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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第4回/全4回)

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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第4回/全4回)
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【立ち塞がる者を越えて】





「……あれは……」
「オルクス君が何かしましたかね……?」


 一進一退を繰り返すような、オリュンポスとの激しい戦闘の中、十六凪と尋人はその変化に気付いていた。
 セルウスと、セルウスの傍で剣を振るう者達の周りで、淡い光が時折きらりと瞬くのだ。それに伴って、先程まで優勢だったオリュンポスの戦線が、じりじりと押し戻され、逆に追い詰められかけているのだ。
「……どうやら、覚醒の準備が整いそうでありますね」
 丈二も同じものに気付いて呟き、ヒルダが強く頷いた。
「リリ達が成功したのね……!」
 顔を輝かせるヒルダに、丈二も目を細めた。いつの間にか、セルウスは腕輪の力を補助なしに発動させることができるようになっていたようで、攻撃に転じる際に腕輪の欠片が微かな反応を示している。後はほんの僅かなきっかけさえあれば、せき止められていた水が溢れるように、覚醒至るだろうと思われた。戦況も圧している、今がチャンスだと、丈二が向けた視線に、ディミトリアスがシャラ、と錫杖を鳴らして合図を送った。
「よし……行くぞ、構えろ!」
 一声を号令に、煉は構えを正し、中央でボス然と構えるハデスを見据えた。そして次の瞬間、ディミトリアスの術の発動と共に、その足は地面を蹴っていた。ベキベキと鋭い氷の柱が突き上げるように生じ、立ち塞がるものたちの足元を貫いて凍りつかせ、氷の道が作られて行く中を、リーゼロッテを纏った煉が次々に障害を斬り伏せながら駆け抜ける。
「来るか……、面白い!」
 その真正面からの突撃に、ハデスもその口元を引き上げて、迎え撃つべく大砲を構える。互いの直線上で、爆音を引き連れて幾つもの爆風が舞った。その集中砲火に横に逸れることなく怯むこともなく、剣で払いギリギリで直撃を避けながら、丈二達の援護を背に、迫る距離は残り三歩。
「もらった……ッ!」
 振り上げた剣より早く、ハデスの銃口が正面で煉を捉える。この至近距離だ、避けられない。
「―――ッ!」
 だが次の瞬間、解除された魔鎧リーゼロッテが、更に一歩を飛び込んできた。放たれたクロススラッシュは、不発に終わったものの、役割は猫騙しだ。攻撃を避け、出来る一瞬の隙――それで十分だった。アクセルギアによって更に加速を加えた煉は、持てる力の全てをその一撃に乗せて叩き込んだ。
「喰らえ、雲耀之太刀――ッ!」
「うおぉおおッ!?」
 轟音と共に一閃。紛れも無い最大の一撃が、ハデスを撃破したのだった。
 ペルセポネ達はハデスに駆け寄ったが、何故かセリス達に追撃する様子が無い。そのチャンスを逃さず、ぐいっとコハクがセルウスの腕を引いて前へ出させた。
「今だよ、セルウス!」
「行って!」
 美羽とレキの手が、セルウスの背中を叩いた。その瞬間淡く互いの間で弾けた光に押される様に、ぐっと剣を握り締めて、ドミトリエと共に駆け出したセルウスは、オリュンポスの包囲網を突破したのだった。




「何だか、思い出すね」

 そうして突破口を抜け、後方から十六凪の合図で撤退するオリュンポスと、仲間達が自分達の後を追いかけてくる足音を聞きながら、セルウスは不意に笑った。いぶかしむドミトリエに、セルウスは「だって」と目を細める。
「初めて会った時さ、こうやって走ってたなあ、って」
 キリアナ達、帝国の騎士に追われながら、クトニウスに怒られたりしながら、二人で並んで走った。そんな場合でないのはわかっていながら、思い出が素直に口に出るセルウスにドミトリエは「同じじゃないだろ」と淡白に言った。
「俺達は逃げてるわけじゃないし、二人でもない」
 背中を押し、あるいは阻み、セルウス達を後押ししてくれる存在。こうしている、今も。判ってるよ、と膨れた様子のセルウスの態度は以前と変わっていないようにも思える。だがその目、その空気は、逃げまわっていた時とは違う。
「……決まったのか?」
「うん」
 ドミトリエの言葉に、セルウスが力むでもなく頷いた。
「だから後は、突っ走るだけ……だよね」
「そうはさせないよ、って言ったら?」
 自らに言い聞かせるような声に割り込んだのは、相田 なぶら(あいだ・なぶら)だ。事前の下調べで、もし彼らが全てを突破できたなら此処に来るだろう、というポイントに張っていたのだ。
「良く此処までたどり着いた、って言いたいとこだけど、ここから先は立ちはだからせてもらうよ」
「なぶら、それでは勇者と言うより中ボスです」
 フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)の容赦ない一言にかくんと肩を落としつつも、気を取り直して「まぁ否定出来ないかなぁ」となぶらはセルウスに向けて剣を構えた。
「中ボスも倒せないようなら、君もそこまでってことかな」
 その言葉に、フィアナも溜息一つで切り替えたのか、構えを直すとセルウス達に相対した。

「最後の勝負だ、セルウス」





 同じ頃、ユグドラシルの外側でも、状況は終了しつつあった。
 流石に、龍騎士たちを倒すには多勢に無勢である。セルウスの突入が成功したのを見届けた後、各々弾幕や煙幕を駆使して撤退し、一旦エカテリーナの下へ合流した一同が、坑道まで引き返した所、入ってきた情報に虚を突かれたように目を瞬かせた。
「ティアラがボイコットしたって?」
 シリウスが驚いたように目を瞬かせ、佳奈子たちも顔を見合わせる。どういうことか、と首を傾げる面々に、エカテリーナは画面の中で肩を竦めて見せた。
『その件で、通信が繋がっているのだぜ』
 言って、エカテリーナが切り替えたモニターには、シャナ達のコンサートをバックに、和馬とディルムッドを隣に置くティアラの姿が映し出されていた。 唖然とした顔でモニターを見る佳奈子達に、にっこりと笑うティアラは『ボイコットって言っても、票の放棄じゃないですからねぇ』と目を細めた。選帝神の座を降りたわけではないし、セルウスの支持をとったわけではない、と言うのだ。そう説明する、現時点で味方とも言いがたい相手に皆が反応に困っているところ、ティアラは小次郎に向けて手を軽く振って見せた。
『あの賭けは、まだ有効なんですよねぇ?』
 その問いに頷いで、小次郎はその意図に気付いて「なるほど」と頷いた。セルウスが選帝の儀に間に合うことが出来れば、ティアラのこの行動は大きな意味を持ってくる。つまりこれは、小次郎が賭けに勝った場合のリターンというころだろう。だが、勿論「セルウスの支持ではない」以上、場がセルウスに傾かない以上はただの浮動票だ。
『ティアラはリスクの高い賭けはしない主義なんですよぉ』
 その言葉に、小次郎は軽く苦笑し、シリウスは不敵に笑った。
「大丈夫、セルウスはひっくり返すさ。ドミトリエもな」
 それはその場全員の、願いや、祈りの言葉にも似ていた。






 そんな中、もう一方の戦場でも、戦闘は最後を迎えようとしていた。いや、彼らのそれは戦闘ではなく、殺しあいだ。繰り出される攻撃は躊躇いなく急所を狙い、見誤れば一撃が命を削っていく。手数で押しながらも、防戦側にある竜造に決定打を取れないのに苛立ってか、少女は徐々に呼吸の乱れる息の中で舌打ちを漏らした。
「……っ、いい加減、倒れたらどうカシラ?今なら見逃してあげなくもない、ワヨッ!」
「馬鹿言えよ、死ぬのは、テメェ……だっ」
 空を切るナイフが一本、二本、と投擲され、それを見切って弾く竜造の剣とぶつかって高く音が鳴る。そろそろ手持ちの投擲武器も底をつきつつあるのだろう。少女は短剣をくるっと回転させて構えを変え、ベルトを切って剣帯と装備の一部を落とすと、一気に竜造に向かって距離を詰めてきた。身軽になった分、速度が速い。動きは目で追えるが、かわすとなると、武器のリーチ差が障害になった。ひゅう、と空気を切って繰り出される少女の剣は、短剣と侮れないほどの威力がある。ギャリリっと剣の腹を滑ってその腕を傷つけ、体重の乗った剣戟が竜造の剣を弾き飛ばした。ように、見えた。
「……ッ、らあ!」
 瞬間、剣から離れた腕が、ごうっと少女の胴へ突き出された。短剣の腹がそれを受けたが、二撃目が、辛うじてしゃがんだ少女の頭上をすり抜ける。
「……っ」
 続けざま、足。足払いを避けて側転した体で、少女は振り向きざまに、空いた竜造のわき腹に向けて短剣をつきたてようとした、が。
「……捕まえたぜ?」
 どずり、と嫌な音と共に剣が突き立ったのは、脇を締めた竜造の左腕だ。深々と突き刺さったせいで、とっさに剣を引き損ねたのが、決定打となった。次の瞬間には、竜造の右腕が少女の細い腕を掴んで引き寄せ、バランスを崩させた胴の中心へと、傷ついたままの左腕、その肘を力任せに叩き込んでいた。
「が……ぁあッ!」
 見た目より攻撃が重いのは、その体術故だ。身体そのものは少女のそれである。逃げ場のない衝撃をモロに全身に受けて、受け身を取ることも出来ずに壁に叩きつけられて崩れ落ちる。それでもまだ消えぬ殺意で、腕に仕込んだダガーを突き出してきたが、遅い。腕に刺さった少女の短剣、引き抜かれたその真っ赤に血に濡れた剣先で、少女の肩先から胸元までを切り裂いていた。
「…………ッ」
 悲鳴は上がらない。少女はごふりと血を溢れさせた口元を、歪な笑みに歪ませた。
「…………残、念ダ、ワ……」
 最後の執念か、自身を裂いた剣を自らに押し込むようにして、死んでも渡さない、とばかりそれを握り締めた少女は、笑うような一言を残して、竜造が見下ろす視線の中、呼吸を終えたのだった。






 同じ頃、広い空間まで誘い込んだなぶらは、セルウスと剣を交えながら、彼に起こっている変化に目を細めた。
(どうやら錯覚じゃあないみたいだね)
 見えない糸のようなものが、セルウスの背に無数に繋がって、時折きらきらと瞬いている。束ねられたそれが、まるで透明な翼があるように見えた。資質が開花する瞬間が間近に迫っているのだろう。散々追いかけ回した相手が、成長して正面から向かって来る姿は中々に感慨深いものがある。
(だからって、はいどうぞって通してあげるのは、芸がないよねぇ?)
 心中で呟き、なぶらは攻撃の速度を上げた。セルウスの仲間はまるでその光に魅せられるように戦いを眺めているし、ドミトリエが積極的に前には出てこないため、実質2対1だが、従騎士を倒すセルウスの実力は確かであり、その小さな体を包む微かな光の粒が力を引き出しているのか、一撃一撃は重く、早くなっていく。フィアナの援護を受けながら、広間を縦横無尽に移動しつつの、防戦一方だ。そんな状況にらちをあかせようと、一度攻撃に剣を当ててその反動を使い、距離を取ったなぶらは、構えを直すセルウスの姿に目を細めた。自身も構えを直しながら、ふっとなぶらは口元を引き上げる。
「一丁、超えていってもらうよ、セルウス!」
 一声と共に、互いが飛び出す。勝負は、すれ違い様の一瞬。なぶらの放った横一文字の真空波をぐっと体を低くさせ、突っ込んでくる速度はそのまま、頭上に剣を振り上げて断ち、振りかぶった腕が横を薙ぐ。そして。
 ドズンッ、と。鈍い音がし、なぶらの剣はあと一歩届かないところで静止していた。セルウスの剣の柄が、深々となぶらの鳩尾に食い込んでいる。
「……っ」
 吹き飛ばされるのは堪えたが、そこまでだ。ずるりと膝が崩れ落ちるのを、フィアナが駆け寄って受け止めた。
「全く、見栄を張るなら最後まで立っていなさい」
「無茶……言うなぁ」
 心配のしのじもないフィアナに苦しい中息をつき、なぶらはセルウスを見やった。互いに言葉はないが、十分だ。セルウスはその剣で、なぶらの無言の問いに応えたのだ。呆れ顔のフィアナに支えられながら、なぶらは自身の後ろに続く道を、すっと指し示した。

「あそこから行けば、分岐路ナシの一直線だ。正面から名乗りをあげるんだね」






 
 選帝の間付近に詰めていた面々の中で、最初に接近に気付いたのは、テノーリオだった。
 ピクリと耳を震わせながら振り向き、近づいて来る気配に、トマスに「来たぜ」と合図を送った。それを受けてトマスとカル・カルカー(かる・かるかー)は顔を見合わせると、さりげなく通路を塞ぐようにパートナー達と共に並んだ。だが、立ち塞がろうというのではない。いまだ騒がしい選定の間へ注目の集まっているのを幸い、他の契約者や龍騎士たちの視界から遮る壁となるためだ。
「良かった、間に合わないかと思ったぜ」
 そう言ったカルの隣で、ドリル・ホール(どりる・ほーる)がジェルジンスクの紋章の刺繍された、重そうな旗を肩に乗せた。
「本当は、皇帝候補らしく、随伴の隊列率いて華々しく登場、としたかったんだけどな」
 今は友好関係を築いているとは言え、お互いに力を持った国家同士であり、皇帝不在の微妙な時期である。結果的に手配出来たのは、クリストファーのいるジェルジンスクから、領旗ぐらいだ。
 苦笑するカルに、セルウスは良く判らない、と言うように首を傾げた。
「みんながいるし、十分立派だと思うけどなぁ」
 その言葉にドミトリエは苦笑しながらその肩を叩いた。
「お前の言いたいことも判るけどな。見栄えってのも少しは気にしろ」
「左様」
 大きく頷いたのは夏侯 惇(かこう・とん)だ。
「華美である必要はないが、相手への信用に見栄えが一役買うものだ」
 本当の信用は後からついてくるものだが、初対面の相手の心証を損ねるのは得策ではない。相手にそれだけの「実」があることを示すためにも、みすぼらしくない程度の装いは必要だ、と滔々と語ろうとするのをとりあえず押しやって「兎も角」とジョン・オーク(じょん・おーく)が切り出した。
「今は立ち話をしていられる状況ではありません」
 言って、預かり物です、とジョンが差し出したのは、一式の式服だ。ルカルカがこの日の為に用意した、立派なセルウスの式服である。突入の前に、氏無を通じて預けられたものだ。目をぱちぱちさせるセルウスの背中を、ぱしん、とカルは叩いた。

「さ、堂々と皇帝候補の名乗りを上げに行って来な!」