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魔女が目覚める黄昏-ウタカタ-(第2回/全3回)

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魔女が目覚める黄昏-ウタカタ-(第2回/全3回)

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■エンディング

「これが東カナンの銀の魔女、か」
 と合流を果たしたは、クリスタルのなかに閉じ込められた、大剣とその後ろで眠る女性を見下ろした。
 見覚えは全くない。なのに、じっと見つめていると、何か、終の心の琴線に触れるものを感じる。
 魔女は目を閉じていたが、その瞳は春の訪れを思わせるあたたかなスミレ色なのではないかと、なかば確信のように思った。
(何か、腕に抱いている?)
 あれこれと覗き込む角度を変え、どうにかしてその影が何か見定めようとしていると、いぶかしんでいるような静の視線を感じた。
 長く見つめすぎたか。
「それで、これをどうやって地上へ運ぶかだが――」
 そのとき、突然静が終の口に手をあて、壁にあるへこみへ引っ張り込んだ。
「静?」
 ――しっ。だれか来る。

 静の視線の先、数分と経てず光術によるあかりが見えた。
 彼らが流れてきたのとは反対の方角からだ。
「ペトラ、足元に気をつけて。濡れてすべりやすくなっている」
 アルクラントの声が反響する。
「だーいじょーぶっ! マスター、シルフィアの方を心配してあげてよっ」
 ペトラはぴょんぴょんと水面に点在している岩の上を軽快に飛び跳ねて進む。川に落ちれば滝に飲まれると、行為は危なっかしいが、足取りは安定していて問題はなさそうだ。むしろそれをはらはらしつつ見守っているシルフィアの方こそ、たしかに自分の足元の心配が二の次で、おぼつかなさそうだった。
「ここは危険だ。手をつないでいこう」
 アルクラントの申し出に、シルフィアはほおを赤らめながらも手を差し出す。
 彼らより前を行くのは、河馬吸虎だ。てっきり自分たちだけで捜索するとばかり思っていたのに、見知らぬ人たちと合流し、一緒に探すことになったため、びくびく、どきどきしながら歩いている。
 それでも逃げ出さないのは、そうしようとしてリカインに一度叱られたからだった。
「あなたがいなかったら、みんな暗闇で手さぐりになってしまうでしょ!」
 光術を使えるのが彼女だけだったからしかたない。そうでなかったらリカインも、無理強いはしたくなかったのだが。
「あんたたちと合流できて、本当によかったわ。私たちだけじゃここまで下りれなかったもの」
 感謝の声音でエメリアーヌ狐樹廊に言う。狐樹廊は複雑な顔をして、扇で隠した口元で、そっとため息をこぼす。
「それで、この辺りだったの? あなたたちが聞いた変な音や振動がしたっていうのは」
 リカインの、気が急いているような言葉にペトラが元気よくうなずく。
「うん! この辺だよ、たしか! ――あっ、あれじゃない? もしかして!」
 光術の光が届くギリギリの所で、何かがピカッと反射した。
 足場になりそうな石を飛び跳ねて、身軽に川を渡っていく。
「いっちばーーん! あー、やっぱりそうだよ、これ! あのクリスタルだ、マスター! 早く早くーっ!」
「川を流れてないのね?」
 てっきり水底から見つかると思ったのに。不思議そうにシルフィアは見つめる。
「流されてる途中で岩にぶつかって、岸に打ち上げられたんでしょ」
 エメリアーヌが肩をすくめて見せた。
「そうね」
 深く考えても意味はない。シルフィアもそれについて考えるのはやめて、ペトラに向き直る。
「探しているみんなに、早く連絡してあげて」
「うんっ」
 ペトラは意気揚々とそでをまくり上げ、腕輪型HC犬式−PETRA−で呼び出しをかける。
 彼らが周囲でそんなふうにわいわいしているなか、リカインは呆然とクリスタルに眠る女性を見つめていた。
 光術の光を浴びて、銀色の髪は虹色に輝く――。

「――スウィップ、くん…?」

 わけも分からぬまま、リカインはそう口走っていた。


※               ※               ※


 一方、さらわれた先でハリールは、冷たくて小さい何かがぺちぺちとほおに当たる感触で、目を覚ました。
「ハリール、ハリールってば!」
 同時に、自分の名前を呼ぶ小さな声も聞こえるようになる。
 目を開くと、揺れる視界のなか、ラブの姿があった。
「……ラブ…?」
「よかったあ! あんた、このままもう起きないんじゃないかと思ったわよ! 起きるならさっさと起きなさいよ! もうっ」
 半泣きになって怒りつつ、ラブはへなへなとその場にへたり込む。
 目が覚めてくるにつれ、視界の揺れはおさまって、周囲も見えるようになってきた。
 小さな部屋で、窓らしき場所は内側から板が釘で打ちつけられているが、牢屋という感じはしない。彼女が寝かされているのはきちんとした寝台の上だ。
「あたし……何が…? たしか、逃げて――」
「しっ!」
 かすかに足音を聞きつけたラブが、ハリールの口をふさぐ。
「いい? よーく聞いて!
 あたしは今からあそこの窓から逃げて、ハーティオンたちを呼んでくる!」
 ラブが指差したのは、天井近くの壁に設置された換気用の窓だった。
 小さい上、格子状の木枠がはまっているが、小さいラブならなんとかすり抜けられそうだ。
「あんた、1人で待てる? あたしやみんなを信じて、待っていられる?」
「ラブ……ええ、待てるわ」
「よし!」
 うなずくと、ラブは飛んだ。格子を抜けて、家の外に出る。
 外はもう真っ暗だったが、随所に灯明があるおかげでラブはそこが小さな別荘地であることが分かった。
 ここへ運ばれてくる道中はハリールの服の下にもぐって動かないようにしていたから、自分がどこにいるかも分からない。でもたぶん、道に沿って飛べば、どこかへたどり着くはずだ。

「待ってて、ハリール。絶対、絶対絶対みんなを連れて戻ってくるからね!」
 



『魔女が目覚める黄昏 −ウタカタ−第2回  了』

担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。

 ご参加いただきました皆さん、大変お待たせてしてしまうことになり、本当にすみません。
 今はひたすら土下座してお詫びしたい気持ちでいっぱいです。

 次回はいよいよ最終回です。この物語がどういう結末を遂げることになるか、正念場です。
 ガイドは近日中に出させていただく予定です。
 引き続き、次回もご参加いただけましたらうれしく思います。よろしくお願いいたします。



 それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
 次回『魔女が目覚める黄昏 −ウタカタ−第3回』でもまたお会いできたらとてもうれしいです。
 もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいなぁ、と思います。

 それでは。また。

06/11  誤字脱字修正、一部文言を訂正させていただきました。ご指摘をありがとうございました。