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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第4回/全4回)

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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第4回/全4回)
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【顕現する悪意】



「――そこまでだ」

 一言で場を鎮めたのは、ミュケナイ地方選帝神、イルダーナだ。
 今だ強く殺意の篭った目の荒野の王と、息も切れ切れながら揺らぐことのない真っ直ぐな目をするセルウスとを見比べ、その視線は他の選帝神たちへと向けられた。
「見極めに足る材は揃ったと思うが、どうか」
 その言葉に、{SNL9998718#選帝神 アルテミス}達他の選帝神は頷いたが、ただ一人、ラヴェルデだけが待ったをかけた。
「まだ、全員が揃っておらん。公平を期すというのなら、到着を待って協議するのが道理ではないか」
 だが、そう言いながら自身でも苦し紛れだとは判っているのだろう、表情は苦い。果たして「異な事を言うわね」とラミナがバッサリと気って捨て、イルダーナが後を引き取る。
「過半数の票が揃うのであれば、選帝の儀に支障は無い。そう言ったのは確か、あんただったと思うがな」
「何より、我らが帝国においては”力が全て”。協議の必要があるか疑問だわ。それに――……」
 ラミナが続け、ちらりとその視線をアーグラへ向けた。
「……そのカンテミールの選帝神は、降りたようよ」
 アーグラの手にあったのは、選帝の儀への欠席と、自身の票を協議の結果に委ねる、とする旨の公文書だった。ラヴェルデは低く唸りつつも、それ以上食い下がるのは無駄と悟ってかそのまま沈黙し「では」とアルテミスが号令した。
「我ら、選帝神の名に誓い、世界樹ユグドラシルの新たな主足りえる者を、ここに選別す」
 朱鷺たち居合わせる面々が固唾を呑んで見守る中、選帝の儀は厳かに再開された。
 とは言え、氏無たちが乱入する前に粗方の流れは終わっていたのだろう。儀式は直ぐに終盤を迎えることとなった。
「我、ジェルジンスクのノヴゴルドは、セルウスを候補者として認む」
 ノヴゴルドの宣言に続き、イルダーナ、ラミナ、アルテミス……と、それぞれの選帝神がその意思を宣言していく。

 そして――過半数の票が、セルウスに揃ったのだった。

 誰も声を上げられないまま、感動とも安堵ともつかない空気が流れる中。ふわり、と蛍のような淡い光の粒がただよい、やがてそれが神殿を包み込むと、鈴の響くような音が、耳ではなく直接頭へと語りかけてきた。
『―――汝等の意思を、推す。セルウスよ。我が加護を、そなたに』
 短くも、深みのあるさざなみのような声は、ユグドラシルのものだろうか。それに呼応するように、漂っていた光が集まって、神殿の天井からヴェールのように降って来ると、セルウスを祝福するかのように、その頭上できらきらと輝いた。
 光の王冠を頂いているような、幻想的で華やかな光景に、誰もがこれでめでたしと終わる、と思った。

 その時だ。

「く……くく、く」
 まるでそれを嘲笑うかのような、低い声が響いた。
 いつの間にかブリアレオスに寄りかかるようにして立ち上がっていた、荒野の王だ。
 何が可笑しいのか、苦しげな息の中で、その笑い声はどんどん大きくなっていく。
「は、はは……ははははッ! 成る程、どこまでいっても失敗作は失敗作、というわけだ」
 意味不明なことを言いながら笑い続ける荒野の王に、セルウスも思わずじり、と後ずさった。
「……ヴァジラ?」
「狂ったのか」
 ドミトリエが顔を顰めると、荒野の王はまだ笑い足りない、とばかりに肩を揺らしながら「狂ってしまえば楽だったろうな」と薄く笑う。その態度をいぶかしんでいると、荒野の王は天井を仰いで目を細め、独り言のように口を開いた。
「紛い物は所詮、紛い物か。貴様らは……世界は……やはり、生き足掻く宿命を選ぶのだな」
 それは、選帝神へではなく、もっと不特定多数の”誰か”に向けられた言葉のようだった。
 そして――

「ならば、余は全てを否定し、踏み潰して征くのみだ……!」

 荒野の王はピィーッと高く指笛を鳴らした。
「ヴァジラッ!」
 何かを焦ったようにラヴェルデが叫んだが、既に事態は動いていた。
 指笛に応えるように、目深にローブを被った一団が、それぞれ手に武器を携えてなだれ込んできたのだ。
 その武器に一瞬言葉を詰まらせた様子のディミトリアスのそばを、アーグラ達第三龍騎士団が走り抜けた。
「下がれ貴様ら、此処を何処と心得るかッ!!」
 アーグラが一括し、選帝の儀を終えたために結界の加護の外となった選帝神たちを庇うように、第三龍騎士団がその一団を取り囲んだが、何故か彼らはその武器を、円陣を描くようにして荒野の王へと向けた。どういう状況なのだと皆が戸惑っている中、ラヴェルデだけが「止せ!」と声を荒げる。
「ヴァジラ、今は退け……! これでは……っ」
 だが、荒野の王はにいっと口角を引き上げると、パチンっと指をラヴェルデへ向けて鳴らした。それを合図に、一団から抜けた一人がラヴェルデに斬りかかる。
「ヴァジラ……ッ」
 寸でのところで、その身をグンツに庇われることとなったラヴェルデが、驚愕の表情で叫んだが、荒野の王の笑みは変わらない。グンツに屠られた男が火の中に倒れる向こうで、荒野の王は慇懃に頭を下げて見せた。
「感謝はしておこう。だが、貴様の役目は、もう終わったのだ」
 言って、誰が止める間もなく、ありったけの錠剤を噛み砕くと、自らに武器を向ける一団に向かって、その腕を払った。すると、まるでよく訓練された兵士のように、全員が武器を敬礼のように正面に構えると、その先端を地へと突き立てた。
「ッ、あれは……!」
 突然、ディミトリアスが叫んだ、次の瞬間。
 全ての武器は一斉に昏く発光し、地面に紋様のようなものを描いた。
 それが魔方陣であると判るより早く、荒野の王は手順を終えているようだった。
「出来れば皇帝として、この時を迎えたかったが……仕方あるまい」
 一声。ずずっと足元の魔方陣から沸きあがった黒い光が荒野の王を包み込み、まるでその体を蝕むようにして肌の上を蠢いたかと思うと、それは一気にその体から噴出すようにして膨れ上がり、実体を持ってバキバキと音を上げながら床下へと潜り込んでいく。邪悪な力が、世界樹ユグドラシルを内側から食い破ろうとしているのだ。
 みしみしと軋む音を上げ始めた神殿の中央で、黒い光に体を蝕まれようとしながら、爛々と目を輝かせながら、荒野の王は歪んだ笑みを浮かべて君臨していた。
「待たせたな……アールキング。終わりの、始まりだ」
 その声に応えるように、黒い光が質量を増すと、荒野の王の足元を突き破って、それが姿を現した。
 遥か古、ニルヴァーナより訪れた、動く世界樹アールキング。その邪悪な一部が、まるで根を張るようにして神殿を侵食していく。
 だが、ユグドラシルもパラミタ最大の世界樹である。それを簡単に許すほど易しくはない。食い破ろうとする根へと枝を伸ばし、絡め、或いは圧して抵抗を始めた。バキバキ、めきめきっと木々の軋むような音が幾重にも響き、その幹のうちの一つが、アールキングの根がセルウス達へ向かおうとしたのを阻んだ。
「ユグドラシル……!」
 セルウスが叫んだが、返る声は低かった。
『――行け。そなたらまで、手は回らぬ』
 その声は、淡々としているが、僅かに焦りが滲んで見えた。いかに強力な世界中でも、中枢近くからの攻撃に手を焼いているのだろう。
「…………っ」
 見れば、第三龍騎士団は果敢に根へ立ち向かってはいるが、他の選帝神の姿は既に無く、切り捨てられたと思しきラヴェルデも、グンツや呼雪が付き添うようにして離れていくのが見えた。
「二人とも、早く!」
 クローディスが、まだビデオを回し続けている理王達を連れ、スカーレッドがローズ達の退路を切り開いて神殿から辛うじて脱出する中、何故か動こうとしないディミトリアスの腕を、煉が「おいっ」と訝しげに引いた。
「……っ」
 だが、何をしている、とは口には出さずに飲み込んだ。ディミトリアスの目が、いつかのアルケリウスと良く似た憎悪の色を湛えている。一族を滅ぼした仇がそこに居るのだ。気持ちは痛いほど判っていたが「駄目だ」と煉は首を振って、無理矢理にその腕を引いた。
「今は退くんだ。お前もだ、セルウス!」
「でも……っ」
 躊躇うセルウスに、ドミトリエがその背を押した。
「行くぞ。今は、ユグドラシルの足手まといになるだけだ」
「セルウス……!」
 顔を歪ませるセルウスに、レキがその手を掴んだ。
 仲間たちの多くは、傷だらけで、留まるのはあまりに危険だし、そんな彼らを庇いながらでは、ユグドラシルも本領を発揮できない。
 苦渋の表情で頷いたセルウスは、レキの示す避難経路へ駆け出す間際、振り返ったその視線の先で、何故か苦笑のような表情でじっとセルウス達の背を追いながら、荒野の王がアールキングの根元へ埋まっていくのを見たのだった。







 同じ頃、世界樹ユグドラシルの根元。
 全ての人々がその手を止めて、呆然と天を仰いだ。

「……そんな……」

 未憂は、余りの事に息を呑んだ。
 ユグドラシルが狙われているのでは、という危惧は、現実となって目の前に迫っている。
 醜く歪んだ邪悪な樹が、ユグドラシルの樹皮を内側から割くようにして、みしみしと生えて来るのだ。ヤドリギのように幹を蝕んでいくその黒い枝葉が黒い羽のように地上へと振りまかれ、二つの世界樹が放つ強大な力のぶつかり合いによって、空は嵐の前兆のように、暗く翳りが広がっていく。

 誰もがその悪夢のような光景を、悲鳴すらも飲み込んで見守るしかなかった。


 パラミタ最大にして最強のはずの世界樹ユグドラシルが、世界樹アールキングによって、侵食されようとしていたのだった。



担当マスターより

▼担当マスター

逆凪 まこと

▼マスターコメント

ご参加くださいました皆様、大変お疲れ様でした
【帝国を継ぐ者】第二部はこれにて完結でございます
無事、とはとても言いがたい状況ではありますが、セルウスが皇帝を継ぐこととなりました

他、大まかな結果は下記の通りとなります

■状況・状態
・次期皇帝は、過半数の選帝神の承認によって、セルウスに確定しました
・世界樹ユグドラシルは、召喚されたアールキングに内側を侵食されかかっている状態です
 今のところは、ユグドラシルの強力な魔力によって、帝都内への侵食は防がれているようです


■各選帝神のその後
・イルダーナ達はユグドラシルの加護の下、自身の領地へ転送されて事なきを得ています
・ラヴェルデはPCに保護されつつ脱出、現在逃亡中です
・ノヴゴルドはジェルジンスクの選帝神に無事復帰することとなりました
・ティアラはカンテミールの選帝神を継続、エカテリーナとタッグ(のようなもの)を組むことになりました
・状況が状況のため、オケアノスは現在もラヴェルデが選帝神ですが、その後はまだ見通しが立っていません



今回特に、色々と初の試み等ありまして、頭を悩ませてしまったかと思いますが
その分様々なアクションが出揃いまして、大変楽しませていただきました
ただ、同じだけ非常に判定を厳しくせざるを得なかった箇所が多く
幾らか調整をかけさせて頂いた部分もありました
個人的な感想・判定関連につきましては、後日マスターページにて記載予定です



さて
第二部からの担当と言うことで、色々及ばないところがあったかと思います
気がつけば妙に規模が大きく、かつ、ややこしくなってしまっていた全四回のシナリオですが
ここまでこぎつけることができたのは、皆様のアクションの賜物だと思います
本当にありがとうございました

物語はまだ一区切りを迎えただけ、といったところです
まだまだ激動のエリュシオン、皆様の力をお貸しいただけましたら幸いです