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星影さやかな夜に 第一回

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星影さやかな夜に 第一回
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 十章 凶兆

 観光名所が集まる中央部から少し外れた場所。
 そこでコルニクスはコルッテロの部下からの連絡を受けていた。

「チッ、そうか。アジトの場所まであいつらにバレてしまったのか」

 コルニクスは苛々しげな様子でそう呟き、通信機の連絡を切った。
 そして、顎に手を添えしばらく考えると「苦肉の策だが仕方無いか……」と呟き、通信機を操作する。

「俺だ。コルニクスだ」

 コルニクスがは雇う傭兵の中でも一、二を争う好戦的な思考の持ち主である緋柱 透乃(ひばしら・とうの)達に通信を繋げた。

『はーい、なに? やっと私達の方法を実行してもいいの?』
「ああ、少々特別警備部隊の奴らが情報を集めすぎているのでな。
 ……計画の手前、カーニバルにはあまり影響を与えたくはなかったが」
『ふーん、まぁ、私はおまえらの計画を知らないし?
 まぁ、知っていたとしてもおまえらの野望になんかこれっぽちも興味がないから、思い切りやらせてもらうよ?』
「ああ、好きにやれ。やるのなら、やり過ぎぐらいが丁度いい」

 コルニクスはそう言うと、通信機を切った。
 と、一緒に行動している託がコルニクスに話しかける。

「へぇ、なにをするおつもりで?」
「なに、ただの騒ぎを起こしてもらうだけだ。
 特別警備部隊の者達が暢気に情報収集などが出来ぬようにな」

 ――――――――――

 動かない時計塔周辺。
 透乃はコルニクスからの連絡を受け、大きく伸びをした。

「はぁ〜、やっとだよ。これで戦うことが出来るよね。
 芽美ちゃん、陽子ちゃん、準備は大丈夫?」

 透乃の言葉に月美 芽美(つきみ・めいみ)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は頷いた。

「緊急時に一般人の避難経路となりそうな場所の確認は終えました」
「……殺す準備ならいつでも出来ているわよ?」
「そう。じゃあ早速やっちゃおうか。ここで陽子ちゃんとは一先ずお別れだね」

 透乃の言葉に、陽子は首を縦に振り、人ごみに紛れるように歩いていく。
 透乃はその後ろ姿を見送ってから、芽美にお願いをした。

「それじゃあ、芽美ちゃん。手ごろな一般人を殺してもらえる?
 そうしたら後は私が敵を引き付けておくから、殺すのを続けてね」
「ええ。分かったわ」
「ふっふー、待ちわびたんだ。みんなが気づくよう、いっぱい殺してね」
「言われずとも」

 芽美はそう言うと、<隠れ身>で隠れながら人の集まる場所に歩いていく。
 そして、観光客が一際集まっている地点に来ると、ゆっくりと<則天去私>の構えを取った。

 ――――――――――

 動かない時計塔周辺。
 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)はコンビを組んで私服で巡回警護に当たっていた。

「んー、物騒な街だとは聞いていたけど、思った以上に事件は少ないなぁ」
「それだけ特別警備部隊の警備が上手くいっているということでしょう。
 一般警備や決まり切った誘導や交通整理の類はトマスが中尉の権限で多くの兵士達に割り当てているの。
 おまけに特別警備部隊の実動班の面々も一番犯罪が起こり易そうな観光名所に集まっている。そう易々とは起こらないわよ」
「そうだよなぁ。トマスや魯先生の作戦だもの、上手く行くに決まっているか……」

 テノーリオがそう言い終えるより先に、一際甲高い女性の悲鳴が上がった。
 二人は悲鳴が上がった方向に目をやる。そこにはわらわらと野次馬が群がっていた。

「――事件か?」
「みたいね。急ぎましょうか」

 二人は会話をそこで切ると、人ごみを掻き分け野次馬のほうへ走っていく。

「おっと、ごめんよ!」
「道を開けてください」

 二人はそして、野次馬が集まってきた原因を見た。
 それは数人の観光客の無残な死体。
 肉がひしゃげ、胴体は半分ほど千切られている。顔には何が起こったのか分からない、といった表情を浮かべていた。

「……ッ!」

 テノーリオは充満する血と肉の匂いに、思わず鼻を押さえ顔を歪めた。
 ミカエラは無残な死体に近寄り、死後硬直が始まっていないことを確認すると、テノーリオに言った。

「……テノーリオ。犯人はまだこの近くにいるわ。
 この場所に集まる特別警備部隊の実動班に方にご連絡を」
「ああ、分かった!」

 テノーリオは返事をすると、携帯電話を取り出し、リーダーの梅琳に連絡を始めた。
 三回のコール音の後、梅琳は電話に出た。

「梅琳か!? 不味いことが起きた! 今、殺人事件が起こった!」
『殺人事件!? 場所は!?』
「動かない時計塔の周辺だ! 犯人はきっと近くに――」
『さっきの悲鳴はそれね! 分かった、みんなにも連絡をする! テノーリオもみんなに連絡をまわして!」
「…………」
『テノーリオ、聞いているの!? テノーリオ!』

 梅琳が名前を呼んでいる。声は聞こえている。耳に届いている。
 それでもテノーリオは一言も返せなかった。
 遥か前方で、透乃がこちらを見つめながら、嘲笑の笑みを浮かべていたからだ。
 そして、透乃は首に親指を突きつけ、ゆっくりと口を動かした。

『わ・た・し・が・や・っ・た』
「――ッ!」

 その言葉を読み取ったテノーリオは、伝えるためにどうにか口を開く。

「……梅琳。殺人事件の犯人らしき奴が分かった」
『え!? 誰? 誰なの!?』

 テノーリオは息を飲み、伝えるために口を開く。

「……白竜が配ったチェックリストにあった契約者の一人。緋柱透乃だ」