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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第2回/全3回)

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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第2回/全3回)

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13






「本当に際限が無いな」
「……ちょっと、マズくありませんこと?」

 溜息のようなクレアの言葉に、ノートが不安げに声を揺らした。
「無粋なことですねえ。朱鷺の楽しみの邪魔をしないで欲しいですよ」
 反対に、こちらは周囲に惜しげもなく散らばっている情報の欠片を、堪能できないのが気に入らないようだ。
 しかし、いずれにしろ。
「この状況を何とかしないと、かな?」
 天音が苦笑した。
 何度も復活を繰り返す茨女たちは、よほど先へ進ませたくないのか、ついに前方の道を完全に覆ってしまったのだ。このままでは、追いかけてくる彼女らに、いずれは退路も断たれてしまう。そんな中「道をこじ開けるしかないな」とクレアが言った。
「先ほどから見ていて感じたのだが……どうやら奴らは、通常の感覚とは違うもので、敵を認識しているようだ」
 封印を解かすまいとする”悪意”は、封印を解こうとする”意思”に反応しているのではないか、というのだ。とすれば、依り大きな意思に対して、茨たちは引かれていくはずだ。
「長時間は無理だが、一時的にでも引き付けることができれば……」
「その間に突破口をこじ開けられる、ということだな」
 クレアの言葉を引き継いでコウが頷き、打ち合わせする間を惜しむように、コウ達は可能な限り気配を殺すと、逆にクレアは意図的に士気を高揚させると、連れて来た親衛隊員を道の左右に振り分けると、派手に茨に攻撃を与えてその意識を向かせるように支持した。
 果たして。狙い通り、茨女たちは、クレアに気を取られたように左右に引き寄せられ、中央が一瞬、薄くなる。瞬間。
「よおし、行っけええ――!」
 レキが、その中央に向けて、ペンギンアヴァターラ・ロケットを放った。しがみ付いていたミアを、その上に乗せたまま、である。
「○×△□〜〜ッ!」
 声無き声の叫びと共に、発射されたペンギンロケットは、勢いそのまままに茨を突き破って、道が開かれていく。その僅かな道を、立ち上がったルカルカの四つの呪い影が突撃し、更に止めとして、レーザナギナタが放つ魔障覆滅が押し広げ、そこへ皆で突入した。……までは、良かったのだが。
「あ……止まり方、考えてなかった」
 呟くレキの向う先で、どーん、という大きな衝撃音が響いていた。



 結果的に。
 レキの放ったロケットは、一般男性の二倍はあろうかと言う高さの大きな扉に、蝕むようにして茨を所狭しと巻きつかせ、その中央に埋まるようにして立ち塞がる巨大な茨女……恐らくは茨女たちの本体と思われるそれの足元に突き刺さっていた。
「わ〜っ、ミア、ごめーん!」
「……こんな案にのったわらわが愚かじゃった……」
 何とか激突する直前には手を離したようだが、慌てて駆け寄ったレキが、転がっているミアにヒールをかけたものの、その深く深く沈んでしまったミアの機嫌が回復するために、かかるクレープ代はいかばかりか。
 ともあれ。
「あれが本体で間違いなさそうだな」
 ロケットの直撃を食らいながらも、それをダメージとも感じていないのか、巻きついた茨が、ロケットが抉った穴をふさいでいく。そればかりか。
「……ちっ」
 ダリルが思わずといった様子で舌打ちを漏らした。
 今まで来た道を覆っていた茨が、ずるずると地面を引きずるように蠢いたかと思うと、本体――茨の女王とも言うべきそれに集まって一つの茨になっていくのだ。
 胴は女性らしいフォルムを辛うじて保っているが、伸びた腕はいくつも枝分かれし、先は槍のように尖っている。下半身は茨そのもので、動けはしないだろうが、その代わり近寄る者を拒むように、棘をむき出しにして生い茂っている。
 その容姿に、厳しい表情で臨戦態勢に入った皆だったが、その前に、誌穂不意に飛び出してきた。
「お願いです、扉を開けてくださいませんか?」
 茨の女王へ向ける目は、真剣だ。
「私たちは……私は、大切な人を守りたいんです」
 訴えたが、茨の女王は、声が聞こえていないのか、反応を示すでもなく茨を束ねると、腕を一本の槍と化すと、誌穂へ向けてそれを突き出してきた。
「――ッ!」
 瞬間、その行動を予測していたのか、弾かれたように飛び出したセルフィーナが誌穂の前へ体を割り込ませ、混沌の盾でそれを防いで事なきを得た。そのまま後退した誌穂は、表情を引き締める。茨女が話の通じる相手では無いということは、はっきりした。ならばあとは、戦うしかない。
 皆が武器を構えなおした、その時だ。
「あれ、は……?」
 茨の女王の胸元と思しき場所に、酷く判り辛いが、何かの文字らしきものが見えたのだ。
「あれは……、あの刻印、どこかで見たような……」
「記憶違いではないかのう」
 さっくり、あっさりと即答する山海経に、ノートは「違いますわよッ!」と声を荒げた。
「つい最近のことを、忘れるわけが……あっ」
 荒げたついでに、自分の言葉で記憶を引きずり出されたのか、はた、と気付いたようにそうですわ、とノートが再び声を上げた。
「あの地下の通路を塞いでいた壁にあったものと、多分同じものですわ!」
「多分?」
 思わず、といったように、ツッコミを入れたのは、これも山海経だ。途端、自信なさげにノートの声が小さくもごもごとなる。
「……なんとなぁく違ってもいるような気もするというか……こういうのは望の仕事なんですのよっ」
 殆ど逆切れに近いが、その言葉には天音も興味深そうにしながら目を細めて、茨の女王から刻印を探し出すと「ふうん?」と、そんな場合でも無いにも関わらず、口元に小さく笑みを浮かべた。

「つまり、この封印をかけた真の王と、アルケリウスの一族を滅ぼした存在は、無関係じゃあないのかもしれないね」