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第二十一章:金ワッペンと決闘委員
そんな彼らを、遠くから双眼鏡で見つめている目があった。
「パンツ女どもめ。案外あっけなく引き下がってきたな。まあ、あの相手によくやったってところだ」
最初の頃は真面目に訓練に取り組むフリをしていた山田 武雷庵(やまだ ぶらいあん)と彼が率いるグループは、こっそりと生徒たちの集団から抜け出して、たまり場になっている廃屋に集まっていた。
彼らは、訓練に乗じて幾度となく襲撃を試みていたが、他校から応援で来ていた契約者たちが強力で、あまり大きな成果を上げることができていない。周囲には厳重な警戒網が敷かれており動きづらい。これまでの彼らなら相手が誰であれ、ヒャッハー! と突撃していたところだが、それで散々痛い目に遭ってきた彼らは慎重になっていた。
スネイニーキッズもガールズ・パンツも決して弱くはない。それを、ふざけながらも軽く蹴散らすとは、やはり外部生たちは只者ではない。
彼は、計画がなかなかうまくいかないことを苛立ちを隠せなかった。金ワッペンを手に入れて守りに入ってしまったのか……? いや、そうではない、と彼は否定する。
今、主に暴れているのは企業の武器を提供してもらった荒野のチンピラたちばかりだ。自主的に襲撃を試みている分校生たちはあまり見受けられない。それもこれも、やはり決闘委員会の監視の目を恐れているからだ。彼らは分校の敷地の外まで来ることは少ないが、校内では驚異的な支配力を保っている。今は騒ぎが上手くいっても、後々目をつけられるのは得策ではないと考えている生徒たちが多いせいだろう。いつの間に、分校生たちはこんなに臆病で消極的になってしまったのか。本当に残念だ……。
そこへ、ガールズ・パンツの女子生徒たちが戦車ごとこちらに戻ってくるのが見えた。
「山田はうんこだな。せっかくオレ様たちがいい具合にパンツ見せてきたのに、引きこもって出てきやがらねぇ」
部隊を半数以上失って、リーダーは不満げに文句を言っていた。
金ワッペン保有者の武雷庵に頼まれて戦車で襲撃したのに、呼応して作戦を実行するどころか遠くから眺めているだけとは。かつて大勢力を誇った不良グループのリーダーだった武雷庵も落ちぶれたものだ。
「うんこはうんこらしく、惨めな最期を遂げておけ。まあ、オレ様たちはぱんついっぱいもらったからいいけどな。くそが、こんなことなら、もっと貢がせておけばよかったぜ」
ガールズ・パンツの女子生徒たちは、不完全燃焼のストレスを解消するために標的を変えて攻撃し始めた。辺り構わず発砲して破壊して帰るつもりらしい。荒っぽいのは女子生徒も同じで、本能の赴くままにぱんつを奪っていこうと戦車で暴れ始めた。
先ほど彼女らと戦っていた真司たちは、別のテロリストの退治に行ってしまった。他に対抗できる強力な契約者たちもすぐには現れず、未熟な訓練生たちでは進撃を止めることが出来無そうだ。しばらくの間被害は拡大する一方に思われた。
「撃てー! 撃てー!」
ドドドド〜ン!
それに呼応して、隠れていたならず者たちも再び活動を始める。
「ふふ……、まあ奴なら時間稼ぎくらいはできるか」
ガールズ・パンツは別働隊として活躍してくれるだろう。武雷庵は、各所で待機している子分達にメールで指示を出す。戦いはまだ終わったわけではない。総力を結集して強力な他校生たちに対抗するのだ。
「企業に雇われたプロテロリストたちにも協力してもらおう」
あくまで主導権は自分でとる、と彼は決意していた。バラバラに散発しているテロを纏め上げ、大きなうねりへと変化させる。さらには、他の金ワッペン保有者とも手を組んで、分校を支配するのだ。
「くくく……。オレ様たちの本気を見せてやるぜ」
武雷庵は、野望を達成させるために次なる計画に移ろうとしていた。
が、場所を変えようとしていた彼は、ふと人の気配を感じて振り返る。
「誰だ!?」
「わしのことか? 通りすがりの即席漫画家じゃ」
暗闇の中、ヤクザ風の男が姿を現した。【隠れ身】で身を隠しながら武雷庵たちを追っていた清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)だ。彼は武雷庵が暴動を指示している証拠を掴むために【隠れ身】で潜伏して行動を監視していたのだ。
「山田よ。ええ加減にせぇ。おぬしが訓練の暴徒役に乗じてマジヒャッハー! しておった証拠はちゃんとあるんじゃ」
「なんだと!?」
不良グループは気色ばんで青白磁を取り囲んだ。問答無用で襲いかかってきそうなのを青白磁は落ち着いて制した。
「やめとけ。一見、わしが丸腰に見えるじゃろ。そやけど、おぬしらをキャン言わせることができるんじゃ」
青白磁は、【亜空のフラワシ】と【物質化・非物質化】スキルを使い、【漫画原稿用紙】と【デジタルビデオカメラ】を隠し持っていた。武雷庵たちの行動を逐一記録し、漫画化していた。力作マンガ『無頼庵☆』は、現在フラワシによって鋭意執筆中だ。
武雷庵がガールズ・パンツを仲間に引き入れるために金ワッペンの財力にものを言わせてパンツを集めまくるシーンは、ハイライトの一つなのだが、本題はそこではない。
「出来上がった漫画読んで、どうするのがベストかよう考えることじゃ。映像も付けるさけぇ、皆で楽しめるで」
「何がしたいんだ?」
青白磁が突き付けた漫画を見て、武雷庵は動揺していた。描画とはいえ彼らがテロを盛り上げていた証拠はここにしっかりと残っている。つけられていたことすら気づいていなかったようだ。
「決闘で勝負つけるっちゅうことじゃ」
青白磁は、廃屋の窓の外を指差した。
目を凝らすと、ガールズ・パンツの戦車部隊と一人の少女が対峙しているのが分かった。
分校内で調査を進めていた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だった。彼女もまた、武雷庵を追ってここまでやってきていたのだ。
「う〜ん、どうしようかな? 変な集団に回り込まれちゃったよ」
詩穂は武雷庵がそろそろ行動を起こす頃だろうと察して近くで待機していたのだが、その前にガールズ・パンツの女子生徒たちと遭遇していた。
「あっ、なんだおまいは? とりあえず消えないと消し飛ばすぞ! 主にぱんつごと!」
武雷庵は取り巻きまで異常なのだ。ガールズ・パンツの女子生徒たちは、詩穂に気づいて戦車を向けた。
「え? 詩穂のこと? あまり関わり合いになりたくないんだけど」
パンツを頭にかぶった女子生徒たちに声をかけられ、詩穂は引き気味になった。彼女は、パラ実の変態女子などとは別世界の住人なのだ。イロモノは出来ればパスしたいところだ。
「まあ、ヒャッハー! している連中をヒャッハー! してやるために来たんだけどね。もちろん、まとめてお掃除よ」
詩穂は青白磁の中間報告を思い出していた。彼女らは、武雷庵にぱんつで買収されて暴動をけしかけられていたのだった。本職テロリストより凶暴なアホ娘どもばかりなので容赦はいらないらしい。
詩穂は意を決して、ガールズ・パンツの戦車娘たちに向き直った。こんなのを野放しにしておいてはいけない。一般市民たちに不安を与えないように密かに片付けてしまおう。
「そこまでだよ! 仮にも女の子なんだから、下品な真似はやめるのだ!」
詩穂はイラッとして、特製武器の【光明剣クラウソナス】を構えた。対イコン用武装なので、旧式の戦車など物の数ではない。まとめてスクラップにしてやって、さっさと武雷庵を始末しに行こう。
「騎沙良詩穂だよ。例え敵が変態でも差別せずに勝負してあげる!」
敵をいきなり叩きのめしてもいいのだが、彼女は敢えて名乗りを上げた。決闘システムを使って戦うためだ。
決闘に疑問を抱き調べていた彼女には、武雷庵と戦う前に試してみたいこともあった。そもそも、何故あんな機器を使うのか。委員会メンバーが現れたら、後ほどゆっくりと話したい。
「これでよし、っと」
彼女は、以前決闘委員会から手に入れたスカウターのような機器を装着した。彼らは程無く現れるだろうから、戦いながら待つだけだ。
「こいつは大笑いだぜ。大洗じゃなくて!」
ガールズ・パンツのリーダーは、詩穂を敵と見なして戦車の上で親指を下に立てて見せた。相手が誰であろうとやる気満々だ。
「上等だぜ。受けて立ってやる。おまいも今日からぱんつを頭にかぶるようになるのだ!」
「さ〜て、今日の晩御飯は何にしようかな」
詩穂は、相手の言動などお構いなしで攻撃を仕掛けた。強力極まりない技と武装の威力で、戦車の一台は真っ二つになり爆発した。
「ギャース!」
ガールズ・パンツのメンバーが悲鳴を上げる。戦車の隊列はたちまちにして混乱した。
いい調子だ。この程度の敵なら特に苦労することも無く倒せるだろう。
だが、間もなく【警告】の呼び声と共に、両者の間に人影が割って入った。
「そこまでにしてぉけ! 決闘ぃぃんだょ。争ってぃるのは、ぉまぇらか!? って、、……もぅマヂ無理。。ぉ仕事キツすぎ。。」
「おや?」
攻撃の手を止めた詩穂は首をかしげた。
争いの気配を察知して駆けつけて来たのは、疲れた様子で暗い表情の女子生徒が一人だけだった。
純朴な中学生がグレて髪染めてみたけど色々と失敗してギャルに成りそこなった、みたいなダサ可愛い感じの女の子だ。言葉遣いだけはギャルっぽく振舞っているようだが、ちぐはぐでテンションは低い。
「喧嘩ダメぜったぃ。。決闘で勝負ぉつけるのだ!」
遅れてきた割には堂々と宣言する彼女だが、本物の決闘委員会メンバーなのかニセモノなのか分からない。モヒカンでもなくトレードマークのお面もつけていない。改造したパラ実女子制服に【ヴァンガード強化スーツ】と【秩序の腕章】を装備しているだけだ。その衣装もあちこちボロボロだった。
「あんた大丈夫なの? ふらふらしてるけど?」
詩穂はいささか心配になって女子生徒に声をかけた。こんなのが立会いできるのだろうか。ルールを無視して暴動が起こっても彼女一人では制止できそうになかった。
「へぃきだよ。。……荒野でプロのテロリストたちにめっちゃぃぢめられただけだから、ぉ前らゎ気にせずに戦ぅのだ。。」
「平気じゃないでしょ。涙目になってるじゃん。いじめられたって……、何をされたのよ?」
「へぃきだよっ。。泣ぃてなんかぃなぃょっ!」
女子生徒がグスッとすすり上げてるのに気づいた詩穂が話を聞こうとすると、物陰からパートナーのセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が姿を現す。彼女は、【隠れ身】のスキルで決闘委員が立ち会うのを待っていたのだ。これ以上は詮索しない方がいいと、セルフィーナは詩穂に向かって口元に人差し指を当てた。
「どうやら、その子は本物の委員の方のようですわ。邪念も敵意もありませんもの」
スキルの【嘘感知】にも【殺気看破】にも危険を示すサインが出ていなかった。言動は怪しいが、決闘委員会の女子メンバーに間違いはなさそうだ。
「決闘委員会に女の子もいるのか」
と詩穂。なんだか気になるところもあるけど……。
「あなた、どうしてお一人なのですか? これまでは、お面モヒカンたちが必ず複数人で来てましたのに」
「この辺ゎガッコから遠ぃから、ぃぃん会の人ゎぁまりぃなぃんだょ。。」
彼女は機嫌が悪そうにぷくっとふくれた表情で言った。
「リスカゎ基本一匹ぉぉかみだし、農場で変な決闘ゃっててみんな出張ってるし、ぁりぇなぃ。一人でも、ちゃんと決闘にゎ立ち会ぇるから、始めるなら早くして。。」
セルフィーナが聞くと、彼女はリスカと名を名乗った。顔を隠していない以上身分はバレているので匿名の意味が無いからだとか。
「……もぅヤダ。スカウター動ぃてなぃし。。ぁれ、ぉかしぃな? ……助けも来なぃしどぅしよぅ。。」
決闘を始めさせようとしていたリスカは、詩穂の機器が反応していないのに気づいて戸惑っていた。頼りなさそうな委員会メンバーだ。
「ヒャッハー! くそが死ねや!」
畏怖の効果から脱したガールズ・パンツの戦車隊は、ルールを無視して怒りに任せて砲撃してきた。
「危ない!」
「!?」
その攻撃がリスカに命中するより先に、詩穂が砲弾を切り裂いていた。弾は至近距離で爆発して激しい炎と爆風に煽られる。
「リスカちゃんだっけ。あんた全然ダメじゃん。あんな変態テロリストたちすら抑えられなくて、よく委員会が勤まるよね」
詩穂は、衝撃で転倒しそうになったリスカを抱き止めながら呆れて言った。
「むむっ、リスカそんなに弱くなぃょ! つまずぃただけなんだから。。」
彼女は負け惜しみ気味に反論してくる。
まあ、確かに。詩穂がぱっと見たところ身のこなしや魔力などからLV50以上はありそうだ。衣装や【警告】のスキルを使っていたところから判断するに、【ジャスティシア】クラスだろう。高レベルの詩穂にリスカのスキルは効かなかったが、敵には一時的に畏怖を与えることに成功している。量産型モヒカン相手くらいなら何人いても十分に対応できるくらいだ。決して弱くは無い。しかし、頼りになるほど強くも無い。それ以前に精神面で不安が大きそうだ。
「いい子だから、向こうで座って見ていようね。あの連中は詩穂がやっつけておくから」
詩穂はリスカをなだめつつ、ガールズ・パンツに向き直った。彼女らは、構わず砲撃を繰り返してくる。放っておいたら周囲の被害も甚大だ。
「やられキャラは目障りだから、そろそろ退場しようか!」
詩穂は、戦車部隊と戦い始める。
「ご心配なく。スカウターの不調は、計器が壊れたんじゃないんですよ。わたくしが妨害して決闘できないようにしているんです」
セルフィーナは、リスカを強引に連れて後退した。
「なんなのょ?」
「こうやって委員会の方とゆっくりとお話しする機会を設けるにはこれしかないので、申し訳ないのですが細工をさせてもらいましたわ」
セルフィーナは【マグネティックフィールド】を使って決闘用の機器を狂わせていたのだった。委員会には計器に異常があると思わせておびき出す予定だったが、ちょうどいい具合に話しを聞きやすそうな女の子が捕まった。肝心なことを尋ねるにはうってつけだ。
二人は、戦場の見える少し離れたところに芝生を見つけて並んで座り込んだ。
「リスカぃそがしぃの。っきぁゎさなぃで。。」
「お時間は取らせませんわ。単刀直入に伺ってよろしいですか?」
彼女は、自分も名乗ってから、【貴賓への対応】で丁寧な物腰で話しかけた。明らかに年下の女の子なのだが、対応を誤りはしない。相手を尊重することは大切だと思う。
「特命教師たちが持ち込んできた、あのスカウターみたいな機器のことなのですけど。どうして決闘システムに取り入れたのか理由を聞かせてもらえませんか?」
「……便利だから、ってみんなゅってるょ。。」
リスカは意外にも簡単に答えた。
「それは、分校内を平穏に統治するために簡単な手法を取り入れていると考えていいのでしょうか? あの機器は特命教師たちに無理やり押し付けられた物ではなく、決闘委員会が自主的に取り入れたのですか?」
セルフィーナの言葉にリスカは頷く。
「ぅん。たぶんそぅ。。生徒たちにゎゲームに熱中しててもらったほぅがマシだもの。。」
「ですが、わたくしが調べたところでは、この機器には脳波を狂わせる副作用があると分かっていますわ。危険とは思わないのですか?」
そんな懸念に、リスカは溜息をついた。
「パラ実に生徒が何人ぃると思ってるの? この極西分校の周りだけでも数ぇ切れなぃほどぃるょ? 空大ゃその他の学校みたく規律正しくなぃんだょ。。山賊みたぃなのばっかりがぃっぱぃぃるんだょ? 普通にゃってぃたら決闘ぃぃん会だけでは抑えきれなぃのょ。。」
それから、彼女は膝を抱えたままポツリと呟いた。
「決闘ぃぃん会、マジしんどぃ。。リスカももぅじき死ヌょ。。」
同情を誘っている口調では無かった。本心から自分の運命を予期しているようだ。
「あなた、それ……?」
ふとリスカの手元に視線をやったセルフィーナは目を見張った。本当にリスカの両手首にためらい傷が無数についていたからだ。
「どうしてこんなになるまで放っておいたのですか? 誰にも相談しなかったのですか?」
欲望と暴力が渦巻くパラ実で、女の子が一人で暴動の仲裁を行うのは過酷だろう。恐怖と過度のストレスで心が病んでしまったのかもしれないし、実際に酷い目に遭っているであろうことは見れば分かる。にもかかわらず、決闘委員会の他のメンバーは誰も助けに来ない。実のところ、決闘委員会のメンバーたちは、テレパシーやお面装備で離れていても意思疎通を図っているのだが、リスカはそのどちらも使っていないため、孤立しているのだ。
だが、そんな事情などセルフィーナにとっては知ったことではないし許せる理由にはならない。彼女には珍しく憤然とした口調で忠告する。
「悪いことは申しません。出来るのでしたらお辞めになることを強くお勧めしますわ」
リスカは首を横に振った。
「誰も悪くないょ。リスカゎ、手クビぉ切るのが好きなだけ。。ぉ面つけてないから、ぃつも狙われてるし。。」
彼女は、心配しなくていいとばかりにヘラヘラっと痛々しい笑みを浮かべた。
決闘の采配に不満を持って逆恨みをし、後日徒党を組んで襲撃してくるモヒカンたちもいるらしい。委員会メンバーのほとんどがお面をつけているのは、狙われにくくするためだ。彼女は、やましいことは何もしていないのだから顔を隠す必要は無いのだ、と言った。
「でもでもね、そんなことでリスカゎャになったりしなぃょ。。決闘ぃぃん会が無くなったら、またガッコが混乱してみんな困るもの。他のセンセたちも役立たずだもの。。リスカ、ぃぃん会にぃのち捧げたゎ。悪ぃモヒカンたちと戦って死ヌからぃぃの。。」
言っていることはアレだが、リスカから熱意が伝わってきて、セルフィーナはそれ以上言えなかった。
「ぁのスカウターは、特命センセの人たちがタダでくれたから使ってるだけだょ。。なんか、ぃろぃろとテストをゃってるんだって。実験データゎ企業のサーバーにぉくられてるらしぃょ。。ぁんな機械ぃらなぃのに、どぅして断らなかったのかな。。怖ぃょ、リスカたちぃけなぃことゃってるのかなぁ……?」
セルフィーナはリスカの話を黙って聞いていた。誰かに聞いてほしいことがあったのに我慢していたようで、何も質問しなくても自然と先が続いた。
「リスカがャなことゎね、分校に来た特命センセたち、ぃぃんかぃの活動にぉカネ出してくれてるみたぃだからょ。ワッペンの待遇を維持するのに経費がチョーかかるらしぃのょ。。前ゎ、ワッペンなんかタダの勲章に過ぎなかったし、生徒たちゎその名誉だけで満足していたゎ。リスカもヒャッハー暴れるモヒカンたちをボコれれば楽しぃから何もぃらなぃし、ぃぃんかぃのメンバーは元々全員ボランティアだょ。。どぅしてこぅなっちゃったのかなぁ……。。」
委員会が変わってしまったが、活動を辞めるつもりは無い。リスカの葛藤が分かった。
「結局は、特命教師たちと共存関係になってしまっているわけね。ワッペンによる階級制の待遇維持のために企業と癒着してしまったわけだ」
戦いを終えた詩穂が二人の元へとやってきた。
ガールズ・パンツのおバカ娘たちは、彼女にボコボコにされ戦車を全部叩き潰されて泣きながら逃げ去って行った。ひとまず一段落だ。
「ねえ、リスカちゃん。この機械使うのやめようよ。ついでに企業から派遣されてきた特命教師たちとも縁を切っちゃいなさい。あんたも本心ではあんな連中と付き合うのは嫌なんでしょう?」
詩穂はセルフィーナの会話に加わった。
「このままだと、益々深みに嵌りこんで抜け出せなくなるよ。リスカちゃん、今はつらそうだけど、委員会活動も続けていくんでしょ。それは別にいいと思う。言う事を聞かない悪いモヒカンをどんどんボコるといいよ。詩穂もパラ実分校の特色に異論を挟むつもりはないし。でもね、あの企業の連中と仲良くなるのはお勧めしないんだな。あのね、言い方は悪いけど、与えられることに慣れちゃうとお金のために限りなく堕落しちゃうもんなんだ。相手はそのうち何でも要求してくるよ。生徒たちも委員会もめちゃくちゃになる。これ本当」
「そんな……。そんなことなぃもん。。」
「でも、内心ではそうなるかもって心配してるんでしょ? 今ならまだ引き返せるよ。それとも、委員会ってそんなことも分からないほどおバカさんなのかな?」
「ぅ〜ん……。ぇっと、でもぉ……。。」
リスカは困った表情になった。もちろん、詩穂の言うことは正しいと理解できているしそうした方がいいのも分かっている。しかし、決闘委員会の秘密と結束を重要視しており、内情をペラペラと喋ってしまった事を、早くも後悔し始めていた。
「ヤバぃょ。ぃぃんちょ、怒るとチョー怖ぃの……。。」
リスカは、委員長の存在を思い出してガクブルし始めた。
スカウターの使用の件も含めて、これ以上自分の口からは述べられないと、彼女は態度を硬化させ口をつぐむ態度になった。かなりの秘密主義で、普通は外部には委員会の情報は漏れないようになっているということだった。
「まあ、いいか。話してくれてありがとうね。元気出して活動に頑張って」
これ以上は詳しく聞けないだろう。詩穂は話をそこまでに切り上げて、落ち込み気味のリスカを励ました。
「そぅだ。ぁの戦車バカたちをゃっつけてくれたポイントぉゎたしてぉかなぃとぃけなぃゎ。。」
リスカは立ち上がって、自身に気合を入れなおす仕草をした。決闘委員会メンバーの任務を思い出し、正規の手続きをしてくれる。詩穂に大幅のポイントが加算された。
「それはさておき。山田ちゃんと決闘したいんだけど、段取りつけてくれるよね。むしろ、こちらが本題だよ」
隠れて様子を見ているのは知っている、と詩穂は武雷庵の潜んでいる方へと視線を向けた。
「何なら、このままリスカちゃんが決闘に立ち会ってくれてもいいんだけど?」
「ゃまだゎ強ぃょ。。金ワッペンなのゎ伊達じゃなぃゎょ。。」
リスカは、詩穂の能力の高さを把握しつつ、それでも助言をくれた。彼女自身、武雷庵の決闘を何度も見届けてきたことがあり、戦闘スタイルを知っているのだ。
本当は、決闘委員会のメンバーは情報を漏らしてはいけないんだけど、と前置きしてリスカは小声で告げた。
「単なる戦闘での勝負だったら、詩穂さんゎ負けなぃと思ぅ。。でも、それ以外の勝負だったら?」
「どういうこと?」
「例ぇば。ゃまだゎ、じゃんけんがチョー強ぃの。。早食ぃとかも得意だしネットゲームは廃人レベルょ。。どちらも決闘の種目として認められてるし、それで勝ち抜ぃてきてるのょ。。侮らなぃで。。」
「なるほどね。お遊び系の勝負が得意なわけね。何の準備もせずに挑んだら思わぬ不覚を取るかもしれない、ってことか」
気をつけなければならないのは、武雷庵が奇想天外な勝負で挑んでくることだ。詩穂は基本的に万能だが、ふざけた競争になると足元をすくわれる可能性がある。例えば、ケーキの大食い競争だったらどうする? 武雷庵は太っても問題ないが、アイドルの詩穂が体重を増やすわけにはいかない。それは、例え決闘に勝ったとしても社会的に負けを意味する。野山で虫取り、カン蹴りなどの本当のお遊びもやめておいたほうがいいし、運が左右するギャンブルも避けた方がいいだろう。
「なるべく戦闘に持ち込む方向で。あとは成り行き任せ、かな?」
少し考えて詩穂は言った。今更小細工しても始まらないし、まあどんな決闘種目でも対応できるだろう。
と……。
「くくく……。この俺様に決闘で挑もうとはいい度胸だ。いいだろう。受けて立つぜ」
話をしている間に、武雷庵と子分たちはいつの間にか詩穂の周りをぐるりと取り囲んでいた。拠点で様子を見ていただけだったのだが、決闘を受けて立つ気になったらしい。すっかり余裕を取り戻していた。
普通の戦闘なら武雷庵の勝算は薄い。だが、決闘なら彼は百戦錬磨だ。勝利を手にする方法はいくつもあると彼は考えていた。
青白磁は、上手く相手を決闘に持ち込む役目に成功したというわけだ。
「決闘種目は、戦闘か基礎体力測定のどちらにする?」
詩穂は、武雷庵が切り出すより先に提案した。敢えて二択にしたのは相手の機先を制して選択肢を狭めるためだ。二択を提示されると、人はついそのどちらかから選んでしまい、それ以外の選択肢は思いつきにくくなる。武雷庵が大食い競争やネットゲームでの勝負を言い出す前に種目を決定してしまいたい。
「たまには、基礎体力測定で普通に体育授業をやってみるのもいいかもね。学校行事なんだもの」
戦闘での決闘ではなくとも、素の能力での勝負に持ち込みたい。かつ、武雷庵が勝負に乗ってきそうな単純な種目がいい。それも考慮に入れての選択だった。
「ふっ、お前の考えなどお見通しだ。俺様と戦闘での決闘をやりたいんだろう?
スカウター装着での勝負なら受けよう」
武雷庵は、単純な能力値勝負を避けて直接対決を望んだ。ただし、双方スカウターの装着が条件だ。決闘で大怪我をしないための保険の意味もあるが、決闘慣れしている彼は、スカウターによるテクニカルポイントの加算も期待していた。
あの機器は、寸止め攻撃でもダメージを算出する仕組みになっていることは詩穂もこれまでの幾度かの決闘の試みから把握している。実際には大したダメージを与えていなくても、派手で華麗な技を放ったり模範的な型で戦うと技術点が加味されて相手の設定HPを奪うことが出来る。素での勝負なら勝っているのにスカウターのダメージ計算により負けることもあるのだ。
「もし断るなら決闘は不成立だ。俺様は他校生とガチンコの喧嘩をするつもりはねぇ。決闘からは降りるから、漫画を拡散するなり嘲笑するなり好きにしてくれ」
武雷庵は、開き直った。これでも分校の金ワッペン保有者として譲歩しているのだと彼は言った。確かに、彼には逃げるという選択肢も残っている。恥はかくだろうが一時的なことだし、致命的な傷を負わなくても済む。そうしないのはあくまで彼の心意気の問題なのだ。
「うん、わかった。その条件でいいよ」
詩穂は答えた。せっかく青白磁が苦労して漫画まで作ってくれたのだ。ここで見逃す手はないし、大食いなどの勝負でないなら彼女にも拒否する理由も少ない。
「じゃぁ、さっそく始めるょ。立ち会ぅのゎ、リスカだけでぃぃ? もっと人が大勢ぃたほうがぃぃんだったら、仲間呼ぶけど。。」
リスカは、詩穂と武雷庵の顔を交互に見ながら聞いた。
「リスカちゃんだけでいいよ。ちゃんと仕切ってね」
詩穂が言うと、武雷庵も頷いた。
「判定は、通常通りフェアに頼むぜ。知り合いみたいだが贔屓は無しだ」
「ぁたりまぇだょっ。。リスカゎモヒカン殴る以外で私情ぉ挟んだことゎなぃょ。。」
リスカはブレることはない強い意志を秘めた目で答える。言動は残念でも決闘委員会としての使命感はあるのだ。
彼女は、腰に提げていた袋からもう一つのスカウターを取り出すと武雷庵に手渡した。それから、決闘委員会専用の物と思しきタブレットを手に何やら入力していたが、準備が整ったようで、二人に聞く。
「ポイントゎ何点かけるの?」
「全部に決まってるじゃない」
詩穂は、これまで試験的に挑んできた決闘で貯めてきたポイントを全てつぎ込むことにした。武雷庵相手には勝つことしか考えていないし、万一こんなところで負けるようなら大人しくすごすごと引き下がるつもりだった。
「誤解しないでね。賭けるのはポイントだけじゃないよ。本当に全部賭ける。もし詩穂が負けたら、持ち物を全部あげるよ。その代り、山田ちゃんも負けたら持ち物全部おいていくのよ。いい?」
これは遊びではない。真剣勝負なのだ、と彼女は言った。
「いい度胸だ。俺様も同様の条件でいいぜ」
武雷庵はカッコつけて言うと、金ぴかに装飾された上着を脱ぎ近くにいた部下に手渡して身軽になった。逃げ回っていたので弱いのかと思いきや、鍛え上げられたムキムキの肉体が力強さを表している。彼が気合を入れると、内に秘められていた魔力が爆発的に増大した。金ワッペン保有者を名乗るだけのことはある。
「持ち物全部、か。ぐふふ……、【伝説のメイド服】とか【清楚なメイド服】とか超欲しいぜ。絶対取る!」
詩穂の全身をじろじろ見ていた武雷庵は、本来の限界を超えて闘志を引き出していた。脱ぎたてのメイド服をくんかくんかしてやる! いやマジで! 邪念に取りつかれたドス黒いオーラが彼の全身を包み込んでいた。溢れかえるパワーで、見るからに強そうなマッチョに変貌を遂げている。
二人はスカウターを装着して向かい合った。
「うん……? 退屈せずに済みそうだね」
詩穂は、注意深く相手を観察していた。
【身体検査】スキルで分かったことは、武雷庵は意外にも英雄クラスの力をもつ強力な契約者だということだ。装備している武装類と魔力の大きさから、恐らく【ラヴェイジャー】だろう。総合LVも詩穂ほどではないが、かなり高い。少なくとも、何かあってもリスカでは太刀打ちできず一人で制止できないくらい強いのは確かだ。まあ、彼がルールを無視して暴れだした場合は詩穂が止めるのを手伝うが。
「俺様の武器はこれだぜ」
開始位置に立った武雷庵は、先ほどの戦闘で破壊された戦車の残骸を片手で持ち上げた。【自動車殴り】のスキルを使っての攻撃で、彼が愛用している得物はそこら辺の車や建物の残骸などなのだ。
「もっと大きいの持ってきてもいいんだよ」
まあ、おおむね予想から外れていない。詩穂には相手が超巨漢でもギャグ補正による不死身的体質を誇っていたとしても戦うための用意はできている。
「勝っても負けても恨みっこなしだょ。……じゃあ、始めょぅか。。」
リスカは双方の了解を取ってから、決闘の開始を宣言した。勝敗は、スカウターのスコア判定のみだ。途中で本当に大ダメージを受けても、逆に無傷でも、スカウターの表示するHPが0になったら負けだ。
「ヒャッハー! いきなりフルパワーだぜ! 潰れろ!」
詩穂のメイド服に目がくらんだ武雷庵は、開始早々【アナイアレーション】のスキルを放った。戦車の残骸を武器に辺りかまわず大技で一気に勝負を決めにかかる。
ドゴォォォッ!
【クライ・ハヴォック】で増幅された圧倒的なエネルギーが渦を巻いて破裂した。地面に亀裂が走り、クレーター状にえぐれるほどの威力だ。
「ちょっ……、、そんな待っ……!?」
リスカが巻き添えを食らった。深刻なダメージを受けないように、セルフィーナがとっさに抱きかかえて上空へと退避する。青白磁も全力でその場から離れていた。
詩穂は、予定通り【シールドマスタリー】のスキルで敵の攻撃をに対処していた。【混沌の盾】の効果もあって自身はさほど大きなダメージを受けているわけではないが、スカウターの数値が今の攻撃で大きく減少している。機器は、有効な攻撃と判定したのだ。
「……なるほどね。これはちょっと厄介かも」
実際に戦ったら詩穂が負けることはないだろう。しかし決闘システムのルール縛りが彼女を戦いにくくしている。しかも、相手は決闘に習熟しているのだ。
「一気に、行く!」
詩穂は武雷庵を侮らなかった。手を抜くことはない。【ジャイアントキリング】のスキルも装備しており、大型で強力な敵に対抗する術も心得ている。
【パワーブレス】で攻撃力を高め【ソードプレイ】のスキルで反撃する。強力無比な英雄クラスの攻撃が、武雷庵を子分もろとも叩きのめしていた。
「ぐわあああっっ!」
集団攻撃で子分たちはほとんど粉砕したが、武雷庵はまだ生き残っていた。スカウターのスコアもまだ0になっていないので、彼は体勢を建て直し再度攻撃を繰り出してくる。
相手の攻撃方法がわかってしまえば、詩穂はもうダメージを食らわなかった。敵のスキル攻撃もとっさに効果範囲から外れて回避する。【アナイアレーション】はMPの消費も大きくそう何度も使えるものではないので、武雷庵がスキルを打ち尽くしてしまえば脅威ではなくなる。
ドドッッ! と二人の間で数度の打撃が繰り返された。
そして、詩穂の勝負を決する一撃が武雷庵に命中する。意外にも楽しめた彼女は満足げに言った。
「まあよくやったよ、山田ちゃん。結構強いじゃん。素直に褒めておいてあげるよ」
「なんてこったぁぁぁ!」
武雷庵はスカウターのスコアも0になり、精神的ダメージも受けてその場に倒れた。
「勝負ぁり、だね。詩穂さんの勝ちだょ。。」
リスカが、セルフィーナと一緒に上空から降りてきた。
彼女は、地面に降り立つと倒れている武雷庵を確認して、勝負の決着を宣言する。決闘中はなすすべもなくずっと遠くから見ていただけなのにドヤ顔なので、詩穂は突っ込んでおいた。
「リスカちゃん。あんたやっぱりダメじゃん。鍛え直さなきゃね」
「うぐぐ……。。」
リスカは反論もできずに少しの間悔しそうに頭を抱えていたがほどなく立ち直った。
決闘システムのルールに従って、ポイントが配分されることになった。詩穂は膨大なポイントを獲得する。今回は、それ以外にも全て賭けることが両者の間で了承すみだったので、敗れた武雷庵は約束通り持ち物を全部詩穂に手渡すことになった。
「この俺様が敗れるとはあり得ねえぜ」
武雷庵は、結果に不満そうながらも立ち上がった。スカウターを使っていたので致命的なダメージは受けていない。まだ十分に動けるようだった。
彼は、詩穂のスキル攻撃により子分たちも全員倒されているのを見まわしてから、フッとため息をついた。
「完敗だぜ。言い訳はしねぇ。俺様は、また復活できるからな」
案外さばさばした様子で、武雷庵は潔く負けを認めた。
趣味の悪い金キラの衣装の他、持っていた装飾品類なども、彼はあっさりと手放した。もちろん、金ワッペンもだ。
「ゃまだゎ、まだポイントの貯金が残ってるから地下教室へは行かなくてぃぃょ。。」
リスカは言う。
「もう、どっちでもいいぜ。いい経験ができただけでも十分だ」
武雷庵は、最後までカッコつけだった。
衣装を全部脱ぎ捨ててパンツ一丁の姿で、詩穂に向かって「次は負けねえぜ!」的なポーズをビシッと決めた。
「また、やろうぜ! 俺様は腕を磨いて待ってるからな!」
「うん、そうだね。気を落とさずに頑張ってね」
詩穂は彼に付き合って生暖かい笑顔で大人の対応をした。もう用は済んだので二度と会うこともなかろうが。
「ふっ……、俺様にも永遠のライヴァルができてしまったようだぜ」
武雷庵は、裸のまま一人でスタイリッシュに去って行った。
「いや、詩穂は全然ライバルじゃないし」
さて、と。興味すらなく見送った彼女は、戦利品の分配の相談を始める。
とりあえず、金キラの衣装や装飾品は売ればいい値段になるだろう。金ワッペンは……。
「詩穂は、金ワッペンはいらないよ。みんなに分けてあげればいいんじゃないかな?」
彼女は、元より分校内での待遇などに興味はなかった。装飾品の類も欲しいとは思わない。
武雷庵たちがヒャッハー! して貯めこんでいた盗品を取り戻して返しさえすればよかったので、決闘委員会に返却することを提案した。
「ゎかったゎ。。ちゃんと処理してぉくから。ワッペンゎ抹消するょ。。」
リスカは詩穂から金ワッペンを受け取ると袋に仕舞い込む。手続きは決闘委員会が行うので詩穂には関係のないことだった。
「ぁとのことゎ、リスカに任せてぉぃてくれればぃぃょっ!」
一人で全部できるもん、と彼女は強い口調で言った。これまで全然いいところがなかったので取り繕おうと必死の様子が、詩穂の微笑みを誘う。
「じゃあ、任せるね。リスカちゃんも今まで付き合ってくれてありがとうね。色々あるだろうけど、頑張ってね」
詩穂は、リスカを信じてセルフィーナと青白磁と共にその場を引き上げることにした。何事もなく姿を消し、後には平穏な空気が戻ってくるだろう。
「こ、こちらこそ。。」
リスカも別れの時が来たのを察して、名残惜しそうだった。詩穂たちとはとても印象的な出会いで、忘れないと言った。
「でゎ、リスカゎまたぉ仕事に戻るょ。分校内のぁちらこちらで争ぃと決闘が待ってぃるもの。。ぉ話聞ぃてくれてぁりがと。。助けてくれてぁりがと。。喋ったことゎ、みんなにゎナイショだょ。。」
彼女はぺこりと頭を下げると、小さく手を振って去っていく。
「これでひとまず、やるべきことはやったよね。詩穂たちも帰ろうか」
そこへ、ようやく騒ぎに気付いた他の生徒たちが様子を見に来た。遅すぎる。もしかしたら、争いに巻き込まれるのを恐れて隠れていただけかもしれないが、それならそれでいい。
「何があったんだ?」
死屍累々と横たわるモヒカンたちを見て、彼らは驚いていた。
「さあ?」
詩穂は笑みを浮かべたまま答える。
「何も無かったよ。みなさん、訓練お疲れ様」
かくして、武雷庵たちの勢力は邪悪な野望を達成することなくおおむね壊滅状態になり荒野へと散って行ったのだった。