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聖夜は戦いの果てに

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 第2章 千年ぶりのキス(2)


「…………」
 気絶した夢見を壁にもたれさせ、関羽はハンカチで口についたグロスを拭いた。
 混乱していた。
 自分が何をしているのか、分からなかった。
(私は…………私は…………こんなに純情だったのか…………? 子供へのディープキスなど、赤子の手を捻るように出来ると思ったのだが……たった1回のキスでここまで消耗してしまうとは……これから、あと何回このような思いをすればよいのだ……?)
 しかも、相手には男もわんさかと来るだろう。
 頭を抱えてその場を駆け回りたくなった時。
「関羽さまっ!」
 三度、関羽は呼び止められた。

 廊下で関羽を見つけ、37番、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)は走り寄った。関帝聖君の足元には、気絶した夢見がいる。ゼッケンは51。翡翠の対戦相手だった。
(関羽さまに負けたんですね。でも、素晴らしい表情をしています。きっと、悔いのない戦いをしたんでしょう。それにしても、私は運がいい)
 運なんてこれっぽっちも良くないことに、翡翠は全く気付いていなかった。今の関羽に、手加減する余裕などどこにもない。
 青ざめた顔の関羽に首を傾げながら、彼は近付く。
 そう『彼』。翡翠はれっきとした男だ。恋愛対象もノーマルで、関羽を探していたのも自分の実力を試すためである。しかし、その容姿は極めて女性に近かった。
 腰まである黒い髪に小柄な体。変声期に入る前の高い声――
「なぜ、こうも次から次に声を掛けられるのだ? これがクリスマスというものなのか? いつも、私と接するのはむさい男ばかりだというのに……」
「? 関羽さま?」
 トラッパーで攻撃力を強化しつつ、超感覚で5感を研ぎ澄ませていざ、名乗ろうとした時、関羽は太い腕を突然振り回した。
「うわっ!?」
 翡翠はその腕の直撃を受けた。重い衝撃が身体を貫き、意識が一気にブラックアウトする。
 最後に見たのは、茫然自失で自分の拳を眺める、関羽の顔だった。

 対戦相手と交渉して場所を移したり、探し人をするために出て行ったりと、食堂の人数も大分減っていた。そんな中、43番の宮坂 尤(みやさか・ゆう)がターゲットの58番、ゴッドリープ・フリンガーが食堂を出て行くのを確認し、後を追った。
 今日の彼の目標は、ローグとしての能力を遺憾なく発揮することだった。戦いという目的のために作られたこの施設で、どこまで出来るのか知りたかった。その為なら、悪役になるのも厭わない。
 尤は、ハンドガンの冷たい感触をその手に感じながら、戦場へと足を踏み出した。

「うぅん……すぅ……すぅ……」
 気持ち良いのか、苦しいのか判断に迷う寝息をたて、翡翠が夏見に拠りかかっている。その手には、クリスマスパッケージの飴が握られていた。
「関羽様――」
 緑色のサンタ服に身を包んだ李梅琳が、2人を見下ろして冷たい声で言う。関羽が携帯電話で呼び出し、保健室へ一緒に運んでもらおうと来てもらったのだ。
「監視カメラが在ることは、当然ご存知ですよね?」
「あ、ああ……私自身が参加者に伝えた事項だからな」
「だったら……………………」
 梅琳はそれだけ言って、沈黙した。
「…………」
「…………」
「…………」
「あれは、犯罪ですよ? 関羽様」
「な、何を言っておるのだ梅琳! あれは、ただの罰ゲームだ! 彼女が条件に当てはま……」
「見苦しいですよ? 関羽様。あれには、罰ゲーム以上の何かがありました」
 開け放った冷凍庫を間近にしたような圧倒的な冷気に、関羽は怯む。
「……まあそれはいいです。で、この飴ですが……」
「…………」
「監視カメラが在ることは、当然ご存知ですよね?」
「…………」
「ディープキスしたくないから、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)の相手である夏野 夢見(なつの・ゆめみ)の飴を手に握らせましたね?」
「…………」
 梅琳は飴を取り上げて、冷静な顔でこう告げる。
「ディープ・キスしてください」
「はい……」
 ――関羽がこの後、やけ酒に走ったのは言うまでもない。