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【戦国マホロバ】四の巻 マホロバ幕府開府 決戦、冬の陣!

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【戦国マホロバ】四の巻 マホロバ幕府開府 決戦、冬の陣!

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第四章 待ち人1

【マホロバ暦1192年(西暦523年)2月】
 鬼城軍の陣営――


「一体、どういうこと?」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は理解しがたかった。
 祥子たちは特定の敵を相手にすることで、敵兵の行く手を狭め、確実に討ち取ってきたはずだ。
 それが、まさか味方の陣営から撃たれようとは思わなかった。
 祥子は急ぎ軍馬を駆り、仲間の保護に努める。
 ギフト宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)が盾となって弾丸を防いだ。
「撃っているのは伊建 正宗(だて・まさむね)軍ですって???」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)も寝耳に水である。
 鬼鎧稲桜の中から、透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)が飛び出してきた。
「白兵戦か……望むところ!」
 鬼鎧のエネルギーはとうに尽きていた。
「鬼鎧が動かずとも私の身体は動ける。人相手なら、自らの手で戦うのも礼儀だろう!」
「お待ちください、【銀鼓】様!」
 璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)が止めるもの聞かず、透玻は伊建軍に向かって突進していく。
 銃弾は容赦なく降り注ぎ、透玻の腕を掠めた。
 鮮血が散る。
 璃央は自らを省みず、彼女を守ろうと鉄砲態の前に立ち塞がった。
 新たに弾丸が詰め込められ、二人を狙う。

「待たれよ、伊建殿!」

 正宗はその声に振り返った。
 見ると前髪で片目の隠れた武人がこちらをじっと見つめている。
「……鬼城!?」
 まさか鬼城 貞康(きじょう・さだやす)が前線に出てこようとは、思っていなかった。
 正宗の中では、貞康は武将の中でも抜群に如才なく抜け目のない男だが、行動力と決断力は自分のほうが優れていると思っていたのだ。
 ここで謀反人と思われてはまずいと、正宗はすぐに鉄砲隊を退かせた。
「貞康公、恩自らこのような場所に……」
 貞康の周りには幾人もの人が集まり、彼を守った。
 忍フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)がいつでも正宗に襲いかかれるよう待機していた。
 貞康は正宗の前に進み出た。
「伊建殿。相談がある」
「……は?」
「わしは西方を滅ぼす気はない。マホロバを真っ二つにして、泰平などつくれようがない。しかし、鬼城がそうさせたのだという者もいだろう。我こそが鬼城を倒し、天下をとりにふさわしいと」
「誰がそんなことを」
「こなたじゃ。伊建 正宗(だて・まさむね)殿」
「な……」
「味方への発砲は許されぬ」
「私は知りません」
 正宗は伊建軍は眼前の敵と戦っているだけであり、逃げるものには味方であろうとも容赦しない、それが伊建の家風なのだといった。
「戦場では何が起こるかわかりません。我々はその家風を守っただけのこと」
「家風のう……」
 貞康はそれ以上は何もいわなかった。
 ただ刺すようなサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)の視線はあった。
 正宗はこの場から一刻も早く立ち去りたかった。
「では、これにて」
 正宗は分が悪くなる前に戦に戻ろうとした。
 ここで大きな手柄を立てておかなければ、鬼城に謀反人として疑いを持たれたまま、睨まれるのは目に見えている。
 だが、貞康の方が一手早かった。
「伊建殿、濠を埋めてくれ」
「は? まさか、逢坂(おおざか)の濠のことですか? この正宗が埋めよと申されるか」
「正宗殿が率先してやってくれ」
 天下人日輪 秀古(ひのわ・ひでこ)が財を投じて建てた難攻不落ともいわれる城も、濠がなければ丸腰である。
 攻撃されればひとたまりもないだろう。
 先ほど西方を滅ぼす気はないと言ったが、言った舌の根も乾かぬうちに次に濠を埋めよと平然とのたまう貞康に、何もかも見透かされているのではないかと、正宗は底知れぬ薄気味悪さを感じた。
「そうなると、逢坂(おおざか)の城も長くは……」
「外濠だけじゃ」
「それを条件に降伏でもさせようという気か。魁正がのむはずが……」
 そう言いかけて、自分の隣を見ると土方 伊織(ひじかた・いおり)が首を横に振っていた。
 伊織は伊織で、正宗の身を気にかけていたのだ。
 もし、和議があっさりと成立し戦も何もかもが終わったところへ、馳倉 常永(はせくら・つねなが)伊建 正宗(だて・まさむね)の乞いで推参したとばかりに大砲鳴らしてやってきたらどうなるか。
 たちまち伊建の野心が暴かれ、謀反人として討たれるのは目に見えている。
 常永が戻るまでは、戦は続けなければならない。
 かといって今、鬼城の命令を断れば、伊建は鬼城の大軍をこの場で相手にしなくてならない。
 さすがの政宗もそれはできない。
「正宗に謀反心などありません。命とあらばすぐにでも」
「あくまでも和議が先じゃ……それがすめば、逢坂も少ない損害ですむ」
 その貞康の言葉も、正宗には信じがたいものだった。
 正宗は心の中で祈る。
(魁正ごめん……常永はやく、はやく来て!!)



【マホロバ暦1192年(西暦523年)】
 エリュシオン帝国沖――


 伊建 正宗(だて・まさむね)の命を受けた馳倉 常永(はせくら・つねなが)は、エリュシオン帝国へ向かった。
 当時のエリュシオンとマホロバは交流が始まったばかりで、ごく一部に限られていた。
 その限られた一人である正宗は、己をユグドラシル信者と偽ってでもこの大国と軍事同盟を握って天下への夢をあきらめていなかったが、常永のほうはユグドラシル信仰に深い念を抱いていた。
 敬愛する主人の命を受けての、エリュシオン大帝と謁見したときの彼の喜びようは、どれほどのものだっただろう。

卍卍卍


 麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)は鬼鎧流星に乗って、瀬田 沙耶(せた・さや)と共に雲海上で常永の行動を伺っていた。
 「ひどい嵐ですわ」
 沙耶がいうのも無理はない。
 漁師や船乗りは無謀だと彼らを止めたが、情報が正しければ、常永の乗ったマホロバ行きの軍艦が出たはずだ。
「こんな風雨程度で計画を断念する奴とも思えない。マホロバは一刻を争っているからな。……にしても、大丈夫か。暮流?」
 由紀也は流星の肩にしがみつく和泉 暮流(いずみ・くれる)に呼びかけた。
 暮流の爪が流星の装甲に食い込んでいる。
「【鬼神力】でなんとか。しかし、このままで持つのかどうか……私ではなくは流星のことですが……」
 暮流は、前方に黒い影のようなものを確認した。
「ん、あれは?」
 視界が悪かったが、由紀也がエリュシオン帝国の軍艦と確認した。
「軍艦ですか? じゃあ、あれに馳倉様が乗っていますのね」
「だろうな、このままマホロバへ行かせることはできん。よし、オレたちで止めるぞ」
 流星は飛行移動し、軍艦に近づく。
 エリュシオン製の軍艦はさながら巨大な商船のようにも思えた。
 しかし、大量の大砲が積んであるのが見える。
「何者か!? マホロバの手合いか……?」
 艦内は突然の訪問者に騒然とした。
 まだ、マホロバの領海内ではないはずだ。
 いつ捕捉されたというのか。
 常永は、鬼鎧と呼ばれるものの存在に驚いた。
「あれが鬼鎧……この嵐の中で私たちを見つけるなど……なるほど、正宗様が他国の軍艦ぐらいでなければ、鬼城は倒せないとはよく言ったものだ。あの方は本当に、世を見抜く力を持っていらっしゃ……」
 と、いい終わらないうちに、艦が大きく揺れた。
 鬼鎧と交戦しているらしい。
 再び激しい揺れ。
 常永が何かに捕まろうと手を伸ばそうとしたとき、男の服をつかんだ。
「……悪いがそれは俺のコートだ。気に入ってるんでね、放してくれないか。伸びる」
「あ、ああ。これは失敬。貴殿は?」
「俺はレギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)。マホロバへ戦艦を呼ぶなら、俺はそれを妨害させてもらう」
 レギオンは無表情に言いはなった。
 常永は顔をこわばらせる。
「どういうことですかな」
「何度も言わせるな。このまま手を退け。引き返せ」
 エリュシオン帝国との同盟。
 そして軍艦。
 これは密命であったはずだが、どこかで漏れていたのだろうか。
 常永は、自分たちの計画を妨害するものたちの存在を知った。
「では、貴様はあの鬼鎧の仲間か」
「知らないな。ただ、目的は俺と同じようだ」
「なんだと!」
 今度は床が傾くほどに揺れ、常永は這いつくばり立つのも困難であった。
 鬼鎧流星の攻撃をよけようとして舵を切ったところを、津波が襲ったのだ。
 軍艦は暗礁に乗り上げ、身動きすら取れそうになかった。
「まずいな」
 由紀也が鬼鎧流星の中から軍艦を確認している。
 その間に暮流が甲板に飛び乗った。
「いけませんわ。この艦……沈みかけています」
 沙耶が止めるのもきかず、鬼化した暮流は逃げ惑う乗組員を捕まえている。
 暮流は嵐の中を叫んだ。
「乗組員を、たすけなければ……!」
「そうだな。鬼鎧の稼動時間も限られているし」
 考えるより早く、由紀也の身体も動いていた。
「軍艦がマホロバにつかなければ歴史は守られる。俺たちは……そのためにここにいる! この時代の人々を壊すためじゃない!!」