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【Tears of Fate】part2: Heaven & Hell

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【Tears of Fate】part2: Heaven & Hell

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●備えと覚悟(3)

 鳳明と真司が話していたその場所を、ずっと上に行った地点。
 ここは塔頂上付近の一室である。
 冷ややかな印象を受ける部屋だった。装飾らしい装飾はなく、リベットすら剥き出しになっている室内は、研究施設の部屋というより独房のようである。屋内にある家具にしても、テーブルと椅子がひとそろいあるだけで、最低限のものしか存在していない。
「ユマさん……こうやってまた、ゆっくりと話すことができたことを嬉しく思います」
 コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は微笑を浮かべていった。
「こういった状況でなければ、なお嬉しかったのですが」
「ええ」
 応じるのはまさしく、ユマ・ユウヅキその人だった。
 テーブルを挟んで二人は向き合う。
 いずれ劣らぬ花、一人がコトノハでもう一人はユマだ。特別の許可を得て、コトノハは現在、ユマと向かい合っている。今日はなにかと邪魔な教導団の立ち会いはない。いざとなればここからユマを連れ出し、逃げることもできるのではないか……と瞬時コトノハは思うも、
「私はここで、来るべき運命を待ちます」
 ときっぱりと告げたユマの前に、それを切り出すことはできなかった。
 コトノハはユマを見た。
 ユマもコトノハを見た。
 互いにどこか、似たところのある二人だった。髪の色、背丈、どことなく雰囲気にも近いものがある。目の形と瞳の色は異なるが、同じ服装をしていれば人違いされてしまってもおかしくはない。
「いくつか、聞かせてください」コトノハの言葉に、「はい」とユマ・ユウヅキは応じた。
「髪は……女の命と言います」
 自身のロングヘアに触れながらコトノハは切り出した。かつて二人は、髪の長さまでもよく似ていた。コトノハが初めてユマに会ったのは、一昨年の夏祭りであった。そのときユマは長い髪を夜会巻きにしていた。解けば、ますますコトノハと似たことだろう。
「切った理由、ですか?」
 ユマは自分の髪、ばっさりと短くしたボブカットに触れた。
「ええ。私は、とても残念と思っています」
「かつてΞ(クシー)に追われた際、攻撃を受けて短くせざるを得なくなったという事情もあります。でも、そこから伸ばさないのは……私なりの決意の示し方ですね。これからはクランジΥ(ユプシロン)ではなく、ユマ・ユウヅキとして生きていくということです」
 本来、『ユマ・ユウヅキ』という名前は、殴殺寺院の殺人機晶姫『クランジΥ』が、問われてとっさに作った偽名だった。当て字だが、『悠月由真』という漢字があてられており、この名前で署名することもあるという。
「それと、先日山葉校長から聞いたことですが、教導団への所属はユマさんの意志だということですね。……以前『この服を着て一緒に蒼学に帰りましょう』と約束したのになぜ?」
「ごめんなさい」
 深々と頭を下げ、ユマは言った。
「説明が不足していましたね。そうです。私は意識を変えました。私が教導団に属することが、こうして作戦の役に立つのであれば……と考えています。ローラさんは、私と似た立場ですけれど、クランジとしてシャンバラの虜囚になったものではありません。偶然もありますが、彼女はたまたま山葉校長の秘書として雇われた機晶姫ということになっているんです。正式に『クランジ』と明かした上で捕らわれているのは私一人です。私はこれで満足しています。ローラさんに私のような立場になってほしくなかったので、むしろ私から団長にお願いもしたくらいです」
「でもユマさん一人、教導団で酷い目に遭う必要なんて……!」
「酷い目だなんて、思っていませんよ」
 ユマは微笑した。
「最初は不自由も感じましたが、皆さん優しいですし。ご存じですか? リュシュトマ少佐も、公の場では厳しいですが、あれこれと世話を焼いてくれるんですよ。補佐官さんもとても親切ですし」
 それに、とユマは言った。
「この作戦が終われば、晴れて私は解放されます。一生徒として教導団に留まるも良し、他校に所属するも自由です」
 コトノハは釈然としない顔をした。それでも、ユマ一人が背負わされたものはあまりに大きすぎるのではないか。だがこれがユマ自身が選んだ道であるのであれば、納得するほかない。
「そう、リュシュトマ少佐と言えば、あの人の姿が見えないのが気になります。少佐はこの作戦に参加されていないのですか?」
「参加はされていますが前線にいるわけではありません。これ以上は……ご理解ください」
 教導団の事情がなにかあるのだろうか。さすがに他校のことゆえコトノハもそれ以上問うのを控えた。
 島の北側から、砲撃の音が聞こえた。
 たちまち塔も騒然となる。塔詰めの兵士たちが武装し決戦のときを待ち構える気配が伝わってくる。
「来ましたね……」
 その言葉には応じず、
「ユマさん、あなたが決めたことであれば私は尊重します。ですので、これから私がすることも尊重して下さい」
 すっくとコトノハは立ち上がった。唇に血の気がない。顔色も紙のようである。
 そんなコトノハを支えるようにして、
「覚悟は決めた。我達は一蓮托生だ……」
 彼女のパートナールオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)も立った。朝焼けのような髪をかきあげてスピアを抜く。
「ユマさん、何をされるんですか……?」釣られて立ち上がったユマは、コトノハの真意を知って息を呑んだ。「いけません、そんなことは……!」
 コトノハは答えず、代わりに蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)が言った。
「あのね、ママが言っていたの。ユマは自分の双子の姉妹……魂の片割れのようだ、って。あたしもユマのこと、お姉ちゃんみたいだと思っているの……」
「でも、だからといってコトノハさんが……そんなことを」
 魂の片割れのためならば、とコトノハは告げて『それ』を終えた。