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フロンティア ヴュー 2/3

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フロンティア ヴュー 2/3

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第13章 Gate
 
 
「巨人族の秘宝が『歌』ねえ……。魔法の、ってことも考えられるけど。
 世界樹への奉納伝みたいなものだったのかしら?」
 ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)は、脳裏に浮かぶ旋律を頭の中で反芻しながら考えた。
「変な感じよね。世界樹や剣を捜しに来たのに、秘宝は歌です、って」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)もそう言う。
「剣が歌なのかしら、それとも、歌が剣や世界樹に連なるのかしら……」
 それで、考えたことがある。
「巨人族の遺跡はつまり、巨人達が訪れる為に作られたもの、よね?
 つまり……巨人達のスケールで物を見ないといけないんじゃないかって思うの」
 リネンの言葉に、ヘリワードは肩を竦めた。
「質実剛健に、か。そこんところは共感できるんだけど」
「今度は謎解きかぁ? 頭使うのは苦手なんだけどなぁ……」
 フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)がぼやく。
 シボラの巨人族の遺跡を出る前に、フェイミィはアンドヴァリ達ドワーフに、
「何かちょっとでもいいから、ヒントとかないか!?
 ドワーフに伝わる伝説とか伝承とか、歌、とかさぁ……」
と頼んでみたのだが、顔を見合わせたドワーフ達が、声を揃えて一斉に、はいほー、はいほーと歌いだしたので逃げて来た。
 とにかく、行ってみるしかないってわけかぁ、と、フェイミィは肩を落とした。


◇ ◇ ◇


 ルーナサズに到着後、許可を得てイルダーナの居城を散策中、書庫を見つけて見学していた黒崎天音とパートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、古いタロット・カードを見つけた。
「これも、魔道書の一種という……ふむ」
 興味を示してカードの絵札を眺めながら、
「そういえば、あれの人探しはどうなったのだろうな」
と、ブルーズは鬼院 尋人(きいん・ひろと)を思い出す。思いついたところで、占ってみることにした。

 結果は、『審判』の正位置。

「復活、覚醒、……再会、か。
 だが、どうも穏便には行かないような……胸騒ぎがするな」
 カードの意味を読み取りながら、ブルーズは尋人に安否確認と、天音からの伝言を含めたテレパシーを送る。
(我の占いでは、再会が果たせると出た。それと天音から『頑張っておいで』と伝言だ)
 ありがとう! と、嬉しそうな尋人の弾む声が返って来た。

 トゥレンを放っておけない、と尋人は思う。
 龍騎士に対する憧ればかりではない。彼が何かを抱えているような気がする。
 最初に会った時からずっと、それを感じていた。


◇ ◇ ◇


 教えられた入口からドワーフの坑道に入り、やがて堅く閉ざされていた扉から専用の通路に入って、『門の遺跡』に到達する。
 遺跡の回廊に入ると、途端に驚く程広く、高くなったが、その右手は瓦礫や土砂などで崩れていた。
 途中まで掘り起こしたような跡があったが、柱などが全て折れてしまっており、この通路を使用する巨人自体が居ない今、この通路を直すより、自分達のサイズで穴を掘った方が早い、とドワーフ達は考えたのだろう。
 頻繁に訪れることはない、というか、ずっと長い年月放置されてきたような、独特の空気がある。
 中はぼんやりと明るかったが、黄昏のように薄暗く、都築少佐達は、持っていた灯りの出力を上げるなどして視界を確保した。
 回廊は、更に広い空間に繋がっている。


「やっほ――!」
 声がよく通る、という言葉に、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)がとりあえず叫んだ。
「おー、いいねいいね」

「こんなに広いのに、声がよく響く……ってことは、きっとこの遺跡自体が、大きなコンサートホールって考えるといいんじゃないかな」
 歌うことが好きなので、布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)の声が何となく弾む。
「確かに、そうね」
 パートナーのヴァルキリー、エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)もそれに頷く。
「この舞台で、皆で歌ってみたらどうかな」
「巨人族の秘宝の歌?」
「うんそう。エレノアも頑張って歌ってよ?」
「勿論、手を抜いたりなんてしないけれど……」
 エレノアには、歌詞がはっきりと伝わったわけではなかった。
 むしろ、音だけでメロディを奏でるような、そんな歌だと感じた。
 他の皆はどうだろう。
 自分が訊かれた場合、はっきりと答えられるか自信が無かったので、他の人達に訊くのも憚られる。
 実際に歌ってみれば、そんな漠然としたものはなくなるような気もしているのだが。

「コンサートホールか。よしっ」
 それにしても、大きな舞台はともかく、小さな舞台がある理由がさっぱりなんだが。
 と考えるよりも先に、アキラはパートナーのアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)やミャンルー部隊と共に舞台に駆け寄って歌いだした。

    おー魚大好きミャンルー隊
    ねらぁった獲物は逃がさない〜
    爪ーをにょきにょき
    しっぽフリフリ
    ねこね〜こまぁしぐら〜〜〜
 
    サァンマー(サァンマー)
    マァグロー(マァグロー)


 ミャンルー達が、アキラの歌にバックコーラスする。


    マダーイイワァシシャケスズキ
    みぃーんな大好き丸かじり
    それゆ〜けミャンルー隊〜♪(みゃー!)

と、一通り歌い終えて、満足して、じゃあひとつ、この舞台をサイコメトリしてみようかな、と思った時、大小の舞台の集まった広間の中心より、光の届かない奥の方、柱の影から、一人の男が現れた。
 男は睨むように都築達を見渡し、低い声で、
「……シャンバラの契約者共か」
と呟いた。
 誰かが声を発するよりも早く、剣を抜く。
 そのぎらつくような敵意に、射竦められるようだった。

 ずい、と樹月 刀真(きづき・とうま)が進み出る。
 光精の指輪を使い、周囲の光源を確保した。
「俺はシャンバラの契約者、樹月刀真だ。
 貴方は誰だ? 俺達に何か用か」
 パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と共に、仲間達を護るように男の前に立つ。
 男は眉間を寄せた。
「我が名は、カサンドロス」
 ぎろりと刀真を睨みつけ、男は名乗りを返した。
「同じ言葉を、貴様に返そう。去ぬがいい」

「カサンドロス!?」
 尋人が声を上げた。
 その名には、憶えがある。
 シャンバラが東西に分かれていた当時、国境の砦をエリュシオン龍騎士達から防衛した作戦の時だ。
 今は解体された、第七龍騎士団の副団長、カサンドロスが、襲撃した龍騎士を率いていた。
 咄嗟に、尋人は都築を見る。都築がその名を聞いて驚いた様子は無かった。
 男が姿を現した時点で既に、都築は気づいていたのだろう。
 自分が指揮を執っていた作戦だ。直接会ってはいないし、都築はあの作戦で、パートナーロストによって昏倒したが、報告書を書いたのは彼ではなくても、その全てに目を通して上に提出したのは彼である。
 密かに潜伏していた記録係の撮影していた写真もあり、都築はカサンドロスの容姿を知っていた。
 隻腕、という情報は、そこにはなかったが。
 左腕は、その後失われた、ということだろう。

 刀真も、その防衛作戦に参加していた。
 襲撃した龍騎士の一人、テオフィロスを直接捕らえたのは、刀真だ。
「去ぬのなら、排除する」
 カサンドロスの言葉に、刀真は月夜に言った。
「月夜。――剣を」
 月夜は、光条兵器を取り出して、刀真に渡す。
「お前は手を出すな。下がってろ」
 むう、と月夜は反論しかけたが、言い合っている場合ではないと思い、言われるままに下がった。
(私は刀真の剣なのに。
 一緒に戦うのが当たり前なのに、手出しとかじゃないのに)
 後で文句を言ってやらなくては、と強く思う。

 撤退すべきか、と都築は考える。
 エリュシオンの龍騎士など、相手が悪い。
 臨戦態勢を取る者がいるのを見て、とりあえず様子を見ることにする。

 カサンドロスは、二十代半ば程の、一人の娘を連れていた。
 一触即発の空気におろおろとする娘に、カサンドロスは一言、下がっていろ、と言う。
 娘は素直に従い、近くの柱のところまで下がり、周囲をきょろきょろと見渡す。
「あの人は……」
 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が呟いた。

 早川呼雪に、イルダーナが帝都で出会ったという娘の容姿について聞いて貰っていたのだが、それと一致する。
 すると、イルダーナ達が捜して見つからなかったのは、帝都を出た後だったからか、と推察する。
(でも、帝都を出た後で、何故此処に? 何が目的で来てるんだ?)


 話し合いは無理だろう、と早い段階で水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は判断した。
 それ程に、カサンドロスの敵意は強い。
 ヘビーマシンピストルを両手に抜いたゆかりに、
「待って」
と月夜が止めた。
「刀真に戦わせてあげて」
「そんな状況じゃないわ。任務の邪魔になるのなら、排除しなくては」
 一対一で、などと言っている状況ではない。総員で相手取り、皆で連携して倒さなくてはならないだろうと思う。
 この人数を前にして、あの男は全く怯む様子がないのだ。それだけの自信がある、ということなのだろう。
「でも」
 剣士として相手取りたいと思う刀真を戦わせてあげたい、と月夜は思う。
 思うからこそ、自分も引いたのだから。


 刀真は、左手に白の剣、右手に光条兵器を持って戦うが、カサンドロスの強さは、かつて戦ったテオフィロスの比ではなかった。
 不意打ちを警戒したが、不意打ちよりも早く、正面からの攻撃が来る。
 見切れても、身体が反応できない程の早さだ。
(小技を使う必要も無いということかっ……)
 刀真は、金剛力を乗せた白の剣の攻撃を、腕の無いカサンドロスの左側から仕掛けた。
「っ!」
 薙ごうとした剣の軌道の先に、カサンドロスがいないことに息を呑む。
 背後から振り払う剣が、刀真を薙ぎ払った。
「刀真!」
 月夜が駆け寄る。
「大丈夫だ……」
 傷は浅かった。カサンドロスが、ゆかりのピストルの連射を躱したからだ。
 ゆかりはちらりと、カサンドロスが連れていた娘を見て、銃口を娘に向ける。
 カサンドロスを動揺させる為の陽動で、撃っても当てるつもりはなかったが、次の瞬間、ゆかりは腹部に激しい衝撃を感じた。
「カーリー!」
 どうっと倒れるゆかりに、パートナーのマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が叫ぶ。
 意識は無いが、斬られてはいない。
 マリエッタは慌てて走り寄り、ゆかりの命に別状が無いことを確認してほっとした。

「……月夜」
 刀真が、低い声で言う。
「……解った」
 覚醒光条兵器を使おうとしている。
 月夜は頷いて、自らの胸から剣を引き抜き、刀真に渡す。
 受け取った刀真は、ゆらりと立ち上がった。
 ぐったりしながら、月夜は刀真の戦いを見守る。
(刀真……)
 こちらの小手先の技も通用しない。全力で、正面から一撃を叩き込む。
 刀真は渾身の力を込めて間合いをつめ、神代三剣を叩き込んだ。

「――やりおる」
 間近。カサンドロスが、眉一つ動かさない表情のまま、言う。
 やるな、と言われるような状況じゃないだろう、と刀真は思う。
 どさり、とそのまま倒れて、それ以上動けなかった。
「刀真っ!」
 重い体を引きずって、月夜が刀真を庇うように割って入る。
 とどめを刺す素振りを見せたカサンドロスは、あっさり身を翻した。