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【真相に至る深層】第一話 過去からの呼び声

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【真相に至る深層】第一話 過去からの呼び声

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1:僅かな時の隙間にて



 遺跡がゆっくりとかつての力を取り戻し始めてから、数分ほどが経っただろうか。

「お久しぶりです」
  調査団や契約者がそれぞれ、現場の確認を行っている中、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の第一声に、彼女と同じく教導団所属の大尉である氏無 春臣スカーレッドは頷いて答えた。
「お久しぶりだね……そうかぁ、昇進かぁおめでとう」
 目ざとく階級章を見つけて氏無がのんびりと笑った。そんな時ではないかもしれないが、久方ぶりに会った相手の吉事は嬉しいものだ、とその顔に書いてある。と、そんな時だ。

「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!」

 大方の人間が聞いたことがあるのではないだろうかという口上一声、堂々と白衣を翻したのはドクター・ハデス(どくたー・はです)だ。
「ククク、この地こそ、長き伝統を持つ我ら秘密結社オリュンポスがかつて暗躍した土地、海底都市ポセイドン! ここに、我らが世界征服をおこなうのに有用な何かが眠っているかもしれぬ!」
「いやいや……」
「無いよね……」
 自信満々な様子に、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が思わずと言った調子でツッコミを入れたが、当然のこと、聞く耳があるはずも無く、また残念ながらそれを止める貴重な人材も不足しているということもあって、ハデスの妄言は留まることを知らずに続く。
「一万年以上前に、この海底都市ポセイドンで秘密結社オリュンポスが活動したという記録が、我が結社に代々伝わる碑文に残っている! 碑文の暗号を解読したところ、この都市のどこかに、なにかがあるはずなのだ!」
 その言葉に静かにツライッツ・ディクス(つらいっつ・でぃくす)首を振っているところを見ると、今の所そんな事実は見つかっていないようだ。さもありなんである。だがそれに誰が何か口を挟むような暇も無く「そうと決まれば!」とバサァっとハデスは白衣を翻した。
「遺跡が荒らされてしまう前に、早速探して我が物にしなければ!」
「それって、荒らすのは自分じゃないの!」
 走り出したハデスへのツッコミ一声、させてなるかと美羽がその後を追うように走り出していったのを見て、コハクは軽く苦笑しながらツライッツから通信機を受け取るとその後を追いかけていったのだった。
「賑やかなことね」
 そんな背中を見やって、スカーレッドが肩を揺らした。自分の仕事は調査団の護衛である以上、彼ら解約者達に余計な口出しは野暮、とばかり、踵を返す。
「入り口の確認をしてくるわ。封鎖はされていないと思うけど、念の為ね」
「あんまり心配する必要ないでしょうけど、大尉もお気をつけて」
 と、その姿を見送ったのはニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)だ。
「ええ、そちらも……クロ達のこと、頼むわね」


 そんな二人を見送って「賑やかねえ」と肩を竦めたのは雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)だ。エリュシオンへの興味から参加してみたものの、巻き込まれた今になって思えば、自分は発掘や調査については余り経験が無く、現場に出てどこまでやれるかと言えば余り自信が無い。
「しかも半魚人もいるみたいだし、ん……あれは」
 人魚みたいに可愛ければいいのにねえ、と溜息をついていると、不意に、その視界に知った顔を見つけた。黒崎 天音(くろさき・あまね)だ。
「黒崎さん! うわー久しぶりですね」
 その声に反応して天音も振り返ると、その見知った顔に軽く瞬いて返した。
「おや、リナリエッタさん。久しぶり……こんな所にいるなんて、珍しいね?」
「ええ、今日は遺跡の探索にきたの」
 不思議そうにする天音に、リナリエッタはにっこりと笑った。
「ふふ、お互いいい報告が出来ればいいわねえ」
 頷いた天音が、そのまま軽く世間話でも、と不意にその視線をリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)に向けると、珍しく反応悪く、その顔はパートナーをずっと向いている。
「どうしたの?」
 訊ねたが、原因はいっそあからさまだった。その隣にいたララ・サーズデイ(らら・さーずでい)の様子がおかしいのだ。視線が微妙に定まらず、苦痛を堪えるように眉が寄っている。
「……大丈夫かい?」
 流石にこれは尋常ではないと、心配げに声をかけたが、ララは顔色は悪いながらも首を振った。
「夢が……」
「夢? あなたも夢を見たの?」
 リナリエッタが首を傾げる中、その言葉にふと先日の悪夢とその少女の甘い声が脳裏に浮かんで、天音は唐突にブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)の頬に手を伸ばしてぎゅうっと抓った。
「痛っ! 急に何をする!?」
 突拍子も無い行動にブルーズは眉根を寄せたが「あ、痛いんだ?」と天音は涼しい顔だ。
「自分の頬でやれ」
 ブルーズは膨れたが、天音の思考は既に明後日だ。古くからある夢との区別の方法ではあるが、実際に痛みが無かった場合はどうしたらいいのか、という対処はどこにも無い。また次の悪夢で――と言い残した少女の「それ」が「これ」である保障はどこにも無い、が。
(まぁ……考えすぎか)
 溜息と共に思考をフラットに戻して、天音はその視線を今回もまた「巻き込まれてしまった」体の二人へと視線をやった。


 その先では、ディミトリアス・ディオン(でぃみとりあす・でぃおん)が、「何か」からの浸食を防ぐために自分自身を封じた結界と、それに巻き込まれる形になった“ソフィアの瞳”調査団のリーダー、クローディス・ルレンシア(くろーでぃす・るれんしあ)の姿があった。ディミトリアスが自身を蝕もうとする「何か」が、クローディスへ干渉するのを防ごうとしたためだろう、氷の結界は内部で独立していて、円形の結界の中に二つの部屋があるような状態だ。軽く叩いてみただけでも、相当の強度があるのが判る。クローディスを閉じ込めているとも言えるし、守っているとも言えるかもしれない。
「幸いと言うべきか、内部の電源は問題無さそうです」
 “ソフィアの瞳”調査団のサブリーダーであるツライッツは、動けないクローディスの代理として、契約者達へと告げた。調査用に持ち込んだ自家発電の機械や調査用の機材については正常に起動しているという言葉に「よかった」と軽い安堵の息をついたのは裏椿 理王(うらつばき・りおう)だ。
「バッテリーを気にしないですむのは助かるよ」
「分析が必要なものとかがあったら、お願いしても大丈夫?」
 その隣でパソコンや集音機、ビデオカメラ等の準備をしながら桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)が首を傾げるのには、ツライッツが頷いて応えた。
「流石に機材をお貸しすることは出来ませんが、データベースは自由に使って頂いて構いませんよ」
 その言葉を受けて、理王がピーピング・ビーを放つと、遺跡の中を飛び交うそれが捉えた映像がパソコン上に表示され、緩やかに変貌していく遺跡の姿を捉えていく。その内のひとつが映す、クローディスを捉えたディミトリアスの氷の結界は、上から見ると箱のような形で、悪い言い方をすれば棺のようにも見えた。
「とりあえず、現場に異常があれば、直ぐ見つけられると思うよ」
「……すまないな」
 理王にだけ向けたのではないだろう、ぽつりと漏らすクローディスの表情は、氷越しにも苦いものだと判る。
「謝るのはこっちの方さ。不測の事態とは言え、危険に晒しちまったね」
 珍しく心底申し訳無さそうに頭を下げた氏無の隣では、叶 白竜(よう・ぱいろん)がやはり、それ以上に苦いものを噛み殺したような顔で並んでいる。その顔を見比べると、クローディスは思わずと言った調子で苦笑を浮かべた。
「雁首揃えてそんな顔するな。氷の中は少しぐらい寒い程度だし、今の所ディミトリアスも落ち着いてる」
 振り返ったクローディスの視線の先で、氷と自身の魔力の両方で我が身ごと縛り付けているディミトリアスは、俯き加減ではあるが先ほど苦しげではないようだ。水は彼の領域だと言った巫女アニューリスの言葉の通り、海中である遺跡の中でその魂へ干渉するのは「何か」にも難しいらしい。
「私はディミトリアスも、この身体も、そう易々と利用させてやるつもりはない。それに……」
 言いかけて、クローディスは白竜にほんの少し笑みを浮かべた。
「……そんなことにはならない」
「必ず」
 その言葉は端的だが意味は明白で、白竜は「助けます」という言葉の代わりにただそう短く答えた。
 だが世 羅儀(せい・らぎ)は、白竜のそんな淡々とした態度に「そんな冷静にしている場合じゃないだろう……」と表情を苦くする。そんな三者三様の雰囲気が、以前とどこか違って感じられたのに、ニキータは僅かに「ふうん?」と意味ありげな呟きと共に首を傾げた。が、今はあまりのんびりともしていられない。ちらりと向けれた視線でそれを察してか、ぱんぱん、と氏無が注意を向けさせるように手を叩いた。

「あんまりぼやっとしてる場合でもないから、状況の確認といこう」