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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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「というわけで、北にあった施設で、鹵獲したイコンをコピーして量産していたらしい。で、こりゃまずいだろうということで、戦力の補充のために、援軍のヴァラヌスを呼んでおいたぜ」
「あの金色のヴァラヌスか」
 ブリッジで、遺跡のラボの様子を報告する国頭武尊に、グレン・ドミトリーが言った。
 艦長席には、すでにエステル・シャンフロウが座っている。今は、状況の確認中だ。
 だが、時間は無駄にはできないと、遺跡の西側に移動した艦隊からは艦砲射撃が始まっている。当然、敵からの反撃もあり、艦の外では絶え間なく爆発音が響いていた。
「ああ。そいつだ」
 金色のヴァラヌスならヤークトヴァラヌス百式に違いないと、国頭武尊がうなずいた。
「敵イコンは、機種としてはタンガロアというフラワシによる遠隔操作タイプの巨大イコンとして識別されています。けれども、公式データと比べると、より小型のようです。報告のように、コピー品だとすると、それもうなずけます。おそらくは、フラワシではなく、寄生したイレイザー・スポーンによってコントロールされていると思われます」
 データを参照して、ニルス・マイトナーが補足説明した。
「俺もイコンで出るが、補給は構わねえな?」
「ええ。ヴァラヌスのパーツが規格としては合うはずです。そのへんのことは、メカニックと相談してください」
 ニルス・マイトナーの言葉に、これで弾薬は使い放題だと、国頭武尊が嬉々とした。
「敵の艦がヴィマーナだとすると、これが役にたつかもしれないぜ」
 アキラ・セイルーンが、自慢げにサンダラ・ヴィマーナのイコプラをエステル・シャンフロウたちに見せた。この遺跡が発見されるまでに確認されている唯一のヴィマーナの模型だ。
 サンダラ・ヴィマーナは円錐形の巨大な円盤型をしたニルヴァーナ製の飛空艇で、鏖殺寺院のディバインクルセーダーたちが本拠地で使用していた物であった。先の戦いで行方不明になったままだが、なぜかいつの間にかイコプラとして発売されている。
「プラモデルですか?」
 どう役にたつのだろうかと、エステル・シャンフロウが首をかしげる。
「ええと、ここをこう外すと……」
 アキラ・セイルーンが、イコプラの外装を外して見せた。内部の様子が、断面図よろしく現れる。
「この、中心下部がメインの機晶エンジンとフローターで……」
「いや、それはイコプラだし、第一形状がまったく違うじゃないか」
 さすがに、グレン・ドミトリーが突っ込んだ。
 現在遺跡で確認されているのは、ダイヤモンド型の母艦、涙滴型の戦艦、結晶柱型の輸送艦らしき三タイプだ。サンダラ・ヴィマーナと比べればどれも小さく、戦艦がフリングホルニとほぼ同じ大きさで全長200メートルほど、母艦はやや小さく直径100メートルほど、輸送艦は全長100メートルほどである。装甲面は鏡のようなメタリックな材質で、多面体構造によって構成されている。さながら、巨大な宝石のようだ。それだけでも、形状の違いは大きいのに、イレイザー・スポーンに寄生されていることによって、船体の各所に水晶柱のような塊が不規則に突き出している。
「安易に、今までのデータと同じ物だと決めつけるのは危険だな」
 さすがに、グレン・ドミトリーがイコプラの構造を敵の構造だと鵜呑みにはしなかった。
「いずれにしろ、この状況をパラミタに伝えて危機を知らせなければいけないだろう。すでに、相当数の敵艦がゲートに入ったようだからな。敵の親玉もそれに含まれているのでは、ぐずぐずしてはいられないだろう」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)が、パラミタとの情報共有の重要性を説いた。
「幸い、中継基地とは連絡がとれるようだから、そこから各ゲートを中継してもらって、パラミタの仲間たちとの連携をはかるべきじゃないか?」
「だが、再廻の大地のゲートからは、パラミタとの通信ができなくなったと報告があがっている。おそらくは、ヴィムクティ回廊を切断して、ヴィモークシャ回廊とやらをゴアドー島のゲートか、あるいはまだ我々の知らないゲートに繋げたと考えられる」
 そうそう簡単ではないと、グレン・ドミトリーがレン・オズワルドに答えた。
「だとしても、仮にゴアドー島のゲートが出口だとしたら、それを知らせなければ一方的な奇襲を受けることになるぞ。ルートとしては、ゴアドー島から、空京、イルミンスール、ユグドラシル……。どれを失っても、パラミタの破滅だ。なんとしても、情報を生かさなければ……。そうだ、ニルヴァーナ創世学園のゲートから、始めの回廊を使って月基地への連絡はできるはずじゃないのか」
「それはすでに確認してはいるが、月基地からパラミタへの通信が寸断されているらしい」
 グレン・ドミトリーが渋い顔をした。
 月基地との通信は、そこを往還するアルカンシェルのための性質が大きい。また、月基地はパラミタ側の宇宙にあるため、トワイライトベルトの東側にある施設でしか通信は不可能であった。そのため、空京やツァンダやゴアドー島の施設は使用することができず、アトラスの傷跡にある巨大アンテナでのみ通信をしていたのである。
 スキッドブラッドとの戦闘によって、そのアンテナが破壊されてしまったため、現在は月基地との交信は不可能となっていた。修復は、基地の建物やフィールドカタパルトを優先にして行われている。どう考えても、破壊が目立つのはそちらであり、敵の当初の目的がフィールドカタパルトにあると思われたからだ。
 だが、もし、敵の真の目的が情報封鎖にあるとしたら、まんまとしてやられたことになる。しかも、それすらパラミタの味方に伝える術はないのだ。
「だからといって、何もしないわけにはいかない。今はダメでも、月からの情報発信は続けるべきだ」
「そうですね。宇宙港には、まだたくさんの人たちが残っていたはずです。ゴアドー島にも……。彼らを信じましょう」
 レン・オズワルドの言葉に、エステル・シャンフロウがうなずいた。
「すでに、敵は相当数ゲートに入っています。こちらも、すぐに追撃を」
 エステル・シャンフロウが、グレン・ドミトリーたちに命令した。
「ゲートを破壊しちまえばいいんじゃ……」
 ボソリと国頭武尊がつぶやいた。どうやら、ブルタ・バルチャはそのつもりで、パラミタにゲート破壊を申請しようと再廻の大地のゲートに残ったようである。
「それは、できないだろう」
 あっさりと、グレン・ドミトリーがそれを退けた。
 それこそ、敵を喜ばせるだけであった。最大のゲートが失われてしまえば、ニルヴァーナにある艦船や大型イコン、あるいは発展した工房などで作られる資材のほとんどが輸送困難になる。戦力の移動ができないために、敵がニルヴァーナとパラミタの多方面作戦に出てきたら、どちらかが対応しきれないだろう。
 短期では勝利できても、長期ではかなり不利な状況に追い込まれることとなる。ましてや、パラミタのアトラスを救うための戦いがニルヴァーナで行われつつあるあるのだ。ここで戦力の過不足を起こしては、守れる物も守れなくなる。いずれの方法をとるにしても、何かを破壊してしまったり破壊されてしまえば、敵は戦果を得るのだ。なんとしても、ここはニルヴァーナとパラミタとの連携を再構築し、連携で敵ヴィマーナを殲滅するしかなかった。