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【戦国マホロバ】四の巻 マホロバ幕府開府 決戦、冬の陣!

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【戦国マホロバ】四の巻 マホロバ幕府開府 決戦、冬の陣!

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第6章 輪廻2

【????年 ?月??日 ??時??分】
 トキノ ハザマ ――


時のハザマがこんなにやっかいな場所だなんて!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はイコンヨクで、闇の中を突き進んでいた。
 桜の花びらが飛んでいることで、この空間が辛うじて存在しているといのがわかること以外、彼らに手がかりはなかった。
「でも、あきらめないわ。私には助けたい人たちがいるの」
 ルカルカたちは葦原 総勝(あしはら・そうかつ)織由 信那(おだ・のぶなが)を探している。
 ここにいるという確証はない。
 しかし、ルカルカはここしかないと考えていた。
「ルカに付き合うといつもこうだ……」
 そういいながらも、ダリルは彼女を支えることは嫌いではなかった。
 むしろ彼にとっての使命であり、生きる糧なのかもしれない。
 彼らは桜の花びらを丹念に見遣った。
 その一枚一枚に人の記憶が映し出されるのを知った。
「まさか、この無数にある花びらのうちの一枚……じゃないよな?」
「そんなことあるわけ……あ、あれを見て!」
 ひと際密集している花びらが、河のように流れていく。
 その美しい光景にルカルカは息をのんだ。
「まるで命の河が流れていくようだわ」
 その中に、知った顔があったように見えた。
「待って……貴方は、葦原総勝……!?」
「ん?」
 それは一瞬動きが止まって、懐かしい総勝の声がした。
「おお……いつぞやのお嬢さんか。どうした、お迎えはまだ早いんじゃないかの?」
「お迎えって……私は貴方たちを迎えに来たのよ。今度こそ還りましょう。絶対、手を離さないで!」
「俺たちはもう行かねばならん。お前たちはいつまでもここにとどまってはならん」
 今度は信那の声。
「行くってどこへいくの?」と、ルカルカ。
「扶桑の噴花が始まったのだ。マホロバ人の宿命だ。いくら天に向かって戦をけしかけようとも、こればかりはどうにもならん」
 信那は時のハザマのどこかが裂け、時と共に花びらが流れだしているといった。
「……ルカ、俺たちもこの場を離れよう。この花びらは扶桑の桜だ。巻き込まれたら、俺たちも死……転生してしまうかもしれない」
「いや! 総勝たちを連れ戻すまでは!」
「ルカ!」
 ダリルが叫び、桜の花びらが竜巻のように盛り上がったかと思うと、跡形もなく消えた。
 後にはただ、闇が広がっているだけだ。
「夢? 幻? ……ううん、信じない。私は、奇跡だけを信じるわ!」
 彼女の絶叫が闇の中に吸い込まれていく。

{center}卍卍卍{/center}

「房姫様!ハイナ様! しっかり!!」
 度会 鈴鹿(わたらい・すずか)葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)と葦原明倫館総奉行ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)に何度も呼びかける。
 ぐったりしてたがまだ意識はあるようだ。
 房姫が目を開くと、幾人もの人々が鬼子母帝の悲しみを拾い上げ、怨念を消し去ろうとしていた。
 鬼子母帝の身体は驚くほど小さくなっている。
 だが、同時に、空間がねじれ、互いの顔さえ判別しづらくなっていた。
「ここは、危険でありんす。ここから脱出しなければ……」
 葦原明倫館総奉行として、ハイナは明倫館生に対して安全を確保する義務があるといった。
「鬼子母帝の力がこれほど弱まっていれば、私の力で何とかできるかもしれません……」
 彼らの前に現れたのは、葦原の戦神子(あしはらの・いくさみこ)だった。
「私が内側から月の輪を閉じるから、その間に脱出してください」
「そんなことをしたら、戦神子は……?」
 房姫の問いに、一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)の背からカン陀多 酸塊(かんだた・すぐり)がひょいと現れた。
「大丈夫! 祈姫は、ボクが【ナラカの蜘蛛糸】でひっぱってあげるから。あ、そんなに過信しないでね。所詮、糸だからね」
 祈姫は、目の前の鬼子母帝を見つめた。
 運命に放浪されたのは、この母鬼だったのか、それとも自分だったのか。
 空間はまずます歪んでいる。
 祈姫は巨大な筆で最後の輪を描き出した。
 それをなぞるようにもう一つ。
「……!?」
 隣を見ると、房姫が自分の筆で書き添えていた。
「貴女が無事に戻ってこれますように」
「はい」
 二人の神子が人々の祈りを込めて大きな輪を描く。



 一方、樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)は扶桑――天子に向かって祈り続けていた。
「噴花の花びらで、鬼子母帝様を転生はできないでしょうか。どうか長きにわたる悲しみを終わらせて新しき生を受けて、生きてほしい思うのでございます」
 苦しみもだえる鬼子母帝。
 数千年の恨みつらみを吐き出しているかのようだ。
 そのたびに小さくやがて人間ほどの大きさになった。
 土雲 葉莉(つちくも・はり)は白姫の手元を見る。
「ひょぇ〜、ご、ご主人様! し、しろ……白継様が!!」
「え……白継!?」
 白姫は蘇った探し求めていた我が子をたまらずに抱きしめた。
「時のハザマに居たなんて……こんな暗闇の中に……たった一人で! ごめんなさいね、母は……あなたをひとりぼっちにして」
 いつまでも涙が止まらない。
 すると、しわくちゃになった鬼子母帝がよろよろと手を伸ばし始めた。
 白姫に、ただ一度でいいので子供を腕に抱かせてほしいと懇願していた。
「え……」
 葉莉は不安げに主人を見たが、白姫は小さく頷くと鬼母の手に白継を渡した。
「その……童はわらわの血を引いているのですね。なんと可愛らしい……そして、愛おしい」
 鬼子母帝は微笑みかけ、やがてその笑顔も薄れていく。
「貞康にも……このような時が……ありましたね」
「鬼子母帝様……お気を取り戻されましたか!?」
 しかし、その存在は徐々に薄らいでいく。
 白継を白姫の手に反した途端、鬼子母帝の姿が桜の樹に吸い取られていった。
 時間が止まり、流れ、また逆流していく。
 桜の花びらが鬼子母帝の身体を覆い尽くし、もう誰も近づくことはできない。
 時のハザマは崩壊しかかっていた。
「鬼子母帝は……? 輪廻の輪は……!?」
 南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)は目を凝らして、必死に花びらの行方を追った。
 しかし、容易に確認することはできない。
 花弁の渦に近寄ろうとして、ハイナに襟首を掴まれた。
「各々方、一刻も早く、ここから逃げるでありんす! 死人を誰一人として出すわけにはいかないでやす、これは、葦原明倫館総奉行の命令でありんす!!」
 ハイナが声の限り叫んでいた。