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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション


【1】SCHOOL【1】


 天御柱学院生徒会室。
 昼休みの喧噪を遠くに聞きながら、生徒会庶務の藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)は全校生徒に配布するプリントを作成していた。昨今、海京を騒がせている事件に関する内容だ。まだ事件の全貌が見えない状況だが、とは言え無視するわけにもいかない。生徒が巻き込まれる可能性がある以上、生徒会は何かしらの対策を講じなければならない。
「……”不審な人物を発見した場合、速やかに生徒会や風紀委員に連絡するように”ですか」
 サイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)は後ろから読み上げる。
「今、注意を呼びかけるにしてもこれが限界だよ。会長たちの捜査に進展があればまた別なんだけど」
「ええ、そう言えば……あなたは会長の捜査に付いて行かなくて良かったのですか?」
「オレが行っても邪魔になるだけさ。自分の力をそれほど過大評価してないよ」
 裄人は生徒会に寄せられてるメールをチェックする。
「……ああ、また例の魔法少女のクレームが入ってるな」
「ああ、アイリさんですか?」
「カフェテリアでまた勧誘行為をしてるみたいだ。なんと言えばいいのか、彼女も懲りないな……」
「しかし噂では、彼女は例の事件の真相を知っているらしいですよ」
「今朝、会長と話してたってあれだろ? オレも小耳に挟んだけどどうもなぁ……」
「気持ちはわかりますけど、でも、デタラメを言ってるようにも見えないんですよね、不思議なことに」
「その辺をハッキリさせるためにも、一度話を聞いてみたほうがいいかもな」

「ただいま魔法少女同好会の会員を募集していまーす!」
 天御柱学院のカフェテリア。アイリと寿子は同好会の会員募集を呼びかけていた。
「今、海京は謎の組織クルセイダーの脅威にさらされています。私と契約して魔法少女になってくださーい!」
「お、お願いしますぅ……」
 傍らで同好会の申請書を書きながら、レオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)は眉を寄せた。
「しかし魔法少女同好会と言うのはどうだろうか。君の前科の所為か、どうも遠巻きに見られている気がする」
「そ、そうかもしれません……」
「どうだろう、ここは違う名前で会員を集めてみては。例えば『スーパーロボット理論研究会』と言うのは?」
「スーパーロボット!」
 寿子は目を輝かせた。
「寿子殿の得意分野だ。それなら会自体は寿子殿に任せる事が出来、アイリ殿は会を隠れ蓑に活動を行う事が出来る。一石二鳥だ。ああ、ちなみに顧問には普通科の大文字勇作教授をと考えているんだが、どうだろうか?」
「だ、大文字先生を! ほ、ほ、本当に?」
「まぁ暇そうなのが彼しかいなかったのだがな。しかし会の理念からすれば適材適所だろう」
「うん! うんうん!」
「茉莉殿……副会長が話はもうしているそうだ。あとは会員を集めて、この申請書を出せばいい」
「大文字先生が来てくれるなら頑張るよ!」
 ロボットマニアの寿子は、スーパーロボット研究者の大文字先生の名前を聞いて俄然やる気になった。
「ただいまスーパーロボット理論研究会の部員を募集していまーす! 一緒にスーパーロボットについて熱く語りましょう。あと夏には同人誌も出したりすると思います。今年はコームラント×ジェファルコン本を書きたいです。新型だからって気取ってる第二世代機を、コームラントの大型ビームキャノンで嬲り倒す……そんな内容です!」
「あ、あと、魔法少女に興味のある人もお待ちしてまーす!」

「……海京でまた殺人事件か。なんか最近、どうしちまったのか、超物騒じゃん?」
 トゥーカァ・ルースラント(とぅーかぁ・るーすらんと)は携帯に流れるネットニュースに眉をひそめていた。
 カフェテリアにクドラク・ヴォルフ(くどらく・うぉるふ)と来たのだが、中は大変込み合っている。
「最近、と言うか厳密には二ヶ月前からだ。とにかく話はあとだ。さて、空いてる席は……」
「お〜、アイリじゃ〜ん! 何してんのぉ!」
「!?」
 アイリ達を見つけたトゥーカァは手を振った。
 彼女は以前、アイリ達と一緒にシャドウレイヤーの中で戦った事のある仲間のひとりだ。
「あ、トゥーカァさん」
「……スーパーロボット理論研究会? なにそれ?」
 隣りのテーブルに腰を下ろした二人に、アイリはかくかくしかじか事情を話す。
「ふーん、面白そうなことやってるじゃん。同好会を隠れ蓑に魔法少女活動か、やるじゃんかー。なっ?」
「ああ」
 クドラク・ヴォルフ(くどらく・うぉるふ)は頷いた。
 それから、テーブルにテキストを広げた。整備科の授業は高度なため、午後の授業の予習も欠かせないのだ。
「良かったら、トゥーカァさんも入ってください。今、クルセイダーと戦う仲間を集めているんです」
「ま、別にいいけど。面白そうだし。てか、最近の事件の犯人がそのクルセイダーって奴なの?」
「ええ、おそらく」
「はー、しっかし、会長も風紀委員も情けないじゃん。二ヶ月もあって捜査は進展してないしぃ、てか、アイリのほうが敵のことよく知ってるとか、ほんと仕事しろって感じじゃんよー。あいつら全然役に立たないじゃん。なっ?」
「ああ」
 クドラクは頷いた。
「シャドウレイヤーの存在を知らない彼らでは、捜査に行き詰まるのも無理もないと思いますけど……」
「ふーん。あ、そうだ、もう夏じゃん?」
「え?」
「この同好会で夏合宿しようじゃん。日本とかでさー、ほら、日本の夏祭りとか良い感じじゃん」
 アイリはため息を吐いた。
「……呑気なことを言ってる場合じゃありません。事件を放っておいたら、夏休みなんて無くなっちゃうんですよ」
「えー、絶対楽しいのにぃ……ん?」
 トゥーカァはクドラクは顔を見合わせる。
”夏休みなんて無くなっちゃう”?
「あ……えっと、なんでもないです。すみません、忘れてください」
「超ウソじゃん。絶対何か隠してるじゃん。いいじゃん。いいじゃん。教えるじゃん!」
 後ずさりするアイリの口をむにーと引っ張る。
「ひゃめふぇくらふぁい〜〜」

 涼風 淡雪(すずかぜ・あわゆき)は二人がじゃれ合うその横で、ふとテーブルの前に足を止めた。
 会員募集ちらしの赤線が引かれた、謎の組織クルセイダーの魔の手から海京を守ろう、の文字を見つめている。
「……とうとうクルセイダーが来てしまったのね」
「……え?」
 思いがけない淡雪の言葉に、アイリは目を丸くした。
「アイリ・ファンブロウ、持っているのでしょう魔法少女仮契約書を……、私が契約するわ」
「まさか、あなた……。クルセイダーを知っているの?」
「私は神と人間とを仲介し、神の恵みを人間に与える秘跡の執行者。クルセイダーとは蒼き満月の日に邂逅して以来、互いに宿敵と覚え、幾多の戦い(エンゲージ)を毎夜繰り返してきたわ。でももう一人の戦いには終焉が来た。アイリ・ファンブロウ、これからは共に同じ道を往きましょう。我等が敵に神の恵みによる魂の救済を……」
「も、もしかして私と同じ、いえ、近い未来から来た未来人なのですか?」
「過去は哀しみの泉の底に沈めてきた。語るに及ばないわ、ただ今は目の前の道を歩むだけ。それが宿命(さだめ)」
「ご、ごめんなさい。何か辛い事があったのね……」
 アイリは契約書と同好会の申込書を渡した。
「同好会……。人の理を捨て、神域へと踏み入れた私が、また仲間と歩むことになるなんて、皮肉なものね」
 遠い目をする淡雪だが、全部妄想である。彼女はクルセイダーと戦った事はないし未来人でもない。ただ、彼女の中には存在するのだ。これまでクルセイダーと死闘を繰り広げてきた、と言う自分設定が。
 重度の厨ニ病患者のため、現実との剥離が激しい彼女なのだが、アイリとの会話は奇跡的に噛み合っていた。
「ユキちゃんが魔法少女になるなら、私も魔法少女になります」
 パートナーのマルガレーテ・フォン・ファウスト(まるがれーて・ふぉんふぁうすと)も契約書に手を伸ばす。
 ところが、その手を淡雪が掴んだ。
「この先何が起ころうとも、”魔法少女になりたい”なんて決して思っては駄目よ、マルガレーテ」
「ど、どうしてですか?」
「それは……」
(何度も何度もマルガレーテと出会って、それと同じ回数だけ、死ぬところを見てきたから……)
「……悲劇の輪環から貴方を解き放たなくてはならないの。だから、お願いわかって」
 淡雪に気圧され、マルガレーテは手を引っ込めた。
「……わかりました。あなたがそう言うからには、きっと深い理由があるのでしょう」
 ここまで全部妄想、そしてここからも全部妄想。