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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

リアクション


【12】


 聖者コルテロに認められた彼らは第6地区に案内された。
 教会地区は他の地区に比べ狭い。南門(第8地区へ)と北門(大神殿へ)の間に大通りが走り、その中間に”第6聖堂”と呼ばれる聖堂がある。
 聖堂の奥には超国家神のホログラフィ投影装置が置かれ、多くの神官達で人だかりが出来ていた。どうやらこれが神官だけが参加出来る特別な儀式”堅信礼”のようだ。読んで字の如く己の信仰を堅固なものにする儀式である。
 聖堂の中が暗転し、ホログラフィにレーザービームが飛び交いスモークが焚かれる。ブレイクビーツの讃美歌に神官達のボルテージはぐんぐん上昇。
 みんなのテンションが最高潮に達したその時、光の中から超国家神”アルティメット・クイーン”が姿を現した。
「おお、超国家神様。その眩きお姿は天地開闢の光に例えられよう。なんと美しくなんと尊いのだ」
 聖者コルテロの頬を涙が伝う。彫像のような肉体に襤褸の教団ローブを纏った信者達のカリスマは感激に打ち震えた。
 それも当然だ。これは世界に安寧と繁栄をもたらすため、進むべき道を示す神のお言葉を記録した映像なのだ。しかも教団関係者限定公開である。
 ちなみにこの堅信礼に参加した者には、抽選で次回”神のお言葉”の収録観覧や超国家神のサイン入り色紙、サイン入りブロマイド、撮影に使った衣装の切れ端などが当たる。とても充実した神イベントだ。
「頼む、神よ! 俺に収録観覧を! プリーズ!!」
 コルテロは神の賞品を得るため神に祈った。

「よーし、盛り上がっていきましょ!」
 茅野 茉莉(ちの・まつり)は、祈芸をする神官の中に混じって、異教徒祈芸を披露する。両手に構えたサイリウムで十字を作り、絶対ここでは言わない方がいい祈りの言葉を連呼する。”あ”で始まり”麺”で終わるあの単語を。
 ノリのいい若い神官達は、際どいところを攻める祈芸に拍手を送った。
 けれど、ダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)はノッてこなかった。
「何してんのよ、あんたもこのビッグウェーブに乗りなさいよ!」
「……無神経女め。空気を読むことすら出来んのか」
 彼女は悪魔的ノリの悪さを出したのではなく、視線を気にし参加しなかった。第6地区は第8地区の空気と少し違う気がする。
 彼女の直感は結論から言えば正しかった。
 そしてこちらでも歓声が起こった。超国家神のコスプレをした館下 鈴蘭(たてした・すずらん)霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)だ。
 先日、第8地区の広場で見せた彼女達のコスプレは好評で、コルテロとともに第6地区に招待された敬虔な信者の中にも、彼女を真似てテンプルナイツやクルセイダーのコスをしてる者もいる。
「”よしなに”」
「”よしなに”」
 テンプルナイツ(コス)に守られながら、超国家神っぽいポーズを披露。
 神官達は完成度の高さに驚き、ふためき、カメラを取り出し撮影を始めた。
 特に沙霧は更に完成度を上げてきた。映像を参考に立ち振舞いを忠実に、胸はあんぱん二個でボリュームアップ。
(僕達の時代を救うため、コスプレクイーンに僕はなる!!)
 コスプレが世界平和にどう繋がるのか定かではないが……熱意は感じる!
「わー、神降臨キタコレ! 神イベだね! 神イベ!」
 アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)は囲まれる二人に声援を送った。
 それから茉莉と一緒になって、彼女の祈芸”剣舞”で場を盛り上げる。神聖な場所で刃物を振り回すのはどうかと思うが、若い信者にはやんちゃな者も多く、モッシュやダイブも発生してるので、彼らは別段彼女の行為も気にしなかった。
 ただ、それはあくまでも”彼ら”の話である。古参の神官は違う。
「人の迷惑を顧みず、剣を振り回すなど常識を疑う。ああいう人間がいると教団全体の評価が悪くなるというのに」
「まったくだ。大体、あの剣は斬音剣だろ。振り回すたびに音が斬れて、超国家神様の有り難いお言葉が聞こえなくなるじゃないか」
「バカ、もうアイツほんともうバカ」
 これ見よがしに聞こえて来る言葉に、アスカは落ち込んだ。
「……うう、叩かれてる、アスカちゃん叩かれてる」
 叩かれるのはアイドルの宿命だが、人間は叩かれればへこむものだ。
「しっかりしろ。あんなのは声の大きい一部の人間の言うことだ。気にするな」
 茉莉は励ます。けれど彼女も古参神官の批判の対象だった。
「十字架に祈りの言葉ってよぉ……来る教会間違えてんじゃねぇのか?」
「あのバカ、完全に異教徒だろ。とっとと異端審問にかけちまえよ」
「お望み通り十字架に磔だ! 火で炙れぇ! 異教徒はよく燃えるぜぇ!」
 茉莉も炎上した。
「……一部の人間の言うことだとわかってるが、落ち込むな、これ……」
「だから言っただろうが」
 ダミアンは関わらなくて良かったと胸を撫で下ろした。
 そして鈴蘭と沙霧も焦げ付き始めた。
「何がコスプレだ、全然神への愛を感じねぇし。どうせ自分が目立ちたいだけなんだよな。ほんと何しに教会に来てんのかねぇ、恥ずかしくないのかな、ん?」
「格好ばかり真似ても中身の薄っぺらさが丸見えだ」
「コスプレを賞賛するほうもするほうだが、クイーン様のご衣装を真似るなど常識を疑う。大体、一人は男ではないか。不敬な。侮辱しているとしか思えん」
 鈴蘭と沙霧も炎上した。
「……げげっ、何だか空気がおかしいよ、鈴蘭ちゃん」
「こ、この現場は古参が多いみたいね……」
 しかしその時、ひと際大きな拍手が響いた。
 そこに現れたのは、美しい桃色の髪と宝石を思わせる青い瞳を持つ美青年、グランツ教の司教・メルキオールだった。
 司教が拍手を送ったとなると、流石に古参神官は黙るしかなかった。
 鈴蘭と沙霧、そして茉莉とアスカは顔を見合わせ、彼にお礼を言った。
「……なんかありがとうございます」
「ワタシは皆サンの芸に素直に感動したマデデス。超国家神サマへの愛、大変伝わってきマシタ。新しいものに戸惑う人もイマスガ、新しいものが生まれるのは新しい人が増えてるというコトデス。とても素晴らしいコトデス」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
 茉莉は言った。
「……それにしてもこの衣装、とても良く出来てイマスネ」
 まじまじと衣装を見る彼に、鈴蘭と沙霧は微笑む。
「ありがとうございます、手作りなんですよ、これ」
「これを着ると、クイーン様の愛に包まれている気分になれます。よろしければ、メルキオール様にも衣装お作りしましょうか?」
 冗談めかしてそう言うと、メルキオールは子どものように目を輝かせた。
「マジデスカ。ワタシもコスプレしたいデス。神様とひとつになりたいデス」
「……あの、言っておいてなんですけど、立場的に大丈夫なんですか、それ」