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●パーティーが行われる予定のカフェテリアでは

「さっきから爆発音が絶えないんだな。リンネ、また派手にやってるんだな。後で怒られるのは勘弁してほしいんだな」
 遠くからどっかんどっかん、と爆音が聞こえてくる中、カフェテリア『宿り樹に果実』ではモップスが後の歓迎パーティーの準備をしていた。
「あの、私でよければ手伝いましょうか?」
「るるにも手伝わせて!」
 そこに、様子を窺っていた羽咲 久遠(はねさき・くおん)立川 るる(たちかわ・るる)がモップスへ手伝いを申し出る。
「そう言ってくれるとありがたいんだな。じゃあ、ボクがこの飾りのこっち側を持つから、二人は向こう側を持ってほしいんだな」
「ええ、分かりましたわ」
「任せてよ!」
 久遠とるるが二人がかりで持っているのを、モップスは一人で軽々と持ち上げている。
「モップスさんって、見かけによらず力持ちなんですね」
「うんうん、頼りない見かけだったから意外だなー」
「二人とも言いたい放題なんだな。見かけが悪いのは確かだから否定できないんだな。でもボクだって、伊達にリンネに付き合ってないんだな」
「ふふ……そうですよね。リンネさんもモップスさんを頼っているのでしょうか」
「よく分からないんだな。リンネはどうとも思ってないように思うんだな。ま、ボクは今の待遇でもそれなりに楽しんでるからいいんだな。……ありがとうなんだな。次はミリアのところに行って料理を持ってきてほしいんだな」
「うん、分かったよ!」
 るるがカウンターへ向かっていく途中では、蒼 穹(そう・きゅう)が給仕のお姉さん方と話に興じていた。
「ほう……なるほど、このカフェテリアから、誰にも見られることなく外に抜ける道があるのか……ああいや、個人的な興味です、お気になさらず」
 手帳に何かを書き込みながら話を続ける穹、その横ではブレイズ・カーマイクル(ぶれいず・かーまいくる)とそのパートナー、ロージー・テレジア(ろーじー・てれじあ)がごく普通に飲み物を頼んでくつろいでいた。
「ふむ……周りにこれだけ人がいれば、気付かない内に吹き飛ばされることもあるまい。後はのんびり成り行きを見守るとしよう」
「……お任せします」
 ブレイズが紅茶を口に含み、満足そうな表情を浮かべる。
「ほう、たかがカフェテリアと思っていたが、なかなかいい物を出すではないか。……しかし、何がかくれんぼだ、子供の遊びではないか。ま、余興とはいえ、勝ち負けがつく以上負けるわけにはいかんな」
「……大人気ない」
「やかましい! ロージー、あの小娘が攻撃してきたら全力で僕を守れ! 壊れたら後で直してやる! その間に僕は逃げるからな!」
「……解った」
 ブレイズがまくしたてるのを涼やかな表情でロージーが受け止め、その視線がオープンテラスになっている箇所へ向けられる。
「うん、ここなら日当たりいいし、気持ちよく昼寝ができそうかな。あんまり大事にならないといいな……」
 壁に面したテーブル席の下に腰をつけて、五月葉 終夏(さつきば・おりが)が軽く伸びをする。吹き抜ける風に髪を揺らされながら、その瞳がゆっくりと閉じられていく。
「この位置ならば、リンネが来たとしてもすぐに魔法を撃たれることはないな。様子を確認してから逃げることもできるだろうし、最適な場所だな」
「うん、そうだね! エリオットくん、何か飲む? あたし持ってくるよ」
「ああ、適当に頼む」
「分かった、じゃあ持ってくるからちょっと待っててね!」
 パートナーのメリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)がカウンターに向かっていくのを見遣って、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が腰を下ろす。彼らの頭上、吹き抜けになっていて蔦が絡み合うその場所では、羽瀬川 セト(はせがわ・せと)がところどころ焦げた様子のエレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)を気遣っていた。
「あうぅ……リンネのヤツ、とんでもなかったのじゃ。あのままあそこにいたら間違いなくわらわは黒焦げになっておったのじゃ」
「ふぁ〜〜……ああ、うん、お疲れ様、エレミア」
「こりゃ、少しはわらわを気遣う様子を見せんか! まったく、セトはいつも昼寝ばかりしおって、何がそんなに楽しいのじゃ?」
「す〜……す〜……」
「って、もう寝ておる! ……まあええ、セトの寝顔を見ているのも、悪くないのう。……さて、リンネはここにやってくるじゃろうか」
 エレミアが呟いて外を見下げた直後、黒い煙を出しながら箒にまたがった少女のような人影が、カフェテリアの入り口に落ちるようにやってくるのが映った。
「あうぅ……エリザベートちゃん、手加減なしなんだから……みんなを黒焦げにするつもりが、リンネちゃんが黒焦げになっちゃったよ……」
 まさに疲労困憊といった様子のリンネに、モップスそして生徒たちが驚きの声をあげる。
「これはこれは、随分と凄い格好になられましたね。一体何があったのですか? 修練場に向かった方々に手痛い反撃を受けたとかですか?」
 入り口近くのテーブルでコーヒーを嗜んでいたクレイ・フェオリス(くれい・ふぇおりす)の問いに、リンネは首を振って応える。
「そんなのにやられるリンネちゃんじゃないよー。あうぅ、エリザベートちゃんが入ってこなければ、こんなことには」
「呼びましたかぁ?」
 突如、クレイの座っていた席の前に現れたエリザベートが、無邪気な表情を浮かべて応えた。
「とと……これはこれは、初めましてエリザベート様。宜しければご一緒しませんか?」
「いいですよぉ〜。ミルクに角砂糖6個、いつものでお願いするですぅ〜」
「はいはい、すぐにお持ちしますね」
 エリザベートの注文を笑顔で承るカフェテリアのお姉さん、ミリア・フォレストがカウンターへ向かっていくと、エリザベートの周りは途端に賑やかになります。
「はぁ……やっぱりエリザベートちゃんは人気だねぇ……はぁ……リンネちゃんはもう疲れちゃった……モップス君、パーティーの準備はどんくらい進んでるー?」
「まだ半分ってところなんだな。かくれんぼがもうちょっとかかると思っていたんだな」
「そっかぁ……うん、じゃあ、かくれんぼはこの時点でおしまいっ! パーティーの準備はみんなで協力してやろっ!」
「お、かくれんぼ終了か。よっしゃ、じゃあ他の人達にメール送信だな」
「結局、ケイ達は逃げ切れたのか?」
「さあなあ、もしかしたらどこかで黒焦げになってるかもやけど……よし、送信完了」
 リンネの言葉を聞いて、叶野 虎詠(かのう・こよみ)オディロン・フォンテーヌ(おでぃろん・ふぉんてーぬ)と言葉を交わしあいながら、仲間たちへかくれんぼ終了のメールを送る。
「研究施設にいた人たちと修練場にいた人たちは、まだ動けないかもしれないから誰か行ってあげてね! 修練場はもうホントに凄かったんだから……」
「えへへぇ、ちょ〜っとだけぇ、やりすぎちゃいましたぁ」
 反省のかけらもない表情で笑うエリザベートに底知れぬ恐怖を感じる生徒たちであった。
「グレッグ、わたくしたちは修練場の方へ向かうぞ」
「分かりました。どうやら人手が必要なようですしね」
「ああ、ちょい待った待った、俺たちも向かうで」
「人は少しでも多い方がいいじゃろうからな」
 カフェテリアを飛び出していこうとする姫神 司(ひめがみ・つかさ)グレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)を虎詠が呼び止め、オディロンを加えた4人が、箒にまたがり修練場の方へと向かっていく。……彼らが修練場の惨状を目の当たりにするのは、もう少し先のことである。
「えと……じゃあ私は……パーティーの準備を手伝いますね……」
「わたくしも手伝わせていただきますわ。そなた、わたくしと一緒にやりませんこと?」
「え、あ、はい……よろしくお願いします」
 テーブルに手を伸ばした姫宮 志穂(ひめみや・しほ)カミーユ・エレクトラ(かみーゆ・えれくとら)に呼び止められ、2人一緒に作業をすることになった。
 そして、賑やかで楽しげに、歓迎パーティーの準備が進められていく。

●改めて、イルミンスール魔法学校へようこそ!

「それでは、これから歓迎パーティーを始めるんだな。じゃあまずはリンネ、挨拶宜しくなんだな」
「え、リンネちゃんでいいの? エリザベートちゃんじゃないの?」
「主催は私ではなくあなたですぅ。だからあなたが挨拶するのですぅ〜」
 エリザベートに言われ、リンネが設けられた壇の上に上がる。かくれんぼに参加した生徒の他、都合のあった人たちも居合わせたカフェテリアは、人でごった返している。
「うわー、流石にこれだけ集まると、リンネちゃんもちょっと緊張しちゃうかも。……えーと、まずはかくれんぼに参加したみんな、お疲れ様! どうかな、楽しんでくれたかな?」
 リンネの問いに、生徒たちが大歓声で応える。
「うん、そう言ってくれてありがとう! ……じゃあ、最後まで逃げ切った人へのプレゼントを渡すね。何人かいるみたいだから代表して……君!」
「え、あ、俺!?」
 リンネに指を指されたケイが壇上に上げられ、モップスから品を受け取ったリンネが口上を述べる。
「あなたは今回のかくれんぼに際して、リーダーシップを発揮しより効果的な戦略を練りチーム一丸となって事に当たり……もー! モップス君、こんな面倒な文章考えなくていいよぉ!」
「リンネ、それは八つ当たりというヤツなんだな。だいたいリンネが言語の勉強不足で」
「……とにかく、頑張ったということなので、称えちゃいます! おめでとー!」
 モップスを黒焦げにしたリンネが、ケイへモップス手作りの賞状を渡す。
「もっといいプレゼントを期待してたらごめんねー。モップス君もリンネちゃんもお金なくってー」
「そんな、とんでもないです! ありがとうございます!」
 賞状を受け取ったケイが慌てふためきながら頭を下げる。
「これで、みんなも今日からイルミンスールの一員だよぉ! みんなで一緒にイルミンスールを盛り上げていこうね!」
「頑張ってイルミンスールをシャンバラで一番の学校にするですぅ〜!」
 リンネとエリザベートの言葉に皆が頷き、用意されたクラッカーが盛大に鳴り響く。夜の帳が下りる頃、カフェテリアにはいつまでも人の喧騒が絶えなかった……。
 
 ……そして、夜更けも過ぎ、すっかりと静まり返ったカフェテリアに、一人の少女の姿があった。
「……どうして……どうして私だけ置いてけぼりにするのじゃー! エリザベートめぇ、覚えておれぇー!!」
 所用で席を外していたアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が、歓迎パーティーに参加し損ねたことを心底悔しがるように地団駄を踏んでいた……。

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

 『イルミンスール魔法学校へようこそ!』リアクション公開しました。
 ……何分初めてのことで勝手が分からず、拙いものになってしまったように思いますが、楽しんでいただけたなら何よりです。
 
 それでは、次のシナリオにてお会いいたしましょう。