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古代魔法書逃亡劇

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古代魔法書逃亡劇

リアクション

 虫取りに励む面々を背に、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は走り出した。
「美味しいですぅ」
 網を振る生徒達を眺め、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が姫神司差し入れのチョコレートを頬張っている。
「ワルプルギス校長」
「? 蒼空の生徒が何の用ですかぁ〜?」
 眉をひそめる彼女にプリンを差し出す。瞳が輝いた。
「どんどん質問してくださぁい〜」
「……攻撃して逃げ回る紙を汚さずに捕まえる方法を教えてほしいのです」
 イーオン・アルカヌムがしっかりと頭を下げる。校長はチョコレートを頬張る。
「汚さずにとは言ってませんよぉ〜? 考えるのですぅ」
「考える……か。今回はどういう悪戯なのです?」
 鋭い視線を向ける。彼女は大きく首を振った。
「悪戯じゃないですよぅ〜?」
「では、ページの逃亡に加担していることを認めるのですね?」
「……詮索はそこまでですぅ。ページが集まったら教えてやるですよぅ〜」
 スプーンを突きつけられ、追い返された。仕方なくパートナーの元へ戻る。
「イオ、誘導成功だ」
 虫取り網で捕まえた紙虫達を広げるフェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)。素早さをいかして捕まえたのだ。
「紙虫は厄介だが、コツをつかめば意外と捕まるものだな」
「そうだな」
 イーオン・アルカヌムは見守るだけの校長を見遣った。
 ブゥウウゥウン
 と不吉な羽音が近づく。音の方を向く小金井 鞘人(こがねい・さやと)村雨 千晴(むらさめ・ちはる)
「! あれは……」
 現れたのは巨大な紙蜂二匹。その周りを茶色や黒の紙虫が飛ぶ……。
「やー! ゴキブリさんやめてくださいー!」
 ヴァーナーヴォネガットの悲鳴。構わず無数の紙ゴキブリが飛びまわり、中心で巨大紙蜂が針を突き出し攻撃の構えを見せる。
「千晴、行くよ?」
「わかりました」
 捕獲した紙虫の入ったアタッシュケースを投げだし向かってくる紙蜂の翅に向けリターニングダガーを投擲。しかし寸前で避けられてしまった。
「これなら……」
 立て続けにナイフを投げる。数個は翅にぶつかったが弾かれる。
「意外と固いねぇ。こうなったら囮になるしかないかぁ」
「皆さん、逃げてください!」
 村雨千春の呼びかけを背に小金井鞘人が走る。紙蜂二匹は針を唸らせ針を繰り出してくる。
「っ!」
「鞘人!」
 村雨千春の【ヒール】で傷が癒える。しかし紙蜂の勢いは収まらない。と、足音。村雨千春が並走を始めた。
「最後まで一緒ですよ」
 頷き、果てることを覚悟した時、男が滑り込んできた。
「房総のベンジョムシ野郎と呼ばれた私に任せてください!」
 捕まえた紙トンボを手に織機 誠(おりはた・まこと)がすっくと立ち上がった。
「そのまま走って、この巨大網に追い込んでください。こっちです!」
 そう言って、巨大虫取り網を広げる。一人では動かしきれそうにない。
「皆さんも手伝ってください!」
 草原にいる面々に呼びかけ、協力を願う。ヴァーナー・ヴォネガット、東條カガチと柳尾なぎこ、御凪真人とセルファ・オルドリンが参戦。
「よし、引っ張りますよ! よっせーのー、せっ!」
 広がった網に紙ゴキブリが次々に入っていく。さらに囮となった小金井鞘人が網めがけて走ってくる。網に入る直前【隠れ身】使用。巨大な網に巨大蜂二匹が収まった。
「さすがに皆さんの力を借りると大量ですねぇ」
 ほっとしたのも束の間、網の中で巨大紙蜂が暴れ出した。網を裂く勢いだ。
「しぶといねぇ……!」
 東條カガチは言いながら針を繰り出す紙蜂を虫取り網による【スウェー】で受け流す。しかし未だ紙蜂は攻撃の構え。
「んー、しょうがないなぁ。巻き込んじゃったらごめんねっと」
 軽く言って【轟雷閃】で紙蜂を攻撃。凄まじい雷と共に蜂が気絶。ついでにヴァーナー・ヴォネガットも巻き込んでしまったようで近くで伸びている。
「大丈夫―?」
 柳尾なぎこが【ヒール】を使用。ヴァーナー・ヴォネガットが目を覚まし、柳尾なぎこの頬に唇を寄せた。
「ありがとう!」
「へへー、旦那様のあとしまつはお嫁さんの仕事ですよ!」
「あとは残りを捕まえるだけですね」
 飛ぶ紙虫達に視線を遣る御凪真人。と、小型飛空挺が一機頭上を駆け抜けた。
「残りは俺達に任せてください!」
「しっかりつかまえます!」
 そう叫ぶのは小型飛空挺に乗ってトリモチ竿を地上に向ける久沙凪 ゆう(くさなぎ・ゆう)カティア・グレイス(かてぃあ・ぐれいす)。久沙凪ゆうの巧みな運転とカティア・グレイスの構える竿に、紙ゴキブリ他紙虫達がくっつく。
「やめてください〜」
 逃げ惑うヴァーナー・ヴォネガットにトリモチが近づいた。
「あっ!」
 カティア・グレイスが気づいた時にはもう遅い。多数の紙ゴキブリと共に捕まった少女は、きゅうと気を失ってしまった。
「ゆう、低すぎです、もっと高く!」
「集団がいます。あっちに向かいますか」
 羽音のせいで久沙凪ゆうにカティア・グレイスの声が届かない。低高度を保ったままだ。
「うわあぁ!」
「な、なんだ?」
「わ、私は虫じゃないぜ!」
「! どうなっている?」
 グレッグ・マーセラスと藍澤黎、ミューレリア・ラングウェイとフェーリクス・モルスもトリモチに引っ掛かってしまった。
「ゆう、止めてください! 人が!」
 必死の叫びにやっと気づいた久沙凪ゆうが目を剥いた。
「! 皆さんすみません、今下ろします!」
 慌てて小型飛空挺を下ろす。トリモチ竿にはたくさんの紙虫と人が引っ掛かっていた。
「フハハハハハハッ!」
 そして変わらず坂下小川麻呂は網を振り回していた。

「集まったようですねぇ〜、御苦労さまでしたぁ〜」
 草原一帯の紙虫を捕まえ、疲れ果てた面々にエリザベート・ワルプルギスが近付いてきた。
「エリザベートちゃん、かわいい折り紙こんちゅうさん捕まえてきたです!」
 無邪気に笑ったヴァーナー・ヴォネガットが虫籠を取り出した。中には蝶が数匹。
「私だってたくさん捕まえたんだからっ!」
「我も……!」
 セルファ・オルドリンが虫籠、ジュレール・リーヴェンディがバインダーを突き出す。それに頷くエリザベート・ワルプルギス。
「もうちょっと持っててくださいですぅ〜。持って帰ったりしたら駄目ですよぅ〜?」
 こそこそと帰ろうとするミューレリア・ラングウェイに鋭いまなざしを向けてから、くるりと体の向きを変えた。
「ついてくるですぅ〜」
 そしてどんどん歩いていく。
「行くしかないようだな」
 イーオン・アルカヌムの言葉に全員が頷く。楽しそうに歩く校長に、虫取り隊がぞろぞろと続いた。