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【Tears of Fate】part2: Heaven & Hell

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【Tears of Fate】part2: Heaven & Hell

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●決戦の大地(2)

 ビショップの射撃は斜め方向から来ることが多い。いや、正確にはほとんどすべてが斜めからだ。
「チェスの駒よろしく斜め攻撃か」
 場所は上空、浮き上がった状態でレーザーを凌ぎつつゴットリープは声を上げた。
「このシャンバラを、クランジの国になんて決してさせるもんか!」
 普段やや気弱な彼ではあるが、自らの信念、守るべきもののためならば溶鉱炉のように熱くなることができる。それは彼の真っ直ぐさの現れであり、容易には敵方の主張に惑わされないということでもあった。シャンバラにはシャンバラ王国という国家がすでに存在する以上、新国家を興そうとすれば対立が生じるのは当然の話だ、ならば、
(「自分たち教導団員はシャンバラ国軍の一員としてこれを看過する事は許されない。クランジたちが建国に拘り続ける限り、叛逆者として討ち果たすしかない」)
 その結論が導き出されるのもけだし当然のことといえよう。セフィロトの枝より作られし弓を、引き絞っては矢を放つ。
 一方でゴットリープの頭には常に、冷静な計算があった。
 ビショップ(僧正)という駒は、クランジ勢の回復役あるいは補佐的な立ち回りを演じると予測したが、それが外れたと判るや柔軟に対応している。
「回復を行う役割の機体じゃない……だけど、遠距離主体の嫌な攻撃をしてくる相手だ」
「なら、やはりさっさと始末したほうが良さそうですじゃ」
 ゴットリープの言葉を受け、天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)が剣を手に跳躍する。本当にこれが老婆の動きか、流れる水のようにポーンたちの壁をかわすと、彼女はその奥部、ビショップに鎌鼬(かまいたち)のごとく斬りかかった。その素早い剣さばきも、目で追うのが難しいほどだ。
 さながら魔女の幻舟であるが、本当の『魔女』は綾小路 麗夢(あやのこうじ・れむ)なのである。
「支援するわ! 動き、止めてみせるから!」
 麗夢が右の掌を掲げると、そこに超自然の力が集まり激しい光を放射した。まるで地上に小型の太陽が出現したかのよう。直後、火術が尾を曳き一匹の龍のように飛びだし、幻舟の眼前のビショップを炎にくるんだ。クランジは身悶えして消火しようとする。これをさらに幻舟が突く。ゴットリープが射る。いいチームワークだ。
 ビショップを狙う三人を底支えするのが、レナ・ブランド(れな・ぶらんど)であることも忘れてはならない。
「行ッけェェェッ!!!!」
 怪我のたえない幻舟を、あるいは、レーザーを浴びるゴットリープを、レナの温かな力が回復していく。そればかりではない。魔法の力場がオートバリアとなり彼らを包んでいた。
 目を転じるとそこでは、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)が『ルーク』と対峙している。
(「ちっ、ローは兎も角、パイの方とは再戦してみたかったんだがな……」)
 いわゆるネームドクランジとなる『ロー』『パイ』に受けた苦い記憶はケーニッヒの中にも生きている。名を『ローラ・ブラウアヒメル』と改め味方陣営に加わったローはもう敵にはできないが、まだパイが危険人物であることに違いはない。
(「……まぁ、パイがこの方面の戦場に現れる可能性も無い訳ではないからな。一応、警戒はしておくか」)
 ルーキーという言葉の語源になっただけあって、『ルーク』はスロースターターのようだ。しかしケーニッヒに色々と考える余裕があったのはここまで、装甲が厚く、重厚なルークは戦線に加わるや脅威となった。担いだミサイルランチャーのような兵器に加え、右腕に金剛棒のようなものを装備し、振り回して攻撃してくる。
 軽身功を活かしてランチャー弾を回避し、ケーニッヒが体勢を取り直すのと、天津 麻衣(あまつ・まい)がルーク二体に攻めかかるのは同時だった。
「天神将来!」
 麻衣はルークの正面に立った。恐らくチェスの駒同様、ルークは直線攻撃を得意とするだろう。その正面に立つというのは決死の覚悟といえた。無論、それでいい。麻衣の狙いはルークの注意を惹くことなのだから。だがその決意は雄壮だが危険すぎた。すぐさま彼女は、金剛棒で膝をしたたかに撲たれ転倒したのだから。
「麻衣っ!」
 麻衣の双子の姉、天津 亜衣(あまつ・あい)が叫びを上げた。亜衣はポーン対応に追われていたが、麻衣を助けんと駆け出そうとした。
「亜衣、持ち場を離れるな!」
 ハインリヒが上空から鋭い支持を投げた。途端、亜衣はハッとなりポーンに集中する。
(「……悔しいけど、ハインリヒの言う通りだわ……」)
 普段はナンパ男と軽んじている彼が、作戦行動に臨んで峻厳な態度であることを内心、誇らしくも思うと同時に、動揺した自分を恥じた。亜衣の後ろにはアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)がいる。神矢 美悠(かみや・みゆう)もフラワしで援護してくれている。彼らを信じないでどうする。
「ただでさえ防御力の高い『ルーク』との戦いは長丁場が予想されるでヤンス! 支えきるでヤンスよ!」
 アンゲロは鼻息荒く、回復魔法で麻衣を癒し、
「鉄のフラワシを壁にする。ルークの攻撃、防げるだけ防いでやるよ!」
 美悠も勇ましく麻衣、そしてケーニッヒを助けるのだ。
 麻衣が敵を引きつけ、ケーニッヒが側面を突くという狙いだ。完全に狙い通りとは行かないものの、二体のルークは前方と側面、その両方のいずれを優先すべきか迷い、徐々にだがその牙城を崩されていった。
 クレーメックの傍らにあり、島本 優子(しまもと・ゆうこ)は不安げな面持ちだった。
 幸先は良い、作戦は上手くいっているように見える。連携によってウーバー・クネヒトは『ピース』を上回っていた。ピースが止められたためか、大量の量産型もシャンバラ勢によって封じ込められつつあるようにも思えた。
(「なのに……なぜ……」)
 なぜ、これほどにまで不安なのか。
 ヴァルナは、胃の底に横たわる重く黒いものを払拭できないでいた。