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リアクション
真口 悠希(まぐち・ゆき)は、ジュリエットに先に静香様への想いを歌われてしまって、少々焦った気持ちでいました。
(でもボクは、ボクの気持ちを歌えばいいんだよっ。ボクの気持ち、静香様に伝えたいんだっ!)
悠希は、清楚な白のパレオ付きの水着を着て、胸の高鳴りを感じながら、舞台へと上がりました。静香様、これがボクの答えです。
「♪ 例え、許されざる身であっても〜♪その身を盾に、お守りいたします〜♪
大切な一人を〜♪そして、大切な居場所、百合園を〜…」
悠希の心を込めた歌声は、人々の心にしん、と沁み込むように広がります。もちろん、静香様の心にも。
(すごく心に響きわたってくる歌…。きっと、大切な人に向けて歌っているんだわ)
自分の出番を待っていた加賀見 はるな(かがみ・はるな)も、一時、緊張を忘れて悠希の歌に聞き惚れていました。
あたしも心を込めて歌えば、きっと大丈夫…、そんな勇気をくれる歌声です。
しかし、そんな決意も、いざ舞台に上がってみるとコナゴナに吹き飛んでしまいました。
大きな会場、どこもかしこも人・人・人。その瞳が自分を見つめている…。
はるなの膝はガクガクと震えてきます。
「10番、加賀見はるなさーんっ!…っと、アレ、大丈夫?キンチョーしてる?」
司会者が緊張を崩そうと、砕けた口調で話しかけてくるも、はるなはもはやパニック状態。言葉が耳に入ってきません。
その瞬間、光の塊がぶわっと舞台に向かって飛んできました。…これは、剣の花嫁の光条兵器。光の…ブーケ?
パートナーのアンレフィン・ムーンフィルシア(あんれふぃん・むーんふぃるしあ)が、はるなの身体を支えました。はるなは突然の出来事に驚いて…いつの間にか膝の震えが止まっています。
「アン…、これ…」
「上手くいくお守り。みんな、応援してるよ。がんばって」
はるなは、その言葉を受けて、無我夢中に歌い始めました。光のブーケを、胸に抱えながら。
「♪ 何時か来る悲しみに怯えていたら・全てが見えなくなってしまう。
独りでは挫けそうでも・貴方が居るから強くなれる。
私には貴方の時間は計れない・優しい笑顔が教えてくれる・未来への道しるべ。
優しさの裏側に悲しみが・強さの傍らに儚さが
誰もが寂しさを堪えている。
辛い時も有る筈なのにそっと勇気をくれる。
胸元で輝く光の花束が・何時か本物のブーケに・変わる日を祈っています」
必死で歌うはるなの姿は一生懸命で、なんだかとても応援してあげたくなります。
歌い終わると、自分のしたことのあまりの大胆さに、はるなはへたりこんでしまいました。
舞台の袖から、アンが優しい笑顔で迎えに来て、はるなは、ほっと安心のため息をつきました。
今度はみなさんに幸がありますように…。願いを込めて、はるなはブーケをみなさんへと投げます。光のブーケは、美しい孤を描いて飛んでいきました。
「光のブーケって、きれぇ〜」
次の出場者であるプレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)は、初めて間近に見た光のブーケにちょっぴり感動していました。
「まぁ、でもプレナにはおまえがいるよ〜。行こっか、相棒〜」
相棒…?である、愛用のモップを抱えて、プレナは頭上の麦わら帽子と、可愛いツインテールを揺らしながら、うきうきと舞台の中央へ。
「プレナ・アップルトンさんでーすっ!今回はエアギター、してくれるんですよねっ?!」
「はぁいっ。曲はりんごライフです。聴いてくださいねぇ」
プレナはのんびりした口調で、愛用のモップを振りました。
「♪ ある日ある日・木から落ちた一つのりんご」
今までののんびりとした口調から一転、激しいエアギターの動きに合わせて、囁くようなウィスパーボイスの歌声が響きます。
「♪ ひゅるるひゅるる・おちてく風を感じているぜ。
おいしくたべてくれるかな?タルト・サラダ・まるかじり!」
小さな身体のどこから、そのパワーが出てくるのかと思うほどの熱唱っぷりです。
「♪ 手を伸ばす・少女の手まで。あとちょっと1メートル。
手を伸ばす・少女の手から。ぽろり落ちる・フライエラー。
砕けたりんご・たべられません」
プレナのパフォーマンスに思わずカメラを熱心に向けたのは、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)です。
セリナは、運営として準備を行ったり、記念となる写真を撮ったりしていましたが、やはり楽しいパフォーマンスにはカメラマン魂が揺さぶられるようです。やっぱり、楽しいってことが一番です!
「うわぁ、ステキなおねーちゃんですっ!」
プレナのパフォーマンスを無邪気な笑顔で見つめているのは、次が出場者のヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)です。
小さな体躯を、パートナーであるセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が「可愛い水着を選んでいただいてきますわ」とラズィーヤの元まで借りに行ってくれた、赤とピンクのイチゴ柄に白いフリルのついたセパレートなビキニに包んで、ヴァーナーは飛び上がらんばかりに喜んでいます。
「喜んでいるのもよいですが、次、おぬしの番ですわ」
「わぁかってますっ!セツカちゃんが応援してくれてるんだもん、ボク、がんばるですっ!」
「わいは、おぬしが一生懸命がんばればそれでいいと思うわ。さ、行ってらっしゃい」
ヴァーナーの小さな身体は、真っ白い舞台の上だと、さらに小さく見えるように感じられますが、その愛くるしさと緑色の髪は、たとえ遠くても人を惹きつける力を持っています。
「えっと、ヴァーナー・ヴォネガットさんは、今、パラミタ全土で大・流・行・中!の、『小さな翼』を替え唄で歌ってくださるんですよねっ!」
「はいっ!上手に歌えるかわからないけど、がんばるですっ!」
小さな手がマイクを握り締めると、今、パラミタの中で知らない人はいないというほど大流行中の、聞き慣れたメロディーが流れ出します。
「♪ 皆の笑顔に〜、幸せ貰えたわたし〜。わたしもみんなに〜、幸せをあげたいな。
まだまだキチンと決まらない身嗜みも、いつかはきっと〜、素敵に決めたい〜☆
カレ〜に、玉子焼き〜、お料理頑張ってみても〜・な〜にか、やっぱり〜、違うみたいね、ママの味〜。
洗濯〜、掃除、上手にできない。
全部綺麗は、今は無理ね。でも夢なの、あきらめないわ!
皆に〜、幸せ運んでいける、そうなりたい。
頑張るわたし〜、見ていてね〜、いつかはなってみせる〜。
素敵なレディ〜☆」
子ども独特のカン高い、しかし甘く下っ足らずな声で、ヴァーナーは一生懸命歌います。
さすがに舞台に上がってしまっては、助けてあげる事が出来ないため、初めはハラハラとした気持ちで見ていたセツカでしたが、次第に、一生懸命に歌うヴァーナーの姿に引き込まれていきました。
それは、他の観客も同じことで、一生懸命素直にがんばることの大切さを、ヴァーナーが思い出させてくれたのでした。
「ヴァーナーさん、あっりがとうございましたぁ〜!一生懸命な姿がとぉってもかわいかったですね♪さて、心の部は残すところ後2人となりました。みなさん、ミス・百合園に相応しいと思われる人はばっちりチェックしてくださいね☆ではではっ、続きまして、13番、百合園女学院より、橘 柚子(たちばな・ゆず)さん、どうぞっ!」
司会者の声に導かれて、橘 柚子(たちばな・ゆず)は、ゆっくりと舞台に上がってきました。
今までの出場者はみんな可愛かったり、セクシーだったりする水着だったのです、が?!
「橘さん、巫女さんの衣装ですねっ!ステキですっ!」
「どうもありがとうさんどす。海開きの神事を行わせていただきましたし、私にはこれが一番自分に合ったかっこうですから…」
「海開きの神事、拝見させていただきましたよっ!神々しいお姿でした。」
少女のような外見をした彼女が、神事を執り行う際には、まさに神が舞い降りたような、神々しい光を放つ姿へと変貌を遂げた司会者としては、まさか「水着になれ」とは言えません。
「それでは、歌っていただいて、よろしいでしょうかっ?!」
「はい。和歌を詠ませていただきたいと思います」
柚子は、背筋を伸ばし、小さな身体からは信じられないくらい朗々とした声で詠み始めました。
「をとめらの いとやさしけり かげをみる とこなつかしき なでしこのはな」
(訳 少女達のほんとうにつつましい姿をみるとうつくしい撫子の花のようですね)
その凛とした少女の佇まいには、感服してしまいます。
「橘柚子さん、どうもありがとうございました」
司会者のしゃべり方まで自然と粛然としてものへと変えさせてしまう、恐るべし柚子の神々しさ。
「うぉっほん。ぅえっへん。それでは、次の出場者へのご紹介へと参りましょう。心の部、ラストを飾ってくださるのはこの方、インスミール魔法学校より、ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)さんですっ!」
神々しい少女の次に現れたのは、布面積のすっくな〜いビキニを身につけた、長身美女っ!
銀色の髪に印象的なグリーンの瞳、妖艶な雰囲気の彼女によく似合う、ラインストーンをあしらった紺色の三角ビキニには『セクシー』以外の単語は当てはまりません。会場にも思わずどよめきが走ります。カメラ小僧の何人かがさっそく撮影を開始したのも、当然の行動です。
その様子を観客席から見ていたパートナーのジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)は、もちろん胃が痛いのでした。
「毎回毎回…、予想してはいたけどな…」
女性しか参加出来ないから、今回は大人しく見ててね〜ん☆と言われてはいたものの…。あぁ…、言っとくけど、今回だけだからなっ!と軽々しく出場を許したのがいけなかったか。今すぐ舞台に駆け寄って、他の男の目からターラを隠したいぜっ!
なんていうジェイクの心の叫びも空しく、ターラは舞台の上で涼しい顔です。
さっと、小さな楽器を取り出すと、艶っぽい唇をそっと近づけます。
会場上に、素朴で優しい、オカリナの音が響き渡りました。
セクシーなスタイルからは想像も出来ない、懐かしいメロディーのパフォーマンスに、会場上がうっとりとしています。まさに魔法をかけられたようです。
ターラがその唇を静かに離すと、心地よい余韻を残して、演奏が終わりました。
会場がしん、と余韻に浸っている中、ターラはエレガントにお辞儀をして、舞台からゆっくりと降りて行きました。
クリスタが我に返って手を叩くと、会場中が、割れるような拍手に包まれました。
「あ、あっ、ターラさん!ありがとうございましたっ!」
司会者は慌てて締めの言葉です。心の部はこれでおしまいなのです。
会場全体に放送が入ります。
「これで、第一部『心』の部は終了致します。これから、20分間の休憩に入ります。第二部『技』の部に出場を予定している方は、準備を行ってください。20分後に開始いたしますので、それまでにお席にお戻りくださいますよう、お願いいたします」
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