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【戦国マホロバ】四の巻 マホロバ幕府開府 決戦、冬の陣!

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【戦国マホロバ】四の巻 マホロバ幕府開府 決戦、冬の陣!

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第三章 冬の陣1

【マホロバ暦1192年(西暦523年)2月】
 逢坂(おおざか)――


 マホロバ西方での不穏な動きは、伝染病のように各地へ広まった。
 まず、武器弾薬が大量に買われ、逢坂(おおざか)の町々に運び込まれていた。
 それも、日輪 秀古(ひのわ・ひでこ)の莫大な黄金が遺城に遺されており、それが軍資金となっているという噂がたった。
 さながら戦のにおいを嗅ぎ付けるがごとく、合戦で主人や奉公先を失った武士や牢人達がぞろぞろと集まった。
 彼らは、かつての下剋上、一国一城の主を夢見て、今か今かと戦が起こるのを待っているような有様であった。

「人の歴史は戦いの歴史、とはよくゆうたものじゃ。わしらのような傭兵が食いっぱぐれまいと、うようよしておる。そう簡単に、平和がやってくるものではない」
 鬼城側につき、先陣を切っていた鵜飼 衛(うかい・まもる)は、そう感想をもらした。
「こんな戦うことしか能がない奴らを、平和な世でも食っていけるようにするのは並大抵なことではない。平和は誰もが望むことだが、一時的なものなのはそれゆえじゃ。だからと言って、鬼城 貞康(きじょう・さだやす)にその力がないとは思わん。わしが協力しようという気にさせる男じゃからな」
 衛は「わざわざ苦労を背負いこむ男よのう」といった。
 その言葉に、ルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)が相槌を打つ。
「戦いにそのような意味があるという話は、人間を考えさせるお話ですわ。ところで、そのことは鬼城様にはお話しされたのですか?」
「……いや、戦いが終わったら、話してみても良いじゃろう」
「でしたら、良い報告を持ち帰らなければいけませんわね。手ぶらではカッコ付きませんわ」
 くすりと微笑む『妖蛆の秘密』。
 彼女の魔導書には三丁の魔導拳銃が隠されている。
「わたくしは衛様に従うのみ」
 彼女は衛が切り込めばいつでも付いてゆく覚悟でいた。
「火だ。放火らしいぞ! 境(さかい)の方角だ」
 メイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)が興奮気味に駆け込んだ。
 ついに、合戦が始まったのだ。
 メイスンは衛と並び、進撃を開始した。
 それに合わせて、ひとかどの侍大将も次々と参戦する。
「どけどけー! 一気に切り崩してやるけんのう!」
 メイスンが魔剣をふるい、『妖蛆の秘密』の銃口が放たれる。
「そこらの火縄銃ではありませんわよ。もっと恐ろしいものですわ!」



【マホロバ暦1192年(西暦523年)2月】
 氷山(こおりやま)――


 時は少し戻る。
 扶桑の都より南。
 境(さかい)に近い氷山(こおりやま)では、両陣営が睨みあっていた。
「ドーモ、ブルージャスティスです! ヨロシク!!」
 フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)はいきなりその真っ只中に躍り出た。
 一触即発の雰囲気の中、一斉にフィーア視線が向けられる。
「なんだお前たちは。敵か? 味方か!?」
「どっちの味方をするわけでもないんだけどね」
 戦国時代に来た記念に、ちょっとした挨拶代わりだと言って、山県 昌景(やまがた・まさかげ)と共に軍馬で躍り出る。
 ダダダッを音を立てて十傑集走り (じっけっしゅうばしり)で駆け、その大胆不敵さに、兵士たちはあっけにとられていた。
 その時、フィーアの竹槍(スピア)が篝火に当たったのだろう。
 薪が地面の枯草まで吹っ飛んだ。
 と、一陣の風が周囲を吹き抜ける。
 強風にあおられた薪が火柱となって燃え上がった。
「あ、やっちまった!」
 突然、燃え上がった炎に氷山は騒然となった。
 法螺貝が吹かれ、鬨(とき)の声が上がる。

 戦じゃ、戦じゃ!!
 えいえい!  おうおう!!

「だから、私は止めろと言ったのだがな……いまさら言っても始まらぬか。仕方があるまい」
 昌景は半ばあきらめの心境で、しかし目の前の戦を高みから挑む余裕さえあるようだった。
 高らかに名乗りを上げる。
「山県三郎兵衛尉推参!ここで私に出会った不幸を呪うがいい!」
 炎は勢いを増し、地面をなめていく。
 合戦の音が響く。
 冬の陣の合戦は始まったのだ。



【マホロバ暦1192年(西暦523年)2月】
 境(さかい)――


「始まったわね、あの方角は? 氷山(こおりやま)?」
 炎は【八本脚の馬】上にいる宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)にも確認できた。
 空が真っ赤に染まっている。
鬼城 貞康(きじょう・さだやす)公は、こちらからは手を出すなといってなかった?」
 魔鎧那須 朱美(なす・あけみ)が、祥子に纏われる。
 前方の陣営が動くのがわかる。
「あちらには、戦いたい人間が多いんでしょ」
 と、祥子は言い、白蛇型のギフト宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)に呼びかけた。
「義弘……、これから大勢の血が流れるわ。私たちが生きるため、この時代もマホロバも、他の国も大陸も……救うために」
「わかってる」
 パートナーたちは、そのためにここへ来たのだといった。
「私や義弘が鎧となって、盾となって祥子を守ることに変わりない。だから、思いっきりやるの。後悔しないように!」
 朱美が前方に周囲を払い、義弘は真空の波動を放つ。
 祥子は名乗りを上げた。
「歴史は勝者のみでつくられずにあらず。貴方たちがいなければ、決して未来への道は開かれないのだから。だから……たとえ死することがあっても、護国の柱となりなさい……!!」



「さあて、いよいよですね。戦場では侍大将の一人。敵に背中は見せられませんからねぇ」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は互いに背中合わせとなって、敵の真っただ中にいた。
 前方から、横からと向かってくる兵士に立ち向かう。
「宇都宮さんが前の隊と防いでくれるなら、あちきたちは戦場(いくさば)を駆け抜けましょうかねぇ。殺傷は好きではありませんけどねぇ」
 レティシアはそれでも、この場を制さないことには、貞康が新しい統治者となり、幕府を開けないことがわかっていた。
 誰かが火をともし、大きくする。
 その火はやがて、未来を灯す柱となるだろう。
「一人の小さな火だとやがて吹き消されてしまうかもしれない。でも二人なら。私とレティと二人から始まる、一つの炎の槍となるのです!」


【マホロバ暦1192年(西暦523年)2月】
 舟場(せんば)――


「戦火が広がってる? 璃央……いや【金鎖】、今の状況は!?」
 鬼鎧稲桜の中から、透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)の声が響いた。
 同じく、璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)が、集めたデータから行軍の軌跡を推量する。
「はい、【銀鼓】様。南方の戦線から猛烈な勢いで北上しています。こちらへ到達するのも、時間の問題かもしれません」
「確か、南東は鵜飼 衛(うかい・まもる)殿が、南を宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)殿とレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)殿の陣がいたはず。よほど激戦なのか……それとも」
 透玻は稲桜を急ぎ南の方角へ動かすといった。
 璃央が尋ねる。
「援軍に向かわれるのですか」
「そうだ。ここでじっとしてても遅かれ早かれ戦うことになる。ならば、早いほうがいい」
「しかし、鬼鎧が、稲桜の稼働時間がどこまで持つかはわかりません」
「そのときはそのとき。相手が誰であろうとも、ここで踏みとどまり、鬼城 貞康(きじょう・さだやす)を扶桑の都入りさせなくては。歴史が……変わりかねん」
 透玻は先ほどから、何か言い難い不安を感じていた。
 鬼城は戦に勝つだけが目的ではない。
 マホロバの統治者としてふさわしい者と認められねばならない。
 貞康は透玻たちにそう語っていた。
 しかし、どうやって……?
 実際に、マホロバ人同士が争う戦は始まっっているのだ。
「ならば、なおのこと。私たちが道を切り開いてやらねばならないだろう」



「あれは……、あの鬼鎧は現代のものか。俺と同じように、現代から人がなだれ込んだのだな」
 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)は鬼鎧女帝キシオムバーグに乗り込み、マネキ・ング(まねき・んぐ)と共に戦場にいた。
 目的は現代の鬼鎧の技術を向上させるための情報集めである。
 セリスは透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)稲桜を見て、分析を進めている。
「元々は鬼鎧はこの時代につくられたもの。現代の鬼鎧があのように動けるのも、それにふさわしい技術があったに違いない」
「ふむ、後世(現代)の者たちが、鬼鎧はを間違った方向性の元に使う……ただの道具として、オモチャとして。それは阻止せねばならぬからな」
 マネキは、そうならぬための答えをこの時代に求めた。
 そして、鬼鎧に大きな違いが認められるのは、この時代の鬼鎧はより【鬼らしく】、【人間らしい】ということだった。
 鬼鎧は【鬼契】を結んだ相手を主従関係を結ぶ。
 主と意識を交わし、生と死を共にする。
 マネキの言う道具ではない。
 さながら契約者(コントラクター)とそのパートナーのような関係であった。
「そこを解明できなければ、鬼鎧の原動力もわかるまい。……ん、あれはなんだ?」
 女帝キシオムバーグの背後から、銃声が聞こえた。
 それはどんどん大きくなる。
 セリス達が自分たちが狙われているという身の危険とき、稲桜から警告音が鳴った。
 璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)の声が聞こえる。

「この場から離れてください! 伊建が、伊建 正宗(だて・まさむね)軍が我々に向かって発砲しているのです!」