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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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これより開幕



 晴明神社。
 生徒たちの出発を見送った、第59代目安倍晴明(あべのせいめい)とそのパートナーの妖狐・葛葉(くずのは)は、本殿の大鏡の前でその動向を見守っていた。
 晴明の術により、大鏡にはいづこかの景色が映っている。

「これはこれは、高みの見物と言うわけどすか?」
 晴明の背に声をかけたのは、橘柚子(たちばな・ゆず)だった。
 振り返った晴明は目を細め、巫女服姿の彼女を見つめた。
「おや、あなたは行かれなかったのですか?」
「うちは百合園の生徒どすから、蒼空の生徒に混じるわけにもいきまへんやろ?」
 修学旅行の自由行動中、清明神社に立ち寄った彼女は、今回の体験学習を知る事となったのだ。
「お気を使われずともよろしかったのに」
 そう言って晴明が微笑むと、柚子の後ろに控えていた人物が静かに呟いた。
「私の遺した十二神将で修学旅行の体験学習とは、時代も変わったものだな……」
「これ、ハルさん。聞こえますよ」
 ハルさんと呼ばれたのは、柚子のパートナーの安倍晴明(あべの・せいめい)である。
 そう。初代安倍晴明の英霊なのだ。
「……そちらの方は、なにやら不思議なご縁を感じますね」
 59代目は興味深そうに、初代の顔をまじまじと見つめた。
 正体を気取られぬよう、力を押さえている初代である。だが、59代目も永い一族の歴史の中で洗練されてきた陰陽術を受け継ぐ者。正体に気付かないほどの間抜けではないだろう。と言うより、気付けぬようでは59代目を名乗る資格はない。
「して、私に何か御用でしょうか?」
「用と言うほどのものや、ありまへん。ただ、うちらにも見学をさせてもらえんかと」
 柚子たちは、当代の晴明の実力を見極めるためここにいる。
 初代にとっては、自分の後を継ぐものが情けない人間ではやるせないのだろう。
「どうぞご自由に」
 59代目が見学の許しを出すと、葛葉はとたとたと奥へ走って行った。
「ほな、梅昆布茶とお茶菓子を持ってきはりますわ」


 本殿でそんなやり取りが行われている頃、一の鳥居の前ではなにやら対峙する影があった。
「わたくしめに何か御用ですかな、お客人?」
 口を開いたのは天乙貴人(てんおつきじん)、十二神将を束ねる式神である。
 彼は宮司服を身にまとい、顔にはセーマンの印が描かれた札を貼り付けている。
「無礼を承知で頼む。自分たちと手合わせを願いたい……!」
 ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)はグレートソードを構え、貴人を正面から見据えた。
 そのパートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)も、大鎌を手に身構えている。
 彼らの願いはただ一つ、全てを統べる者の実力をこの目で確かめる事。
「……なかなか良い目をしておられる。そんな目で見られては、無下にするわけにもいきませんな」
 貴人は両の手を前に垂らし、全身を脱力させたような独特の構えを取った。
「感謝する」
 ベアは礼を言うと、戦闘態勢に移行した。
 ベアは専守防御の姿勢を取り、マナは気合いに満ちた目で専攻の姿勢を取る。
 二人がディフェンスシフトで守りを固めた次の瞬間、ふいに貴人の掌底がベアに叩きこまれた。
 剣を盾に防御したものの、生身に直接殴られたような衝撃が突き抜けた。
「おや、勾陳の掌底はもっと激しいですぞ?」
 感情のない声で言うと、貴人の姿が五つに分かれた。
「もっとも、術の扱いではわたくしの右に出る者はおりませんが」
 五体同時に繰り出される打撃は、防御に自信のあるベアと言えども耐えられそうにない。
「な……、長くは持たない! マナ!」
「わかってる!」
 髪に結わえたリボンを翻し、マナは五体の貴人に大鎌の一閃を浴びせた。
 しかし、その手応えはまるで空を切ったようなものだった。
「おお。こわいこわい」
 いつの間にか、貴人は鳥居の下に立っていた。
「おや……?」
 服の袖に入ったわずかな切れ目を、彼は不思議そうに見た。
「わたくしとした事が、力量を計りかねるとは。とんだ失礼を」
 そう言うと、貴人の周囲に無数の護符が浮かび、ベア達に狙いを定めた。