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ゆきやこんこんはいきんぐ

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ゆきやこんこんはいきんぐ

リアクション

○12月22日
吹雪がやみました。これでやっと帰れる!
―――――――――
 本部では会議が開かれていた。そこではルース少尉と真一郎との間で、激しく議論が交わされていた。
「病人、怪我人は残して一度下山、改めて救援隊を組織すべきです。それが定石でしょう?」
「いや、それをあえて全員で下山すると言っているんだ」
「部隊全体のスピードが落ちます。全員を危険にさらします」
「だがわたしは誰も見捨てない」
 あくまで登山遭難時の行動方に習う真一郎と、全員を救おうとするルース少尉。ふたりの溝は埋まりそうになかった。
「では少尉として命令する。全部隊をもって移動だ。軍隊に民主主義は要らない」
「……後悔するぞ」
 かくして総員での移動計画が発動された。
 病院に収容されている患者は簡易ベッドをそのままソリがわりにして生徒たちが交代で引っ張ることになった。変熊仮面は自業自得だから雪に埋めていこうという意見も教導団の一部にあったが、結局連れて行くことになった。
 変熊仮面のソリを引っ張ったのは湯島茜とアリア・セレスティだった。
「あたしなんて人の足引っ張るだけなんだろうなって思ったけど、意外とこうやって頑張れるものなんだよな〜」
 と、茜がつぶやく。
「私は人助けしたい派かな。でも今回は散々だわ」
 アリアが苦笑いする。そして、
「今回の新型防寒具、どう思う?」と、茜に訊ねる。
「うーん。あたしはよくわかんない。着てても寒いときは寒いし」
「だよね。なんか怪しい話に巻き込まれたのかも」
「……」
 黙りこくるふたり。
「貴様ら、鍛え抜かれた鋼鉄のボディーこそが最大の鎧だとまだ気付かぬか?」
 後ろのソリの上のミノムシみたいな毛布の中から何か聞こえてくる。
「うるさいっ!」
 茜とアリアの声がハモる。
 中隊の足取りは重く、日の落ちるのは速かった。
 中隊は途中見つけた洞穴で一晩を過ごすことにした。

「武術部そして中隊の諸君。健全なる魂は健全なる胃袋にこそ宿る」
 どこかから誰かの声がする。
 洞穴中に声が反響する。
「さぁ、集まろうではないですか、イルミンスール武術部名物闇鍋に。さぁ、食そうではないですか、イルミンスール武術部名物闇鍋をっ!」
 どこからともなく仮面をつけ、右手に鍋を、左手にお玉をもって颯爽と登場したのは、例によって武術部のクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと) だった。
 興味をひかれて集まったバカ……訂正……勇敢な若者たちは日下部 社(くさかべ・やしろ)譲葉 大和(ゆずりは・やまと)、そして大和にひかれてやってきた泉 椿(いずみ・つばき)とそのパートナーの魔女、緋月・西園(ひづき・にしぞの)、そしてパートナーのベルセリア・シェローティア(べるせりあ・しぇろーてぃあ)に『精神鍛錬』と称して付き合わされた月森 刹夜(つきもり・せつや)と、その他数名だ。
 そうそう、大切なもうひとりがいた。漆黒のスキンヘッドが輝かしいルイ・フリード(るい・ふりーど)だ。
 クロセルは目ざとくルイを見つけて駆け寄る。
「ルイさんもお腹が減ってそうで……」
「イエ! 全然!」
「なんなら鍋……」
「絶対イヤです! ワタシは新型防寒具の研究で忙しいんです! お? こんなところにラベルがっ。ほら、ワタシはこんなに忙しいッ!」
「あ、ほんとですね」
 防寒具の裏側に小さなラベルがついていた。クロセルとルイはそれを覗き込む。
「なになに、この防寒具は……食べられま……す!?」
「おおおお? さすが新型! よし、これも鍋です! ルイの具材はコレですね!」
 クロセルがルイをずるずるずると引っ張っていく。
「Nooooooooooo! 誰か〜」
 かくしてカオス鍋がはじまった。
 椿がギャザリングヘクスで水を張った鍋を暖めはじめる。
「大和さん具材何入れましょうか?」
「具材だけならいっぱい持ってきましたよ」
 にこりと答える大和を、突然緋月が足で踏みつける。げし。げしげしげし。
「お菓子争奪戦じゃ椿がお世話になったわね〜うりうり」
「あは、やめてくださいよ〜やめないと……」
 大和がメガネを外す
「苛めたくなっちゃうだろうが? 雪夜混沌闇鍋祭り、始めようか」
 と、一転して凄みを利かせ、持ってきた具材、くさや、サルミアッキ(アンモニアの匂いがする世界一マズいお菓子です)、シュールストレミング(スウェーデンとかで食べられてる缶が膨らむほど発酵した魚の缶詰です※最強)、ナンプラー(魚醤です。他よりマシかも)、エピキュアーチーズ(ニュージーランドの硫化水素の匂いがするチーズです※第3位)、ホンオフェINタッパー(韓国のエイの発酵食品です※第2位)を一気に鍋にぶち込んだ。
「衛生兵―――ッ! 警報ガス! 警報ガス!」
 誰かが叫んだ。 
 その他にも革製品や木の皮、なにかの根っこ、石鹸、拳銃弾、用途不明の魔法の薬草、そして新型防寒具など、基本的に食べないほうがいいものが幾多と投げ込まれ、『魔女の鍋』はぐらぐらと煮えていった。
 刹夜は鍋にハシを突っ込んだままもう10分以上悩み続けていた。
「いつまで悩んでるのよ? 刹夜。これも精神鍛錬のうちなんだからねっ」
 ベルセリアにせっつかれる。
「だって一度ハシをつけたものは絶対食べなきゃいけないんでしょ?」
「まぁ、そないきぃはったってしゃーないで。当たるも八卦や」
 と、となりの関西人、社がなぐさめてくれる。「どーんと死んどき」
 慰めになっていない。
 刹夜はわりと小さめの個体をつまんで、目をつぶって一気に引き出した。
 拳銃弾だった。
「……」
「あちゃ〜やってもーたな。これ入れたアホ誰やったかな」
「ほら、当たっちゃったんだから、ぐずぐずしないで食べるっ」
 あいかわらずひどいことを言うと刹夜は思いながら、拳銃弾をごくりと飲み込んだ。重たいものが食道を通っていくのがわかる。
「すご〜い。刹夜やるじゃない。ベルセリア、刹夜のこと見直したな」
 ベルセリアは刹夜の顔を見つめて両手をぎゅっと握る。え、ベルセリア、珍しく優しい……。
「あ、でも念のためこれつけてね」
「ああ、たしかにそやな。二次被害はふせがなな」
 ベルセリアが渡したのは防弾チョッキだった。
―――――――――
闇鍋に参加しました。がー君の首輪がでてきました。泣きそうでした。後でお墓をつくりました。