リアクション
▽ ▽ 「さあ、殺し合おう……と言っても死ぬのはテメエだけどな!」 雄叫びと共に、最前線に立つマーラの戦士、トーガが敵陣に突っ込んで行く。 次々と敵を屠るその手には、魔剣フランベルジュ。 彼女は、常にトーガと共にあり、彼を信じ、彼に尽くした。 フランベルジュの力を引き出したトーガの強さは、彼女の誇りだった。 最後まで、彼と共に戦い抜きたい。 それがフランベルジュの願いだった。 △ △ すれ違った後で、二人は同時に振り向いた。 「あの、少々よろしいですか?」 フランチェスカ・ラグーザ(ふらんちぇすか・らぐーざ)は、鬼院 尋人(きいん・ひろと)に声を掛ける。 「うん。オレも訊きたいことが……もしかしたら、同じ用件かな?」 すれ違った時に、脳裏に閃いた記憶があった。 この人は、同じ世界に生きた人かもしれない。その予感は当たっていた。 「もしよければ、どんな記憶か訊いてもいいかな。 話せる範囲で構わないけど」 「……魔剣でしたの。 担い手に捨てられたことを、思い出しましたわ」 「……ごめん」 「構いませんわ。前世でのことですもの」 ヤマプリーとスワルガの戦いも末期の頃。 あんなにも信頼し、信頼されていたと信じていたトーガから、何故裏切られたのか、フランベルジュとしての記憶は、戻っていない。 正直、今は戸惑いの方が強かったが、彼との間に何があったのかを、知りたい。そう強く思う。 彼は今、誰なのだろう。 「オレも、殺されかけて崖から突き落とされたりしたけど……」 「お互い、前世では大変でしたわね」 けれど、尋人が今、思い出した記憶は、それとはまた別のものだった。 ▽ ▽ 「目が覚めましたか? 大丈夫?」 そう言って自分の顔を覗き込む、美しい少女のディヴァーナ。 尋人の前世、地のアシラ、テュールは、呆然と彼女を見上げた。 「……此処は……?」 「もう大丈夫。あなたは、川から流されて来たのです」 大怪我をして流されてきた彼を救ったのは、ミルシェだった。 「川から……?」 テュールは、思い出そうとして、目を見開いた。 解らない。何も憶えていない。 「馬鹿な……私は、何処で、何を……」 思い出せない。 自分のことも、何一つ記憶がなかった。 △ △ 「……踏んだり蹴ったりってやつなのかなあ……」 「いいえ。 更に思い出せば、いいこともあったに違いありませんわ」 フランチェスカは微笑む。 「はじめは、白昼夢を見たのかと思いましたわ。 けれど、こうして出会えたのも、我が神のお告げ……いえ、お導きですわね。 同じように何かを思い出した人は多くいる、と」 「導き……?」 フランチェスカは、教会にて神に仕える身である。 なので、知らずにいると不審な内容の言葉もあるが、前世云々言ってる時点で、自分もあまり変わらないか、と尋人は苦笑した。 「私は、きっかけとなった男の人を探して、話を聞きたいと思っているのです」 その為に、同じ状況の人を探して、協力したいと思っている。尋人はそれに頷いた。 「……うん。オレもだ。 多分、会ってるんだと思う」 妙な夢を見るようになり、こうして記憶を蘇らせるようになったということは。 「……何となくだけど、もう一度会いたい」 「――あんたもなのか?」 桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)も同じように、“銀髪の男”を捜す半ばで、尋人達と出会った。 ぎゅっと目を眇めているのは、最近、視界がブレているような感覚が頻繁に起こるからだ。 右目と左目で、ものがブレて見えるような気がする。 初めて奇妙な光景を『思い出し』て以来、右目が赤く変色して戻らなかった。 今迄にも、戦闘の時など、感情が高ぶった時にこうなることはあったが、今は平時の時も常にである。 「そもそも、この体質……特異体質なのかとは思っていたが、一体何なんだ……」 原因が知りたい。 右目が変色した原因である男を捜し出そうと行動していた、その途中のことだった。 「俺もだ。時々、何かを思い出す感覚がある。 この奇妙な感覚の真相は、解らないが……」 「同じ状況の人達の間では、『前世を思い出している』という認識がされているようですわ」 フランチェスカの説明に、 「前世?」 と訊き返した。 「これが、俺の前世だと?」 馬鹿らしい、と笑い飛ばし、切り捨てることはできなかった。 本能的に、納得できるだけのものが、煉の中にあったからだ。しかし。 (前世、だと……?) 知らず、煉の指先が震えた。 もしもこのまま、記憶を完全に取り戻し、復讐の相手と出会うことにでもなったら、どうなるのか。 (その時、俺は、冷静でいられるのか?) 無理だ、と思った。 自分は、既に前世に影響されている。 (――これは、事態がはっきりするまで、あまり人に出会わないようにするしかないか……) ――二人は、煉とフランチェスカは、未だ思い出してはいなかった。その因縁を。 ▽ ▽ 「これを」 シュクラは、祭器であることを生かして密かに、幽閉されたアザレアの元を訪れた。 そこでアザレアに、大きな、赤い宝石を託される。 「どうか、これを――――」 記憶はそこで途切れ、また別のシーンに切り替わった。 シュクラは、アザレアから託された宝石を手に、何処かへ向かっていた。 だが、その途中で、スワルガのマーラに阻まれる。 逃げることはできなかった。 (ごめんなさい、アザレア様……!) 信じて託されたのに、護りきることができなかった。 ああ、自分にもっと力があれば。 マーラのナゴリュウが振り上げる剣を、絶望の思いで見つめながら、最後まで大事にその宝石を抱きしめつつ、シュクラはアザレアに詫びた。 △ △ 「………………」 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、前世には興味がないし、存在自体に懐疑的である。 だからこの記憶も、何か変な映像を見せられている、という風に考えていた。 「どうして、こんなものを呼び起こして回っているのでしょう、その人は」 ただそれが気になった。 「大体、前世は覆らない過去のはず。 それを今更呼び起こして何をしたいのか……」 考えられる可能性としては、類似する事件が起きようとしている、或いは起こそうとしている。 「過去の再現……? また、滅ぼそうと?」 考えても、推論の域を出ない。 真実を知るには、“銀髪の男”を見つけ出すしかないとエメは思った。 その男の敵に回るにしろ、味方に回るにしろ、それは真実を知ってから判断するしかない。 他にも、同様の状況にある者はいそうだった。 そんな者達と協力し、情報の共有をしつつ、エメは冷静に現状の把握に努めた。 最近前世を思い出す人が増えているらしい。 自分にもそれっぽい症状が出ていると自覚したヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)も、噂の男を捜索することにする。 シルバーウルフの雪雄に周辺の森を、吉兆の鷹の吉宗に空から周辺を見て貰ったが、それらしい男を見つけることはできなかった。 森の奥へ走っていく男の後姿を見かけはしたが、それは、銀髪の男ではなかった。 「やっぱり、森にはいないのか……。 目撃情報でも、人通りの多いところが殆どみたいだし」 銃型HCに送信されてくる情報を見て、呟く。 「よし、オレ達も町の方に合流しようか」 雪雄の頭をひと撫でし、ヴァイスは町へ向かうことにした。 |
||