だ。向こうからの通信は入らないが、こちらからはちゃんと聞こえているらしい。
 ならば、と生身のまま地上から声を発した。
「さて、そのままいられても困るから、降りるか去るかしてくれないか」
 辺りを見渡し、レオの方を向いた。どうやら気付いたらしい。
「何も言わないんじゃ分からないな。だけど、返答によっては……覚悟してもらうよ?」
 さあ、どう出るか。
 未確認機は沈黙を保ったままだ。しかし、次の瞬間――海面に高い水飛沫が上がった。
(今のは、何だ!?)
 すぐに状況を確認してもらう。
 どこかから、海面への威嚇射撃――もとい砲撃が行われたのだ。エネルギー反応が検出されたという知らせが、通信で入ってくる。
(射線から、位置の特定は? レーダー範囲外からの狙撃だって?)
 一体何キロ先から撃ってきたのだろうか。目の前にいる格闘戦機のようにレーダーに映らない仕様なのは確かだろうが、エネルギー反応がレーダーの端まで続いているのは異常だ。
 続いて、二回目の砲撃が着弾した。まったく同じ場所に。正確に狙ってきたのだ。
 これで、向こうに攻撃の意志があることが明らかになった。

* * *


「雪姫さん、機体の解析お願い出来ますか?」
 久我 浩一(くが・こういち)から頼まれ、雪姫が未確認機の解析に取り掛かったのは、レーダー範囲外からの狙撃が行われる直前のことだった。
「……スキャン開始」
 海京上空の衛星を介して撮影された機体の映像がモニターに表示された。
「データベースに該当機なし。パーツ別照合――類似機構を持つ機体を確認」
 その時、南地区沿岸で水飛沫が上がる。敵性機体との判断が下り、迎撃許可が出されたのが聞こえてきた。
「クルキアータ、およびクルキアータカスタム『七つの大罪』シリーズ。35%が一致」
「ということはF.R.A.G.か、アカデミーでしょうか」
 問題は、クルキアータの場合戦時中に撃墜された機体の残骸が、今なお太平洋に沈んでいるということにある。ブラッディ・ディヴァインはそれを回収して利用していた。35%という数値では、彼らの残党という可能性も捨てきれない。
「……そういえば監査候補の星渡さん達は、近々アカデミーの代表者が来ることになってると言ってましたね」
 雪姫による解析データをヒントに、その確認を開始した。