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【蒼空に架ける橋】第2話 愛された記憶

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【蒼空に架ける橋】第2話 愛された記憶

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■第21章


 弐ノ島太守エン・ヤの屋敷へ向かう途中の馬車のなか、ミツ・ハは参ノ島で自分の代理をしている副官のリ・クスから、現行犯逮捕した密猟者たちが留置所から脱走したとの報告を受けていた。
 ただでさえ壱ノ島で素人の小娘にまんまと太守暗殺を許してしまったという警備隊の不手際に内心イラつきを引きずっていたのが、これで完全に頂点に達したと言っていい。それは傍から見ていて一目瞭然なほどで、同じ馬車に乗ることを許された竜造徹雄アユナもひしひしと感じとれるほどだった。
「――そう。鎮圧はできたのねん。でも数名に逃亡された、と。
 まったく、どの娘もなってないったらないのねん! 島へ戻り次第、全員アタシ自らしごいてあげるのねん! 覚悟しておきなさいと伝えて――」
 そのとき、馬車が急ブレーキをかけた。
 ガタンと大きく揺れて、体が投げ出されそうになる。
「おっと」
 正面に座っていた徹雄が自分に向かってきたミツ・ハを支えた。
「大丈夫かい?」
「ありがとねん。
 にしても、一体何があったのねん?」
 外を馬で行く部下たちがざわめいているのをかすかに聞きとって、ミツ・ハはパッと乱れて前にきていた髪を肩向こうへ払い込む。
 先までの怒りや苛立ちは一瞬で鳴りを潜め、冷静、慎重な指揮官に戻っていた。
 ハルバートを手に、竜造たちを従えて車外へ出たミツ・ハは、とまどっている部下たちの横を抜け、道をふさぐように立つ者たちの前へ出る。
 それはただの盗賊ではなかった。
 もしそうなら部下たちがここまで動揺したりするはずがないと、出る前から分かっていた。だからある程度心の準備はできていたはずだった。しかしそれでも、彼らの異容が目に飛び込んだ瞬間、心に衝撃と動揺が走るのは止められなかった。
 何十体もの半透明の白い影のようなものがユラユラと蜃気楼のように揺れながら道幅いっぱいに広がって立ち、その先頭には全身に白い何かを巻いた、棒切れのような細身の少年が立っている。あまりに細すぎて、一瞬ミイラのように見えたが、彼の全身を覆っているのは包帯にあらず、呪符で、その文字は術が発動しているらしく、わずかに光っていた。
 どう見ても人間ではない。
「ミツ・ハさま」
 相手を刺激することを恐れてか、ひそめた声で脇から親衛隊の1人が彼女を呼んだ。その目線は「あれを見てください」と言うように横に流れている。草からゆらりと白い影が立ち上がるのが見えた。それらは続々と増えていき、左右と後方を埋める。――つまりは、囲まれたというわけだ。
「……これってアタシが参ノ島太守ミツ・ハと知っての狼藉よねん? 当然」
 視線を前方の少年へと戻し、誰何(すいか)する。
「アナタ、何者なのねん?」

『そうおびえずとも、命までは奪うつもりはない』

 頭中に響く声だった。
 微笑を浮かべた少年の口元はわずかも動いていない。

『あまりに彼奴めが使えぬのでな、余が直々に回収に出向いてやったというわけだ。光栄に浴すことだな。
 さあ、恭しく頭を垂れ、余にオキツカガミを差し出すがよい』

「――ああ、そう。そうなのねん……」ミツ・ハのハルバートを握る手の力が強まった。「つまりアナタがコト・サカさまをあんな姿にしたってコト」
 次の瞬間、ミツ・ハの姿が忽然と消える。
 再び彼女の姿が目に捕えられたとき、彼女は少年を間合いに捉え、ハルバートを振り切っていた。
 竜造を相手にしたときよりも数段早い。しかしその巨大な刃は一瞬早く後方へバックステップで避けていた少年の体にかすりもしない。ただ、少年のすぐ後ろにいた白い影が身代わりのように横薙ぎを受け、真っ二つにされた。それだけにとどまらず、ハルバートは左右にいた数体もその剣風に巻き込み散らす。
 ミツ・ハの動きは止まらなかった。のらくらと逃げる少年を追うかのように続けざまに繰り出される斬撃。それは少年に届かないまでも、白い影たちを薙ぎ払い、八つ裂きに散らしていく。
 やがて、ついにハルバートの刃が少年に追いついた。
 ガキンッ! と固い音がして、刃が半ばで止められる。受け止めたのは――少年の巨大な口。まるでサメの刃のように並んだノコギリ歯が、鋼の刃にその歯先を食い込ませている。
 そして次の一瞬後には噛み砕かれて、ハルバートはミツ・ハの持つ手の辺りで折れた。

『くそまずい』

 バリバリ咀嚼して欠片を口端からこぼしながら、少年はニタリと嗤う。
 その異様な姿はその場にいる全員をゾッと凍りつかせるに十分だった。
「! 危ない!」
 背筋を虫が這い上がるような嫌な予感に突き動かされた徹雄が疾風迅雷で飛び出し、ミツ・ハの襟首を引っ掴んで引っ張り寄せる。
 ほとんど同時にバクン! と音がして、再び肥大した少年の口がミツ・ハの上半身のあった空間をえぐり取るように動いた。
 もし引っ張ってもらえなかったら、今ごろ食われていただろう――さすがのミツ・ハも声を出すこともできず、徹雄にどんと背中をぶつける。

『ふむ? 食えなんだか。
 まあよい。オキツカガミを差し出す気になったか? 小娘よ』

「……化け物ごときに上から目線で指図されるいわれはないのねん……」

『――ふ。そうか。ならば、余に逆らうことの愚かさを思い知るがよい。
 先に言うておくが、こやつらは余の特別製のヤタガラスでな。彼奴の用いるものとは違い、かなり凶暴な性質をしておる。ひとたび余が命じれば屍の山を築くまで治まることを知らぬ。無論、相手がうぬでも同じことよ。見境はない。
 それでよいな?』

 宣告するタタリの背後で、再び白い影の形に集束したものたちがケタケタ嗤う。
 その真っ暗な口のなかには、タタリと同じく鋭いノコギリ刃が上下から生えていた。




 他方。時を同じくして、壱ノ島の太守の館でも騒動が起きていた。
 太守モノ・ヌシの私室で人の下半身が発見されたのだ。血に染まった部屋のどこからも上半身は見つからなかったが、残された下半身のつけていた服から、それはモノ・ヌシであると断定された。
 だれも侵入に気づけた者はおらず、また悲鳴を聞いた者もいなかった。
 倒れた角度から、モノ・ヌシの正面が向いていたとされる方角に、1つだけ血を踏んでついたらしい子どもの足跡が残されていたが、モノ・ヌシの体の切断面についた痕は、まるで巨大な生物に噛み千切られたようだったという――――。








『【蒼空に架ける橋】第2話「愛された記憶」 了』

担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。

 またもや公開が遅くなってしまいました。申し訳ないです。
 できるだけ公開を早くしたいので、ここは手短にさせていただけたらと思います。
 (ここでいつもものすごく時間をとられてしまうので……)


 まず、情報共有についてですが、今回、第1話のリアクションの内容やガイドでのPL情報をアクションの内容に取り入れられている方がちらほら散見されました。
 アクションを組み立てられる分にはかまわないのですが、会話等行動に出すことはできません。
 まずその情報をどうやって手に入れたかを書き、そしてその情報を握っておられる方から了承を得て、その方にアクションとして「○○に話した」等を書いてもらっておいてください。
 掲示板にもなく、アクション内容にも書かれていなかった情報は、共有されていない(=知らない)として処理させていただきました。ご了承ください。


 それから、今回のキャンペーンシナリオは、主軸となって展開されるストーリーのほか、サブミッション的なストーリーがいくつか入っています。
 こちらは一見メインストーリーと関係ないと思われるかもしれませんが、最終的に大きく関与してくることになります。
 第2話での機晶石発掘およびサク・ヤとカディルの関係改善、エン・ヤのこともそれでした。

 次回以降もこういったサブミッションが入り、その結果によって最終的なシナリオの難易度が変化します。
 ぜひこちらも気にして、その意味でも楽しんでいただけたら、と思います。



 それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
 次回ガイドはできるだけ早く出したいと思っております。そちらでもまたお会いできましたらとてもうれしいです。
 もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいなぁ、と思います。

 それでは。また。



※5/16 文言の一部修正および訂正をさせていただきました。ご指摘いただきましてありがとうございました。