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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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第1章 生ける者たちの決戦 1

 飛空艇ホープ・シーカーの隠された浮遊島からほど近い上空。
 小型飛空艇に乗った一人の男が高笑いをあげていた。
「フハハハハハハハッ! 飛空艇……いや、ホープ・シーカーめっ! あんなところに隠れておったか!」
 もはや言うまでもない。ドクター・ハデス(どくたー・はです)その人である。
 執拗に飛空艇を狙う悪の科学者である彼は、これまで度々返り討ちにあっても諦めることはなかったのだ。
「ベルネッサ・ローザフレックよ! その程度の隠密作業で俺の眼を欺こうなどとは――笑止っ!! 甘い! 甘すぎるぞ! チョコレートの甘さよりもなぁっ! アハハハハハハ!」
 ……寒いギャグは置いといて。
 ひとまず紹介を済ませることにすると、彼のそばには複数の仲間たちがいた。
 いや、仲間というよりは、配下であり部下というべきか。
 およそ百名余りの、無理やり真っ黒の戦闘員服を着せられた空賊と機晶兵たちがハデスの背後に待機しているのである。
 そしてその多くは、ひどく恥ずかしそうに自分の服を見下ろしていた。
「おい、これってマジで着なきゃいけねぇの……?(ぼそぼそ)」
「これが正式なユニフォームなんだとよ。これを着て仕事しないと、給料もらえないって話だ(こそこそ)」
「俺、ちょー恥ずかしいよ(顔真っ赤にしながら)」
「言うな! 俺だって情けないと思ってんだから!(涙して)」
 哀れである。
 さて、彼らには同情を覚えるとして……ひとまずは先に進もう。
 空中生物と交戦している契約者たちの姿もその視界に捉えながら、ハデスを慕う機晶姫のヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が言った。
「ご主人様……じゃなかった、ハデス博士。どうしますか?」
「うむ。今すぐに突入を開始しても良いが、正面突破ではあまりに芸がないな。……アイトーン!」
「おう!」

 ギュオンッ!

 ハデスに呼ばれ、超高速で駆けつけたのは機晶戦闘機 アイトーン(きしょうせんとうき・あいとーん)だった。
 その名の通り機晶技術を用いた自律型無人戦闘機を自称する機晶姫である。
 男性型のAIを搭載しているらしく、性格はいたって豪快だった。
 そのアイトーンが言う。
「どうした? 俺様を呼んだってことは、もちろん用件があってのことだろうな」
「無論だ。アイトーン! 敵陣の攪乱を任せる! ペルセポネ!」
「は、はいです! ハデス先生!」
 続けざまに呼ばれて、ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が答えた。
「ヘスティアとペルセポネはアイトーンの攪乱に乗じて突撃。その後、機晶合体せよ」
「はい!」
「了解です!」
 二人が元気よく返事を返すのを聞き届け、ハデスはうなずく。
「空賊と機晶兵は俺に続け! 敵を一網打尽にするぞ!」
「キーッ!(戦闘員として徹底された返答)」
 ハデスの口許に、ニヤリという笑みが浮かんだ。
「さあ、ショータイムの始まりだ!」



「前方に多数の飛行生物を確認。両の指を使っても数え切れそうにないですわね」
 飛空艇から、向かいくる飛行生物たちを眺めながら、ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)がため息をつく。
「なーに。こんなのイーリ島の時と比べればどうってことないわ」
 ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)が部隊の指揮を取りながら、勇ましく言う。
「なんなら、オレが先陣きってもいいぜ?」
 突破部隊の指揮を任されているフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が不敵に笑う。
「あんたは待機。チャンスが来たときに、一気に暴れなさい」
「だから、今は耐えるということですわね。……敵、間もなく戦闘区域に入りますわ」
「いくらでも来なさい。鉄壁の守備をお見せするわ! 総員、徹頭徹尾、防衛に専念!」
 ヘリワードの一喝により、398名からなる『シャーウッドの森』空賊団員全員が守備を固める。
 更に、ヘリワードの『要塞化』で、その防御陣形はより強固なものとなっていた。
 そして、飛行生物と空賊団が遂に激突。国と国の戦争に匹敵するほどの圧倒的な戦闘が繰り広げられる。
「くそっ、オレも早く暴れたいぜ!」
「大丈夫よ。そのうちひょこっと顔出すから、あの二人は」
 そう。それはフェイミィにもわかっていた。だからこそ、今は力を温存しているのだ。
 来るべき逆転のために。

「さて、空賊さんたちに紛れつつ僕たちも僕たちにできることをしようか」
「そうですね。その前に……はい」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)が空を見つめる。
 ついでに、周りの空賊たちに『荒ぶる力』を使用して力を強化させるクナイ。
「防御に徹するようですけど、念のため」
「よし。それじゃ飛行生物と空を舞おうか」
 飛空艇に積まれていたミルバスを借りた二人は、大空へとテイクアウト、ではなくテイクオフ。
 二人の目の前には飛行生物しか映っていない。それだけの量がこの空を覆い尽くしていた。
「こんなにもいい天気なんだから、視界を遮るのはよくないねぇ」
 のんびりとした口調とはうって変わり、ミルバスを自分の体のように動かしていく北都。
 その北都のミルバスと踊るように飛行するクナイ。
「それじゃ、いっきますよー」
 北都が方向を変え、飛行生物が特に群がっている箇所へと一直線。
 当然、向かい来る北都を敵と判断した飛行生物たちは北都に襲い掛かる。
「させませんよ?」
 北都に降りかかる火の粉を払うかのごとく、次々とミルバスのビーム砲を用いて敵を撃墜していくクナイ。
 援護を受けた北都は無傷のまま集団へ攻撃できる位置に到着。
「せっかく守ってもらったんだ。やることやらないとね」
 敵の集団に『ホワイトアウト』を放つ。猛吹雪は飛行生物たちの機動力の源である翼を凍らせた。
「動けなくなったところ悪いけど、痺れてもらうよ」
 北都は動きが緩慢になった相手に『雷撃』を撃ち込み、痺れさせることで戦闘不能に追い込んだ。
「お見事です」
「さて、これで注目は……集められたみたいだね」
 北都とクナイの連携を見て、厄介な相手だと見なしたらしく、周辺にいた敵の目線は全て二人に向けられる。
「ま、すぐ落とせると思うのは当然だよねぇ」
「ああ、落とされても平気ですよ。しっかり、お姫様抱っこで、受け止めますから」
「……恥ずかしい目にあわないためにも、頑張るとしよう」
 お姫様回避を目指して、北都は空に踊る。

「あそこの二人、活きがいいね。こっちも負けてられないわ」
「……来ましたわ。お待ちかねのお二人、と三人が」
「よしきた!」
 ユーベルの言葉に迅速に反応し、フェイミィは飛装兵を率いて出陣する。
「頼んだわよ!」
「任せときなって! よし、オルトリンデ遊撃隊! 出るぞ!」
 フェイミィと飛装兵が爆発するかのように空に躍り出る。
 多数の飛行生物にも怯まず、ただ一点を目指して爆進する。
「おらおら! 主役が来るんだから道あけなぁ!!」
 溜め込んでいた力を一気に放出して、数で押し寄せる敵を一薙ぎ払い地に落としていく。地に落ちた敵は飛装兵がトドメを刺す。
 数多の敵を蹴散らし、撃墜し、迎え討つ。飛空艇を飛び出しそんな危険を冒したのは、一体何故。
 その答えが、見えた。
「ったく、待ちくたびれたぜ」
 フェイミィの目に見えたもの。それは、最愛のパートナーと、憎いあんちくしょうである人物。
「ヒーローは遅れて登場するもの。なんてね」
「遅れてごめん。少し、手間取ったわ」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)フリューネ・ロスヴァイセ
 ……プラスで。
「あたいたちもいるよ!」
「ちょ!? 姐さん、いきなり立たないで!」
「墜落はもう」
「あそこ、木」
 ホーティ盗賊団改め、義賊団とタマーラの姿があった。
「もう、一難去ってまた一難、か。愚痴ばかりは言ってられないけど」
「それじゃ一気に、崩すとしますか!」

「フェイミィがリネン、フリューネ、ホーティと合流しましたわ」
「オーケー! 飛空艇の守りは任せたわよ!」
「ええ、暴れていらしてくださいな」
 うなずくより早くヘリワードが空賊団員へ通達。
「みんな、よく耐えてくれたわ。ここからは一気にいく! 敵の後方から来る友軍と協力し、挟撃するわよ!」
 このヘリワードの一声で、空賊たちが攻勢に転じる。
 いきなりのことに敵も動揺を隠せず、慌てふためいている。更にその後ろからは。
「さあ、道を開けなさい!」
「これ以上飛空艇には乗車できないのよ!」
 リネンとフリューネ、フェイミィを筆頭に暴れ進んでくる遊撃隊が迫る。挟撃は見事に成功した。
「味方からの援護を信じて行くわ。ネーベル、エネフをリードして」
「あら、エネフがネーベルをリードするでもいいわよ?」
「それは、光栄ね!」
 余裕綽々に会話をしながら敵陣を進む二人。度重なる猛攻にその身を晒しながらも、攻撃にあたることはない。
 リネンが止めた敵をフリューネが、フリューネが止めた敵をリネンが討つ。
 完璧な二人の連携と、その周りで支援をするフェイミィの部隊。
 攻守共に隙はなく、これを止めることなどできはずもなく、敵は次々と倒れていく。
「よし! このまま私たちは後ろや横から相手を崩しながら飛空艇に向かうわ」
「ホーティ、たちは無理そうね。四人なら多分、掻い潜れるでしょ。先に戻って」
「言われなくともそうす」
「だから姐さんってば!」
「そこ、敵」
「ぶつかる」

 ドゴンッ!!!

「……フェイミィ、部隊の何人かに、あの四人連れてってもらって」
「あははは! やっぱり憎めないね、うん、面白いよ」
「ったく、世話が焼けるぜ……」
 そう言いつつ、三人は敵陣営を切り崩していく。

「……新たな敵を確認。あれは……また厄介な方が来ましたわね」
 ユーベルが確認した新たな敵、それは言うまでもなく。
 白衣を翻し、世界征服を目論み続ける悪の天才科学者の一団だった。