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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

リアクション


【8】


 第8地区は祭りを祝う人々で賑わっている。
 飾られた大通りには、ご馳走が並び、どこからともなく歌が聞こえてくる。
 御空 天泣(みそら・てんきゅう)は、ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)ムハリーリヤ・スミェールチ(むはりーりや・すみぇーるち)と一緒に通りを散策していた。
「わーい、お祭りって楽しいね!」
「このご馳走は勝手に食べてもいいのかなー?」
 ラヴィとリリーヤははしゃいでいるが、天泣は浮かれる気分になれなかった。
 何せ、なぜここにいるのかまったく思い出せないのだ。ただ、なぜここにいるのか思い出せない事を誰かに知られるのはとてもまずい事だというのは、これまでの町の様子でわかった。
(今は祭りに紛れながら情報を集めたほうがよさそうだな……)
 今後の行動を考えながら歩いていると、不意に声をかけられた。
「そこのおぬし、ちと訊きたいことがあるのだが」
 そこに現れたのは、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)だった。
「……なんでしょう?」
「忍者の格好をした男を見んかったかの? ぱっと見、頼りなさげな奴なのだが?」
「に、忍者!?」
 西洋を思わせる町並みの都市に、なぜ忍者?
「どうやら知らぬようだな……」
 エクスは人ごみの中に消えた。
「……このお祭り、仮装イベントでもやってるんですかね?」

 賑わう通りの一画には『煌明亭』という酒場がある。
 普段は洒落た雰囲気の店なのだが、祝祭の間は別。店の外に作ったテーブル席にも多くの人が集まって、酒と会話に酔いしれ、楽しい喧騒に包まれている。
 そこには、シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)の姿もあった。
 超国家神が町に来ているとの噂を聞きいた彼女は、彼女に接触するため町を回っていたのだがどうにも手がかりを得られずにいた。
 肩に乗る小さな機晶姫、霧雪 六花(きりゆき・りっか)も成果を上げられず首を振る。
「住民に話を聞いてみたけど、町に現れたという話は今のところないみたいね」
「彼女と友好な関係を築くチャンスだと思ったのですけど……」
 次の一手を考えていると、そこに天泣達が現れた。
「こんにちは。とても賑やかなお祭りですねー」
 天泣はぎこちなく微笑みながら、談笑する市民のテーブルに話しかける。
 情報を得るためには、まず町の人と仲良くならなくては、と考えたのだ。
「ああどうも。天気もよくて最高の祝祭日和ですな。乾杯」
 それから町の人は、広場に見える超国家神のホログラフィに杯を掲げた。
「そして、今日も麗しい超国家神様にも乾杯」
「あら、こんな美人が目の前にいるのに神様? リーリちゃん寂しいなー」
 リーリヤが色っぽく言うと、町の人はドギマギした。
「お姉さんもとても綺麗だけど、でもほら超国家神様は別腹だから。何せ、我々を守ってくださる有り難くて尊いお方だから、そういうことじゃないんだよー」
「例えばどんなご加護があったの?」
 ラヴィは尋ねた。
「こうして病気もせず、毎日楽しく暮らせるのは、ご加護があってこそだろ?」
「地球の人も早く降伏してしまえば、この幸せが得られるというのに」
「降伏したら幸福になれるってか?」
「あははは、そりゃいいや」
 市民の皆さんは楽しそうに笑った。
「……ところで、あのホログラムですけど、どなたが作ってるんですか?」
 天泣は言った。
「ああ。あれはたぶん第6地区の神官が作ったものじゃないかな」
「神官が技師のようなことを?」
 そう言うと不思議な顔をされたので、選ぶ言葉を間違ったことに気付いた。
「その……普段あまり外に出ないもので世間に疎いんです」
「なんだ兄ちゃん、ひきこもりか?」
「外に出ないとだめだよ。そうだ、毎日教会にお祈りに行くといい。きっとご加護もある」
 とそこに、シャーロット達もやってきた。
 彼女は手の甲の数字を見せ、天泣に自分達が敵でないことをさりげなく示す。
「楽しそうに話されてるようなので、私達もご一緒させてください」
 そう言って、市民の皆さんと乾杯。
「皆さん、超国家神様がこの町にいらっしゃるという噂を聞きましたか?」
「ああ、あれか。毎年流れる噂だよな」
「毎年?」
「そうそう。超国家神様がこの町に来るとしたらなにかの行事がある時だから。もしかしたら今年の祝祭には来るんじゃないかなって、希望を込めてそんな噂が流れるもんだよ」
「……それでは超国家神様は来られないのですか?」
 むむむ、とシャーロットは眉を寄せる。
「まぁまだそうとも言い切れないけど」
「祝祭は6日間行われる。最終日には大神殿が開放され、盛大な催しが行われるだろ。もし、超国家神様が現れるならたぶんその時だと思うぜ」
 なるほど、と天泣は唸った。
「ちなみに、大神殿にはどう行ったらいいのでしょう?」
 神殿に隣接するのは第6地区だが一般市民は入れない。となるとどこから行くのだろうか。
「そりゃお前、運河に決まってるじゃねぇか」
 第8地区に西に位置する第7地区との間には川がある。
 この川は下層市民である第7地区市民が、第8地区に無断で侵入出来ないようにするための”壁”の役割もあるのだが、存在理由はそれだけではない。
 この川は遡ると大神殿に通じているのだ。大きな行事の時にだけ、川の船着き場に大神殿行きの客船が現れるそうだ。
「……なるほど。そういう仕組みでしたか」
 天泣とシャーロットは顔を見合わせ、小さく頷いた。

 店の中から音楽が流れた。
 店内のステージに立つのは、アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)
 情報を集めるためこの店に身を置いて3日。ステージに立たせてもらっている間に、人前で歌うことにも少しだけど自信がついてきた。
「祝祭の良き日に捧げます。皆さんの幸せな毎日を願って……」
 幸せの歌に乗せ、讃美歌を歌う。
 透き通るようなその歌声に魅了され、客席から盛大な拍手が起こった。
「ヒュー! 最高だ! 一杯奢るぜ、歌姫さん!」
「あ、ずるいぞ! あの子に奢るのは俺っちが先だからな!」
「皆さん、ありがとうございます。でもまだ未成年なのでお酒は……」
 給仕のため、忙しく店内を動き回っていた榊 朝斗(さかき・あさと)も、空いた皿を運ぶ手をしばし休めて、アイビスのために拍手を送った。
「もうファンがいるんだ、すごいや」
 今日は朝から大忙しだった。それもそのはず、祝祭期間でただでさえ忙しいというのに、バイト仲間が四人無断欠勤しているのだ。朱鷺は少し前に第9地区に行ったきり戻ってこないし、ライスも今日はどこへ行ったのか、見当たらない。
「……そう言えば、ちびあさは上手くやってるかな」
 何日か前、店に来たサルベージ船の船員にイコンの回収を依頼した。その時にちびあさも一緒に付いて行ったのだ。今頃はサルベージされたアガートラームの機体整備で走り回っていることだろう。
 イコンの回収を依頼したのは、ここに来るまでの経緯を思い出したからだ。海京に現れた災厄を止めるためここにいること、そのために時空を超えたこと。そして、そのために戦う日が近いことを。
(海京はただの海上都市じゃない。
 あそこは色んな人たちが命をかけて守ってきた場所なんだ。
 僕が風紀委員になったのもただ治安を守るためじゃない。
 命をかけて散ってしまった仲間や学友の想いを無駄にしたくないからだ。
 僕たちの帰る場所、そして大切な人がいる場所を守るんだ……!)
「こら。なにぼーっとしてんだ」
 店のマスターに小突かれた。
「ま、マスター……」
「……ったくあいつら、サボりやがってぇ。今日は頼むぞ、朝斗」
「あ、あのーマスター、ちょっと話が……」
 素性の知れない自分達を住み込みで働かせてくれたことに感謝を。それから、自分にはこれからすべきことがあると伝えた。
「……そうか。行っちまうのか。アイビスちゃんの歌も評判なんだけどな」
「ごめんなさい。でも、僕達にはしなくちゃいけないことが……」
「まぁいいさ。何をしようとしてるのかわからねぇが、しっかりやんな」
 息子の頭を撫でるように、朝斗の頭を荒っぽく撫でた。
 まだ知り合って幾ばくも経ってないが、この数字が尽きる頃にはここを去らなくてはならないのが少し寂しい。
「……ま、それとして辞めるまではしっかり働けよ。糞サボリ四人の分まで」
「……う」