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リアクション
「……酷いものだな。オリュンポスパレスの結果はまぁ予想の範疇だ、けどこれは無いぜ。
このままじゃあ結構な数の契約者の思惑通り、決戦が有耶無耶になって停戦、ってことになりかねない。……それだけは認められねぇなぁ」
吐き捨て、“灼陽”より出撃した恭也と唯依が搭乗する『ストライク・イーグル』は、一度“灼陽”に託した『ビッグバンブラスト』を強奪して再度積み直し、上空へ向けて放つ。“灼陽”よりエネルギー充填を受けていた『ビッグバンブラスト』が本来の戦術ミサイルの軌道のように上昇するのを見送る間もなく、『ストライク・イーグル』はスラスターをフル稼働させ、前方の一際大きい龍、ダイオーティへ直行する。
「ツインリアクターシステム、正常稼働中。布都御魂、即時展開可能。背部跳躍ユニット、出力最大。
……恭也、必ず決めろ」
「言われなくても!」
唯依の報告を鼻で笑って、恭也はまず肩部に装着した荷電粒子砲を弾数の限り見舞う。突如襲ってくる高威力の攻撃に龍族が戸惑うのを笑って、弾数切れになった荷電粒子砲を投棄、跳躍ユニットの加速で瞬く間にダイオーティへ斬撃を浴びせられる距離まで後少し、という所まで迫る。
「ダイオーティィィィ! その首を、よこせええぇぇぇっ!!」
機動要塞をも切り裂く超大型剣を突き立てる『ストライク・イーグル』。――だがそこに、高速で接近する金色の機体があった。
「お前かぁ! また、お前なのかぁあ!!」
恭也はその機体に見覚えがあった。『ストライク・イーグル』の前身、『アサルトヴィクセン』に挑み、突然出力を増大させこちらの荷電粒子砲を破壊した機体。
「邪魔するってんなら! 落ちろぉおおお!!」
目の前に立ちはだかる機体に構わず突撃する『ストライク・イーグル』。一方金色の機体――『ソーサルナイト2』も剣を抜き、全速で迫る。
――そして、二機が接触する。
『ストライク・イーグル』の超大型剣が『ソーサルナイト2』の胴体に触れ、『ソーサルナイト2』の四肢と首が吹っ飛ぶ。……しかし最後の意志、聖剣は『ストライク・イーグル』の動力部を貫き、稼働不能へと追い込んだ。
「ちっくしょおぉぉぉぉぉおおおおお!!」
同じ機体に二度の敗北を喫した恭也が叫ぶ中、『ストライク・イーグル』は地面に落下していく。
「愚弟、こんな所で死ぬつもりか!? そうでなければ操縦桿を握れ!
『伊勢』に着艦するまでは持つはずだ!」
唯依の叱咤に現実に帰った恭也が操縦桿を握り、『ストライク・イーグル』は地面に激突する寸前で浮上、そのまま『伊勢』にほぼ水平の角度で着艦した所で完全に活動を停止した。
「“灼陽”より緊急通信! 即座にこの戦域より離脱しろ、ですって!?」
コルセアが“灼陽”からの通信を吹雪に伝えると、吹雪は不思議そうな表情を見せる。あれだけの改造を施された“灼陽”があの程度の損害で撤退とは考えられなかったが、旗艦が撤退指示を出している以上は従う他ない。
「伊勢も“灼陽”に続き、後進するであります!」
「はいはい、撤退でしょ! 二十二号、弾幕を張って! 敵の追撃を阻止するのよ!」
『了解であります』
二十二号の管制の下、対空火器が『伊勢』への追撃を阻止するが如くレーザーを宙へ放つ。幸い追撃は行われず、『伊勢』は安全区域まで離脱した後、連れて来ていた鉄族の機体と大破した『ストライク・イーグル』を回収して“灼陽”を追った。
「“灼陽”が撤退していくわね……何があったのかしら」
マスティマを操縦する天貴 彩羽(あまむち・あやは)が、突然後退していく“灼陽”に首を傾げる。正直な所、このまま戦闘を続けていれば龍族側のイコン共々全滅、ダイオーティは滅ぼされていた確率が高いだけに、“灼陽”の撤退は願ってもなかったのだが、腑に落ちない点は残る。
『後を追ってみれば分かるでござるよ』
スベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)の提案に、それもそうかもしれないと彩羽は思う。この場は“灼陽”が引き上げ、随伴していた鉄族に味方する契約者も引いた。一旦静まった戦場が再び盛り上がる確率は低そうだ。そう考え、彩羽は『マスティマ』を“灼陽”の後方に位置させる。『マスティマ』のステルス性能であれば、こちらから手を出さない限りは気付かれることはない、そう彩羽は考える。
「それにしてもまあ、センスのない武装の配置ね。これは絶対にあの愉快犯の仕業ね」
改めて“灼陽”の全貌を目の当たりにした彩羽は、そのとにかく大量に積めば強いだろう、的な考えのもと配置された武装群に辟易する。どうしてこれでまともな運用が出来るのか甚だ疑問だった。
『きっと鉄族の長も、愉快犯と同じでムチャクチャだったでござるよ』
「なるほど、気が合ったのね。……あら、愉快犯の要塞が落ちてるわ」
スベシアの意見に同意した彩羽は、視界の先で『オリュンポス・パレス』がほぼ半分近くを喪失した状態で地面に墜落しているのを見つける。
『……弾薬庫の辺りが爆心地のようでござるね』
「どうせ弾薬庫に誘爆でもやらかしたんでしょ。まったくもって自業自得だわ。アレに巻き込まれて死んでればいいのに」
情け容赦ない言葉を吐く彩羽。もし生きていようものならいっそこの手でトドメを刺そう、そのつもりで居た所に視界の先、地面に転がる長方形の箱のようなものを見つける。それが『オリュンポス・パレス』の脱出ポッドであると判明した直後の『マスティマ』の行動は、迅速そのものだった。ステルス機能を維持したまま接近し、装甲を切り裂くアームで切断して中の人物を亡き者にする――その企みは、それまで無反応だった“灼陽”からの射撃によって阻止される。
『こっちが見えているでござるか!?』
スベシアが驚きの声を上げるのに、彩羽も同意の思いだった。ステルス性能に特化した『マスティマ』はたとえ哨戒性能の優れた機体であっても見つかることはなかった。それだというのに“灼陽”は、こちらが攻撃をする前に『マスティマ』を見つけ、『オリュンポス・パレス』の脱出ポッドへの接近を拒んだ。
「……もしかして、その為に“灼陽”は戦線を離脱した? そこまでして彼らを護るというの?」
“灼陽”の理解不能な行動に、彩羽は困惑を深めるばかりであった。
“灼陽”に収容されたハデスは、呼び出された司令室で“灼陽”から見るも無残な姿に成り果てたヘスティアと対面する。
「むぅ、これは……」
「……ヘスティアは、侵入者から私を護ってくれた。私が誰かを失いたくないと思ったのは、初めてだ。
頼む、彼女を直してくれ。必要なものがあれば何でも、好きにしてもらって構わない」
鉄族の長である“灼陽”が、その立場すら捨ててハデスに頭を下げる。
「……分かった。俺が必ず直してみせよう」
それまでのどこか狂した表情から、至極真面目な表情に変わったハデスが“灼陽”に、必ずヘスティアを修復すると誓う――。
(……この辺りのはずだが)
バイクを降り、レンがメティスの姿を探す。動けなくなったので回収に来てほしい、そう連絡を寄越してからそれなりの時間が経過しており、その間メティスからの追加の連絡はなかった。
「! メティス!!」
そしてレンは、四肢が吹き飛んだ格好のメティスを発見する。目を閉じていたメティスがレンの声に、ゆっくりと目を開けそしてこう、口にする。
「……ただいま、です。レン」
「……ああ、おかえり、メティス」
レンがメティスを抱き上げ、一時的に身を寄せている『昇龍の頂』へ帰還する――。