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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第2回/全3回)

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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第2回/全3回)

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 皆が臨戦態勢を取ったのと同時、セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)の発動したオートガード&オートバリアが皆を包み込み、それとほぼ同時に、誌穂が素早く呪文を唱えていた。
「出でよ、召喚獣、フェニックス!」
 声高に喚んだが、その呪文にも魔力にも問題がなかったと言うのに、召喚獣は姿を現そうとしない。ある程度は予想していたのか、誌穂の顔は苦い。
「駄目ですか……」
「固定化してあるあの入り口からでしか、ここへは入れない、ってことになるのかな」
 そうしている間にも迫ってくる茨の女たちを、カードで切り払いながら天音が呟くように言った。
「ちなみに、そちらから召喚獣をこっちに向わせるのは可能かな」
 封印の外へと通信を飛ばすと、『難しいです』と浩一が返してきた。
『出来なくは無いそうですが、エリザベートさんの負担が増してしまいます』
 そう伝える通信機の向こうで「そのくらいはなんとも無いのですぅ」「やせ我慢は駄目ですよぉ」という、明日香とのやり取りが聞こえてくる。通信は兎も角、大きなエネルギーを通過させるのには、入り口を更にこじ開ける必要があるのだろう。
「外から呼び込むのは、諦めた方が良さそうだね」
「残念」
 天音の言葉に、ルカルカが肩を竦めた。それ以上に残念そうだったのがカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)だ。
「ちまちまやるしかねぇのか」
 いっそ一気に焼き尽くせたら良かったんだがな、と続けたのには、ミアが首を振った。
「この空間がどういった性質かわからんからの、火は有効じゃろうが、酸素の消費を考えれば、多用はできるだけ避けるべきじゃろう」
 勿論、茨と言う性質上、有効なのは間違いは無いので、使うな、というわけにもいかないが、と補足したミアに、そうだね、と天音も同意する。
「茨は記憶に根を張ってるみたいだから、延焼されても困るし」
 最後にダリルが、難しい顔で頷いた。
「いずれにしろ、本体に影響が無いと必ずしも言えない以上、あまり広範囲に影響しそうな技は控えた方がいいだろうな」
 言いながら、茨のみにダメージの限定されたブライトマシンガンを掃射していく。その傍では、銀色の装甲をした魔鎧、ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)を纏った夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)も、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が取り出した光条兵器で、茨女を蹴散らしていく。
「脆いな、この程度ではわしを止められないぜ!」
 そうやって甚五郎が気合と共に茨女を倒していく一方、コウの巨獣狩りライフルが、次々と茨女達を射抜いていく。なるべく周囲に被害の出ないように、かつ一撃で仕留められるようにと、敵の女性らしいフォルムの中心……その細いウエスト部分を貫いていく。耐久力は然程なく、その一撃で容易く上半身を吹き飛ばされて倒れるが、問題はその後だ。倒れた下半身に、他の茨が絡みついたかと思うと、それらは直ぐに絡み合って、編み物でも編み上げるかのように、新しい茨女が復活するのである。
「しかし……キリがないな」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が、その戦況に眉根を寄せた。肝心の記憶の封印がなされてる場所へと続くこの長い道は、延々とその脇に茨が茂っており、その茨からは次々と茨女たちが生まれてくるのだ。
「閉鎖空間の中だ、エネルギーの供給限界はある筈だ。本当に無限に湧き出すわけでも無いだろうが……」
 アーデルハイト自身にすら解かせない程の力を持った封印を施すような相手の作り出す”悪意”の化身だ。一体一体が大したことは無いとは言え、このままではこちらの体力の方が底をついてしまいかねない。
「引き返すことはできないからな、体力を温存しつつ、慎重に進みたかったが……」
 コウも苦い顔をする中、二人が何を考えているかを察したように、ライフルで援護している強盗 ヘル(ごうとう・へる)
に背中を預けながら、自身もカタールで襲い来る茨女をなぎ払いながら、こくとザカコが頷いた。
「ええ、いちいち相手をしていてはキリがありません」
 一点突破。
 その意見に皆も頷き、ダリルのマシンガンの弾で一瞬できた隙間に、レキが飛び込んだ。
「行っくよお……!」
 手にした黄昏の星輝銃を拳に見立てる形で放たれた則天去私が、茨の引きちぎるようにして道を作っていく。その道を途絶えさせないように、全員が一斉に地面を蹴って、各々の武器で、直ぐにも再生して襲い掛かってこようとする茨を寄せ付けないように振り払いながら道を駆けていく。
「追いかけてはくるようだが、足は遅いようだな」
 振り返った草薙が呟いた。それにどうやら、茨女は接近を感知したところから生まれてくるようで、再生のタイミングをずらしてフェイントをかけてきたり、やられたふりをして潜んでいたり、といった類は無い。こちらに向ってくるのも、反射行動に近いようだ。
「知性が今一歩なのは、幸いと言うべきかな?」
 その様子に天音が笑ったが、表情には余り余裕は無い。何しろそのぶん数が多いのだ。一点突破で出来るだけ余力を残すように戦ってはいるものの、道の長さも判らないのだ。まだ先の長そうな道を眺めて、天音はため息をつくように「ブルーズ」とパートナーの名を呼んだ。それだけで意図を悟ったように、ブルーズは口を開くと、驚きの歌を空間内へと響かせる。戦闘の傍らにそれを耳に入れながら、しかし、とミアが眉を潜めた。
「しかしまあ、厳重に封じたもんじゃのう」
 そうだな、とヘルが頷きながら、その足を止めぬまま、難しい顔をした。
「しっかし……なんかこう、名前を隠している様だが、知られたらマズイ事でもあるのか?」
「そうだね」
 天音が頷き、戦闘を自身の式神に任せながらの朱鷺はふふ、と楽しげに口元を笑みに引き上げた。
「楽しみです。そこには、朱鷺の知らない知識に溢れているはずです」
 知的好奇心による興奮が抑えられない様子の朱鷺に、天音も僅かに苦笑したが、それを打ち消すように、甚五郎が「難しいことは後で考えようぜ」と茨女を払いながら言った。

「まずはとっとと、ゴールに辿り着かねえとな!」