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声が、聞きたい

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声が、聞きたい

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五千年魔女ミリル

 カーマル・クロスフィールド(かーまる・くろすふぃーるど)は、頭に乗せた幼いドラゴニュート教育の一環でいろんな場所を回る中、『誓いの湖』の話を聞いて此処に訪れた。

 しかし、カーマルの目に留まったのは湖でなく、感傷的な先客のほうだった。

 パートナーのデンカ・クロスフィールド(でんか・くろすふぃーるど)も、「きれいな水溜り」にいた、泣いてる人を不思議そうな目で眺めていた。

「あの、どうかしたんですか? ひとりでこんなところでいるなんて・・・・・・」

 しかし、その女性はカーマルの問いには答えず、遠くを見るようなまなざしで返した。

『どうやら目も見えないし、口も利けないみたいね。この人が、噂に聞いた魔女のミリルかしら? ・・・・・・でも、私たちの言っていることは理解できているようね』

「おまえ、もしかしてミリル? 誰かを待っているの?」

 すると、その女性は黙って頷いた。安心したカーマルは、ミリルの隣に座って、いろいろと話をした。
 話が、パートナーのデンカのことに及ぶと、ミリルは興味深そうに、子供のドラゴニュートのほうへ、見えない目を向けた。

「デンカであるます」

 こういうときは挨拶でしゅとばかり、ドラゴニュートは自己紹介がてら、ミリルに自分の頭をなでさせていた。

 ミリルに、初めて笑みがこぼれた。

「がぅあう!」

 デンカ、喜びの咆哮。


 そこへ、レン・オズワルド(れん・おずわるど)がやってきた。

「おっと、今日はお客さんか」

「こんにちは。カーマル・クロスフィールドです。こっちはドラゴニュートのデンカ・クロスフィールド」

「俺はレン・オズワルド。今までもしょっちゅうここに来て、ミリルの話に耳を傾けてきたんだ・・・・・・といっても、彼女、しゃべれないんだけど」

「そうみたいね」

「でも、何度も足を運んでいると、ミリルの意思が伝わってくるんだ。
 たとえ言葉にならない言葉でも、そこに込められた想いは汲み取れるから・・・・・・たった一つの言葉が残りの人生の全てを決定してしまうことがある。時にそれは支えとなり、時にそれは呪いとなる。」

「オズワルド、それってどういうこと?」

「ミリルは、5千年前にこの場所で将来を誓い合った守護天使の恋人がいるんだ。だが、その恋人は戦いで消息を絶ってしまった。それでもいつか、必ず会えると信じて、ミリルは自ら呪いを受けたんだ・・・・・・つまり、聴覚以外の感覚を失う代わりに、恋人と再会するまでの長い生命を得たのさ」

「そうだったの・・・・・・」

「でも、その呪いは、彼女の心まで蝕んでしまった。支えが、いつしか『呪い』となったんだ。彼女を縛る呪いに・・・・・・そして、その魂が自らの『呪い』で死に逝こうとしていることを。
 でも、そんなことは俺が許さない。俺は何処にも消えはしない−俺と一緒に生きてくれ!」

『??? 最後のほうは、若干個人的な希望が入っているようね・・・・・・』

 カーマル・クロスフィールドは、あえて気持ちを口にせず、レン・オズワルドの雄弁な語りにニコニコと相槌を打っている。


 永夷 零(ながい・ぜろ)真里谷 円紫郎(まりや・えんしろう)のふたりも、連れ立ってこの湖にやってきた。

「零、ここが、伝説の湖だ」

 そして、円紫郎は湖畔を歩きながら、零に5千年前の伝説を話して聞かせた。

『5千年か・・・・・・まだまだ私も若いのだな』

 円紫郎の話を聞きながら、零は自分の身の上に重ね合わせて思いを巡らせていた。

「さあ零、ここが伝説の魔女、ミリルの住処だ。おっと、先客がいたか」

 中には、魔女と、彼女を取り囲むように学園の生徒たちが座っていた。

 円紫郎は、零がこの問題にどう対処するのかを見極めたくて、ここに誘ったのだ。

 魔女ミリルを見たを永夷 零はすぐに「この人は誰かを待っている」と感づいた。

『自分の気持ちを伝える手段がほとんど無いというミリル。せめて楽器でも演奏できれば、自分の気持ちを表現できるのにな・・・・・・』

 零はそう考えると、手っ取りばやく、その辺の葉っぱを取ってきて草笛を吹いてみた。

「ビーーー」

 うーん、あまりいい音ではない。

 零の思惑としては、ミリルに草笛を教えたかった。といっても、零自身が一度も草笛を吹いた事がないというものだから、教えられるはずもない。

 頑張って音を出そうとあがいているだけで、吹くことすらままならない。

 しかし、零の気持ちがミリルに伝わったのか、魔女は感激して大粒の涙を流していた。

「やっぱり行動することが重要なんだな」

 零は、自分の気持ちがミリルに伝わって、その喜びを円紫郎にこういって伝えた。

「真里谷、剣よりも大切な物、それが音楽ですね!」

「零、貴殿は私のセリフをとったな! ・・・・・・でも、その通りなのだよ」

「はい。ミリル、今度まともな楽器教えたいから・・・・・・また会おうな?」


 やがて、生徒たちが続々とここ誓いの湖にやってきた。

 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)は、ミリルを見ると、早速自分の気持ちを伝えることにした。

「ミリル、あなたは既に、ルズとは結ばれない覚悟を決めているようね。でも、喪失感のうちに死ぬのじゃなくて、世界には他にもたくさんの素晴しいものがあることを知ってほしいと思うの」

 朱里は、ミリルの傍らに寄り添うと、さらに続けた。

「ほら、聞いて。木々にそよぐ風、水のせせらぎ、小鳥の声。美しいでしょ。これはきっと、大地の囁き、大空の歌声なんだよ」

 彼らは、しばらく黙って大自然の奏でる音に身を任せていた。

 ミリルはというと、目をつぶって、安らかな表情を浮かべている。


 しばらくして、七枷 陣(ななかせ・じん)が口を開いた。言葉が喋れないミリルに、とにかくいろいろな話を聞かせたいのだ。

「あ〜、そこなお嬢さん? もし良かったら、オレと話でもせん?」
という切り出しからはじまって、蒼空学園の校長のがめつい話などなど、他愛もない話を聞かせていた。

 さらに・・・・・・
「そだ、これ一緒に食おう。真奈がえー、オレのパートナーが作ってくれたサンドイッチとハーブティなんやけど」

 そういって陣は、ミリルと一緒に、昼食を食べてはじめた。

「ああ、気持ちいい。まったり日向ぼっこするには最適だわ」

 ミリルとの精神的距離が縮まったところで、陣は、主題に切り込んでいった。

「何を悲しんでるのかオレには分からんけどさ、どんな時も笑ってた方がええと思うよ? 気持ちが悲しくても、笑ってさえいれば良いことがきっとある。持論やけどね?」

 安どの表情を浮かべているミリルをみるにつけ、悲しんでる事を紛らわせたいという七枷 陣の気持ちは伝わったようである。


 戸隠 梓(とがくし・あずさ)も、ルズがやって来るのを待つ間、ミリルに話しかけていた。

 ミリルが少しでも温かい気持ちになれるようにと、保健室に来る生徒さんのお話や学校であった不思議な出来事等を話して聞かせた。

 そして、おもむろにかばんからなにやら取り出す。

「そうだ、オルゴールを持ってきたんです。ミリルちゃんに聴かせてあげましょう。」

 聴力だけしか持たないミリルにとって、音楽は最高の贈り物だ。

『ミリルの想い人がミリルに会いに来てほしい。そして、その後もミリルには生きてほしい』

 梓はそう思うのだが、5千年悲しみに耐え続けた彼女にそう言いだせない。

 でも、音楽ならば、言葉を超越して、直接心に伝えられる。

「大丈夫。きっとミリルちゃんの大切な方は来てくれます、きっと」

 感極まった梓は、ミリルの手をぎゅっと握った。

 どんな結末であれ5千年悲しみ続けたミリルに、最後には笑っていてほしい。

「いつも泉で泣いている女の子を放っておけません。彼女の傷ついた心を少しでも癒してあげたい」

 あらためてそう思う梓だった。

 パートナーのキリエ・フェンリス(きりえ・ふぇんりす)は、少し離れて梓とミリルの様子を見守っている。

 キリエ自身は「5千年も昔の者が会いに来るなんてことはありえないんじゃないか」と考えているが、それは絶対口にしない。
 理由はもちろん、梓がミリルを気に掛ける気持ちを理解しているから。

『古代の戦いで戦死した自分も、何か過去に置いてきたものがあるのかもな』

 キリエはふたりを見守る間、そんな思いにふけっていた。


 ミリルに難しい話をする者もいる。プリーストの御厨 縁(みくりや・えにし)だ。

「知り合いの受け売りなのだが形而上学という学問があっての。簡単に言うと個々の事象にたいしてその背景をつらぬく法理、共通性を求めるための考究というものらしい。一種の哲学じゃな」

「約束は破られるのか、守られるのか?」

「そなたはこの物語の帰結をどうするのかの?」

 約束は破られるのか守られるのかその一点が縁の興味の対象らしいが、ミリルは困惑した様子だ。

「夢見る乙女としては守られて欲しいんじゃがの・・・・・・」

 パートナーのサラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)も、ただ「ふむふむ」とうなずいているだけ・・・・・・

 縁の言ってることが難しくて理解できないようだ。


 難しい話についていけないミリルを見かねて、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は質問をすることにした。

「ミリル、お前は哀れだ。酷く哀れだ。しかし、故に俺はお前の願いを叶えてやろうと思う。もちろん、出来る範囲、俺の気が向く範囲でだが」

 そういうと、イーオンはさまざまな問いを投げかける。

「彼の声を聞ければそれで満足なのか?」
「結ばれぬと知って姿を見せることに後悔はないか?」
「生きたいのか死にたいのか?」

 すべて、ミリルが答えやすいように、首を縦か横に振ればイエス、ノーが判断できるような問いかけ内容だ。

 ところが、全霊をかけて、ミリルの願いを叶えてやりたいと考えるイーオンの問いかけにも、彼女ははっきりと返事をしない。

 唯一、彼の声を聞きたいかという問いにだけは、肯定するような雰囲気を匂わせただけである。


 アルカヌムの単刀直入な問い方とは趣を異にするが、レイ・ファネス(れい・ふぁねす)のアドバイスも具体的なものだ。

「ミリル、俺は君の話を聞いてやってきた。探しモノがあるなら、町で情報を集めた方が効率がいいぞ・・・・・・町でしばらく過ごすなら支援しよう。寮というか宿のようなモノをする予定だからな」

 ミリルが、自分は目が見えないということを身振り手振りで示すとレイは、
「外見や特徴がわかれば、俺が目の代わりになろう」
と快く請け負った。

 そして、その後レイは、日本とこの大陸を繋ぐ新幹線の話や、学校や自分のパートナーの話などを、ミリルに聞かせていた。

 5千年前から時間が止まってしまったミリルにとって、レイの語る話はすべて目新しいもの、否、耳新しいものに聞こえたようだ。
 ミリルは、目を丸くして傾聴していた。


 遠鳴 真希(とおなり・まき)ユズィリスティラクス・エグザドフォルモラス(ゆずぃりすてぃらくす・えぐざどふぉるもらす)も、連れ立ってミリルのところにやってきた。

「真希様、見てください・・・・・・噂の類かとも思ったのですが、本当にいらっしゃたんですね」

「そっか、ユズはこの人に会いにきたのね」

「ええ。ミリル様がこちらにいるとお聞きしていましたので・・・・・・こんにちは、ミリル様。ユズと申します」

「えっと、あたしはユズのパートナーの真希。よろしくね、ミリルちゃん」

 と、挨拶をした遠鳴 真希は、慌ててミリルに駆け寄り、彼女の手をギュッと握った。

「ねっ、ねえ! 怪我してるよっ。ど、どうしよう。大丈夫?」

 ・・・・・・少し他愛のない会話で落ち着いてから、ユズがおもむろに話し始めた。

「傷がミリル様の身に残ったのは、不死の呪いのせいかもしれません・・・・・・ですが、心が悲しみに閉ざされているのは、ミリル様御自身がかけた呪いです。
 不死の呪いは解くこと能いませんが、御自身が心にかけた呪いは、御自身の力で解くことができます。
 わたくしの倍は生きておられるのですから、そのくらいお分かりでは? もうそろそろ御自身を解放してあげてよろしい頃合だと思います」

 自分自身を解放する・・・・・・ミリルにとって、5千年の間、考えもつかなかったことだ。

 そんなことが果たして自分に出来るのか・・・・・・ミリルは自問自答していた。


 いささかパニックに陥っているミリルを落ち着かせようと、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、彼女の傍らに座り、一つの昔話を始めた。

 ・・・・・・ある吸血鬼と魔女がいました。
 人を襲わない約束をする代わりに、自分の血を吸血鬼に吸わせた魔女。二人はお互い愛し合っていたが、魔女の魔力は永遠ではなかったのです。
 そして、魔女は血を与えすぎたために亡くなりますが、最後に自分の愛する人へ「大好きだった」と言い残す事が出来た・・・・・・。

 話し終えると、カレンはミリルの手をとって自分の掌に乗せ
「君の身の上を文字で教えて」と微笑んだ。

 ルズの声を聞くだけではなく、ミリルの言葉・・・・・・つまり、相手の掌に文字をなぞること・・・・・・でその人に想いを伝えることができる。
 カレンはミリルに言いたかったことはそこだった。

 ミリルはカレンの意図を察し、見えない目を輝かせていた。


 ミリルがカレンの掌に書く文字を見て、パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は、思い出ということの意味を考えていた。

「ミリル、我は過去の記憶が一切無いのだよ。
 我にとって、過去に起きたことが、楽しい事だったのか、悲しい事だったのか、そしてそれがなぜ消えてしまったのかもわからない・・・・・・まぁ、単に自分が機械だからなんだろうが」

 少し自嘲気味に話すジュレだが、ミリルにはエールを送る気持ちでいっぱいだ。

「自分の想う人と過ごした楽しい思い出も悲しい思い出も、その全てをミリルは持っているのだから、何も悲しむ事はないのだよ。ミリルがその思い出を持っている以上、相手の心にも必ずそれが伝わるはずだから・・・・・・」


 蓮見 朱里もカレンと同じく、ミリルに昔話を聞かせた。

 地球に伝わる物語として有名な、アンデルセンの「人魚姫」だ。

「人魚姫は決して、自分の声も王子様も失ったことに絶望して死んだわけじゃない。大好きな王子様が幸せになってくれるだけで、彼女は幸せだったんだと思うの。だから私、あなたに幸せになってほしい。それがきっと、ルズさんの幸せにもなると思う」

 読み終わった朱里は、こういってミリルを元気付けていた。


 アンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)も、ミリルを元気づけるため、そして、泣いている彼女が放っておけなかったから、ここにやってきた。

 アンドリューのパートナー、フィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)はミリルを励まし、元気付けると「待ち人」の特定に動いた。

「あなたの思い出の品を見せてもらえる?」

 ミリルが、奥から恋人の肖像画を持ってきて差し出すと、フィオナは「やはり!」とうなずいた。

「アンドリュー。ミリルの待ち人は、ルズに間違いないわね! 容貌がそっくりだから」

「そうなのか、さすがはフィオナだね。もうすぐルズがやってくるから、再会が楽しみだよ・・・・・・でも、実際にルズの声を聞いたら、彼女はどうするのかな?」

 これを聞いた篠北 礼香(しのきた・れいか)はミリルに質問をした。もちろん、イエス・ノーで答えられるようにして。

 礼香の問いかけが「彼の声を聞いたら一緒になるの?」という質問に及ぶと、ミリルはふっと表情を暗くして、下を向いた。

 ミリルからただならぬ覚悟が感じられる。願いが叶ったら、自身の命を絶つつもりのようだ。

「ミリル、あなた、彼の声を聞いたら本当に死ぬ気ですか?」

 礼香の問いに、ミリルは口を真一文字にきっと結んでうなずいた。

 すると、篠北 礼香は思いがけないことを口にした。

「なら、むしろ聞かずに死ぬべきだ! 冷たい言い方だが、死ねば彼はその十字架を背負う事になるんだよ」

「!!!」

 一同に驚愕が走る!

「あたしは、愛した者に、残されて生きる者にそうする事はよくないと考えているの。あなたに生きて欲しいと願うからあえて言うのよ」

 礼香はそうはいったものの、それはミリルにとって酷だったのだろうかと自問していた。

「5千年という刻はあたしには想像が出来ないの。寂しいというのなら、自分が生きている間は友人として時間の許す限り話をしようと思うわ。日常のくだらない話でも、今の世界の人々の事でも」

 しかし、ミリルは押し黙ったまま下を向いていた。

『いやあ、これはまずかったかな?・・・・・・イルミンスールの校長やそのパートナーのアーデルハイト様に、何とかしてもらえないか聞いてみないと・・・・・・』


「・・・・・・ああ、なんだか重苦しい空気になっちゃったな。よし、マナ! いつもどおりでいくぞ!」

 ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)は、こういうと、突然謎のダンス踊りはじめた!

「ちょっと! なにやってるのよ! 馬鹿ベアー!」

 パートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)が真っ赤になって制止するも、ベアは手を上げ足を曲げ、ひょこひょこと奇妙な動きをやめない。

 そこで、マナ・ファクトリはもう一言ダメ押し。

「ベア! 湖で魚が溺れてるよ!」

「なに、マナ、本当か!? よーし、行くぞ!」

 ベア・ヘルロットは踊りをやめ、一目散に湖へと駆けていくと、ザバーンと湖水に飛び込んでしまった。

「やれやれ、これでゆっくり話ができるね」

 マナ・ファクトリは、ミリルに向き直ると、親身な態度で話をし、もう一度「死ぬ」に対してよく考えてほしいと忠告した。

 また、アーミス・マーセルク(あーみす・まーせるく)も、レオナーズ・アーズナックと一緒に、ミリルと話しながらルズを待つことにした。