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星影さやかな夜に 第一回

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星影さやかな夜に 第一回
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リアクション

 ハイ・シェン所縁の地の近くの路地裏。
 そこでは戦闘が行われていた。
 しかし、それは戦闘というにはあまりにも一方的なものだ。

「はぁ……はぁ……」
「どうしたのじゃ? それで終わりか?」

 傷だらけの動けないリュカを庇うために前に立つ明人と、巧みに暗器を用いて戦う刹那。
 戦い慣れしていない一般人と、裏稼業で戦い慣れしている契約者。差は歴然だ。

「ふむ……このままでは悪戯に傷が増えていくだけじゃぞ?」
「……ッ! うぁぁぁあああああ!!」

 明人は武器も持たず、ただ刹那に突撃する。
 刹那はそれを軽やかに回避すると、《柳葉刀》で胸を切り裂く、蹴りを放つ。

「ッ、がはっ……!」
「それみろ、言わんこっちゃない。
 ……どうじゃ、彦星。その獣人をわらわに渡すなら見逃してやってもよいぞ?」

 刹那の言葉に、明人は迷い無く首を横に振る。
 それを背後で見ていたリュカは、涙目のまま言った。

「もう……もう……いいよ。明人くん。私のことはいいから……」
「……嫌だ」

 明人は背中越しに、リュカに伝える。

「僕が、嫌だ。君を見捨てるのは、嫌だ」
「明人くん……」
「君が、逃げられるぐらいの時間は稼ぐ。
 だから、立ち上がれるようになったら、早く逃げて」
「で、でも……」
「いいから! お願いだから、僕に君を守らせてくれ!!」
「……っ」

 明人は身体中から血を流しつつ、刹那を睨む。
 刹那は刀にかかった明人の血を振るい払って、ガチャリとまた構えなおす。

「茶番は終わったかのう?」
「……ああ、かかってこいよ」
「大口を叩けるほど余裕があるとはの。では、行くぞ……!」

 刹那は地を蹴り、駆けた。
 明人はそれを迎え撃とうと、闇雲に拳を振りぬこうとして――。

「――おい、坊主。中々の根性見せてんじゃねぇか」

 二人が衝突するよりも早く、<クライオクラズム>による闇黒の凍気が刹那に命中した。

「ッ。なんじゃ……!?」

 刹那はそれを受けきるが、後方に吹き飛ばされる。
 視線の先には、二人の後方に、魔法陣を展開するベルクがいた。

「良く頑張ったな。あとは俺達に任せておけ。――フレイ!」
「はい、マスター。了解です」

 ベルクの声に呼応して、フレンディスが弾丸のような速度で刹那に接近。
 《忍刀・霞月》を手に、刹那に斬りかかる。

「申し訳ありませんが、ここで私のお相手をしていただきます」
「くぅ、なんじゃ、おぬしらは……!」

 二人が切り結ぶ。
 突然の展開にあっ気にとられる明人とリュカに、えっへんと胸を張ったポチの助が近づいた。

「さぁ、感謝するのです。
 あなた達を見つけたのは僕ことポチの助の力があってこそ――」
「あ、ありがとう! ポチくん」

 立ち上がれるようになったリュカは、ポチの助に近づき手を両手で握った。

(う、うわわわわ……!)

 間近で彼女の顔を見たポチの助は、不思議な感覚を味わった。
 頬が自然と熱くなり、どくんどくんと自分の鼓動が早くなる。

(お、落ち着くです。どうしたんですか、僕!?)

 色素の薄い大きな瞳。長い睫。小さな唇。華奢な身体。
 その全てが魅力的に思えて、ポチの助はリュカから目が離せなくなった。

「? ポチくん……?」

 リュカが首を傾げ、不思議そうにポチの助の顔を覗きこんだ。
 自分を見上げる瞳のお陰で彼女の可愛さは倍増し――。

「ちょっと離れろ、君ら。ポチくんが困っているだろ」

 無理やり、明人が二人を引き離した。勿論、嫉妬したからである。

「な、なにしやがるんですか! この眼鏡野郎!」
「……礼だけは言っておくよ、ワン公」
「ワン公!? こんの初対面のくせにハイテク忍犬の僕に向かって――」
「おい、あんたら」

 フェイミィは呆れた声で三人に声をかける。

「そういうことは後でやってくれ。今はちょっとそれどころじゃねぇんだぜ」

 フェイミィはそう言うと、《天馬のバルディッシュ》を切り結ぶ二人とは反対方向に構えた。
 視線の先にはゆっくりとこちらに近づいてくるリデル・リング・アートマン(りでるりんぐ・あーとまん)帝釈天 インドラ(たいしゃくてん・いんどら)の姿があった。

「お姫様を助ける騎士にしては人数が多すぎだろう?」
「わーっはっはっは! 雷霆神さまのお通りなんだよ!」

 二人はそう言うと、各々の武器を構える。
 まず先に動いたのはリデルだ。二本の《呪鍛サバイバルナイフ》を手に、《ロケットシューズ》と《彗星のアンクレット》を併用した目にも留まらぬ高速機動でフェイミィに接近。

「私は障害だ。だから、邪魔をさせてもらうぞ」
「っ、やなこったッ!」

 フェイミィが大斧を振るい、肉迫したリデルを斬る。
 が、それは幻影。リデルによる<ミラージュ>だ。本体はフェイミィの右にいて、すかさず顎に向けてハイキックを放った。

「させない……!」

 しかし、リネンがそれを《カナンの剣》を伸ばし、防御。
 リデルは蹴りが止められるやいな、素早く後退。そして、二本のナイフを胸の前で交差した。
 リネンが大声で問いかける。

「なんで、あなた達はコルッテロに味方するの……っ?」
「雇われにも法はあるのさ。雇用主に裏切られない限りは、こちらも雇用主を裏切らない……とな」

 リデルはそう答え、<アルティマ・トゥーレ>を発動。
 ナイフの刀身に冷気をもたせ、リネンに突撃を開始。

「とはいえ、契約に反しない程度に私自身の楽しみを優先していることについては自覚もしているし、特に反論する気は無いがね」

 リネンはその攻撃を剣で受け止める。
 金属の悲鳴と氷の粒が弾け飛び、火花を散らす。
 と、リデンは素早くその場から飛び跳ね、後方に跳躍。
 同時にその場所に向けてインドラの<ヒロイックアサルト>『インドラの矢』が放たれた。

「わーっはっはっは! 雷霆神さまのいかずちなんだよっ! 痛いから気をつけてねっ!」

 巨大な塊のような雷電が、リネンとフェイミィに飛来。
 轟く轟音を鳴り響かせ、二人に着弾した。

「わーっはっはっは! 雷霆神さまのいかずちはどうっ!? 痛かったら言ってねっ!」
「……ええ、洒落にならないぐらい痛いわよ」

 そう言ったのは、リネンを押しのけ、大斧で防御したフェイミィだ。
 フェイミィは背中越しにリネンに言った。

「こいつらはオレに任せて、先に行けっ!」
「うん、分かった……!」

 リネンは頷くと、明人とリュカに言う。

「私を信じて……なんて難しいと思うけど。私は味方よ。
 私も、あなたと同じだったから。だから、今は私と一緒に逃げてくれる?」
「はい!」
「……でも、どうやって逃げるんですか?」

 明人の問いは最もだ。
 ここは路地裏。逃げるには二つの方向しかない。けれど、それは二つの戦いによって閉ざされている。
 と、ポチの助が胸を叩き、「僕に任せてください!」と言った。

「《ブルーブレードドラゴン》!」

 ポチの助がそう叫ぶと、《ブルーブレードドラゴン》が空から飛来。
 四人の傍に着陸し、四人はその背中に乗り込む。そして、ポチの助が命令すると、ドラゴンは翼をはためかせ、空へと飛んだ。

「ご主人様! 僕行ってくるです! また、後で会いましょう!」

 ポチの助の言葉に、フレンディスは戦いながら、頷いてみせる。
 ベルクは離れていくポチの助を見上げ、叫んだ。

「ちゃんと責任もって守れよ、ワン公!」
「……っ。言われるまでもないです! このエロ吸血鬼!」

 その言葉を最後に、ポチの助達は見えなくなった。

 数時間後。
 これで追いつくことが出来ないと判断したリデルが、最大級の<光術>で目くらましを行い、刹那とインドラと共に撤退を行った。