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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

リアクション


【6】


 サルベージされたイコンの修復作業を行う。
 作業の中心になったのは天学の技術者、第三世代機開発チームのイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)、天御柱学院整備教官の長谷川 真琴(はせがわ・まこと)、そして超絶設計者の笠置 生駒(かさぎ・いこま)の三人だ。
 作業を始める前に、船団の中でも大型のサルベージ船の甲板にイコンの整備ユニットが展開された。これはイーリャの要請でサルベージされたグランガクインのユニットだ。
「必要な装置は一式揃ってるわね。これで作業効率が30%上がるわ」
「及川さんが設備投資したイコンドックもありますから、思ったよりはかどりそうですね」
 三人はまず引き上げられたイコンの状態を確認する。
 どのイコンも例外なく海藻とフジツボに覆われ、装甲は錆び付き骨格フレームには歪みが見えた。水中適正のある機体でも、何十年も水中にいることは想定されていないので、ほかと比べればわずかに損傷が少ない程度、そのまま使用するのは難しい状態だ。
「これではオーバーホールを行わないと動かないかもしれませんね」
 真琴の言葉に、イーリャと生駒は頷いた。
「起動確認する前に掃除したほうがいいわ。回路がショートしたら洒落にならないし」
「バラして組み直すのが確実だけど、結構面倒な作業になりそうだなぁ……」
 まずは水抜きの作業だ。機体を分解したのち、付着した海藻とフジツボを丁寧に落とし、それから汚れと錆びもしっかり取り除く。
 ひと通り終わったあとは、部品を乾燥させながら、損傷の激しいパーツをピックアップして、交換が必要な部品のリストを作成する。
 作業は、Mマニュアルを元に真琴が指示を出しながら進められた。
「……鬼鎧もありますけど、これも直せるんでしょうか?」
 整備を手伝うエグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)は魂剛を見上げた。
「イコン同士なら流用出来るパーツがありますが、鬼鎧はどうなんでしょう?」
「鬼鎧の開発には天学も関わっていますから、部品はここに残っていると思いますよ」
 真琴は言った。
「潜水メンバーに頼んで、鬼鎧の機体及び、関連部品を優先して回収してもらいましょう」
 カタリナ・アレクサンドリア(かたりな・あれくさんどりあ)アンジェラス・エクス・マキナ(あんじぇらす・えくすまきな)も作業を手伝っていた。
「……不思議なのだけどこの時代、イコンのような機械を見かけないわね?」
 ふとアンジェは言った。
「そう言えば、確かに……」
「太公望も言ってたのよね”乗れる奴がいるなら”って……それって、暗にこの時代にパイロットがいないことを言ってる気がしたのだけど」
「この時代ではイコン開発が発展していないのかもしれませんね」
「ええ。残念ながら……」
 そこにサルベージから戻ったアイリが現れた。
「”契約者”自体が少なくなっているこの時代では、イコンは有効な兵器とは言えません」
 地球とパラミタが戦争状態にある2046年では、契約者でなければ動かすことの出来ないイコンは戦争の主力から外れてしまっているのだ。
 プラントを保持している機関では独自に開発が進められているという話もあるが、イコンに関する情報共有は行われておらず、アイリも把握していないのが現状だ。
 したがって第何世代という括りはこの時代では使用されていない。
「イコンは強力な力を持っていますが、数を揃えられない現状では利用価値は低いんです」
「誰でも扱える通常兵器のほうが主力になりますものね」

 清掃の終わったものから組み立て作業を行う。
 イーリャはサルベージから戻ったちびあさと一緒にOSの再設定作業に入った。
 イーリャはノマド・タブレットを、ちびあさはタブレット型端末KANNAをコクピットに繋ぎ、時の彼方に消えたデータのサルベージを始めた。
「流石にあの環境に放置されていたんじゃ、データも無事ではなさそうね」
「にゃー」
 二人は素早く指先を滑らせ、イコンのシステム復旧に全力を傾ける。
 その時、ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)の声が聞こえ、イーリャははっとした。
「ジヴァ!」
「ママぁ、こわいよぉ……一人にしないで……」
 彼女は泣きながらイーリャに駆け寄った。
 彼女は記憶喪失の影響で幼児退行してしまい、ずっと何かに怯えているのだった。
「ごめんね。今ちょっと手がはなせないの……」
「やだよぉ。ママと一緒じゃなきゃやだぁ」
 イーリャが困っていると、ヴァディーシャが来てジヴァの首根っこを掴んだ。
「こら、失敗作。ママの邪魔をするんじゃないですよ」
「やだぁ、はなしてよぉ……!」
「いいから! お前はこれを見るです!」
 前を向かせた。
「え、ぅ……なに、これ……」
 そこにはサルベージされたフィーニクスがあった。
「ふぃー……フィーニ、クス……? あたしの……あたしの……」
 ジヴァの目に光が戻る。彼女にとってフィーニクスは特別な意味を持つ機体なのだ。
「違う! これはあの人の、マシュー中将の作った翼! あたしたちが受け継いだ翼!」
 自分を取り戻した彼女は、不甲斐ない自分に苛立ち、髪を掻きむしった。
「ああもう……何やってたのよあたし!?」
「まったく手を焼かせるんじゃないですよ、失敗作」
「あんたがフィーニクスを……?」
 彼女の意外な行動に驚いたが、すぐにジヴァはフィーニクスに視線を向けた。
「……手を貸してヴァディーシャ。こいつを整備するわよ。必ず空に戻してやる!」