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古代魔法書逃亡劇

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古代魔法書逃亡劇

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●第四章 3000ページの結末●

 聞き覚えのある声に一同が視線を動かす。そこには大きな本の表紙らしき物を抱えたエリザベート・ワルプルギスの姿。彼女が表紙を開くと、倒れていた紙ドラゴンがみるみる間にページに戻って表紙の中へ吸い込まれるように入っていく。
「校長、これはどういうことですか!?」
 その背後から歩いてくるのは困惑するイーオン・アルカヌムを筆頭とした草原の虫ページ捕まえに行ったメンバー達だ。
「ここでいいの? あれ、みんな集まってるみたい」
 紙動物達に案内されついてきた愛沢ミサ達森のページを回収しに行ったメンバーもやってきた。遅れて箒に乗った【禁書焼却班】のメンバーも加わった。
「さて、全員揃ったようですねぇ〜。約束ですし、全部話してあげましょうかぁ〜」
 イーオン・アルカヌムをちらりと見て、エリザベート・ワルプルギスは語り始めた。
「わたしは魔法書の逃亡を提案して手助けしたですよぅ〜」
「手助け?」
「なぜページは逃げようと……?」
 イーオン・アルカヌムと藍澤黎が問いかける。
寂しかったらしいですぅ〜。 この古代魔法書は由緒正しき魔法書ですが〜三千ページもあってあんまり読まれることがないから書庫に入れられていたですぅ」
 ゆったりと校長は続けた。
「本は人に読まれることが喜びなのですぅ。それがなくて寂しがっていたですよぅ〜。それを知ったわたしは『生き物に変身して生徒達と遊ぶのはどうか』と提案したですぅ。五年前にお世話になったのでぇ〜なんとかしてあげたくてですねぇ〜」
「遊ぶって……」
「やっぱり校長が一枚噛んでいたのかぁ」
 緋桜遙遠と天良高志がため息をついた。真相に呆れたり納得したりする生徒達を尻目に、エリザベート・ワルプルギスが鼻歌交じりににっこり笑った。
「さぁて、他のページも寄こすですぅ〜」
 表紙を開くと、紙動物達が元のページの姿に戻り本に収納されていく。
「あ……」
 肩に乗っていたモモンガも飛んで行き、猫塚璃玖は寂しそうにうつむいた。草原の虫型ページ達も虫籠やバインダーから飛び出した。持って帰ろうと目論んでいたミューレリア・ラングウェイは不満顔。そこに姫神司が変わった虫を差し出した。不満顔は一気に喜びの顔へと変化した。
「い〜ち、に〜」
 のんびりと数え始めたエリザベート・ワルプルギスは全て数え終えて首を傾げた。
「おかしいですねぇ〜。足らないですぅ〜」
「ウィル君のせいです」
「げ、大和!」
 譲葉大和がウィルネスト・アーカイヴスを突き出した。続いて羽瀬川セトがエレミア・ファフニールに頭を下げさせ自身も頭を深々とさげた。
「ごめんなさい……うちのミアが燃やしてしまったかもしれません」
「ディーもですぅ」
 そう言うのは橘ニーチェ。ディアス・アルジェントが目を白黒させた。
「え、俺!?」
「健闘を祈る!」
「同じく!」
「……あれほど焼くな濡らすなと言ってやったのに分からない子達ですねぇ」
 ふう、とため息をついた。
「わたしの仕事が増えるじゃないですかぁ〜。あとでたっぷりお説教してあげますからねぇ〜」
 うなだれる【禁書焼却班】のメンバーにどこか楽しげに言ってエリザベート・ワルプルギスは身を翻した。
「校長、待つのじゃ」
「その本、読ませてください!」
 シェリス・クローネとメニエス・レインが言い寄る。
「修復が終わったら読ませてやるですよぅ。今回の報酬は『優先的に古代魔法書を読める権利』ですからねぇ〜」
 得意げな笑みを浮かべ、ところどころページが欠けて汚れた古代魔法書を片手にエリザベート・ワルプルギスは去って行った。報酬を期待していたあーる華野筐子と東條カガチはがっくりと肩を落とした。


 後日、イルミンスール魔法学校図書室にて……。
「早速読もうかぁ〜」
 清泉北都がゆったりと呼びかける。修復された古代魔法書を前に、ページを集めたメンバーが集まっていた。メニエス・レイン、シェリス・クローネとフィル・アルジェント、ソウガ・エイルとアリア・エイルとルディエール・トランスが魔法書の近くで覗きこみ、それを囲むように御凪真人とセルファ・オルドリン、織機誠、天枷るしあとマリハ・レイスターが覗いている。他のメンバーはそれ以上は覗いても読めないだろうと遠巻きに見ている。
「やっぱりエリザベートちゃんはすごいです!」
 ヴァーナー・ヴォネガットがにこにこ笑って言う。説明によるとこの魔法書はエリザベート・ワルプルギスが五年前熟読した愛読書らしい。彼女が全ての内容を暗記していたため、修復不可能なページを作り直すことができたのだ。
「二歳で3000ページ暗記って凄いですね」
「せやな。今でも無理や、俺」
「僕もです」
「さすが校長といったところだね」
 神楽坂有栖、日下部社、笹島ササジ、レオナーズ・アーズナックがやや離れた位置で見守っている。
「どんな内容かな?」
「早くみたいよ!」
 アルステーデ・バイルシュミットとシェーラ・ノルグランドがきょろきょろと覗きこんだ。
「じゃあ、開くわよ!」
 メニエス・レインの手により、魔法書が開かれた。
「これは……」
「教科書かなぁ?」
「呪文が書かれていますね」
「『初心者から上級者まで、全ての魔法を一から伝授!』とも書かれています」
「これがウチの校長の魔法の原点かな?」
「読む価値がありそうだ」
 村雨千晴、小金井鞘人、久沙凪ゆう、カティア・グレイス、カレン・クリスティア、ジュレール・リーヴェンディが近づいて本の内容を口にした。
 逃げ出した魔法書の正体は、初心者から上級者までが使える魔法の指南書だったのだ。
 中には、魔法書が魔法を実践するページもあった。
「これで魔力をもっていたのじゃな」
 納得したシェリス・クローネが頷いた。
 ページをめくっていると、突然図書室の中に風が入り込んで最後のページを開けた。
「これは……」
 全員が苦笑する。そこには本文と全く同じ書体で「逃亡PR作戦、成功」と書かれていたのだった……。

 終

担当マスターより

▼担当マスター

鳳羽 陸

▼マスターコメント

 
鳳羽陸第二回目のシナリオでした。皆様、このシナリオに御参加いただきありがとうございます!
最後の部分をちょっと補足します。

結局魔法書は「みんなに読んでもらうため」いわば「宣伝のため」に逃げ出したわけです。それをエリザベートがはっきり言わなかったのは「言ってしまうと宣伝効果が薄れる」からです。

本文を読んで感じ取っていただけたならありがたいです。また、楽しんでいただけたなら幸いです。
思いのほかゴキブリが多用されることになり……苦手な方は申し訳ありません。

今回も若干規定文字数より多かったりします。次回はノーマルシナリオに挑戦します……。
なお、今回出てきた「紙でできた生き物」についてはまた別のシナリオで出すかもしれません。
その時はよろしくお願い致します。

(追記:【深き森を行く者】のメンバーが減って草原のメンバーが増えていますが、これはアクション判定の結果ですのでご了承ください。)

では、また次の機会に。