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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第1回/全3回)

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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第1回/全3回)

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遺跡探索準備

 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とともに遺跡探索全体の効率のため、調査本部のヘクトルの傍についていた。スポーンの街で得られたウゲンの証言はすぐに遺跡探索隊の元に伝えられ、ヘクトルの心配の種を増やしていた。
「ただでさえあれこれ口をさしはさむゴダードとジェイダスの相性がよくないのに……この上結界だと……?」
胃薬と頭痛薬を一緒に飲み下し、文字通り苦虫を噛み潰したような表情でヘクトルが呻く。
「心配なのね……なら実際にヘクトルも一緒に探索したらどう?
 ダリルの部下を連絡役に残せば事務も出来るし、離れてても緊急事態は連絡して貰えるでしょ?
 実際に自分の目で探索したり、ゴダードの抑えにもなるでしょ? 閉じこもっててもよくないわ」
「いや、そうはいかん。緩衝役がおれの務めだ。調査隊のための雑事も山のようにあるしな。
 やらねばならんことがまだまだ片付いていない……」
「でしたら、雑事の一部なりとも引き受けるわ。それだけでも負担がだいぶ違うと思うの」
「ああ。それは非常にありがたいが……」
「なら、決まりね」
ルカルカはてきぱきと書類や調査員たちのリストに目を通し、必要なものをリストアップしてゆく。

・暗視できないメンバーのためのノクトビジョン
・回復薬、非常食、飲料水の手配
・防水加工した無線やHC等の連絡装置やそれらの防水加工やパッケージング
・宿泊や入浴、排泄場所としてトレーラーを簡易宿舎に、入浴用に仮設住宅の設営

メモ書きし、ヘクトルの補佐として必要な資材を計算し、指示を出してゆく。ダリルは調査員たちからからヘクトルに集まった探索済区域を図面化して開示し、未探査の場所の探索をしやすくするための下準備を始めた。情報はバラバラに任意のところから集まってくる。それらを統括してデータベースを作れば、二度手間や確認ミスを未然に防ぐことが出来るからだ。こういったシステム管理的なことは機械・電子技術についても詳しいダリルには得意中の得意といって良い。戦闘が発生した場合の援軍と重要物品のサルベージの手配も、前もって進めておく。実地に調査が始まれば、アクアロボットや自分の各種知識、ルカルカののメトリーも活用し、遺跡の正体と格納物等について分析し、データベースを作って行けばいい。
「そういえばキロスさん、インテグラル・ナイトに搭乗してるんですっけ」
ルカルカがヘクトルに話しかける。
「そうらしいな。脳筋のアレには合ってるだろう」
そっけない返事に、ルカルカはキロスのフォローに入る。
「ケンカっ早いけど気のいい人よ。それに私が、戦場で背中を任せられる存在だしね」
「ケンカだけは昔から強いやつだからな」
ヘクトルが言った。そこにゴダードが入ってくる。強化人間の少女たちが幽霊のようにその背後に控えている。
「おい、この結界というのは何だ?」
「なんでも、ウゲンからの情報で、幾つかの重要な遺跡に張られているようです。
 プロテクターのようなものらしいのですが、それ以上の情報は、まだ何も」
「ここの遺跡も結界があるのか?」
「今契約者たちが向かっていますから、情報が入るでしょう」
「フン。まあ良いだろう、逐一情報は入れるようにしろ」
こっそり顔をしかめたヘクトルを見て、ルカルカがすかさずにこやかに声をかける。
「私のほうからすぐにご連絡差し上げます」
「……教導団の地球人か。まあ良いだろう。……行くぞ」
3人の少女たちを追い立てるようにしてゴダードは出て行った。あれは難物だ。少なくとも自分が緩衝材として入ることで、ヘクトルの体調を少しは良くする事が出来るかもしれないとルカルカは思った。

玖純 飛都(くすみ・ひさと)は穏やかな緑の瞳に深い興味の色を浮かべて湖の傍らにひざまずいていた。遺跡そのものももちろん気になるが、それが湖底にある意味は……。ただの水であれば何らかの原因で地形が変わり、水に沈んだと考えてもおかしくはない。だがこの湖を構成する赤い水の中では普通に呼吸が出来、濡れることもないという奇妙な現象がある。と、すればこの湖自体が遺跡同様、何らかの意図をもって作られた可能性はないだろうか。ニルヴァーナには時を越えて『情報』を運ぶ黒い砂が舞っている。この黒い砂と赤い水に何か共通点はないだろうか。遺跡自体に比べて目覚しい成果はないかもしれないが、こちらを調べた上で行けば比較検討も出来、何かのヒントを得られるかもしれない。あるいはこの土地や赤い水にも生物に影響を与える何かが存在しているのかも知れない。飛都はそう考え、周辺の地形や風、湖の水流などの外的部分を調べるため計測器を設置した。その間に水の成分を調べるべく、深さや場所を変えて湖水のサンプルを順次採取し、分析器にセットしてゆく。
「黒い砂については、今までの研究で過去に存在したと考えられる様々な遺伝子や知識の情報を断片的に保有している。
 だがこの赤い水との関連はないようだな」
黒い砂については既存のこと以外わからなかったが、赤い水については、驚くべき結果が得られた。籠手型HC弐式・Nでのデータベース検索結果と分析結果を照合した結果、埼玉の“よめつくり大学”で、かつてゲルバッキーが剣の花嫁の製造準備をしていた際に用意されたものの中に、似た成分のものがあったというのである。さらには、ピラミッド型の遺跡に近いエリアほど、その成分が濃くなっていることも判明した。
「……と、いうことはあの遺跡から成分が漏れ出している可能性が高いな」
飛都は湖岸に立って湖を見つめた。
「先日の遺跡はスポーンの研究所だった。と、いうことはここは……剣の花嫁に関する施設である可能性があるな」
飛都は各種のデータと、そこから導き出された己の推測を一筆添え、遺跡調査隊のジェイダス、ゴダード、ヘクトル、そして学者であるアクリトにも送信した。
 
 実地の調査に向かっていた契約者たち。その先遣隊の一人、叶 白竜(よう・ぱいろん)は、ピラミッドを目指していた。ニルヴァーナはまだまだ謎が多い。そこに生息する様々な生命体を調べることがこの土地の謎を解く鍵になると思っていた彼は、アイールの街に「湖上水棲生物研究所」を作った。もちろん「光条世界」という言葉はその時は知らなかったわけであるが。元々地質学に興味を持つ彼は、表面には出さないが、実はこの湖底調査自体を楽しんでいる。彼のイコン黄山は水中作業用や調査に特化させた愛機であり。いつでも使用できるようコンテナに待機させている。
「何か大きなものを引き上げる必要があるかもしれませんし」
彼はジェイダスにそう説明していた。
 この湖最大の謎は水の中で呼吸や会話ができ、濡れないことだが、白竜は一応念のために水中用の装備で中に潜った。HCも念のため耐水用に調整してある。緊急避難用ボートも持ち、誰かケガ人や病人が出たらボートに乗せて陸地に上げるようにする準備も怠ってはいない。
パートナーの世 羅儀(せい・らぎ)は警護のためにパワードスーツで水に入るっていたが、濡れず呼吸はできるものの普通の水同様に抵抗がある。
「動きにくいかな……水の中でも普通の服装でいいかなー?」
しばらく動き回ってみて、彼はパワードスーツをはずした。銃系は扱いにくいかもしれないし、もしも危険が迫った場合はカタクリズムやサイコネットを使って回避に努めれば良いかと考えたのだ。
「重火器だと破損が心配だしな〜。できるだけ遺跡を破壊するような事をしたくないしね。
 アブソリュート・ゼロで氷結って手もあるしな」
ゆっくりと他の契約者たちの先陣を切ってピラミッドのような遺跡に向かう。
「ピラミッドと聞くと……王家の墓、そしていろいろな罠ですが、ここはどうでしょうね」
水中の探索に使うアクアバイオロボットも携行し、狭い隙間の内部を探らせようと考えていた。
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が進もうとする白竜に声をかけた。詩穂はパラミタの崩壊を遅らせるために祈り続けているアイシャ。その負担から開放することが「アイシャの騎士」としての役割と考え、発見できるものがアイシャの役に立つかもしれないとの思いから遺跡探査に参加していた。探索セットで水中での動きにも支障はない。
「1つ気になっていることがあるんです。
 このピラミッド型の遺跡に来るまでの間、街中にいたイレイザー・スポーンたちがとても穏やかでしたよね。
 ええ、HCで調べたところ、間違いなくイレイザー・スポーンなのに。
 これは推測の域なのですが、もしかしたらこのピラミッド型の遺跡には何かしら『平穏』や『安定』……。
 そういったものを司るような秘宝があると思うのですが、いかがでしょうか」
「そこは、まあ、まだなんとも言えないな」
そのとき、ウゲンからの情報がHCを通じてもたらされた。
「結界……」
詩穂が眉間にしわを寄せる。そのときだった。奇妙な白い光がピラミッド型の遺跡の上にひらめき、女の声が語りかけてくる。
『待っていました……! 今、こ遺跡に施されていたプロテクトを解除しますね』
ピラミッド型の遺跡の上部がハッチのようにゆっくりと開いた。声は続ける。
『でも、気をつけて。“彼ら”は、やがて、この遺跡に気づき、全てを消し去ろうとするでしょう!
 急いでください!』
「あなたは誰? 彼らって?」
詩穂が呼びかけたが白い光はそのまま消えてしまった。そのまま前進しようとする詩穂に清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)が待ったをかけた。
「ピラミッド型の遺跡を探索するのはいいけどのう、今まで誰も足を踏み入れたことがないんじゃろ?
 地球のピラミッドには盗掘者に対抗して罠が仕掛けれていたというのは有名な話。
 そうじゃのう、まず無生物である『アクアバイオロボット』ならば罠にかかったとしても誰も怪我せんじゃろ。
 それに採取物を簡易分析してデータをHCに転送してくる機能がある。
 初期の無人探索にはもってこいの優れものじゃけん。
 とりあえずこれで水に浸っているところをあらかた無人探索してから、ピラミッドに乗り込むのが賢明だと思うが?
 皆はどうじゃ?」
セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が畳み掛ける。
「わたくしは青白磁様の無人探索で水中に浸っている部分に危険が無いことを確認してから、次の探索手順に踏み込みます。
 ええ、生物による探索です。
 『スクィードパピー』に何か目につくものが無いか見てきてもらいます。
 イカはとても視力に優れた動物なんですよ」
「確かに効率的ではあるな。それに戦闘力のないレナトゥスも同行している。必要以上の危険にさらしたくはないしな」
白竜も先遣隊の後方でレナトゥスを囲む調査と護衛を兼ねた契約者たちを見やって同意した。